優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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栄陽学園式遠足

 フレンチトーストおいしー。

 

 そんな感じで、席に着いて少し食べ進めてから話を再開する。

 

「というわけで。一年生最初の、遠足の時の話だよ」

「んー、もぐもぐ」

「遠足ですかー、なんだか懐かしいですわ」

「ごくんっ。てゆかさ。最初って事は、年に複数回あるん?」

「そうだよ。まあその辺の説明もしながら話すね」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「みなさんお待ちかね〜。遠足という名のぉ、魔獣討伐体験学習ですよ〜」

『わー』

 

パチパチパチパチパチパチ……

 

 闇曜日朝、HRにて。ネイ先生の台詞と、それに答えたクラスのみんなの小さな歓声と拍手で、一年生最初の遠足という名の課外授業、魔獣討伐体験は開始した。

 

 

 

 

 栄陽学園一年生の遠足は、年二回、梅雨明けと秋雨開けの次週に開かれる学園行事だ。

 

 なぜ長雨開け後に開催するのかというと。魔獣の前段階の生物?である、魔物の特性が理由だ。

 

 魔物は、コーヒーゼリーのような体色をした体もゼリー状の、いわゆるスライムのような生物っぽいナニカである。

 

 スライム(魔物)の時はほとんど人の目につくことなくどこかに隠れ潜んでおり、魔獣頻発地域である鷺宮村近くの観測所でも滅多にお目にかかれない。僕らも一度しか、スライムの時の姿を生で拝めたことはない。しかも視線に敏感なのか、こちらが捕獲しようか倒そうか刹那逡巡しただけで姿を眩ました。

 

 そんなわけで、魔物の研究はなかなか進んでおらず、僕らは粛々と、発生するたびに魔獣を討伐し続けるしかないのが現状である。

 

 そんな魔物だけど、唯一知られている特性が一つある。それは、長雨開けにどの発生地域でも活動が活発になり、一週間以内に、かなり高い確率で魔獣が発生するのだ。

 

 これまでの統計的に、今回向かう場所の春秋の梅雨開け後の魔獣発生率は、91%程。スライムだから、長雨で体が潤って元気百倍になるのだろうか。

 

 ちなみに鷺宮村周辺は、97%らしい。僕らスライム形態を見かけたのも梅雨明け直後だった。

 

 魔物(スライム)の情報はこの程度にして。

 

 遠足は、一年生は年二回、梅雨明けに行うのだけど、二年になると年三回、三年は年四回と、進級する毎に回数が増える。

 

 二年は一年と同じ時期に加え、進級後、春雨開けに一回増え、三年はさらに冬休み前に一回増えるのだ。

 とはいえ、冬の雨は長くは続かないからか、春秋に比べると魔獣の発生率は40%くらいらしいので、ただ単に学校外での戦闘訓練になる場合が多いらしい。

 

 ちなみに、どの時期にも言える事だけど。どこでも魔獣発生は100%ではない。ので、出なかった場合は先程言った通り、学校外での戦闘訓練になる。

 

 

 

 

 トイレ休憩で停車したり、移動中の車内で簡単な座学が行われたりしながら、バスで揺られること約二時間。目的地である高確率魔獣発生地、高代望楼(たかしろぼうろう)に到着した。

 

 高代望楼は、高発生地域の中では発生率こそ精霊国で2番目だけど、個体の強さ的には国内で最も弱いと言われている。

 

 現在世界的に見て最も魔獣が出やすい&強力な個体が生じやすい鷺宮村周辺と比べると、今回の遠足、僕的には物足りない感じで終わりそう……まあ、最高危険地域(あそこ)と比べるのもどうかとは思うけど。

 

 

 

 

「さてさて、さっそく高発生地へ〜……と言いたい所ですが〜。まずは資料館から、ですね〜」

『はーい』

 

 栄陽学園に限らず、学校では、歴史を学ぶ授業がある。

 

 その中でも、世界中で何らかの形で教育する事が義務付けられている歴史、戦史が2つある。世界大戦と、魔神大戦だ。

 

 世界大戦は、様々な国を巻き込み、記録上最大数の死者を出した、忌むべき戦史として。

 

 魔神大戦は、精霊国ーーその時はまだ、旧名の栄陽連合国だけど。世界的に見ても比較小さな列島国で起きたもので、規模も死者数も、比べるべくもなく少ない。

 それでも世界的に重要視されているのは、その戦争による爪痕ーーつまりは、魔物と魔獣の問題と、魔神は封印中で身動きが取れないだけであって死んではいない、という点からだ。

 しかも、同じ神話級精霊剣と契約した超越者が立ち向かわなければ、個人でこの星そのものを滅ぼす事も不可能ではない存在が、二人もだ。

 

 そんな戦争ゆえに、精霊国には魔神大戦に関する資料がまとめられ、誰でも閲覧できる資料館的な施設がいくつか存在している。

 そして高代望楼は、高発生地域で唯一、戦史資料館があるのが特徴だ。遠足は学園外学習の位置付けなので、これも授業の一環なのである。

 

 とはいえまあ。栄陽学園は戦史を学ぶよりも、現在休止中の魔神戦争に対応するための、戦闘員の増員するのが主目的の学園だ。

 要するに栄陽学園の遠足とは、学園外でする訓練の授業の事だ。なので、遠足でこういう施設を見学するのは、一年生の最初の遠足のみだったりする。

 

 ていうか、純粋に学習目的でのみの学園外学習は修学旅行のみ、なんだよね……まあ、この学園に入学した人の半数以上はそれを承知で入学したのだろうし、文句のある人は少数派だろうけど。

 

 

 

 

 資料館見学は何事もなく終わり、今は徒歩で、複数の施設からなる国立の自然公園に向かっている。

 そこで昼休憩まで、施設内を好きに動いて良い事になっている。いわゆる自由行動だ。

 

 ここまでは、クラス毎に規律正しく行動していたけど、ここからは、クラス関係なく好きな人と自由に行動して良い事になっている。

 ただし、自由行動中に魔獣が現れたら、すぐに公園入口に集合する事になっているけど。

 

 ちなみに、高発生地ではあるけど最弱魔獣発生地でもあるので、まだまだひよっ子な栄陽学園一年生最初の遠足は、必ず高代望楼である……栄陽学園本校、ではなく、栄陽学園、である。

 

 今回の遠足は、分校の一年生と合同での遠足なのである。なので、総生徒数はかなり多い……のはまあ、ともかく。

 

 自由行動は、分校生徒を含む生徒同士の交流タイムでもある。とはいえどのグループも自然と、最初は仲の良い友達同士で動き回るものだ。

 

 つまりはまあ。僕らのグループは、僕と姉さん含むいつもの9人であり、必然、

 

「なあ……あの娘たち、全員滅茶苦茶レベル高くないか?」

「レベルって? ……うっはっ! 確かに全員超可愛いなぁ! しかも美少女のタイプ1人も被ってねぇぞ……!」

 

美少女軍団(仮)になる。どうしたって目立ってしまう。どうみても男子な雅が混ざってるけど、目の前の美少女達でベールがかけられていて視界に入らないらしい。

 

 本校内での美少女軍団(ぼくら)へ向けられる熱力は、入学当初に比べればだいぶ落ち着いた気がするけど、未だ強火だ。とはいえ、それが分校側に伝わっている訳もなく。

 

分校(うち)じゃ見ない顔だし、ていうか1人でもいたら話題にならない訳ないし、本校の生徒だろうな」

「見た目も実力も高レベル、か。さすが本校」

「可愛さに本校関係なくね? まぁ確かに、学園にあんな娘達いたら、話題にならないワケないよなぁ……んん!? あの茶髪ストレートロングの娘と茶髪セミロングの娘、顔クリソツじゃね!?」

「おっそうだな。お前視力良いな……んー、でも俺的には、黒髪ロングの娘が好きかな……なあ、声かけてみないか?」

「むしろ声かけなきゃ失礼だろぉ? てか、ナンパしなきゃそいつホモだろぉ!」

 

 ……予想通り、浮ついた男子が現れた。

 

「なんか、佐藤君みたいな発言してるのがこっち来るわね……はぁ、これだから男子は……」

 

 サチさんがそう呟き、あからさまに不愉快オーラを出し始めた。ヒロも不安そうな顔してる……こういう時は。

 

「僕に任せて」

「優輝さん?」

 

 僕が少し早歩きで前に出て先頭を歩き、最初に声をかけられる役になる。

 

「君達スッゲェ可愛いねぇ! ねね、今ーー」

「ナンパですか? おことわりしてます」

 

 即お断りする。けれどその際、悪い印象を与えると面倒な展開になるかもなので、スマイルは忘れない。

 

「そんなこと言わずにさ、せっかくの交流タイムなんだしーー」

「おことわりしてます、あっお触り厳禁です」

 

 もう1人にも声をかけられたので再度お断りしていると、先に声をかけて来た方が僕に触ろうと腕を伸ばして来た。その手をスルリとかわしつつ禁止事項を追加する。スマイルは忘れない。

 

「ちょっとだけだからさ! ちょっとだべって触れ合って、お互いのこと知ればーー」

「おことわりしてます。4度目は、ないですよ?」

 

 スマイルは忘れない。

 

 あくまで一緒する気がない事が伝わったのか、少し後ろに下がり相談を始めた分校男子達。

 

「……な、なあ。諦めた方が良い予感がしてきたんだが」

「ばっかおめぇ、こんな可愛い娘達とお近付きになれるかもなんだぜぇ? こういうのは折れるまで攻めんだよっ」

「少し小声で相談してますけど、聞こえてますよ?」

「えっマジ? いやぁ、その笑顔が可愛すぎて、君達と仲良くなりたい気持ちが抑えられなかったからさぁ! いやマジで超可愛いね君! マジ好みだわぁ〜」

 

 よく軽い気持ちでそんなセリフをスラスラ出せるものだ。そう言いつつ、僕に触ろうとまた手を伸ばして来てるし。

 

 さて。警告した4度目だ。

 

「お触り厳禁ですってば」

 

ぱちっ

 

「おあちぃっ! な、なんだぁ!?」

 

 指パッチンして静電気を出して迫り来る腕に放ち、痛みで戦かせ数歩退かせる。スマイルは忘れない。

 

「貴方達の気持ちは、ちょっと軽すぎます。そういう浮ついた人とお付き合いするつもりはないので、貴方達のような人からのお誘いは、お断りしています」

 

 それに、カケラも好きでもないタイプの人と恋人ごっこする趣味はみんな無いので、論外だ。ただ純粋に雑談目的なら、まだ考慮の余地もあったけど。

 

 理由を詳しく説明し、最後にお辞儀してから再度お断りする。スマイルは忘れない。

 

「あー、ダメだコレ。諦めよう」

「えー、でもよぉ」

「それとだ。電撃をサラッと操れるなんて、彼女並大抵の実力者じゃないぞ。噂に聞く、クラスSかも知れない」

「マジかよ。てことは、後ろの娘達も全員……」

 

 いいえ、2人以外はクラスDです。言うつもりないけど。

 

「多分な。色んな意味で、俺らとはレベルが違う。俺らじゃ釣り合わないんだよ」

 

 まあ僕の見立てでは、実力だけならみんなクラスSで通用すると思うし、あながち間違いではないかな。

 

 それはそれとして。

 

「僕らはただ、真面目で誠実な人が好きなだけです。僕らが分校に通っていたとしても、軟派な性格の貴方達はお断りしてます。じゃあ僕らはこれで。またの機会に」

 

 実力を嵩にかかっていて、雑魚が話しかけてくるな、みたいな理由で断ったわけではないので、最後にそう補足してから去る。スマイルは忘れない。

 

 さて。終始お断りしてたけど。これなら多分、それほど悪い印象は持たれてない、はず。

 

 

 

 

「ちぇ、真面目ちゃんだったなぁ、取りつく島もなかったぜ……」

「だな……でも、なんてのかな。真っ直ぐで、なんか眩しかった」

「あー、確かに。気持ちが軽い、かぁ……そうかもなぁ。本校目指してた頃は、俺らも今よりは真面目に鍛えてたよなぁ……少し真面目になれば、今度は世間話くらいしてくれるかね?」

「かもな」

「にしても、みんな可愛かったけど。茶髪ロングの娘、マジ超可愛かったよなぁ……あー、名前くらい聞いときゃ良かった」

「ツインズに話しかけてた君達、分校の生徒だよな? ファンクラブに入らないか?」

『え?』

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「待って最後の何。誰視点?」

「んー。あえて言えば、姉さん視点かな。正解には、彼らの近くにまだ潜んでた静海から聞いた話なんだけど」

「……あの遠足の時、いらっしゃってたんですね。気付きませんでしたわ」

「イレギュラーは、いつでも起き得ますので。有事の際にマスターの側におらずして、精霊剣の意味はありません」

「あーね。ちな、観察力に優れてる蒼月が気付かなかったって、変装してたのん?」

「はい。学園の制服を来、髪を金髪に染めてからアップにし、地味顔になるメイクを施しておりました」

「……そこまで本気の変装してたのは、初耳かな」

 

 その後も誰も(多分姉さん以外)気付かなかったし、全力で潜伏出来ていたのだろう。

 

 姉さんも静海も何やってるのやら……最上級精霊剣をこんな使い方するの、姉さんくらいだよね。まあ、気持ちは嬉しいけど。

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