優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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しばらくダイジェストでお送りします。

 さて。日記の内容的に、区切りの良い所までお話した訳だけど……時間は午前10時少し前。お昼の仕込みを始めるにはまだ少し早い。

 

 と思っている所に、甘く香ばしいバターの香りが漂い出した。静海がオーブンでお菓子を焼き始めたらしい。良いタイミング、さすが静海だね。

 

「くんくん。この香りはマドレーヌかフィナンシェ、どっちか……マドレーヌ!」

「その通りで御座います」

 

 流石、姉さんに「食に関しての嗅覚は犬並みだな」と評価されるエリス、見事に言い当てていた。

 

「豆知識〜。マドレーヌとフィナンシェの違いは、マドレーヌは溶かしバターと全卵。フィナンシェは焦がしバターと卵白と、さらにアーモンドパウダーが入ってるよ!」

「はー、そうなのですねー」

「……何処に向かって言っているんだ?」

「んーと、みんな?」

 

 誰もいない方向に向かって誰にともなく豆知識を披露するエリス。メタい。

 

「焼き終えるまで、まだかかるっしょ? 優輝さん、日記昔ばなしの続き、聞かしてー?」

「んー……日記の内容からして、しばらくは大して面白い話は出来ないと思うよ。日付飛ばす? それとも、うろ覚えの期間も聞く?」

「優輝さんの事は隅々までむしゃぶり付きたいから、全部いっちゃってノープロブレム! ……あっ自分で言っといてなんだけど、今の言い方なんかエロいね!」

「ん、了解」

 

 エロい云々はスルーする。

 

「ぶー、イケズぅ〜」

 

 スルーする。さて……

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

  トマト味。

 

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

「……ご馳走様、です……」

「ご馳走様。トマトのホットサラダが特に美味しかったかな」

「お粗末! ってか、優輝はやっぱトマト大好きだねぇ。毎回トマト系はどう工夫するか悩むよー」

「ふふっ、毎回期待してるよ?」

「…………」

「ん? 月影ちゃん、どうしたの?」

「……デザートに、トマト味の物、とか……どうでしょうか…………。……ナポリタン味ア――」

「月影ちゃんそれ以上いけないっ」

「……?」

「あはは……」

 

 アキが月影ちゃんの発想を遮る。僕は結構好きだったんだけどなぁ、アレ。

 

 

  姉さんの好きな料理。

 

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

「そういや、瑞希の好物って聞いたことあったっけ。あったようなーなかったようなー?」

「ふむ。一応アキは知っているはずだが」

「むむ……ヒントプリーズ!」

「優輝のはじめて」

「言い方ぁ!」

「はじめて、はじめて……あっ優輝のはじめての手料理! ホワイトシチューね!」

「うむ、当たりだ」

「んじゃ次回のあたしの番は、瑞希の好物ホワイトシチューねっ!」

「夏場にホワイトシチューは合うのか? まあそれはともかく、少々訂正だ」

「んにゅ?」

「私が好きなのは、『優輝特製どろり濃厚ホワイトシチュー』であって、ホワイトシチューそのものではない」

「だから言い方ぁ!」

 

 

  自己責任。

 

 

「はあぁ〜……ご馳走様でした。しあわせ〜」

「ふふ、お粗末様。ヒロが毎回幸せそうで、僕もご馳走様って感じだけど」

「うぅ……そう言われると、恥ずかしいやら嬉しいやら、ですぅ……」

「ヒロさん……いつ何を食べても……ん、良い顔……」

「つ、月影さんまで〜」

「ふむ。そうなると人間、逆も見たくなるものだな」

「それって、食後なのに不幸せそうなヒロってこと?」

「まあ、そうなるな」

「えーと……食後に不幸せになったのなんて、ベニテングタケを食べた時くらいだよ」

「そりゃ毒キノコ食べれば誰だって……えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 ……ヒロの話では、一部地方では食べられているらしい。当然食べ過ぎ厳禁らしいけど。

 

 

  被り。

 

 

「とっても美味しかったですけど、あの時の感覚は……もう二度と体験したくはないかなー……」

「ふむ。回復の早い精霊術士以外は、真似してはダメだな」

「姉さん論点おかしいからね?」

「ふみゅ。せっかくだから、みんなの『絶対食べたくない程嫌いなモノ』を挙げてみよう! わたしは、カビが生えたミカン」

「それは誰でも嫌いだと思うけど……」

「私はさっき言った、ベニテングタケです」

「僕は……あえて言うなら、熟成し過ぎた生のブルーチーズかなあ」

「私もあえて言うならだが、生焼けのマツタケだな。そもそもマツタケ自体があまり好きではないが」

「……。全員菌類関係、ですね……」

「あっ、ほんとだ」

「……私は、特に嫌いなモノ、は……ん、思い付きません……」

 

 

  期末試験。

 

 

 栄陽学園の学業の定期試験は、夏・冬の長期休み前の学期末に行われる。

 他の一般高校では中間試験とかあってもっと多いらしいけど。栄陽学園生の本業は学業ではないから、期末毎に一度だけだ。

 

 とはいえ。赤点者には追試があり、それでも駄目なら、夏休み中に補習授業を受ける事になっている。

 

 つまり。追試を落ちると、夏休みの日数が減る。

 

 で。

 

「もうダメだ……オシマイだぁ」

「はいはい雅、諦めたらそこで終了だよ?」

「勝てる訳がないよぉ……ヤツは伝説の……」

「いやいやアキ、伝説ってなにさ」

 

 僕の友達では、アキと雅が赤点を取っていた。アキはともかく、雅はちょっと意外だったかな。

 

 

  言い訳。

 

 

「んむぅー、ちょっとの怪我くらいなによ。五体満足で勝てれば良いのだ!」

 

 せっかちで勢いで乗り切ろうとするアキは、戦闘座学が特に苦手らしい……全体的に学業成績自体良いとは言えないけど。

 

「日常会話が出来れば良いし、将来因数分解とかなんとかとか日常で絶対使わないし。覚える必要なくないか?」

 

 雅は、戦闘座学に関しては良成績だけど、現国と数学がダメらしい。日常で使わないのに何故学ぶのか、に関して、は分からなくもないかな。

 

 

  教師役。

 

 

 でまあ。余裕こいてて見事に赤点を取った2人の勉強を、僕が見てあげる事になった。

 

 なんでかと言うと。

 

「別に僕も、特別勉強好きって訳ではないんだけど……授業の予習も復習も、ほぼしてないし」

「そんでなんでそんなに成績良いの!? 理不尽だっ!!」

「なんでって言われてもなあ。授業受けるのが好きだからかな? というか、授業範囲が出題されるんだし、普通にノート取ってれば問題なくない?」

『ぐう……』

 

 どうも2人は、試験前に一夜漬けするタイプらしい。よくこの学園入学出来たね……

 

 

  みんなの成績。

 

 

 ちなみに、期末の上位成績者だけど。

 

 1位は月影ちゃん、2位は姉さん。僕が3位で4位が蒼月さん。5位が加藤さん、6位がサチさん……うーん。僕の周りの親しい人は、みんなハイスペック揃いだなあ。

 

「な、なぜか見下された気がするぞ……」

「んにゅ、同じく」

「そんな訳ないって」

 

 見下してるなんてとんでもない、本気で。みんなかなり個性的(変わり者)だなとは思ってるけど。

 

 

  みんなの成績その2。

 

 

「そういや、ヒロさんとパフィンさんは、順位どんなだったっけか?」

「んっとねー、ヒロは確か、92位だよん」

 

 一年生の人数は200人だから、ヒロは平均的だね。

 

「パフィンは…………44位」

「おぉう、意外と高ぇ」

 

 パフィンさんは自分の順位について、いつものぽやっとした声と笑顔で、

 

「縁起悪い数字でちょい気になる〜」

 

とか言ってたっけ。

 

「パフィンも一夜漬けって言ってたんだよねぇ……むぅ、解せぬっ」

「だなー」

「なんか勉強の秘訣でもあるのんかなぁ」

「ああ、それに関しては、サチさんからこんな話を……」

 

 

「30分勉強したら3分間スイーツ休憩〜はむっ。んぅ〜♪ これでぇ、テストはバッチリだね〜」

「いや、その理屈はおかしいわ」

 

 

「……らしいよ?」

『解せぬ』

 

 

  敗北者?

 

 

 追試勉強中。

 

「あっそだ。あたし赤点だったショックでうろ覚えなんだけど、なんか加藤さんに騒がれてなかった?」

「あー、あれね。えっと……」

 

 

「月影さんに勝てないのは予想済み。蒼月さんと接戦なのも予想通り……ですがぁ! なんなんですの!? 水城姉妹っ!!」

「なんだと言われても……」

「私は大天才で、優輝は天才。以上だ」

 

 返答に困っていると、姉さんがドヤ顔でそう煽りを交えて返していた。

 

「くっ……うう〜!! 覚えてらっしゃい! 次は、次こそは! みんなまとめて叩き潰して差し上げますわ!! では御機嫌よう! ふんっ!!」

 

 

「んーみゅ、ツンデレお嬢様のテンプレって感じだねぇ」

「あはは……」

 

 

  補習なんてほしゅうない(アキ談)。

 

 

 2人とも追試で平均点を取れて、なんとか補習を免れた。

 

「勝ったっ! 第1部完! さっすがあたし!」

「ふぅ、成し遂げたぜ」

「赤点者が揃って偉そうだな」

「まあまあ姉さん。ふふっ、2人共おめでとう&お疲れ様、だよ」

「ありがと〜! 全部優輝のおかげだよ〜!!」

「だな。優輝さん教えるの上手だよなー」

「んもぅ優輝大好きっ!!」

「もう優輝さんが教師で良いんじゃないかな」

「も、もうっ、そんなに持ち上げても何も出ないよ? え、えへへ」

「ふむ……」

 

 何やら少し考え込む姉さん。なんだろ?

 

「……うむ。優輝のおかげなら、偉ぶっても良い!」

『よっしゃあ! いぇいっ!』

「いやいや、意味わかんないよ?」

 

 まあ、3人とも楽しそうだから良いけど。

 

 

  お疲れ様会。

 

 

『いぇいっ!』

 

 補習回避おめでとう&もうすぐ終業式という事で、光曜日お昼に親友達とちょっとしたお食事会を開いた。

 

「みんな無事夏休み迎えられて何よりだねっ!」

「ああ!」

「終業式はまだだけどね」

「まあ、ここにいる奴らで、お前達アキとマミヤ以外に補習の心配をしていた奴はいない訳だが」

『……。いぇいっ!』

「それ気に入ったの?」

 

 アキと雅、仲良いなあ。

 

 

  サチさんの好きな食べ物は?

 

 

「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐ!!」

「んんっ! 箸でつまめるのに口の中でほろっとろって。凄いわね、この豚角煮」

「んぅ〜♪ 脂身甘くておいひ〜♪」

 

 終業式祝い?に、ヒロの大好物を作ったのだけれど、他のみんなにも好評だった。

 

「そういえば、パフィンさんはたまにお昼食べに来るけど、サチさんは来たことなかったよね」

「まあ、部活の人との付き合いとかあってね……来たいとは思ってるのよ?」

「それでさ。今度サチさんの好きな料理作ってあげたいから、教えてくれると嬉しいなって」

「わ、私の? えーと……わ、笑わない?」

「笑わないよ」

 

 笑うような好物ってなんだろ?

 

「その……オ、オムライス……ケチャップたっぷりで……」

「ん、了解」

 

 うーん……笑う要素がわからない。

 

 

  恥ずかしがる理由。

 

 

 んー……考えてもわかんないから直接聞こう。

 

「ケチャップオムライスが好きな事に、笑われる要素あるかな?」

「オムライスっていえば、瑞希が料理部の入部テストで作ったよねぇ」

「うむ」

「ごくんっ。私もオムライス好きだし、変じゃないと思うよ?」

「お前は食べられればなんでも好きだろう」

「だよね〜、気にすることないのにね〜」

「私も卵料理好きですよ? 出汁巻卵が特に大好きです」

「何がそんなに気になるんだ?」

「えっと、その……ケチャオム好きって、私の容姿だと、味覚だけ子供っぽい感じでアンバランスで……なんか、恥ずかしい……」

(サチさん可愛い)

(さっちゃん可愛いっ!)

(ジャンル的にギャップ萌えでしょうか、捗ります)

 

 

  卵大好き蒼月さん。

 

 

「♪」

「蒼月ってば味卵ばっかり取りすぎ!」

「あぁすみません、つい」

「月影ちゃん、卵料理のを目の前にした時の蒼月さんって、いつもこんな感じ?」

「ん……はい、そうです……」

「そうでしょうか? 厚焼卵や出汁巻卵ではないですし、控えめだと思いますが」

「どっちにしても、卵料理大好きなのねん」

「卵は最強の万能食材ですわ! はむ……はー、美味ひい……」

「蒼月……卵とお肉と野菜、バランス良く……ん」

 

 月影ちゃんが蒼月さんの取り皿を取り、角煮と大根、小松菜おひたし乗せて渡す。

 

「あら月影、ありがとう」

 

 ひょいっ

 

 取り皿を受け取った蒼月さんが月影ちゃんに感謝を言いながら、皿に更に味卵を……

 

「だから卵取りすぎぃっ!」

「あら、つい無意識に」

 

 まあ、美味しそうに食べてくれてるから、僕としては嬉しいから良いんだけどね。

 

 

  女子力。

 

 

「……もぐもぐ……」

 

 月影ちゃんがうっすら頬を赤らめて、じっくり味わうようにゆっくりと、月影ちゃん用にビターに調整したチョコフィナンシェをもぐもぐしている……可愛い。

 

「んぅ〜♪ この瞬間のために生きてるぅ〜♪」

 

 ちなみに、パフィンさん的に甘さが足りないはずなので、月影ちゃん以外のみんなのには、甘めのチョコをテンパリングして半分くらいまでコーティングしてある。見るからに幸せそうに食べるパフィンさん可愛い。

 

「チョコ部分がパリッと、生地の外側はカリッと、中はしっとり……食感も楽しいわね」

「無糖の紅茶と合いますね」

「そだねぇ……あーおいし。優輝大好き」

「もぐもぐもぐもぐ」

 

 みんなにも好評なようだ。ふふ、嬉しいな。

 

「やっぱり優輝さん、女子力高ぇよなー」

「優輝だからな」

 

 ……なんか聞こえたけど気にしない。

 

 

  月影ちゃんの喜びポイント。

 

 

 そういえば、月影ちゃんはビターチョコレートが好きみたいだから、ビタチョコ味なお菓子を何度か作ってあげたけど。

 

 月影ちゃんにもヒロの豚角煮のような、「一番の好物」と思えるようなチョコレート菓子を作ってあげたいな。

 

 というわけで。

 

「月影ちゃん、チョコ菓子について、思うところがあったらなんでも教えてね?」

「……?」

 

 月影ちゃんが首をわずかに傾ける。よく意味がわからなかったらしい。

 

「えっとね。月影ちゃんが一番って思えるようなチョコ菓子を食べさせてあげたいからさ。だから、月影ちゃんの好みを詳しく知りたいなって」

「……。ん……」

 

 小さくこくりと頷いて、顔が隠れるくらいに本を掲げて読み始めた……あれ、反応鈍い? もしかして、迷惑だったかな……

 

「ふふっ。月影、相当嬉しいみたいです」

「あ、そうなんだ。それなら良かった」

 

 うーん、喜びと不快のリアクションの違いがまだよくわからない……まだまだだなあ。

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