優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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またナンパされた

「ちなみにだが。あの時のネイ先生殿の台詞を聞いて、皆一様にこう思ったそうだ」

 

 

(ああ……優輝の「恥ずかしい台詞をつい口走ってしまう癖」は、この人が原因か)

 

 

「とな」

「あーわかるわー」

「……も、もうこの話はここまでにしない?」

「別に構わないが。優輝の癖は未だ直っていないからな、直るまでは時折話のネタになるだろう。まあ私は、直す必要性を感じないが」

「だよねー」

「はい、私もそう思います」

「そ、そう? というか、なんで癖の話になったんだっけ……」

 

 記憶を辿ってみる……確かキッカケは、サチさんに「恥ずかしい台詞禁止!」みたいな事を言われたから、だったはず……あれ?

 

「そういえばいつの間にか、それ系でイジられる事はあっても、直して的な事、誰からも言われなくなったような」

 

 んー? もしかして、諦められてた?

 

「そこも優輝の魅力、と気付いたからだろうな」

 

 姉さんが、どこか意地の悪そうな顔でそう言う……あー……なんか、2年生の終業式の日の騒動思い出しちゃった。

 とはいえ、昔話の流れ的に、一年の夏休みからいきなりそこへ話が飛ぶのもね。

 

 という事で。

 

「そんな事より話の続きしよ? 夏休みに入ってからのお話ね」

「……なーんかはぐらかした感じ?」

「ですわねー」

「……今日のおやつはシフォンケーキにしようかと思ってたんだけど、い――」

『いりますいります』

 

 みんな食い気味に頷く……よし、これで話を時間軸通りに進められそうだ。

 

 今の僕の台詞を聞いた静海がすっと動き出し、買い物の準備を始めた。お昼のオムライスに使用した卵はシフォンケーキ用に買って置いたものだったからね、それを補充しに行ってくれるのだろう。

 

 さて。夏休みに入ってからの、だから……うん、やっぱり最初は、初日のあの話からしよう。

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

 グリーンウィークの時は、ネイ先生から車をレンタルして帰郷したけれど。夏休み中の、8月に入ってからの約2週間、ネイ先生も帰郷するらしいので、僕らが借りる訳にはいかない。

 

 ので。今回は、父さんが迎えに来てくれる事になっている。

 

 父さんはなんというか、世界の危機に立ち向かう使命を帯びた特殊な国家公務員だ。

 そんな仕事をしている父さんだけど、僕らが実家にいた頃はほぼ毎週末の光曜日は必ず家に帰って来てくれていたし、毎年グリーンウィークや年末年始などの連休には、毎回家に居てくれた。だから、水城家は円満な家庭、なのだと思う。

 

 とはいえ、仕事が仕事なだけにそれが限度らしく、自由にいつでも動ける身とは言えない。

 

 何が言いたいのかというと。自由に動けない父さんが迎えに来られるのは、約1週間後、7月末になる。

 どうしても早く家に帰ってやりたい事がある、という訳でもないので、しばらくは普段の休日にしている行動を取るつもり……なのだけど。

 

 

 

 

(……よし。予定通り15分前。んー……)

 

 今僕が来たのは、学園都市の駅前広場。ここで待ち合わせをしている。

 

 待ち人は生真面目さんだからすでに来ているかも?と思い、くるりと辺りを見回して探す、と、

 

「さっきからずっといるじゃん、もう来ないって! だからオレらとさぁ」

「さっきから言っているけれど、余裕を持って早めに来ただけで、約束の時間にはまだなっていないの。ナンパなら他を当たって」

 

「わあ……」

 

2人組の男にナンパされている待ち人ーーサチさんを発見。

 

 すぐ見つかったのは良いけど……

 

「そう言ってからもう10分以上待ってんじゃん。んな待たせるって事は、もう来ないっしょ。だからさぁ」

「……はぁ〜。私、同じ説明を何回したかしら。話が通じない人達ね……」

 

……心底疲れたようにそう呟くサチさん。だいぶ辟易してるっぽい。

 

(約束の15分程早く、では、まだ遅かったみたいだね)

 

 ともかく。僕がサチさんの生真面目さを甘く見ていたのがナンパされた原因のひとつだし。当然すぐに追い払いに向かーー

 

「ねね、キミいまひとり? キミメッチャカワイイねー! ヒマならオレらと遊ばなーい?」

「え?」

 

ーーおうとしたら、僕も別の2人組にナンパされた。完全に意識がサチさんの方に向いていて油断してたから、即声を返してしまった。

 これは悪手だ。この後の対応を間違えれば、姉さんに叱られる。

 

 ていうかなんかこっちの2人も、サチさんに声かけしてる人と似たチャラついた感じの2人組だ。ナンパする人って、やっぱり似た性格の人が多いのかな。

 

「だから……うん?」

 

 別の人(僕)がナンパされている声に気付いたサチさんが、こちらに視線を向け、しばし固まる。

 

『…………』

 

 しばし、無言で見つめ合う。

 

「お? うおっあっちの娘もマジカワじゃね!?」

「おおっスッゲェカワイイ! ……何故かモブメンがいっけど」

「あっちの娘も良いな、綺麗系って感じ?」

「だな……なんか頭悪そーなのにからまれててカワイソーだけど」

「おん?」

「あん?」

 

 そして、僕らにナンパしていた2人組2組が、何故か互いに睨み合いだした。え、何この状況。

 

「……ぷっ。あはっあっははははははははっ!!」

「えー」

 

 状況の奇妙さが変なツボに入ったらしく、サチさんが堪らず爆笑し出した。

 

「えっナニナニ、オレそんな面白い事言ったっけ?」

「あははっ……ふぅ〜……いえ、貴方達は関係ないわ。それより、さっきから私が言っていた待ち人が来たの。これ以上纏わり付かないでくれる?」

 

 軽口に対してわざわざ丁寧に返事を返すサチさん。生真面目だなあ。そこが好き。

 

「マジかよ! お友達もマジメチャカワだねぇ! 美少女は美少女を引き寄せるってか!」

「ねばって大当たりだったな! あっモチ友達も一緒でいいぜぇ、むしろバッチェウェルカム!」

「は? こっちの娘は俺らが先に声かけしたんすけど?」

「はっ! テメェらみてぇなモブ顔ヤロー、最初からオ・コ・ト・ワ・リ。だろうがよ?」

 

 顔の良し悪しはともかく。最近からお断りなのは合ってるかな。

 

 ていうか、

 

「あ? てめーらだって似たようなもんだろが」

「お? 目ぇ腐ってんな? 俺ら読モ経験アリだぜ?」

「どうせよく知らねー雑誌だろ? オレらは最高の穴場デートスポット知ってるし? てめーらヤリたいだけの頭ヨワヨワヤローなんかより、ゼッテーイロイロ大満足させてあげられるね!」

「ザコモブなテメェらにはぜってぇムリだな! その顔でなんでイキってんのかねぇ!」

 

なんか勝手に口喧嘩し始めた。しかも内容がかなり低レベル。

 

 さて。徐々にエスカレートして来て一時的に僕らを眼中から外したようだし、撒く手間が省けそうだ。

 

「サチさん、今のうちに離れよ?」

「……そうね。はぁ、これだから男子って……」

「まあまあ。あの人達を男子の基準にしちゃ駄目だよ」

「まあ、それもそうね。それに、私は……モニョモニョ……」

「……うん? なんて?」

 

 耳は結構良いと思ってるけど、今のモニョり声は言葉になっていなかったから、流石にわからなかった。

 

「……な、なんでもないわ。さっ早く離れましょ。この人達の近くにいたら、私達も同レベルに見られちゃうわ」

「ん、了解」

 

 

 気配と足音を極力消して、視界に入らない距離まで早歩きで来たけど、まだ言い争う声が聞こえる。

 

「二兎を追う者は一兎をも得ずってね。まあ、僕らは2人共爆速兎だから、どっちにしても一匹も捕まえられなかっただろうけど」

「わ、私はウサギってイメージじゃないわよ……ウサギは可愛くて好きだけど」

「そっか。じゃあまずは、ウサギの小物でも探しに行こっか」

「良いわね! ええ、行きましょ! ふふっ!」

 

 サチさんは上機嫌だ。うん、やっぱり買い物に誘って正解だったね。

 

 

 

 

 少し時間を戻して、夏休み初日。毎朝の鍛錬をサチさん達と一緒にした時の事。

 今日のお昼に、サチさんのリクエストであるケチャップオムライスをご馳走する話になった。

 

 朝練を一緒した雅とパフィンさんも誘ったのだけど、

 

「部活の先輩と、部活の備品買いに街に出るんだけどさ。昼飯奢ってくれるって言われたから、今日はいいわ」

「アタシはこの後シャワシャワスッキリしたらぁ、さっそくひとりスイーツツアーに繰り出したいしぃ、ムリ〜」

 

と言われてしまった。

 

 ちなみに姉さんは、朝一で静海と一緒に父さんの所へ出かけたのでいない。夕食までには帰ると言っていたので、陽の高いうちには帰ってこないのだろう。

 

 というわけで。オムライスの食材を買いに行くつもりなのだけど、食材買って帰るだけならあっという間だ。それにオムライスは、仕込み含めて手早く作れる料理だ。尚更時間が余る。

 

 普段買い出しする時は、姉さんアキヒロの誰か一人は最低でも一緒だったし、ウィンドウショッピングしながら楽しく買い物してたんだよね。

 

 まあ要するに。ひとりぼっちは少し寂しかったので、

 

「サチさん、せっかくだから、2人でお買い物しよっか?」

「えっ、私と?」

 

とお誘いしてみた。

 

「お〜、いいじゃんいいじゃん、2人っきりでお楽しみしてきなよ〜」

「え、え?」

「さっちゃ〜ん……ごにょごにょごにょごにょ〜……」

「はっ!? な、なるほど、そうね! ゆ、優輝さんっ私で良ければ付き合うわっ!」

「うん、サチさんが良ければいいよ?」

 

 パフィンさんがサチさんの耳元で、かなりの小声で何やらアドバイス?していたようだけど……サチさんいきなり元気いっぱいになったけど、何て言われたのやら。

 

「あ、せっかくだから、待ち合わせしましょ。場所は……学園都市なら……やっぱり、駅前広場が定番かしら」

「うん? 寮から一緒に行けばよくない?」

 

 普段買い物しに行く時は、最初から連れ立って動いてるんだけど。

 

「え、ええとね……友達と待ち合わせって、なんか憧れてたのよ。その、私の性格のせいか、友達が今までいなかったし。そっそれと、駅前で待ち合わせって、なっなんか、デ、デデデ……な、何でもないわ」

 

 顔を赤くして、その話を打ち切るサチさん。デデデ……なんだろ、アニメかなんかのキャラで、そんな名前のがいたような。

 

「待ち合わせかあ。確かにそういうのも面白そうだね。いいよ、駅前広場ね」

「……ありがとうね、我儘聞いてくれて」

「ふふっ、気にしないでよ」

 

 とまあ、サチさんと駅前で待ち合わせてのお買い物の経緯は、こんな感じだった。

 

 まあ。要するに、お買い物と書いてデートだね。

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