遠くからわずかに聞こえるナンパマン達の口喧嘩をBGMに、ケータイで動物系の可愛い小物のお店を検索しつつ、サチさんと会話する。
「サチさん、ウサギ以外ではどんな動物が可愛いと思う?」
「そうね……リスとか……あと、ムササビとかモモンガとか、ああいう木から木へ動き回る小動物なんか、可愛いと思うわ」
「ふむふむ……」
「優輝さんは、どういう動物が、その……好き、かしら」
「うーん……鳥、かな。鮮やかな緑とか青い色した鳥は、結構好きかも」
「緑とか青、ね。精霊国なら、カワセミが思いつくけれど。珍しい鳥だと……あ、ケツァールとかどうかしら?」
サチさんが、ケータイで画像検索して見せてくれる。
「ケツァール? ……へえ、綺麗だね。それに可愛い」
「そ、そうね……綺麗、可愛い……ふふっ」
「あっサチさん、このお店とかどうかな」
「どれどれ? あっそのお店気になってたの! 是非そこに行きましょ!」
「了解……ふむ。僕らがいないのに気付いたっぽいね」
「え、なんの話?」
「さっきのナンパな人達。あの娘達はどこだーとか言ってるし、僕らを探してここに来るかも」
「……優輝さん、耳良すぎない? 私には、内容までは聞こえないんだけど……」
「まあね、耳の良さには自信あるよ。というわけで急いで離れよっか。多分、お店はこっちだよ」
そう言ってから、手を差し出す。
「え?」
「夏休み入ったからか、いつもの休日より人が多いからね。人混みではぐれないように、手を繋いで行こ?」
「あっ……え、えぇ、そ、そうね、あ、ありがとう優輝さん……ふ、ふふふっ」
頬を赤く染めて、はにかんで僕の手を取る。サチさんって結構恥ずかしがり屋だよね。可愛い。
僕は、サチさんが手をしっかり握り返してくれたのを確認してから、少し早歩きで進み出した。
「このウサギ可愛い! こっちのも可愛い! やだ可愛い〜!」
「へぇ、これヤギね! 変わったディフォルメされてるわね〜、面白可愛いわね!」
「このヒツジもなかなかユニークね、何故か二足で立ってて不思議だけど! 不思議可愛い!」
「あーでも、出来が良いだけあってちょっとお高いわね。手が出せない値段じゃないけれど……ふふっでもみんな可愛い! どの子をお迎えしようかしら、目移りしちゃうわ!」
うんうん、サチさんは存分に堪能しているようだ。良かった。
ふふふっサチさんはしゃいじゃって。無邪気でとっても可愛い。
全部を品定めするかのように動き回ったサチさんだけど。彼女が最終的に購入したのは、手の平サイズの白いウサギと青いウサギの置物と、松ぼっくりを抱えたリスのキーホルダーだ。リアル寄りなデザインながら、コミカルなポージングが面白可愛い、と思う。
「優輝さんも買ったのね。ウィンドウショッピングだけで、正直買うとは思ってなかったわ」
あれだけ普段の生真面目な言動とはかけ離れた無邪気さを発揮していたサチさんだけど、こちらの事をよく見ている。やっぱり、根っからの生真面目さんなのだろう。
確かに言われた通り、色々見れて楽しかったし、それだけで満足出来たのは確かだけど。
「うん、まあそうだね。実際、どうしても欲しいと思える程の興味は抱かなかったかな」
「え、じゃあなんで買ったの?」
僕は、先程話題に出ていたケツァールの小さめなヌイグルミがあったので、それを購入していた。
「あ、その包装の仕方は……誰かにプレゼントかしら? 実家の、というか、鷺宮村の知り合いにとか?」
「あー、そうだね、咲さんとかネイ先生に、何か買うのもアリだったかな。まあ、これがプレゼント用だっていうのは当たり」
「あっふーん……えーと、だ、誰に?」
何故かサチさんが、不安そうな顔と声色でそう聞いてきた。
「ふふっ。はい、どうぞ」
「……へ?」
「今日付き合ってくれたお礼と、いつも朝練一緒してくれてありがとうを兼ねて。サチさんにプレゼント、だよ」
差し出したヌイグルミを、反射的に受け取るサチさん。10数秒くらい無言でそのままヌイグルミと見つめ合い続け、
かああっ
アニメや漫画なら、ぼふっと効果音でもなりそうな勢いで顔を真っ赤に染めるサチさん。
ふふふ。突発的に思い付いたサプライズだったけど大成功、喜んでもらえたみたいだ。反応が可愛い。
「ありがとうっ! 絶対に大切にするわっ! 絶対にっっ!!」
「ふふっ、そこまで喜んでくれるのは予想外かな。まあそんな訳で。これからもよろしくね、サチさん」
「ふふふふ! 私今、人生最高に舞い上がっちゃってるかも! ええ、こちらこそよろしく!!」
「僕とーー僕らと、ずっと親友でいてくれると嬉しいな」
「えぇもちろん! ……ええ、もちろん……」
「?」
テンションMAXな感じだったのに、唐突にテンションMINな感じになるサチさん。
僕、何か変な事言ったかな……多少恥ずかしい台詞だった気がしなくもないけど。
「っと、結構長居しちゃったね。というわけで」
「……何かしら……?」
「今度は僕の番ってこと」
「え?」
次に向かった先は、いつも利用している食料品店だ。
「おっ今日はキノコ全般安い。オムライスのチキンライスに入れるのもアリだね。あっサチさんはキノコ嫌い?」
「いえ、嫌いじゃないわ」
「そっか、なら入れちゃうねー。あー、そうそう。チキンライスなだけに鶏肉入りだけど、豚肉とか別のお肉にして、味を炒飯風にするのも面白いかも」
「うーん、悪くはないとは思うけど……私としてはやっぱり、オムライスはチキンライスが好きね」
「はーい。さて……とりにくとりにく〜」
「ふふっ」
「うん? サチさんどうかした?」
「いえ、料理の事をあれこれ考えている優輝さんが可愛いな、と思って」
んー。自分としては、いつもと同じノリなんだけど。まあ、客観的に見たら違う風に見えるのかな。
「そう? そう言われると、なんかサチさんに見られるのはちょっと照れくさいかな。えへへ」
「……やっぱり、優輝さんは女子力高いわね。私にはない可愛らしさだわ」
女子力……はは、女子力かあ……雅にまで言われた事あるけど……まあそれはそれとして。
「何言ってるの。サチさんだって、とっても可愛いよ?」
サチさんの、「私にはない」発言はいただけない。こんなに可愛いのにそれを否定するような事を言うと、人によって嫌味と捉えて不快に感じる、らしい。
「っ! ……も、もう、不意打ちでサラッとそんな事言えちゃうんだから……ふふふっ」
「?」
よく意味がわからないけど。少し頬を赤らめてるけど嬉しそうでもあるし、まあいいか。
「チキンライスの鶏肉は、胸肉が合うと思うんだけどね。いつもは小さめに切るか、挽肉レベルに細かくして鶏そぼろ風にしてるんだよね。サチさんの好みは?」
「お肉の部位に関しては詳しくないから、そこはお任せするけど。サイズは……小さめに切る方が好みかしらね。お肉の存在感はあって欲しいわ」
「はーい」
「ふふふっ」
そんな感じで、食材の買い物の時も、終始楽しく和やかな雰囲気で過ごせた。
やっぱり、お買い物は誰かと一緒が良いよね。付き合ってくれたサチさんに、感謝。
おしゃべりしながらだったので、寮に帰り着いたのは昼の12時半くらいだった。
さて。だいぶお腹も空いてきているし、早速取り掛かろう。
「手早く作るから、ちょっとまってねー」
「ふふ、我慢できないほどの空腹ではないから、急がなくても大丈夫よ?」
「はーい。あっそうだ。朝練の時にも話したけど、今は姉さんも静海もいないから、気兼ねなく自由にしててねー」
……そう言ってから気付く。そう言えば、寮の部屋に友達1人だけを招いたのは、今回が初めてだ。友達ではないけど、1人、勝手に入って来た人はいたけど……
ちなみに、手料理お昼の時のメンバーの基本は、僕と姉さんと静海、アキヒロ、たまにいない場合もあるけど月影ちゃん。時々パフィンさんと蒼月さん、ごくたまに雅って感じだった。
サチさんは、終業式の前祝い?の時が最初だったけど、友達全員集合して料理したり食べたりするには、寮の部屋は流石に手狭だったので、あの時は調理室を借りたんだよね。
ふーむ……その事をサチさんに教えると、どういう反応を示すだろう? ちょっと気になる。
というわけで。
「そう言えば、サチさんがはじめてのお相手になるよ」
「え、どういうこと?」
「姉さんがいない状態で、僕らの寮部屋にお一人様でご招待したお相手、て意味だね」
「…………」
それを聞いた直後、何故か真顔で沈黙するサチさん。
「……あ。食事の前に手を洗いたいから、洗面所お借りするわね」
「あっ、はーいどうぞどうぞ」
んー……友達と言える人がいない歴が長いというサチさんなら、こう言えば照れ顔で喜んでくれるかと予想したのだけど。うーん、残念。
ぺちんぺちんっ
(うん?)
数分後。超速で仕込みを進めていると、洗面所から何やら……肌を叩く音、かな? そんな感じの音が聞こえてきた。
行ったきりなかなか戻って来ないけど、サチさん何してるんだろ……気になる、けど、仕込みの手は止めたくないし……なやめる。
その音から十数秒後、やっとサチさんが出てきた。
「なんか長かったね……。頬を叩いてた音?」
戻ってきたサチさんの頬はほんのり赤く腫れていて、わずかに手形っぽい模様ができていた。
「え、えぇまぁ、ちょっとね……痛みで冷静になれるかと思って」
「ふーん?」
ふむ。さっきの僕の台詞が後から効いてきて、洗面所でしばらく嬉しさに悶えてた、とか? なんてね。
まあ、サチさん結構恥ずかしがり屋だし。自分の頬を叩いてまで気を鎮めたのだし、詳しくは聞かない方が良さそう。
さてっそれよりも今は! オムオム〜。
「おまたせしました、オムライスです!」
「ありがと。んー、美味しそう!」
サチさんの意見を取り入れつつ出来上がったのは、チキンライスの方に多少アレンジは加えているけど、見た目は「昔ながらの」と修飾語を付けたくなるような、実にシンプルなオムライスだ。
「トマトケチャップはかけてあるけど、足りないと思ったら、自分で調整してね」
そう言って、器に入れたトマトケチャップをサチさんに差し出す。
「ええ、わかったわ……このケチャップ、もしかして自家製?」
「自家製というか、我が家流というか、だね」
市販のにちょっと手を加えて、
さらに、サチさんに差し出したやつは、サチさんから聞いたサチさんの好みを参照し、彼女用に味を調整している。喜んでくれると良いけど。
「では、いただきます」
「いただきます。はく、はふはふ……ん〜〜!」
サチさんがいつも通りに食べ始める、けど、喜びの唸り声を発してからは、いつもより食べるペースが早くなり、スプーンを休みなく口に運び始めた。
ふふっ相当美味しいみたいだね、良かった良かった。夢中で食べるサチさん可愛い。
「あ、ごめんなさい。美味しすぎて感想も言わず夢中で食べちゃってたわ」
「気にしないで食べ続けてて良いよ、見てれば伝わって来るしね」
「だめよ、せっかく私のために作ってくれたんだもの。言わなくても伝わるのは素敵な事だけど、気持ちの全部は言葉として表さないと伝わらないものよ。だから、感想とお礼はハッキリと口に出さないと」
生真面目だなあ。そこが好き。生真面目サチさん可愛い。
「とっっても美味しいわ! 最近流行りのふわとろ卵たんぽぽオムライスも嫌いじゃないけど、やっぱりオムライスと言ったらこれよね! それと、水城家アレンジのケチャップ! これが絶妙ね! 酸味が少し強いのが、実に私好みだわ! こんなに美味しいとつい食べ過ぎちゃうかも! 優輝さん、とっっても美味しいわ!」
「ふふ、お粗末様です」
よしっ大成功! ふふふっ、嬉しいなあ。
それに今日は、可愛いサチさんをたくさん見れて、色々と大満足だ。誘って本当に良かった。
「また一緒にお買い物行こうね。今度はみんなで、ワイワイしながら!」
「そうね、それも良いわね……出来ればまた、2人きりも……い、いえ、なんでもないわ」
「ん、了解」
なんで言い淀んだのかちょっと気になったけど、話はここまでと言うかのように食事に集中し出したので、突っ込んで聞くのは止めた。
まあ確かに、とても楽しかったし。普段一緒してるメンバーとは別の友達とも、2人きりでのお買い物、誘ってみようかな。
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「……一言感想良いかな?」
「うん? なにかな」
「なんでしょう?」
「好きにしろ」
「んじゃあお言葉に甘えまして」
エリスが、わざとらしくこほんと咳払いしてから一拍間を置いて、一言。
「優輝ってほんっっっと天然ジゴロだよね! そこも含めて大好きだけど!!」
「えー」
「ですわね」
「うむ」
「むう、そんなことないと思うんだけどなー……」
僕以外の全員に肯定された。解せない。
おまけ・洗面所にて
幸子
「えへ、えへへ、えへへへへ……っは!?」