「そういえば、間崎 雅はマミヤの事だったんだな」
「やっと思い出したね。姉さん的には、雅は友人じゃない感じ?」
「マミヤというのが優輝の友人の1人にいたな、という認識だな。あだ名の方で覚えていたから本名を聞いてもピンと来なかった」
「ふむそんな感じかー。まあ思い出してくれただけでも嬉しいよ。学園で親友って言える男の子って、雅だけだったし」
「ふむ、そうか」
姉さんは雅の話題を興味なさげに切り上げて、日記を眺めて時系列を飛ばす。
「確か……自由時間の後は、食事の時間だったか?」
「惜しい。その前に、ネイ先生に引率されて校内の施設行脚だね」
――――――――――
「……ん! そろそろ1時間ですね〜」
『!?』
唐突にガバッと起き上がり自由時間終了を告げるネイ先生。なんの前触れも感じさせず起きたので、ネイ先生の近くにいた数人がビクッとしていた。ちょっと笑いそうになったのを我慢した。
「みなさん、自分の席の位置に戻ってくださ〜い」
『はーい』
その声に従って、全員大人しく席に戻る。多分、先程のマクラで人を軽々吹っ飛ばしたのが効いているのだろう。ネイ先生の外見の可愛らしさに惑わされず舐めた態度を取るクラスメイトは、1人もいなかった。
「あ、すぐ移動なのでぇ、座らないでください〜。飯屋峰君は立ち上がってくださ〜い」
「……縛られていて立ち上がれないのだが。まったく、王に対して不敬な」
「今現在王でもなんでもない一般市民なんですから、変態行動は控えてくださいね〜。先生、あんまり怒りたくないんで〜」
「ふん……一応気をつけてやろう」
ネイ先生の素敵な
「それはともかく、縄を解け」
「ただの縄なのでぇ、自力で抜けて下さい〜。本校に入学出来る実力の未来の王なら、その程度簡単ですよね〜?」
「……それもそうだな」
そう言うと、彼を縛っていた縄の結び目のみが燃え上がり、緩んだ縄を軽く払い除けて立ち上がる飯屋峰君。精霊属性は火属性か。
「ではみなさん、校内施設の案内をします〜。私に着いてきて下さいね〜」
そう言って教室のドアを開け、天井君へと手招きをするネイ先生。彼がそれに従って歩き出すと、続けて出席番号順に後ろに着いて行くクラスメイト。ネイ先生はすでにクラスの主導権を掴んだようだ。流石、教師歴◯◯年。
「愛の抱擁!」「黙ろうか?」バヂッ「あいたいっ!?」
みんなが教室を出て、学園の見取り図が載せられた学生帳をそれぞれ見ながらネイ先生の後に着いて行く……教室を出た直後飯屋峰君が僕に速攻抱き着いて来ようとしたのを電撃退した以外は、特に問題はない。
「むう……我がベーゼを求めて拒む者はいなかったのだが」
「こいつ自意識過剰過ぎんだろ。顔は悪くねえのに、勿体ねぇな」
飯屋峰君を挟んで僕の一つ後ろ、出席番号最後の山本さんが、残念なモノを見る目で飯屋峰君を横目に見つつ僕に話しかけて来てくれた。
「環境が違えば常識も変わるってことかな。きっと彼は、いわゆる「地元じゃ負け知らず」だったんだよ。まあ、それで済ませていいレベルのオレ様具合じゃない気はするけど」
「はー、そう考えられるもんかね。優輝はお人好しだなぁおい。うっかり飯屋峰のヤローに絆されんじゃねえぞ?」
「ふふっ心配してくれてありがとね、山本さん」
「おうっ気にすんな!」
男勝りで物怖じしない山本さんの口調に好感を覚えつつ、彼女と雑談しながらネイ先生に着いて行った。
「今日は新入生しか本校舎内にいないはずですがぁ、部活棟には、許可を得た生徒がいるので〜。先程の飯屋峰君のような突飛な行動はぁ、出来るだけ、控えて控えて下さいね〜?」
『はーい』
〈1-D案内中〉と書かれた小さな旗(多分ネイ先生の手作り)をフリフリしながら案内するネイ先生。観光ガイドさんかな?
(えっと、順路は……本校舎を出たら食堂棟。次に部活棟、その先の訓練棟とグラウンド、か……食堂と言えば)
前方を歩くアキとヒロの様子を伺う。確か、2人共食べるの大好きとか言ってたけど。
「ヒロっお昼のメニュー当てしよう!」
「アキちゃん気が早すぎだよ〜」
アキはもう食べる気でいるようだ。まあもうちょっとでお昼の時間だし、気持ちはわからなくはない。
「うっわ〜素敵〜! もう美味しいっ!」
「アキは食欲旺盛だねー。いつもこんな感じ?」
「うん、アキちゃんは昔からこんな感じ。でもアキちゃんが騒ぐのも無理ないと思うの……とっても美味しそうな香りが既に漂ってますし」
「そうだね。こんなにも素敵な食堂だし……学食、だよね?」
案内された食堂棟は、学食と言うよりはオシャレでお高そうなカフェテラスのようだった。
ヒロの言う通り、調理中と思われる香りと、僅かに肉を焼く音が聞こえてきている。僕的にはまだ空腹感は覚えていなかったけど、その香りと音に小腹が空いて来た気がする。
「ですよね〜ステキですよね〜先生もお気に入りなんです〜」
上機嫌な声でそう言うネイ先生。みんなの雰囲気からも概ね同意っぽい。
「優輝さん達はこういうの好きなのか。オシャレ過ぎて俺はちょっと落ち着かないなぁ。ま、飯が美味ければ何でもいいけどな」
「優輝がいれば味が良かろうが悪かろうが素敵空間になるから何も問題ない」
こういう意見もあるけど、否定という程の意見は出ない。
「校内施設をぐるっとしてきたらこちらに戻って食事となるので、みなさん楽しみにしてて下さいね〜」
「は〜〜〜いっ!!」
「やかましいアキ耳元で怒鳴るなしばくぞ」
「こわっ。むぅ、ごめん瑞希」
「……アキちゃんが一言で静かになったの、初めて見た」
「あはは……意外と姉さんと相性良いのかもね」
「ここが部活棟です〜。新入生への勧誘活動は現在地のここ、1階通路で今日の午後から行われるのでぇ、解散後に覗いてあげて下さ〜い」
学園の外に出ればそこは学園都市、若者向けの娯楽施設は豊富にあるらしいけど、学園内では部活動が学園公認の娯楽の1つと言ってもいい。8割の生徒が、なんらかの部活に所属しているらしい。
「ここが訓練棟で〜す。訓練棟はぁ、大きく3つに分かれています〜。1年生訓練区画、2・3年生訓練区画、射撃系訓練区画ですね〜」
「ネイ先生。射撃はともかく、1年生だけ分けられてる理由は何ですか?」
「訓練の授業は、全学年同じ時間に行います。なので、授業内容に慣れるまで、可動式の壁で仕切っているんです。慣れ始めたと判断される半年後くらいに、仕切り壁が取られたり取られなかったりします〜」
「取られなかったり?」
「その年の、生徒の実力次第ですねぇ」
「ああ、なるほど」
実力次第、か。自分はそれなりに腕に自信はあるけど、上には上がいるもの。先輩方はまず間違いなく強者が勢ぞろいだろうし、慣れるまで仕切り壁の配慮はありがたいかな。個人的には、なくても構わないけれど。
(ふふふ〜。今年は水城ちゃんズをはじめ、今の3年生の上位陣が可哀想なくらいの実力者が数人も……半年後が楽しみですね〜)
その後、更衣室、シャワー室、医務室などの訓練棟付属の施設をざっと巡って、学食前まで戻って来た。
「さてさてみなさんお待ちかね、お」「食事の時間だあああ」
ネイ先生の話を待てずに勢いよく扉を開けて食堂に飛び込むアキ、
『…………』
「あああ〜!! ……れ?」
に集中する食堂中の視線。
「先に校内を回り終えたS〜Cのクラスのみなさんがいるのでぇ、騒がず入室してくださいね〜」
「……センセ〜……」
振り向いたアキは羞恥で顔を真っ赤にし、先に言ってよ〜とでも言いたげな顔で涙ぐんでいた。けど、
「食事の時間どぅわああああ!!」
天に両手を突き上げ、半ばヤケクソ気味に開き直って再び叫んだ。そんなアキに姉さんが近付き、手を肩にポンと置き、
「ふっ」
嘲笑した。何してんの姉さん……
「……なにその顔は」
「愉悦顔」
「やんのかコラああっ!!」
「もう、姉さんたら悪ノリして……」
「えっとえっと……優輝さん、ど、どうしよ?」
「2人共楽しそうだなあ、止めるべきか迷うぜ」
あー……友人2人は仲裁には向いてなさそうだ。とりあえず、ネイ先生がキレる前に止めないと。
「アキ、空腹と羞恥で気が立ってるのはわかるけど落ち着いて。食事が遅れるよ?」
「んなっ!? 嫌だ!!」
「それと姉さん……怒るよ?」
ネイ先生と僕が。
「それは嫌だな死にたくなる」
「じゃあ仲直り。ね?」
「まあ仲違いしていたわけでないが……すまないアキ」
「許す!」
これでよし……というか、ほんと切り替え早いねアキは……ん?
「あれクラスDの先生? 若すぎない?」「……マクラ?」「先生可愛い」「騒がしい娘結構可愛い」「言い合いしてたセミロングの娘もなかなか……いやかなり可愛い」「仲裁に入った娘超可愛い」「というか同じ顔?」「美少女双子!」「クラスSのあの3人に負けないくらい可愛いんじゃないか?」「カワイイ!」「今年は美少女率かなり高いぜ」
僕らの話題で食堂がザワザワしていた……こうも好奇の目が集中すると、流石にムズムズする。今すぐ退室したい気分、お腹空いてるから出ては行かないけど。
「みなさん、騒ぐ気持ちはわかりますが静粛に。クラスDの生徒が到着したのでこれから食事になります」
パンと手を鳴らし進行させる男性……学園長だ。
「クラスDのみなさ〜ん、こちらの席に座ってください〜」
いつの間にか移動していたネイ先生が促したテーブル席に、出席番号順に5人づつ座る。
全員が席に着いたところで学園長が話を進める。
「さて。クラスSの方から順に食事を取りに来ていただく形式ですが、その前に紹介したい方がいます」
学園長の少し後ろにいた長身の男性が前に出る。
「彼は、この学生食堂の料理長です」
そう言って学園長が一歩下がると、長身の男性が自己紹介を始めた。
「ご紹介に与りましたわたくし、栄陽学園本校の学食で料理長を勤めさせていただいています、ジョナサン・ストゥルガノフと申します」
そう言い、優雅にお辞儀し、眩しい笑顔を振りまく料理長さん。黒髪碧眼の超絶イケメンだった。
『キャー!!』
『チッ』
女子の一部から黄色い声が上がり、一部の男子が舌打ちする。
「おぉう、かなりの美形じゃねーか……優輝的にはどう思う?」
ふむ。山本さん、男勝りな口調な割に意外と面食いっぽい。
「うん、まあ格好良いね。笑顔も、いやらしさのない爽やかなものに感じるし」
「……ほほー」
なにその反応。山本さんの質問に率直に第一印象を言っただけなんだけど……というか、近くの席の男子がこちらに聞き耳立てている気がする。
「守護者候補のみなさんの食事を提供するという、大変光栄な仕事に就けていることに、とても栄誉に感じています。心身共に支えることのできる料理を目指して精進して参ります」
んー。誤解を招かないようにもう一言加えよう。
「料理に対して真摯な人のようだし、味は期待していいんじゃないかな」
「うん? ん〜……ハッキリ言っちまうか。彼氏にしたいと思うか?」
「思わないです」
『……っしゃあ』
そんな喜びの声のようなのが男子の誰かから聞こえた。
そもそも彼氏を作る気自体まったくないんだけど、とか口に出そうとすると姉さんが割り込むから言わない。
「そーか。変なこと聞いてすまなかったな」
「別に気にしてないよ。そういう山本さんは?」
「顔は嫌いじゃねーけどよ、彼氏にすんなら男気があるかどうかだろ」
「ふふっ、そういう山本さんの台詞に僕は男気を感じたけど?」
「気にしてないって言っといて意趣返しかよ。まあ悪い気はしねーけど」
「もちろん悪気はないよ、褒め言葉」
「へへっ、ありがとよ」
それよりちょっと気になることがある。姉さんが珍しく男の人を熟視してる……料理長のストゥルガノフ氏をだ。
「今日のランチはみなさん同じものになりますが、普段の平日は、AランチとBランチの2種から選択していただく形式になっています」
「姉さん、料理長が気になるの?」
「うむ、まあ少しな」
「ほほー、姉はあーいうのが好みか」
「そんな訳かがあるか、優輝以外に興味などない」
「お、おう、そーか」
堂々とした宣言にさすがにちょっと引いてる山本さん。ウチの姉がなんかすいません。
「俺はわかるぜ。あの人絶対料理上手だ」
雅がなんか的外れなこと言い出した。
「それはまあ、料理長だしね」
「ふむ、これが天然という奴か。バカと何が違うのかわからぬな。水城 瑞希が言いたいのはそういうことではないだろう」
へぇ……双子の僕でもわからない姉さんの今の思考を、飯屋峰君は理解出来るらしい。
「ほう、面白い、当ててみろ。ドバイへご招待するぞ」
「ふん、簡単だ。奴が多くの者の注目を浴びていて、気にくわないのだろう?」
「えぇ……」
姉さんの挑発に自信満々ドヤ顔でそう返す飯屋峰君……本気で言っているらしい。
「はっ。つまらない答えだ」
「それはオメーの感想だろ」
「さすがに姉さんの考えそうなことじゃないかなあ」
「なんだ、違うのか〜」
「ぬっ……ふんっ」
同席のみんなに反対意見を言われそっぽを向く飯屋峰君。プライド高いなあ。
「それで姉さん、答えは?」
「んー。あの男の生徒を見る目がな。いやらいしとかでは無いんだが……うーむ」
「うーん?」
珍しくハッキリしない姉さんに、僕もストゥルガノフ氏を改めて見てみ
「厨房に戻ります。わたくしの料理、存分に堪能して下さい」
あ、いっちゃった。姉さんがあの人に何を見ていたのか気になる……
「まあ後で確認してみるか」
「何を?」
「ふふ、その時まで秘密だ」
――――――――――
「そういえば、姉さん的にストゥルガノフ氏の料理はどれくらい好きだった?」
「ふむ、そうだな……6番目くらいか」
「また微妙な位置だね……ちなみに3番は?」
「当然1番は優輝だ」
「うん、知ってる」
2番が母さんだろうから、あえて3番を聞いたんだけど……候補はあるけど、決めきれない。アキはストゥルガノフ氏の後ろだろうし……まあ、今はいいか。
登場人物紹介
容姿:黒髪セミロング・長身・男勝り系中性的美人
瞳の色:焦茶色
身長:172cm
性質:中立
好きな食べ物:のり弁
嫌いな食べ物:甘すぎるもの
趣味:格闘技・音楽鑑賞(主にロック)・ドラムを叩く
属性属性:水・光
言動・性格共に男勝り系女子。一人称はあたし。
何事もハッキリさせたがり、女々しい言動をする奴が男女共に嫌い。ただ、誰かと雑談するのが好きで、嫌いなタイプの人ともでも雑談だけなら普通に会話出来るコミュ強。
音楽(主にロック)が好きで、自身も趣味でドラムを叩いたりもするが、特定のバンドに属したりは現状していない。