優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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サチさんの貴重なテンパりシーン

 リビングに入ると、テーブルでスイーツをモリモリ食べているパフィンさんと、呆れ顔ながら、どこか優しげな目線でそれを眺めて麦茶を飲んでいるサチさんが視界に入る。蒼月さんと月影ちゃんは、ちょうどその向かい側に座った所だった。

 

 今座っている5人で、快適に食事出来るスペースは丁度くらいかな。せいぜいもう1人分くらい。つまり、後から来た僕らのスペースが足りない。

 

 5月連休の時は、倉庫に仕舞ってあった大勢の来客があった時用のテーブルと椅子を、予め出しておいてくれたんだよね。

 ただ、今回は父さんも仕事帰りだったので、まだ出していなかった。なので父さんは、明日来るメンバー含めて全員が座れるように、倉庫にソレを取りに行っている。

 1人では流石に時間がかかるので手伝おうとしたのだけど、荷物を降ろし終えた執事さんが手伝いを申し出てくれたので、お言葉に甘えて変わって貰った。

 

 要するに。今入室したのは、僕と咲さんの2人だ。

 

「あ、お帰りなさい。少し遅かった…………」

「うんまあ、ちょっとお話ししてたから……サチさん?」

 

 なんか、会話が尻切れだったけど……ああ、咲さんが来たせいか。

 

「あっあっ。あなた様がっももももしかして! 守護者の珠洲野守 咲様ですか!?」

「んぉマジビビった」

 

 突然のサチさんの大声に、真横にいたパフィンさんが、あんまり驚いてないような声色で驚いていた。

 

「はい、そうですよ。ふふ、そんなに緊張しないで下さい。ええと、貴女は……」

「幸子! 幸子です!」

「いやいやサチさん落ち着いて、いつになくらしくないよ?」

「だよね〜。まこれはこれでぇ、新鮮てカンジだけど〜」

「そっそんな事言われたって、本物の珠洲野守 咲様よ!? 守護者候補生の最終目標地点な方なのよ!? あっあああ騒いでしまって申し訳ないですお気に召されてしまったでしょうか!?」

 

 あーだめだ、緊張し過ぎて完全にテンパっちゃってる。事前に畏る必要ないって言っといたのに……これも、生真面目な性格の弊害かな。

 

 それにしても。憧れだファンだと言っていた雅だって、ここまで取り乱してはいなかったんだけど……まあ、雅は天然だからか。

 

「あらあら、驚かせてしまったかしら。家で待っていた方が良かったのかしら、それなら心の準備も出来ていたでしょうし。でも、早く優輝さんのお友達に会いたかったですし」

 

 対する咲さんは、いつも通りで全く動じていない。流石年のk……貫禄だ。

 

「サチさん、とりあえず落着こ? 改めて言うけど、咲さん、あんまり畏まられるのはイヤみたいだし」

「私達も先程、咲様に似たような事を頼まれましたわ。無理して畏まらないで、普段私達に話すイメージで良いようです」

「ん……咲さん、寛容……」

「さっちゃんさぁ、もうチョイユルく行こ〜? あ〜そだ。アタシはパルフェ・キッシェンでぇ、パフィンて呼ばれてま〜す。よろで〜す」

 

 みんながサチさんを優しく諭す中、パフィンさんはいつも通りのマイペースさで、ついでに咲さんに自己紹介をする。

 

「はい、よろしくお願いします。ふふ、なんだか普段の寧に似ていますね」

 

 うん、ネイ先生とは方向性が若干違うけど、ゆるふわ系女子だし。咲さんとは相性が良さそうだ。

 

「さっちゃん、咲さん的に、こんなんでオッケーみたいだよ〜」

「……なるほど」

 

 ああ、単にマイペースな自己紹介をしただけじゃなくて、サチさんに見本を実践して見せたらしい。

 

(ふふっ2人はやっぱり仲良いなあ)

 

 こういう仲良しなやり取りを見ると、なんか無性に嬉しくなってくる。

 

「ええと……あ、改めまして、塩谷 幸子です。友人からは、さっちゃんとかサチとか、呼ばれています。守護者を目指している身なので、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」

 

 んー、まだ少し堅いけど。サチさんらしい自己紹介だし、いっか。

 

「はい、こちらも改めまして。守護者の珠洲野守 咲です。みなさんよろしくね」

 

 最後に咲さんが締めて、自己紹介は終了となった。

 

「ふむ、丁度良いタイミングだったか?」

 

 挨拶が終わったと同時、父さんがテーブルを抱えて入室して来た。

 

「お邪魔致します」

 

 執事さんも、椅子を抱えて入って来た……執事さん、サチさんパフィンさん、それに母さんとはこれで初対面だから、もう少し自己紹介は続くかな。

 

 

 大体の自己紹介が済み、時間は午後3時くらい。すでにサチパフィ組が午後ティーしていたけど、僕らもオヤツを頂くことにする。

 

「んぅ〜、もっとタベタイ……でもチョイくるしぃ……」

「食べ過ぎよ。夕飯入らなくなるから、その辺にしておきなさい」

「あ〜い……」

 

 ……先に食べまくっていたパフィンさんだけ、麦茶のみだ。パフィンさん、ヒロと違って大食いさんっ訳じゃないからね、仕方ないね。

 

「はい、マフィン焼けたよ。静海ちゃん、お願いね」

「畏まりました」

 

 いつの間にか母さんの手伝いをしていた静海が、焼き立てマフィンの乗ったトレイを持って給仕しに来た。

 

「ほう、メイドがいらっしゃるのですか」

 

 さっきまでいなかった静海に、執事さんが食い付いていた。

 

「メイド服なのは、なんというか……姉さんの趣味みたいなものなので。彼女は家族みたいなものなので、メイドとして雇っている訳じゃないです」

「静海と申します、以後お見知り置きを」

 

 一旦トレイを置き、執事さんにカーテシーをしながら自己紹介する。

 

「青崎です……趣味にしてはその立ち居振る舞い、しっかりとしたメイド教育を施されているようですな」

「優輝様は、わたくしのマスターですので。主人に恥をかかせる訳には参りません」

「……メイド、ではないのですな?」

「まあ、一応」

「そうですか……」

 

 執事さんが若干困惑している……本当の事は言えないので、これ以上は教えられない。

 

「本日のマフィンは、キャラメルアマンド、パンプキン、ビターチョコレート、ミックスベリーの4種となっております。お好きなものをお選び下さい」

「びっビタチョコ以外ぜっ……うぷ……」

「だからやめておきなさい」

「パフィンさんはくいしんぼだね、可愛い。マフィンは日持ちするから、今は我慢しよ?」

「んぅ〜くるしぃ〜くやしぃ〜」

 

 さて。自業自得可愛いパフィンさんは置いといて、母さん特製マフィンの解説をしよう。

 

 キャラメルアマンドは、生地にキャラメルソースとアーモンドプードルが混ぜ込んであり、上にもアーモンドスライスが散りばめられている。

 

 パンプキンは、生地にパンプキンパウダーを練り込んでありほんのりカボチャ色で、上にカボチャのタネが散りばめてある。

 

 ビターチョコレートは、カカオ%高めのビタチョコを使用した、苦味が効いた大人の味。月影ちゃん用に僕が事前に電話注文して作って貰った。

 

 ミックスベリーは、自家製ブルーベリー・ブラックベリー・ラズベリーの自家製ミックスジャムを使用している。これもビタチョコほどではないけど甘さ控えめで、爽やかな酸味が特徴の、父さんの好きな味だ。

 

 自家製とある通り、このマフィンのベリージャムのベリーは全て、母さんが趣味で育てている家庭果樹菜園から収穫した物のみを使用している。

 昔の事故で力仕事はあまり出来ない母さんだけど、体力は有り余っているらしく、あまり手間のかからない野菜やら低木果樹やらを育てて、色々と発散しているらしい。

 

 それぞれが好みのマフィンを注文し、静海がトングで小皿に取り分け渡していく。

 

 僕はキャラメルとベリー。

 父さんはビタチョコとベリー、母さんはパンプキンとベリー。

 静海は全種類2個づつ。多分、姉さんへ持っていく分も含まれている。

 蒼月さんはベリー、月影ちゃんはビタチョコ。

 執事さんは「わたくしは執事ですので」と言って一緒に食べるのはお断りしていたけど、キャラメルを包んでもらっていたので、天王寺姉妹の見ていない所で食べるだろう。

 サチさんはパンプキンとビタチョコ、咲さんはパンプキン。とまあ、こんな感じだ。

 

 ……どうでも良いけど、何気に全員組み合わせが被ってないな。さらにどうでも良いけど、咲さんとサチさん、母音が同じで呼ぶ時若干ややこしいかも。

 

「結構カボチャ感強いですね。美味しいです」

「そうよねー♪ 私、これが大好きなの!」

「ん……美味……」

「とても美味しいですわ。紅茶が飲みたくなる味ですわね」

「ふふ。気に入ってくれたみたいで嬉しいな」

「ふむ。それなら、使っているジャムを紅茶に入れて、ベリーティーにしてみるかい? 我が家自慢のジャムだぞ」

「ベリージャムは自家製なのですか?」

「うむ、妻の特製だ。そのままでも美味いぞ」

「僕も、母さんのベリージャム好きだよ。砂糖は普通に多めだけど、酸味が効いてるから甘味苦手な人でもイケると思うな。お肉料理にも合うんだよ」

 

 ……こうして、ティータイムは和気藹々と過ぎていった。楽しい時間はあっという間だね。

 

 

 

 

 夕飯時になって、ようやく姉さんが部屋から出てきた。

 

「おそよう。良い夜だな」

「いやいや、寝すぎじゃない?」

「オヤツは美味しく頂いたぞ?」

 

 静海がマフィンを持って行ってそれを食べた以外は、ほとんど寝ていたらしい。

 

「というか、今まで寝ててお腹空いてる?」

「まあ、小腹程度はな」

「ならいいけど」

「アタシも小腹くらいかな〜」

「あれだけモリモリ食べてればね。もう少し自重しないと太るわよ?」

「その分動くからぁ、ダイジョブジョブ〜」

「それで、夕飯はなんだ?」

「それなんだけどね」

 

 オヤツの時の雑談で守護者ユーナの話になり、そこから前回初日の夕飯にユーナの好物を作った話になり。

 まあ要するに、今回初日の夕飯も、ユーナセットになった。つまり、山菜鶏うどんと狐寿司だ。

 

「ユーナセット、楽しみですわ」

「ん……(こくり)」

「まあ、優輝が作るならなんでも美味いがな」

「咲様がお帰りになったのは、少し残念ですね。ユーナ様のお話、もっと聞きたかったですわ」

「そうよね」

 

 咲さんは、用事があるとの事で1人帰った。国のお偉いさんから夜に連絡があるから、家で待機していなければならないらしい。

 

 ちなみに、咲さんがケータイを持っていない理由だけど。

 一応咲さんも、ケータイが普及し始めて今のようにコンパクトに持ち運べるようになってから、ネイ先生に持たされたらしいけど……すぐ壊しちゃうかどこかになくしちゃうかを10回近く繰り返した結果、持たせてくれなくなったらしい。どうやら咲さんのポンコツ属性に、ケータイは耐えられなかったようだ。

 

 

 夕飯も、美味しく楽しく頂いたけど。執事さんは、みんなが食べている間、父さんの部屋を借りて食べていたらしい。

 その執事精神は見事なものだと関心するけど、そこまで徹底しないとなのかな。そう思うと、少しだけ寂しい気持ちになった。

 

「葛月さんは、昔からそうですから」

 

 蒼月さんによると、執事さんにとってはそれが自然で、当然の事らしい。なので、あまり踏み込むのはかえって失礼だろう。

 

 

 お風呂の後も、リビングでしばらく雑談とかはしていたけど。今日はパジャマパーティーはせずに、規則正しく10時半くらいに就寝となった。まあ、前回主催者のアキがいなければこんなものかな。

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