優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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咲さん家の道場にお泊……え?

 翌日午前10時過ぎ。アキヒロ雅を乗せたネイさん号が到着した。

 

「みんなーー! おっひさーー!! そしてぇ! おっはよーーー!!!!」

 

 車から飛び出したアキが、学園で毎朝恒例の抱き付きモーションをーー

 

(いやこの感じ、いつもより勢いが凄いある、タックルの勢いだ!)

 

 倒れないように慌てて身構えーー

 

「あっははははははっっ!!」

 

ビュオッ!

 

「え?」

 

ーーその勢いのまま僕の横を通り抜けた……あれえ?

 

「よーしよしよしよしよし! 久しぶりの月影ちゃんっくぁわい〜〜い!!」

「…………」

 

ナデデデデデ

 

 顔だけ振り返ると、なぜか月影ちゃんに抱き付いて撫でくりまくっていた……月影ちゃん、いつもの無表情だけど、若干頬が赤いように見える。意外と満更でもないのかもしれない。

 

 それはそれとして。

 

「…………」

 

 身構えたままの姿勢で、しばし固まる僕……なんか、滑ったみたいで恥ずい、頬が熱い。

 

「ふっふっふー優輝! 見事にフェイントに引っかかったわねー!」

 

 月影ちゃんをナデナデしつつ、こちらを煽るアキ……ちょっとピキキッて来た。

 

「……。引っかかってないもん」

 

 アキに出し抜かれたのを認めるのが癪で、そう返す……なんか拗ねてるみたいな感じになっちゃった。

 

「可愛いですっ!」

「可愛すぎるわ!」

「捗ります!」

 

 案の定、他の友達にからかわれた。いや、褒められてるのかなコレ、どっちだろ?

 

「むうー……」

 

 そんな可愛い連呼されても、別に嬉しくないもん……ちょっとしか。

 

 なんか悔しくてそっぽを向いていたところで、

 

「むぎゅうぅぅ〜〜!!」

「ちょっ!?」

 

 背後から抱きしめられた! 完全に油断してて接近に気付けなかった……くっさらに不覚!

 

「んもー優輝ったら可愛すぎっ! ごめんっそれに大好きだよ〜!!」

「もうっ! アキの抱き付き無防備だと結構危ないんだから、予想外なのはやめてって言ってるでしょ!」

「いいじゃんいいじゃんあたしらの仲でしょっ堅くなんないでよー!!」

「親しき仲にも礼儀ありっ!」

「ちぇー。はーい」

 

 物足りなさそうながら、離れてくれるアキ。まったくもう……

 

(……バレるかとヒヤヒヤしたー……幸い、変なとこは触られなかったから良かったけど……アブナイアブナイ)

 

 アキのは完全に好意からの行動だから、回避し辛くてある意味タチが悪い。

 

「ふむ。フェイントがすでにフェイントだったといったところか。随分と腕を上げたな、アキ」

「え? ……あー。ふふーん、まぁね?」

「なんだ、ただの勢い任せの結果か。前言撤回する」

「だってだって、しばらくぶりでユウキニウム欠乏症だったんだよ! 勢い任せで何が悪い!?」

「ふむ、それなら仕方なし」

「いやいや、悪いよ?」

「えぇ!?」

 

 僕にとっては。マジでバレなくて良かった。まだ早い。

 

「優輝さんっ大好きですっ! どうか親友やめないで下さいっいやマジでっっ!!」

「……もうフェイントしない?」

「モウシマセン!!」

 

 ぶぉんと風切り音を立てて、深々と頭を垂れるアキ。

 

「ふふっ凄いお辞儀。うん、許します」

「ヤッター!!」

 

 そんなアキが可愛いから、つい許してしまう。まあ十分反省しているようだし、バレなかったし良いか。

 

 ……身内に甘いなあ、僕。

 

「というわけで」

「ということで?」

「アキらしく、正面から堂々と、だよ。ほら」

「んむ? ……抱き付いていいのん?」

「いつも通りな感じならね」

「ユウジョウ!」

 

 そう言い、いつも通り抱き付き、いつも通り頬に頬擦りしてくる。可愛い。

 

「なんか出遅れた感があるけど……優輝さん、お久しぶりです。夏休み初日以来ですね」

「俺は朝練で会ってたから、えーと、一昨日ぶりかな?」

「お久しぶり、ヒロ。雅は昨日ぶりだね」

 

 アキに釣られて慌てて車から降りていたヒロと、マイペースに荷物を持ち出してから近付いて来た雅。それぞれの性格が現れていて、面白い。

 

「お久しぶりー。月影さん、アキちゃんがいきなりごめんね?」

「ん……問題ない、です……」

「はぁぁ〜、たんのーしたぁ……優輝、ありがとねっ! さてっあたしも! みんな、改めておひさー!!」

 

 しばらくアキにスリスリむぎゅーされた後、ヒロが他の友達、特に仲が良い月影ちゃんに話しかけ、満足したアキが僕から離れてみんなに挨拶に行った。

 

 さて、アキが少し離れた事だし。昨日から思っていた疑問を、雅に尋ねてみた。

 

「ところで雅。用事は無事済んだ?」

「あーっと、そうだな……おう、一応済んだぜ」

 

 ちょっと不自然に、歯切れ悪くそう言う雅……んー。

 

 雅は今日、ネイさんの車でアキヒロネイさんと一緒に来た。僕らの車でも、なんとか後1人は乗れたのに、だ。

 

 僕が誘った時は、

 

「えーと……男の俺が乗ると、さすがに狭いだろ? それに、ちょっと用事も頼まれてるしな」

 

と言われ、断られたのだけど……アヤシイ。

 

 何が怪しいって、まず、男だからだの狭いからだの言い訳をしたのが、雅らしくない。

 それに、用事の内容をかけらも言わなかったのも気になる。ちょっとした用事なら、いつもの雅なら内容まで一緒に答えていたはずだ。

 

 つまり。口止めされていたのだろう。

 

「用事の具体的な内容はわからないけど。その用事ってさ、アキに頼まれたでしょ」

「ああ、そうだな……あ」

 

 言質いただきました。相変わらず天然だなあ。

 

「やっぱりね。まあ詳しくは聞かないけど」

 

 大方、アキが一緒に行きたいと、先に雅を誘っていたのだろう。アキ可愛い。

 

「えーとその……アキに口止めされててさ。なんでも、自分の口から伝えたいから、だってさ。だから悪いけど、俺からはこれ以上は言えないぞ」

「ん、わかった」

 

 ……ほとんど言っちゃってる気がするけど気にしない。

 

 それにしても、何というか。予想通りではあるのだけど。

 

(思ったより早かったかな? とりあえず心の中で……おめでとう)

 

 自分で報告したいらしいし、今は口には出さないけど。とはいえあんまり考えていると、アキは案外聡いから、僕が気付いているとバレるかも知れない。この事は考えるのをやめよう。

 

「はいはーい3人ともー? 私、早く自宅に帰りたいので。お喋りは、私のうちに荷物を置いてからにして下さーい」

 

 運転席に座ったまま、3人に声をかけるネイさん。どうやら、まず到着の挨拶をしに来ただけだったらしい。

 

 となると……雅、荷物持って出た意味なかったね。まあ雅に気にした様子はないし、あえて何も言わない。

 

「はーいネイ先生!」

「わかりました、ネイ先生」

「あ、すいませんっすネイ先生」

「もう3人ともっ。今日の私はプライベートなんですから、先生付けはやめて下さいってば〜」

『わかりましたー』

 

 声を揃えてそう言い、再び車に乗り込む3人。

 

「ではそういうことで。みなさん、珠洲野守家で待ってますね〜」

 

 ネイさんはそう言い残し、車のウィンドウを閉じ、自宅に向けて発車した。

 

 ちなみに、車を運転する時のネイさんは、事前に十分な睡眠を取ってから強化術を使って念入りに覚醒しているらしい。唐突に居眠り運転に入ってしまうリスクを考えれば、当然だけど。

 

 

 

 

 4人が到着したので、みんなで一緒に咲さんへの挨拶と、道場の使用を許可してくれた事への感謝を述べに行く事にした。

 そして、今日からみんなが寝泊まりするのは珠洲野守家所有の道場なので、先行組4人は水城家から荷物を持って出ていた。

 

 ちなみに、執事さんが天王寺姉妹と、サチパフィ組の荷物まで持とうとしたのだけど。

 

「葛月さん、学園では全て自分でやっているんです。これも友人と過ごすひと時なのですから、あまり入って来ないで下さい」

「承知致しました。出過ぎた真似、申し訳ありません」

 

 と、蒼月さんがご立腹だったので、鷺宮村にいる間、執事さんは基本水城家で待機らしい。少し可哀想だけど、仕方ないね。

 

「咲様、おはようございます。今回はご好意で就寝の場を貸していただき、ありがとうございます」

『ありがとうございます!』

 

 いつも何故か僕が音頭役になっていたけど、今回は僕が泊まる訳じゃないので、サチさんが代表だった。

 

「はい、おはようございます。今日も暑いわ。精霊使いでも気を抜いたら倒れてしまうかもだから、十分気をつけてね。冷たい麦茶を用意してあるから、時々休憩しながらね?」

「はい。お気遣い、感謝です」

 

 さて。休憩とかなんの話か、だけど。

 

 今回借りるに当たって、お泊り前と帰る前に、道場を綺麗にお掃除する事を借りる条件にさせてもらった。

 させてもらった、なので、これはこちらの自主的なものだ。咲さんは気にしないでと言ってくれていたけれど、これは最低限のマナーだろう。

 

 でまあ。かんかん照りの真夏に、現代的な空調が扇風機くらいしかない道場の掃除をするのは結構大変だろうから、僕と静海も手伝う事にした。

 

 姉さん? いつも通り、昼食時には食事をしに出て来るだろう。

 まあ、姉さんの精霊剣である静海が手伝ってくれるし、僕が掃除を手伝うのも自主的なものだし。今回は大目に見よう。

 

 

 

 

 その日の昼は、咲さんが手料理を振る舞ってくれた。

 メニューは、咲さんが(多分)手掴みで獲ってきたヤマメを使った、山野草とヤマメの土鍋炊き込みご飯・ナスのお漬物・キノコたっぷりお吸い物・ヤマメの囲炉裏塩串焼き。山間部の村らしい、どこか懐かしい素朴な美味しさだった。

 

 一応、それなりに人数がいる上に大食いさんが1人いるので僕と静海も手伝ったけど、基本的には咲さん主導で作った。

 

「ここ数十年はあちこち飛び回っていたから、お料理は結構久し振りだったのだけど。ふふっ意外と覚えているものね」

 

 久し振りという割に、鼻歌を歌いながら手際良く仕込んでいたのが印象的だった。昔取った杵柄というやつかな。

 

 ちなみに、姉さんは来なかった。さすがにまだ寝ているとは思えないので、お昼は我が家で食べているだろう。

 

 

 

 

 掃除が粗方終わった頃。姉さんが、何やら大荷物を抱えて道場に来た。

 

「姉さん何それ?」

「着替えやら敷布団やら、宿泊用具一式×2だ」

「ふーん……いやいやいや」

 

 みんなの分の布団は咲さんが用意してくれていたので足りてるし、着替えなどの個人の物も、全員持って来ている。

 

 では、誰のものなのか……なんて、姉さんが持って来てる時点で、考えるまでもない。

 

「ふっふっふー。あたしが瑞希と優輝(親友)を仲間外れにする訳ないじゃない?」

 

 何故かアキが答えた。いや、アキが答えたということは。

 

「提案者はアキ?」

「そだよん。ちなみにキチンとネイせ……さんにお伺いしたよ?」

 

 そこでネイさんと言ったということは、羽目を外し過ぎないように、ネイさんにお泊まり会の保護責任者役を頼んでいるのだろう。勢い任せなアキにしては理性的だ。

 

 まあ要するに。アキは最初から、僕と姉さん含めて、友達全員でお泊まり会をしたかったのだろう……僕は一切聞いてないんだけど、これは……

 

「……もしかして、みんなは知ってた?」

「えーと、その……」

「まぁ……アキから話は聞いていたわね」

「一応俺も聞いてたぞ。優輝さんには内緒だって言われてたけどな」

 

 なんと、雅まで知っていたらしい。僕を驚かせるサプライズ的なヤツだったのだろうけど……なんとなく疎外感。

 

「ま、俺はあんまり関係ないけどな。咲さんとまた会えただけで大満足だから、全然気にしてないけどな!」

 

 言うまでもなくだけど、雅は健全な男子学生なので、今回も父さんの部屋で寝泊まりする予定だ。まあ、こればかりは仕方ないね。

 

 ……僕もそっちが良いなあ、とちょっと思うけど……まあ、アキが絶対不機嫌になるし、やっぱりこっちに寝泊まりした方が良いよね。

 

 ちなみに。執事さんは昨日、父さんの部屋を借りて就寝したらしいので、今夜からはそれに雅が加わることになる。

 

「私は初耳ですが。とはいえやはり、優輝さんがいないのは、物足りないですわ」

「ん……(こくり)」

 

 天王寺姉妹は知らなかったらしいけど、異議はないらしい。

 

「むしろドンドンどうぞ。捗りますので」

「そっかーそれはよかったねー。じゃあ僕は、咲さんの部屋にお邪魔してるねー」

「3人増えても十分寝られる広さでしょ? 何を渋ってるのか知んないけど、観念なさいっ! ていうか、前は1つの部屋でパジャパしたじゃん!」

「うーん……夏のせいでアキがテンション高いから、ちょっと不安なんだよね」

 

 油断大敵。ついさっきしちゃったばかりだし。

 

「だいじょぶユキさん。ナニかあってもぉ、見て見ぬフリしたげるし〜」

「それ何が大丈夫なのかわかんないんだけど……というか、何も起きさせないよ?」

「まぁ、羽目を外し過ぎないための保護者(わたし)ですから〜」

「真っ先に寝そうな人に言われてましても」

「それはそうなんですが〜。まぁ釘を刺しておけば、そうそう問題は起きないでしょ〜。みなさん良い子ですしねぇ」

 

 まあ、みんなネイさんの信頼は失いたくないだろうし。テンション高めなアキでも、はしゃぎ過ぎる事はないだろう。多分。

 

「とゆことで! 優輝、私達と一緒に寝よ♡」

「言い方! もう……仕方ないなあ」

「よっし! やったねヒロ!」

「そ、そうだね……うん、やった……ふふ」

 

 ということで。流されてしまった感じだけど、僕と姉さんと静海も、道場お泊りに参加することになった。

 

 ……どちらかというと、なっていた、かな……まあおネイさんはともかく。姉さんと静海がいるし、ディフェンスは問題ない、と思おう。

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