優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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月影ちゃん、初めてのお料理

「色々思うところはあるけど。とりあえず蒼月ちゃん、感想は?」

「……はー……尊い……尊いですはー……」

 

 エリスの質問に答えたのか思わず呟いただけなのか、判然としないけど。その表情は、恍惚としていた。

 

「なんかちょっと怖っ。まぁ気持ちはわかんなくはないけど」

 

 さて。話の区切りも丁度良いし、時間帯的にも、夕方特売が始まる少し前で丁度良い。

 

「というわけで」

「ということで?」

「そろそろ買い出しに出かけるけど、みんなはどうする?」

「寝る」

「お菓子買って良いなら着いてくー!」

「浴場の清掃を致します」

「はー、尊い……」

「ん、了解。1人で行くね」

「ぶーケチー」

 

 ワザとらしくむくれるエリスは放って置いて……というか蒼月さん、正気に戻るの時間かかりそうだ。

 

 まあとにかくそんなわけで。今回は、僕1人で買い物に出かけた……ちょっとだけ寂しいかな。

 

 

 

 

 上下逆状態でテレビを見ながら空中筋トレするという謎行動をしているエリスを時折眺めつつ、夕飯のハンバーグをこねこねする。

 

 今日は、舞茸の炊き込みご飯、エノキダケの和風サラダ、シメジのクリームスープ、キノコソースのハンバーグと、キノコづくしにしてみた。

 

 熱したフライパンにオリーブオイルを引いて、楕円にしたハンバーグタネを並べる。

 

じゅうううう……

 

「お腹が空くステキBGMだぁー……」

 

 うっとり声でエリスがそう呟く。

 

 両面に焼き色がついたら水を入れて蓋をして、しばらく蒸し焼き、と。

 

「ねぇ優輝さーん、後は焼き上がるの待ってるだけっしょ? ちょいヒマだから、話の続き聞かせてー」

「んー、まあいいけど。ところで蒼月さんは?」

「多分、今日はもう部屋から出てこないんじゃない?」

 

 どうやら、まだ戻っていないらしい。月影ちゃん欠乏症もわりと深刻なレベルだし、仕方ないね。

 静海の話では、蒼月さんは「尊い、尊い」と呟きながら自室に行き、それ以来一度も部屋から出ていないらしい。おそらく捗っているのだろうから、今はそっとしておこう。まあ一応、彼女の分の夕飯も用意しておくけど。

 

 さて。催促された話の続きをしようか。

 

「じゃあ、後よろしくね」

「畏まりました」

 

 火の管理を静海に任せ、僕は日記帳を開いて確認し、再びあの夏の日々に思いを馳せた。

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

 道場にお泊まりして、翌朝。夜のうちに雨が降ったからか魔獣が発生したようだけど、数も強さも大したことなかったようで、救援要請は来なかった。サチさんが少し悔しがっていたけど、まあこればかりは仕方ないね。

 

 友達揃って鷺宮村に来て、2日目。今日は、父さん母さん監督のもと、みんなで一緒に鍛錬した。

 ちなみにネイさんは、最初に「頑張って下さ〜い」と言ってからは、ガーデンパラソルを設置し寝椅子に寝そべり、うとうとしながらこちらを眺めていた。今日は完全に休みモードらしい。

 

 それ以外では、午後に街へ出て、母さんといっしょに食料品店で明日使う食材を買って来たくらいで、他は特に何事もなく過ごした。

 

 2日目の夜。当然のように父さんと雅が追い出され、

 

「第3回パジャパ、はっじまっ」

「りません〜」

「ナニユエ!?」

 

開始宣言途中で、ネイさんに止められた。

 

「も〜アキさ〜ん? パジャマパーティーはぁ、2日置きに限り許しますって、移動中に約束したじゃないですか〜」

「えっ?」

「アキちゃん、お体に障りますから毎日は駄目ですって言われてたよ」

「おぅふ、そだった……」

 

 僕らは聞いてないし、アキがヤル気満々だったから普通に準備していた。まあ、連日の夜更かしは精霊術士でも体に障るし、教師としては当然勧められないよね、仕方ないね。

 

 というわけで。今日は、全体的に目立った出来事もなく過ぎた。

 

 

 

 

 3日目。午前中は、父さんが仕事に出かけた以外は昨日と変わりなく、母さんとネイさんの監督のもと鍛錬をした。

 

 その日の昼食。正確には、昼食の1時間程前。今日は僕と月影ちゃんの2人でキッチンに立っている。約束していたお料理指導だ。

 一応、ダイニングキッチンの向こう側から母さんがこちらを眺めているので、完全な2人きりではないけれど。まあ、些細な事だ。

 

「さて。確か月影ちゃんは、一度も料理したことないんだよね?」

「……(こくり)」

「でも、料理本は読んでいるし、特に文字情報は豊富だよね。じゃあ、料理の基本といえば?」

「……。量る、切る、味を付ける……でしょうか……」

「ん、そうだね、だいたい正解。けどそれよりも、月影ちゃんに一番に知ってほしい事が、1つあるよ」

「……?」

「それはね。料理の嬉しさ、だよ」

「……。楽しさ、ではなく……?」

「月影ちゃんは、なんで料理をしたくなったんだっけ?」

「……。なるほど……」

 

 月影ちゃんは、自分のために覚えたいというより、僕らに感謝の気持ちを表したくて、その手段として料理を習得しようとしている。

 だから月影ちゃんには、料理をする楽しさというより、食べて貰えた時の嬉しさを知って欲しいと思う。

 

「やっぱり、自分が作った物を食べてくれたら嬉しいし、美味しいって言ってくれたらとっても嬉しいよね。まあ蒼月さんは、食べるのを躊躇するような見た目の料理でも、月影ちゃんの手料理ってだけで完食するだろうけど……それでも、さ」

「(こくり)」

 

 ……珍しく間を置かず頷いたので、思わず吹き出しそうになった。まあそれは置いといて。

 

「蒼月さんはともかく。他の人も完食してくれたら、もっともっと嬉しいよね」

「……(こくり)」

「というわけで。今日用意したのは、簡単で失敗の少ない食材と調理法です」

「ん……よろしく、お願いします……優輝先生……」

 

 さて。調理開始だ。

 

 

 月影ちゃんは、文字による料理知識は十分以上にあるので、自分の情報との照らし合わせをしてもらうことにした。要するに、見て覚えてもらう、という事だ。

 まず僕の仕込み作業を間近で見てもらい、途中で月影ちゃんと交代し、残りを仕込んでもらうという手順だ。

 本来、全くの初心者にはするべきではない教え方だと思うけど。月影ちゃんには、細かく指示する教え方より効果的だと判断した。

 

「…………。どう、でしょうか……?」

 

 黙々と仕込みを進めていた月影ちゃんが、キリの良いところでそう聞いてきた。

 

「うん、初めてでここまで動けるなら、料理人としての資質十分だね」

 

 切り分けられた食材は、多少不揃いな感じはあるけど、最初から完璧を求める必要はない。それに、実際に自分で切り分けた事で、料理をしている感も得られただろう。初心者にとって「料理している感」は、継続してやる気を維持する点で重要だ。

 

「……実際に、使ってみると……ん、奥が深い……」

 

 包丁を眺めながらそう呟く。今日包丁で切り分けた食材は、そう多くはないけど。包丁の基本的な使い方のコツは、もうだいたい掴めたっぽい。

 

 

 

 

「みんなお待たせー」

「ん……」

「待っていましたーーあははははーー!!!!」

「うわ」

「……蒼、月……?」

 

 僕と月影ちゃん、それと母さんとで、完成した料理を運んでくると、両手を広げた蒼月さんが出迎えてくれた……うん、今のアキみたいなハイテンションボイス、蒼月さんのなんだ。月影ちゃんの手料理が嬉し過ぎて、あの月影ちゃんが戸惑うくらい完全にキャラ崩壊している。

 まあ、大好きな月影ちゃんが初めて作ってくれた料理なのだし。壊れかけるくらい歓喜しちゃっても仕方ないね。

 

 ちなみに、今回月影ちゃんと作ったメニューは、白米、豆腐とワカメの味噌汁、キュウリ・レタス・トマトのサラダ、牛サーロインのステーキ。デザートに、プレーンヨーグルトのジャムがけ。どれもシンプルな料理だし僕の指導アリとはいえ、普通は初料理でこれだけのものは作れないだろう。月影ちゃん、ほんとスペック高いなあ。

 

「まあ気持ちは分かるけど……大人しくしないと食事開始しないよ?」

「そうなんですがああ! 少しだけ、ほんの少しだけお時間下さい! せめて撮影だけでも!!」

「んもー早く食べたいのにー。ほら、早く撮っちゃっいなよー」

「感謝っですわー!!」

 

 アキにそう述べてから、ビデオカメラで月影ちゃんと料理を撮り出す……

 

「って写真じゃなくて動画!?」

「蒼月さん……私、月影さんの料理、冷めないうちに食べ始めたいです」

 

 待ちきれなくなったヒロが催促しだした。

 

「もう少し、もう少しだけお待ち下さい!!」

「蒼月……私の料理……いらない……?」

 

 いつもクールな月影ちゃんも、さすがに姉の醜態を見兼ねたのか、どことなく悲しげに視線を逸らしてそう言う、と、

 

「みなさんいただきましょうすぐいただきましょう」

 

瞬時に落ち着いた。流石に、姉の言動を熟知している。

 

「じゃ、配膳しよっか」

「ん……」

 

 小さく頷き、みんなの前に自分の手料理を並べていく……緊張した様子は見られないけど、内心ドキドキしてるんだろうなあ。僕も、初めての料理を姉さんに食べて貰った時は、感想言われるまでドキドキしっぱなしだったし。

 

 

 料理を並べ終え、僕と月影ちゃんが席に着いた所で、いつも通り僕が音頭をとる。

 

「では、いただきます」

『いただきます!!』

 

 ……蒼月さんが大声でいただきますした以外は、いつも通りに食事が始まった。

 

「一応確認しますが。これらの料理全て、月影の手作りですわよね?」

「まあ、工程の半分くらいは僕が混ざったけど。残り半分は間違いなく月影ちゃんだから、月影ちゃんの手料理って言っても過言じゃないと思うよ」

「私も監督していたから、優輝の言っている事に間違いはないよ」

 

 僕のセリフを、母さんが保証してくれる。

 

「うん、んまい……初料理でこのクオリティかぁ。あたしは教えるの苦手だし、やっぱ優輝と月影ちゃんだからだろなぁ」

「おいひぃれふおーもぐもぐもぐもぐ」

「普通に美味しいわね。あえて言うなら、どれも無難に美味しいって感じかしら……こらパフィ、デザートから食べるんじゃないの」

「え〜冷え冷えなうちに食べないとじゃ〜ん……もちょい甘さ欲し〜かな〜」

「他を食い終えた位に室温で食べ頃の温度になるよう、キンキンに冷やした物を出している筈だ。安心して〆に食え」

「はー、尊い……」

 

 みんなが食べ進めている中、一番楽しみにしてたはずの蒼月さんはまだ食べていなかった。

 

「……」

「ああっどことなく月影の視線が冷たい……うぅ、食べてなくなってしまうのが勿体ないですが、仕方ありませんね……」

「ん……また、作る、から……」

「誰しも初めては一度だけなんです! はむっ、もぐもぐごくんっ美味しいです!」

 

 なんだかんだ言いながら、食べ始めたら誰より美味しそうに食べ進める蒼月さん。月影ちゃんと言う名のスパイスは最強なようだ。

 

「みんな美味しそうに食べてくれてるね」

「……(こくりっ)」

 

 普段よりちょっとだけ早く頷く月影ちゃん、可愛い。

 

「その……優輝さん、は……」

「ふふっ。もちろん、とっても美味しいよ」

「……(ぷい)」

 

 笑顔でそう返答すると、頬を赤らめ僕から視線を逸らした。とても可愛い。

 

「…………ありがとう、ございます……」

「っ!」

 

 数秒後、不意打ち気味にそう呟かれて驚かされた。こちらに顔を向けながらも恥ずかしそうに視線を逸らして顔を赤らめて、んもうっ!

 

(月影ちゃんほんっと可愛い可愛い!!)

 

 ……みんな食事中なので、騒ぐのをグッと我慢し……てあれ、なんかデジャヴ。

 

(……あ)

 

 それはそれとして……ちょっと、気付いた事がある。

 

 月影ちゃんは表情の変化に乏しく、だいたい無表情だ。まあ顔だけでなく声や話し方も、感情を読み取りにくい感じではあるけど。しばらく接していれば、なんとなくの感情は読み取れるようになる。本当になんとなく、なのだけど。

 

 何が言いたいのかと言うと。

 

(笑顔はいつ見れるかなって、たまに思ってたけど……そっか、そうだったんだ……)

 

 月影ちゃんは、だいたいいつも無表情だ。けど、こんな感情を抱いているんじゃないかっていうのを、視線の動きとか頬を赤らめたりとかで、なんとなく予想出来る。

 

 じゃあ、今僕が見ている月影ちゃんの顔から読み取れる感情は。

 

(今の、「恥ずかしそうに顔を赤らめて視線を逸らす」ーー多分これが、月影ちゃんが心で笑顔を浮かべている時の反応なんだ)

 

 ……それに気付いた時、

 

「月影ちゃんとっても可愛い超可愛いっっ!!」

「っ!?」

 

僕は抑えていた感情を我慢出来ず、そう叫んでいたのだった。

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