優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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頑張れ頑張れ出来る出来る絶対出来る

 ……ヒロは、悩みを大体話し終えてから押し黙った。僕はヒロの頭をなでなでしながら、ヒロから聞いた話を頭で反芻してから要約する。

 

 ヒロはどうやら、恐れと迷いを紛らわせるために、手足の延長代わりとして棍を選んだらしい。そしてそれが、ヒロの成長の妨げになってしまっていると咲さん寧さんは指摘し、棍を使うのを辞めて近接格闘に切り替えてみては、とアドバイスされた。

 ヒロは、理解出来たし納得もしているけど、やっぱり直接蹴る殴るは痛そうだし怖いから、即答出来なかった……とまあ、だいたいそんな感じかな。

 

 二人のアドバイスは、ヒロが今まで築き上げて来た戦闘スタイルをガラリと変えさせる、というか、捨てさせるものだ。そんなの、誰だって即決出来ないと思う。これまで使って来て、愛着もあるだろうしね。

 ヒロも、二人のアドバイスが自分にとって有用で、最も良い結果に繋がる可能性の高い選択肢だと理解している。けれど、ヒロの内に恐怖を筆頭に様々な感情が渦巻いているせいで、先が見えなくなってしまっているようだ。

 

 なら、僕がするべき事は。

 

「ヒロは、今より強くなりたい?」

「……それは、勿論です」

「それならヒロは、ヒロが望む、一番強くなれると思う道を選べば良いよ」

 

 前が見えなくなっているのなら、視界をクリアにしてあげれば良い。ヒロの中で、答えはもう出ているのだろうし。

 

「それは、そうなんですけど……」

「やっぱり、怖い?」

「……はい」

「ヒロは素直で良い娘だね。よしよし」

「う、うぅ……」

 

 褒めてから、 再びなでなでぎゅーハグしてあげる。するとヒロは、顔を赤らめ困ったような嬉しそうな顔をして、小さく呻き声を上げる。可愛い。

 

「ヒロがしたい事を、僕は応援するよ。怖いなら、怖くなったなら、こうして抱きしめて、怖くなくなるまでよしよししてあげる。だから大丈夫。ね?」

「……はふ……は、はい……」

 

 僕の励ましの言葉を聞いて、ヒロは耳まで真っ赤にしてから小さく息を吐き出し、小さく頷く。

 

「……あの」

「うん?」

 

 しばらくなでなでしてあげていると、ヒロがおずおずとこちらに振り返り、

 

「優輝さん、もっと……もっと応援、して下さい。私に、勇気を下さい」

 

 潤んだ瞳でこちらを見つめながら、そう懇願して来た。その熱っぽい瞳にちょっとドキッとして、しばし無言で見つめ合う……

 

「ぁあっ!? 今のは別に呼び捨てにしてとか優輝さんが欲しいとか、そういうのじゃないですからねっ!」

「えっ? あっうん、わかってるよ。僕の名前じゃなくて、勇敢って意味での勇気ね」

 

 唐突に我に返ったヒロが、おめめをぐるぐるさせて、慌てて言い訳をする。とても可愛い。

 

「そうっそれですそれです! ……まぁ優輝さんがっていうのもなきにしもあらずというかありありというかっていえいえにゃんでもにゃいでしゅっ! ……うぅ〜……」

 

 1人アタフタして噛んで落ち込むヒロ。可愛い。まあ、それはそれとして。

 

 一度ヒロから離れ、正面に向き直ってヒロの瞳を見つめながら、お望みの言葉を紡ぐ。

 

「ヒロになら何だって出来るよ。やる前から諦めないで。咲さんにも、才能あるって太鼓判押されていたじゃない。だから、絶対大丈夫。ね?」

「……」

 

 無言で聞き入るヒロ……嬉しそうにこちらを見ているけど、まだ物欲しそうな顔もしている。欲しがりさんだね、可愛い。

 

「声援だけじゃ足りないなら、美味しいご飯を作ってあげる。僕は、いつもいっぱい食べるヒロが、可愛くて大好きだよ。ヒロが大好きな豚の角煮も、何度でも作ってあげる。美味しいものを沢山食べて、強くなろ? ね?」

 

 台詞を言い終えてから、再度頭を優しくなでなでする。

 

「は、はふうぅ〜……ありがとう、ございますぅ〜……落ち着くのとドキドキなのとで、とってもフワフワな気分だよぉ〜……」

 

 どうやらご満悦のようである。安心しきって蕩けたような顔と声でそう返すヒロを見て、上手く応援出来たようで、かなり満足。

 

ぐうぅぅぅ〜〜……

 

 ……盛大に、お腹が鳴った。当然ヒロのお腹の音だ。

 ヒロ、今日のお夕飯おかわりしなかったしね。精神が安定したから、体が空腹を思い出したのだろう。

 

「うぅ〜……大きな音、恥ずかしい……」

「ヒロのおかわりの分、取っておいてあるから。食べに行こ。それで足りないようなら、もう一品作ってあげるよ。まあ、簡単なものになるけどね」

「はいっいただきます!」

「ふふっ、元気な返事、良いね」

 

 やっぱり、食べ物の事を考えているヒロはとっても可愛い。

 

「そうだ、せっかくだからみんなも呼んで、一緒に夜食として食べようか。みんな、ヒロが元気ないって心配してたし。特に、アキと雅はね」

「あっ……そう、ですね……えっと、でも、その」

「うん?」

 

 みんなで和やかに食事出来れば、ヒロの食欲もさらに上がると思っての提案なのだけど。意外にもヒロは、即決しなかった。普段だったら、誰よりも真っ先に同意してると思うのだけど。

 

「で、出来れば今は、優輝さんと二人きりがいいなーなんて、思います。その……今だけでも、優輝さんをひとりじめ、したいです。ダメ、ですか?」

 

 先程ドキリとさせられた、熱を感じる潤んだ瞳と声で、そう懇願された。

 

「う、うん、構わないよ。あ、けど……まずはお礼、言わないと。ありがとうね」

「……私は、感謝の気持ちでいっぱいですけど。何故に優輝さんが?」

 

 んー……説明しなくても、お礼だけで理解してもらえるだろうけど。

 

「……ここに連れて来てくれてありがとね、月影ちゃん」

「ん……(こくり)」

「はきゃっ!?」

 

 にゅるりと、どこからともなく月影ちゃんが現れた。やっぱり気配を消して、隠れて側にいたか……手には今朝方見せてもらった、謎言語で記されている日記のようなモノを持っている。ヒロと話している間に書いていたのかな。

 

「どどどっどこから!? ていうか、優輝さん月影さんが近くにいたの気付いていたんですか?」

「ここに誘導してくれたの、月影ちゃんだからね」

 

 まあ、手を伸ばせば届く範囲にいきなり出現するとは思っていなかったけど……内心ビクッとしたのは内緒。

 

「親友を心配するのは当たり前、だよね?」

「……(こくり)」

 

 ウインクしながらそう言うと、少し頬を染めて視線を逸らしつつ小さく頷く月影ちゃん。可愛い。

 

「あはは……本当に、みんなに心配させちゃてたんですね……えっと、ありがとう、月影さん」

「……ん……」

「えへへー」

「(ぷい)」

 

 嬉しそうにそう笑い、ヒロが月影ちゃんの両手を持って上下し、月影ちゃんが恥ずかしそうに少し視線逸らす。2人とも可愛い! 尊い!

 

「あ、そうだ月影ちゃん。1つ、頼まれてくれないかな」

「……?」

「ヒロに合った格闘術の本を、いくつか見繕ってくれると嬉しいなって」

「ん……任され、ました……」

 

 僕の頼みを即決してくれる月影ちゃん。やっぱり、ヒロを心配していて全部聞いていたらしい。

 

 となると……改めて考えると。月影ちゃんが隠れて見ている目の前で、僕はヒロに抱きついた訳で…………ま、まあ月影ちゃんは事情を理解しているだろうし、言いふらしたりはまずしないから、問題ないか……今になって恥ずかしくなってきたけどとりあえず無視する。

 

「それと……昼間もありがとう、月影さん。励ましてくれてるってすぐに気付けなくて、ごめんなさいです」

「ん(ふるふる)……友達、なので……」

「えへへ〜。あっそうそう! 優輝さんが私のために、夜食作ってくれるんです! 月影さんも一緒しません?」

 

 二人きりが良いと言っていたヒロが、自らお誘いしていた。ヒロって月影ちゃんの事、アキと同じくらい大好きだよね。

 

「ん……少食なので……気持ちだけ……」

「うーん、そうですか? まぁ、無理強いはダメですしね」

 

 少食だから、というのも、理由の一つなのだろうけど……

 

「……二人きりでは、なくなってしまいます……」

「うん? なんです?」

「……いえ……」

 

……最後、僕にもやっと聞き取れる程度の小声で呟く月影ちゃん。二人きりが良いと言っていたヒロに気を使って、辞退したいらしい。ヒロには聞こえなかったようだけど。

 

 やっぱり月影ちゃんは、気遣いの出来る良い娘だね。ふふふ、本当に素敵。

 

 

 

 

「んふ〜おいひ〜! はくはくはくはくもぐもぐもぐもぐ!」

 

 お夕飯の余り、というか取り置いといたヒロのおかわり分や、ささっと作った肉豆腐を白米と一緒に掻き込み、幸せそうな顔で咀嚼するヒロ。いつも通り可愛い、見ているとこちらも幸せな気持ちになって、自然と笑顔になる。

 

「えへへー、美味しくって楽しくて優輝さんがいて、とっても幸せです!」

 

 そうして、元気良く食事を終えたヒロは――

 

「みんなおまたせです! そして心配かけてごめんなさい!」

「えっおおぅ。なんかめっっっちゃ元気だね、ヒロ……あれぇ?」

「お、おう。まぁ元気なのは何よりだな?」

 

――心配していたアキと雅が戸惑うくらい、超元気になっていた。

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