優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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天王寺家へようこそ

 その日の夕食時。

 

「もぐもぐごくんっ。そういや気になってたんだけどさ。学生の時は優輝さん、秘密を明かさず守り通してたんだよね?」

「まあ、途中まではね」

「でもさぁ。そのあいだ、ほんとに誰にも秘密バレなかったの?」

「うむ。料理長殿には、速攻でバレていたがな」

「え、そうなん?」

「うん。入学式の日の話だから、エリスが帰って来る前に話しちゃってた部分だね。言いふらさないって約束してくれたから、騒ぎにはならなかったけど」

「じゃあ、他にバレた事ある?」

「そうだね、あと1人……あ、そうだ。日記の時系列的に、その話をしようか」

「ふみゅ?」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

 寮に帰って、翌日の事。蒼月さんが1人で訪ねてきた。

 

「先日はお招き頂き、ありがとうございました。私も月影も、とても楽しく充実した数日を過ごせましたわ」

「ふふっそれはなりより。どういたしまして」

 

 そう言いながら、お互いお辞儀し合う。

 

「それでですね。早速お返しを、と思いまして」

「僕も地元でみんなと過ごせてとっても嬉しかったし、気にしなくて良いよ?」

「ええ、気にしてはいませんわ。なので正確に言うなら、お返しを兼ねた個人的な頼み事なのです」

「頼み事?」

「はい。水城姉妹にのみ、です」

「……僕らに?」

 

 ……のみって部分に、なんとなく嫌な予感がしたけど。とりあえず続きを聞こう。

 

「今、姉さんは留守にしてるんだけど。僕らに用事なら、話も2人一緒の方が良くない?」

「優輝さんが了承していただけるなら、瑞希さんは他の何を差し置いてでも優輝さんとご一緒したがるでしょう? ですので問題ありませんわ」

「まあ、そうだけども」

 

 んー……一体、何を頼まれるのだろう?

 

「というわけで。お2人を、私の故郷(じっか)にご招待しに参りました」

 

 

 

 

「くぁ……ふぅ。よく寝た……」

 

 僕らは、というか僕は、なんとなく嫌な予感はしたものの。蒼月さんが素敵な笑顔で「是非に是非においで下さいませ!」と強く勧めてくるので、せっかくなので招待を受ける事にした。

 

「ほんと、車でよく熟睡出来るね、姉さんは」

 

 天王寺家の門構えの前で停車した、執事の青崎さんが運転する高級車から降りて伸びをしつつ、眠たげに欠伸をしながらそう言う姉さん。

 

 蒼月さんの実家はかなり遠く、学園から僕らの実家に帰るよりも3倍は時間がかかった。朝6時くらいに出て休憩を挟んで、現在12時近くだから、例によって寝不足な姉さんが熟睡するのも仕方ない。

 

 今回泊まらせてもらう事にしたのは、移動だけでそれだけ時間がかかるからだ。蒼月さんからは、日帰りはとても疲れるので、お越しの際はぜひ天王寺家(我が家)にお泊まり下さい、と勧められていた。

 まあ、つまりはそれが、蒼月さん流の「お泊まりのお返し」なのだろう。月影ちゃんも、料理に対する感謝なら同じく料理で、という理由で、料理を僕に教わっているし。

 

 血の繋がりがないとはいえ、やっぱり姉妹。感謝の表し方は似通うようらしい。

 

「ふむ……執事殿の運転は紳士的で快適だったな。なんとも言えぬ安心感があったから良く眠れた」

「お褒めに預かり恐悦至極でございます、瑞希様」

「うむ、良きに計らえ」

 

 ちなみに静海は、首都にある静海が生まれた研究所?で、メンテナンスというか身体検査的なのを受けるために泊まり込んでいるので、天王寺家お泊まり会には参加していない。

 

「なんか、蒼月さんより瑞希さんの方が、青崎さんのご主人様みたいですね!」

「ん……(こくり)」

「まぁ葛月さんは、私達の執事というより、天王寺家の家僕ですので」

 

 姉さんと執事さんのやり取りを見て、ヒロがそう感想を述べる。

 

 今回蒼月さんが招待したのは、僕と姉さんだけだと聞いていたけど、何故かヒロもきていた……いや。ヒロと月影ちゃんは、鷺宮村でかなり仲良くなったから、何故と言うことはないか。

 僕らが蒼月さんから個人的にお誘いを受けていたの時に、月影ちゃんはヒロを個人的に招待したらしい。

 

「さて。みなさん、ようこそ天王寺家へ。実は、優輝さんに鷺宮村に誘われた時から、私の地元にもお誘いしたいと思っていたんです。こんなにも早く念願が叶ってとても嬉しいですわ、ふふふ♪」

 

 門構えの前で振り返り、嬉しそうに両腕を広げてそう言う蒼月さん……うん、まあ。あの天王寺家なわけだから、ある程度予想はしていたけど。

 

「立派な大和風お屋敷だね。築何年だろう」

 

 天王寺家は予想通り、かなり大きなお屋敷で、古めかしくも奥ゆかしさとワビサビを感じる、本格的な大和風建築だった……このあいだのパジャパ時にロリータ系の服ばかり着せられたから違うかもと思ったりもしたけど、大和撫子な容姿の蒼月さんのイメージ通りの家屋だった。

 

 ちなみに『大和(やまと)』というのは、精霊国の旧名の旧名である、陽の国のさらに古い国名だ。現在でもこの地域一帯は大和地方と呼ばれ、蒼月さんのような古風な黒髪ロングの美少女は、大和地方が産地の撫子という可憐な花になぞらえて、大和撫子と呼ばれる事が多い。

 

 ちなみに。精霊国のもう1つの旧名の旧名である、栄の国の首都があった地域名は『信濃(しなの)』。大和地方と同じく、現在でも信濃地方と呼ばれている。

 

 さらにちなみに。東、現在の首都と僕の実家含む周辺は、栄の国に吸収される前の旧国名である『武蔵(むさし)』から取って、武蔵地方と呼ばれている。

 

 武蔵地方より北や大和地方より南にも、それぞれの地方名があるけど……まあ、僕らの主な生活圏の呼び名は、だいたいそんな感じだ。

 

「正確な年数は、お義父様も知らないらしいのですが……魔神大戦の時に一度全壊して建て直したようなので、最低でも200年以上前、でしょうか」

「ご当主様の話によりますと、約250年、と聞いております」

 

 蒼月さんの話に、執事さんが補足する。約250年となると、咲さん家と同程度か。

 

「なかなかの古民家ですねー。あっ変に触れるとどこか壊しちゃうかも! 気をつけないと!」

「いやいや、普通に触れればいいじゃない」

「ま、まぁそうですよねー……うーん、まぁ多分大丈夫なはず、です!」

「なんだ、室内でアクロバティックな鍛錬でもする気か?」

「んー、なんていうか……最近月影さんに「史上最強の格闘家を目指すなら、普段から気を抜き過ぎない事」と教え込まれているので。つい何かの拍子に反射的に反撃しようとして、家屋を傷付けちゃったら申し訳ないなーとか思って」

「……月影ちゃん、ヒロにどんな教え方してるのさ」

「…………。……ヒロさんの、飲み込みが早い、ので……つい……」

 

 僕の質問に、視線を逸らしながらそう答える月影ちゃん……どうやら、ヒロを鍛えるのが楽しくて、ついちょっと悪ノリしちゃったようだ。

 

 ……月影ちゃんでも悪ノリする事あるんだ。新たな一面を垣間見れて、なんか嬉しい。

 

「ヒロ、月影ちゃんとの鍛錬は楽しい?」

「はいっそれはもう! ちょっと厳しめですけど丁寧に教えてくれますし、何より強くなってるって自分でも実感出来てますし! 私今、とっても充実してます!」

「そっか、ならいっか」

 

 悪ノリしている自覚がある上で続けているのなら、少なくともヒロにとってプラスになっているのだろう。なら、僕から言うことは特にない。

 

「ふえ? なんです?」

「その調子で頑張ってねってこと」

「はいっありがとうございます!」

 

 なんにしても。仲良きことは美しきかな、だね。

 

 

 

 

 さて。着いた時点で12時近くだったので、荷下ろしする前に食事となった。

 

 料理を用意してくれるのは、長年天王寺家お付きの料理人をしてくれているという、三葉(みつば)九郎(くろう)さん、御歳80。

 

 僕は、栄陽学園に入学するまで武蔵以外の地方に出た事はなかった(飛行機で国外に出たことはある)から、他地方の郷土料理に興味があった。

 ので、同じく料理に興味津々な月影ちゃんと一緒に、調理を見学させていただいた。のだけど……

 

『……(じーー)』

「……」

『…………(じーー)』

「…………むぅ」

『……………………(じーーーー)』

「……えー……見ているだけでは何ですし、調理の補佐をしますか?」

「やらせていただきます」

「……ん(こくり)」

 

……僕らの視線の圧に耐えられず、手伝いを許可してくれた。嬉しい反面、ちょっと申し訳なくもあったけど……結果、料理が早めに出来上がったから、お腹を空かせたヒロを待たせ過ぎずに済んだのは良かったかな。寛大な三葉さんに、感謝。

 

 ちなみに、手伝わせてもらった料理は、大和鍋という郷土料理。大和地方の特産品をふんだんに使用し、豆乳仕立てのスープが特徴の、濃厚なのにヘルシーなお鍋料理だ。

 

 

 

 

 大和鍋を堪能し、十分まったり過ごしてから荷下ろしし、現在午後2時。

 

「さて……そろそろ本題の、頼み事についてお話しましょうか」

 

 蒼月さんがそう切り出す……ついに来たか。まあ、なんとなく予想は付いてるのだけど。

 

「先週のお泊まり会のパジャマパーティーにて、私の自作衣装を皆さんに着ていただきましたが……あれらの衣装はほぼすべて、私の目測の元、作りました」

 

 目測で違和感なくサイズを合わせられるとは、さすが蒼月さん、と言いたいところだけど。

 

「なんか不満そうだね。普通に着れた……というか、割とぴったりサイズだったと思うよ」

 

 ……フリッフリなのばかりで恥ずかしかった点に目をつむれば。

 

「優輝さんの分は、以前瑞希さんを直接測らせていただきましたので。瑞希さんとはほぼ同サイズと聞きましたので、お友達の中では、よりフィットしたかと思います」

 

 僕の容姿に一目惚れしたという蒼月さんから、一切採寸の要望がなかったのが気にはなっていたけど、そういうことか……それでも不満気ということは。

 

「……が。一卵性の双子とは言っても、100%同じサイズという事はないでしょう。ということで」

 

 一拍置き、僕ではなく姉さんの方を向きながら、要望を口にする。

 

「優輝さんの正確なサイズが知りたいので、直に採寸させていただけませんでしょうか?」

 

 僕に頼むのではなく姉さんに頼むということはつまり、「優輝に頼み事をしたいなら、まず私を通してもらおうか」とか言っていたのだろう。まあ、服作りが趣味の蒼月さんは、僕の秘密に気付く可能性の高い人だし。姉さんが釘を刺しておくのも当然か。

 

「ふむ……」

 

 蒼月さんの、期待に満ち満ちた表情をじっと見つめる姉さん。直に、なので、秘密がバレる危険性はかなり高いけど……判定やいかに?

 

「……まあ、蒼月ならば良いだろう。許可する」

「ありがとうございます!」

 

 ふむ。僕第一な姉さんがそう判断したのなら、多分大丈夫なのだろう。ただまあ、

 

「僕の体の事なんだから、僕にも許可を得て欲しいんだけど」

「それは道理ですわね。という訳で……お体に触りますよ……?」

 

 ……言い方と表情に、若干の身の危険を感じた。

 

 だ、大丈夫……だよね?

 

「ごくり……」

「……あ、ヒロさんの採寸もしたいのですが、よろしいですか?」

 

 なぜか熱のこもった眼差しで僕らのやり取りを静観していたヒロが生唾を飲み込み、その音に反応して、ついでみたいにヒロに頼む蒼月さん。

 

「ふぇ!? あっはいどうぞどうぞ!」

「ヒロ、あんまり勢いで返事しない方が良いよ?」

「あー、まぁそれはそうですね……ということなので、理由を聞いても?」

「理由ですか……やはり、ヒロさんの正確なサイズも知りたいというのが理由ですね。特にヒロさんは、私の周りにいないタイプの方ですから」

「というと?」

「私を含め、知り合いにはどちらかというと胸部が慎ましやかな方が多いので。新たなジャンルの開拓をしたいのですわ」

「あーなるほどぉ……まぁ構いませんよ! ちょっと恥ずかしいですが、格闘家は度胸ですので!」

 

 ……ほんと、月影ちゃんどんな指導してるんだろ……まさか、格闘漫画とかも教科書として使っているとか……あり得る。

 

 でもまあ。

 

(ヒロ確か、胸が大きい事がコンプレックスだったはず。ちょっと前だったら、顔を真っ赤にして「恥ずかしくて無理ですぅ!」とか言ってワタワタしてただろうなあ。ヒロの精神の成長が著しくて、嬉しいような寂しいような……)

 

 まあ、同性だとしても、こうもペタペタと身体のあちこちを触られたら流石に……うん?

 

「ふむふむ……やはり目測通り、AAAですか。それにしても……鍛えられた、ですがゴリゴリではないしなやかな筋肉。素敵ですわ……はー……さわさわさわさわさわさわ」

 

 いつの間にか、蒼月さんのお触り……もとい、正確な採寸が始まっていた。

 

「うわっちょちょ! 蒼月さんいきなりっていうかあんまりまさぐらないでえなんか恥ずっあっあっあはははっ! そっそこらめっくっくすっくすぐったいってばあああらめええっ!!」

「はぁ……はぁ……」

「……じーー……」

「……じーー……」

 

 そして、いつの間にかヒロが興奮したように息を荒げ、姉さんと月影ちゃんが食い入るようにじーっと見つめていたっていうか誰かとめてくすぐったくてしかたがないのおおおっぎにゃあああーー〜〜!!

 

「はー……なんといいますか。優輝さんの艶っぽいお声を聞いて、その……少々下品なのですが、ふふふ……興奮してきましたわ……!」

「あっあははっヤダヤダなんか蒼月さん顔も声も完全に危ない人っこわいこわあはははっ! は!」

 

パチッ

 

「いっ……はっ!? もっ申し訳ありませんつい粗相を!」

 

 つい我慢できなくて静電気を発生させてしまったけれど、その痛みで蒼月さんは我に返ってくれたようだ。

 

「本当に申し訳ありません。直に触れた優輝さんの肉体が、目測以上に美の塊だったもので……」

「はぁ、はぁ……そ、そう……ふう」

 

 弄られ続けて荒くなった呼吸を整え、平静になれるよう努める。

 

 というか、我ながらかなりの痴態を晒してしまった気が……油断が過ぎたかも、反省。

 

 ま、まあ、ギリギリ下半身の危険ゾーンを弄られる前に止まってもらえたし。バレてない……よね?

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