蒼月さんの暴走が無事?収まってからは、特に何事もなく採寸は終了した。
「お二人とも、本当にありがとうございました。これでさらに捗りますわ♪」
「まあ、役に立てたのなら何よりだよ……」
「ふぅ……はい、何よりですー……」
採寸を終えたヒロが一息吐いて、服の乱れを直す。
「さて。これで、頼み事の1つは終わりだが?」
「ええ。次こそが、メインディッシュですわ!」
姉さんの台詞に、蒼月さんが相槌を打つ……うんまあ、だよねえ。知ってた。
「ふぇ? 今度は何が始まるんです?」
「ファッションショーでしょ。月影ちゃん含めて、僕らがモデルで」
「……んっ」
ここまで本を読みつつ(たまにこっちに視線を向けてはいたけど)静観していた月影ちゃんが、パタリと本を閉じて頷き、立ち上がる。
「あれ? なんか月影さん、やる気満々?」
「んー……いや、あの顔は多分、諦めじゃないかなあ」
率先して立ち上がったから、ヒロはそうとらえたのだろうけど……僕は月影ちゃんの顔から、蒼月さんに着せ替え人形扱いされている現状に、抵抗しても無駄だと悟って受け入れている感情を読み取った。僕もそうだから、なんとなくわかる。
「そうなんですか?」
「…………」
あえて何も言わない月影ちゃん。でも、いつも通りのクールな表情ながら、どこか煤けているように見える。
まあ、ハッキリ思いを口に出しちゃったら、蒼月さん相当悲しむだろうしね、仕方ないね。
「やはり月影は黒白系が一番ですが、今回はあえて緑系にしてみましょうか」
「ふむ、そう来るか。緑系は優輝の一番似合う色だから、3人合わせるのもありではあるが……ならば更に趣向を変えて、ゆめかわ系とやらに挑戦させよう」
「それもアリですわね。ではヒロさんは……前回はヒロさんの性格に合わせて、大人しめなデザインのものを用意しましたが。今回は攻めに攻めて、大陸系はどうでしょうか?」
「悪くはないな。カラーは……黒赤系で良いか。ついでにメイド風味も加えよう」
「グッドですわ! ヒロさんに似合いそうなサイズの黒赤、大陸、メイド……前に試作したものが確か……これにフリルを付けたら、なかなか良い感じではないでしょうか?」
「良いな」
「では手早く
気が付くと姉さんと蒼月さんはすでに、実際に着る側の僕らを置いて衣装選びに熱中していた。
まあ、楽しそうで何よりだけど……あんまり変なの着させられませんように……
「はあ〜……今回もやっぱり疲れたあ……」
「……(こくり)」
「ですね。でも、ちょっと楽しかったです!」
ようやく解放されて普段着になって、本日の着せ替え人形仲間の2人と雑談する。
着せ替え人形と撮影会が終わって、夕方近く。途中お茶休憩をいれたけど、ほぼぶっ通しで着せ替え人形やってたし、心身共に疲れた。
まあ、着替えて何度もポーズを取って何度も写真を撮られて、また着替えてポーズを取って写真を撮られて……を繰り返したのだ、誰だって疲れる。昔からだから、慣れたものだけど……なんというか、訓練とは違う疲れ方をするんだよね。
「うむ。やはり優輝には緑だな」
「あら、白も似合うと思いますわ。今日のでしたら……」
そんな、僕らを着せ替えて楽しんでいた2人は今も、デジカメで撮った写真を確認しながら楽しそうに語り合っている。今日2人は着る側には混ざらず、ディレクター兼カメラマンに徹していたので、精神的に疲れていない、というより充実しているのだろう……
…… 〜……
「……うん? この音は……」
雑談しながら、月影ちゃんが淹れてくれた緑茶をいただいていると、遠くから何やら音楽が聞こえてきた。これは……
「優輝さん、どうかしました?」
「外、かな? どこからか、音楽が聞こえてきてね。これは……祭囃子かな?」
「うーん? ……うーん、言われてみれば、何か聞こえるような?」
「ん……優輝さん、さすがの聴力……」
ヒロは言われてから気付いたようだけど。月影ちゃんの方は……知っていた、かな?
「優輝さん、正解ですわ。今日の夕刻より、近所で夏祭りが開催される予定だったんです」
やっぱり、祭囃子で合っていたようだ。
「ふむ。この時期なら、納涼祭か?」
「大和納涼祭……収穫祭と納涼祭が、混ざったようなもの……開催規模は、大きくもなく、小さくもなく……」
「ふむ。元は2つやっていた祭が、歴史の流れで1つに合体した、といったところか」
「ん……(こくり)」
「雨天延期なのですが、予報では怪しかったんですよね。ふふ、晴れて本当に良かったですわ」
んー。嬉しそうに言っているし、蒼月さんが天王寺家に招待した理由のひとつに、夏祭りも含まれてそうだ。
「せっかくですので、みなさんで一緒に行きませんか?」
思っていた通り、早速誘われた。今思い付いたって感じじゃないし、やっぱり誘う予定だったのだろう。
「いいですねぇ! 当然屋台もたくさんあるんですよね?」
「それ程有名なお祭りではないですし、大規模な訳でもないので、ヒロさんのご期待に答えられるかはわかりませんが。例年通りなら、それなりの数出店しているはずですわ」
「少なくはないようでなによりです! ジュルリ」
嬉しそうにそう言い、溢れた涎を啜るヒロ。脳内ではすでに屋台の前にいると思われる。
「でも、遠くから聞こえるって事は、それなりに歩きますよね? その前にちょっと、何かつまみたいなー、とか……(ちらっちらっ)」
いかにも、私お腹空いて力が出ないのでオヤツくださいな、の視線を蒼月さんに送るヒロ。
「ふむ。私も少々疲れているから、外出するにしても小休止挟んでからにしたい」
「…………」
「……蒼月?」
ヒロと姉さんの要望を聞いて、しばし何やら考え込む蒼月さん。
「優輝さんは、すぐに出られますよね?」
……何故か確定事項であるかのように僕にそう問う蒼月さん。
「まあ、ヒロよりは燃費良いし、いつでも良いよ」
「でしたら、瑞希さんとヒロさんは一休みしていただいて、私と優輝さんとで先にお祭りに行かせていただく、ということで」
「はい、それで良いですよ……お腹すいたぁ」
「私も異論はない」
「決まりですわね!」
蒼月さんの提案を了承する2人。僕はまだ返事してないんだけど……蒼月さん、何か企んでる?
「月影は、後からお2人と一緒に来て下さい。見知らぬ土地ですから、案内役は必要でしょう」
「…………ん(こくり)」
いつもより長めの間を置きながらも、月影ちゃんが了承する。まあ、地元の人の案内があれば確実に辿り着けるし、妥当な判断だと思うけど……
(うーん……あからさまに僕と2人きりになろうとしてるよね、蒼月さん。空腹のせいか、ヒロだけ気付いてないみたいだけど)
悪意だとかは感じないけれど……真意を読もうと、蒼月さんの表情を伺う。
「……ふふ、ご安心下さい。妙な事は企んでおりませんので」
「……ん、そっか」
僕の視線の意味に気付いて、柔らかな笑顔を向けてそう答える。確かに表情からは、変なことは企んでいるようには見えないけど……「妙な事」ではない何かは、企んでいる気がする。
「それよりも」
「なによりも?」
「夏祭りといえば! 浴衣ですわ!」
「あ、うん……まあ、異論はないよ」
……ただ単に、早く僕に浴衣を着せたかっただけかな。浴衣を着るくらい別に問題ない。
「こちらの中からご自由にお選び下さい。サイズは問題ないはずですわ」
「了解。んー……これかな」
別室に連れられ、10種ほど並べられた浴衣の中から、緑を基調としたチェック柄のシンプルな物を手に取る。
「浴衣の着付け方はご存知ですか? なんでしたら、私が手取り足取り!」
「咲さんに教わって知ってるから、大丈夫」
「……ですか」
残念そうに、伸ばした手を引っ込める蒼月さん。企みって、着付けを教えたかったのかな?
「とりあえず着るから、部屋から出てくれると嬉しいな」
「2人一緒に着替えた方が早いかと思いますが」
「着替え見られるの恥ずいからヤダ。まあ僕としては、別に普段着のままでも――」
「了解しました」
どうしても僕の浴衣姿が見たかったのだろう、即部屋を出て行く蒼月さん……欲望に忠実なその行動に苦笑しつつ、手早く着替えを済ませる。
ちなみに、浴衣の着付け方は、女性のものだ。まあ、当然だけど……
「あぁ、浴衣姿の優輝さん、とても可愛くてとてもとても素敵ですわ! ポニーテールなのも新鮮で良いです! うなじ!」
カシャッ
「ふふっありがと」
部屋に入って来るなりそうまくし立て、妙な掛け声と共に写真を撮られた。まあ、もう慣れたものだ。
ちなみに、蒼月さんはすでに浴衣に着替え終えていた。部屋の前で待っていたのではなく、別室に行って着替えていたようだ。紺を基調とした落ち着いた色合いに撫子柄で、大和撫子な見た目の蒼月さんに良く似合っている。
というか、この部屋にはない柄の浴衣なので、最初からこの部屋で着替える気はなかったようだ……ならなんでさっきは一緒に着替えようって提案したんだろ。そんなに僕と一緒が良かったのかな。
「蒼月さんの浴衣姿も、とっても素敵だね」
「ふふ、ありがとうございます♪」
「髪型がツインテールなのは、月影ちゃんに合わせたのかな?」
「そうですね、たまにお揃いにしたくなるのです。月影ほど似合わないので、本当にたまに、ですが」
「そんなことないよ。いつもはとっても綺麗って印象だけど、今日はとっても可愛いって印象かな。どっちも違う魅力があって、甲乙つけがたいね」
「そ、そうですか……も、もぅっ相変わらずお上手ですわね……そ、そんなことよりお祭り会場にいきましょう! 今ならそれほど人も多くないでしょうし、好都合ですわ!」
「ん、了解」
照れ笑いを誤魔化すようにそうまくし立て、部屋を出て行く。とても可愛い。
さて、見失わない内に追いかけよう。
「……うん? 好都合って、何がだろ?」