優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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秘密バレ

「いってらっしゃいませ、お嬢様。出来るだけ9時までにお戻り下さい」

「はい」

「祭りを楽しまれるのは大変結構ですが、あまり羽目を外し過ぎませぬよう。天王寺家の人間に相応しく、節度を保った行動を心がけて下さい」

「……。はい、わかっていますわ」

「それと、軟派者には着いて行いかれませんよう十分警戒を――」

「――もうっ葛月さん! あまり子供扱いしないで下さい! 優輝さんもいますし大丈夫ですわ!」

「それがわたくしの仕事ですので……ですが、確かに少々出すぎた真似でした、申し訳ありません」

 

 いつも穏やかか、変態行動している蒼月さんにしては珍しく、執事さん相手には普通の女の子っぽい反応を返すんだね。反抗期の父親に対する態度っぽいかんじで、数年前の僕を見ている気分だ……なんだか懐かしい。

 

「はー……では、行ってきますわ」

「いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

 つい感情的になってしまった事に恥じ入っているのか、ほんのり頬を染めて先に出て行く。可愛い。

 

「僕も行ってきます、青崎さん」

「はい、お気を付けていってらっしゃいませ」

 

 蒼月さんの反応を気にする様子もなく、執事さんは優雅にお辞儀をして見送ってくれる。

 

 うーん、ダンディだー……カッコイイ……

 

 

「……出がけにお恥ずかしい姿を晒してしまい、申し訳ありませんでした」

「別に気にしてないよ。普段見れない蒼月さんの一面が見られて、むしろちょっと得した気分かな」

 

 日が傾きかけた時間、黄金色になり始めた稲穂が頭を垂れる田園風景の中を2人歩きながら、お喋りする。

 

「ふふっ。実は前々から、優輝さんとは2人きりでお話ししたかったんです。だから、優輝さんだけ誘い出してしまいました」

 

 少々あからさまだったとは思いますが、と微笑みながら付け足す蒼月さん。

 

「あー、やっぱりそうなんだ。他の人には出来ない話でもあるの?」

「そうですわね……いくつかは」

 

 そう言い、立ち止まって瞳を閉じ、俯いてから深呼吸を一つ吐き、頭を上げてからこちらに正面で向き直る。

 

「まずは、感謝を。いつも私と月影に良くして下さって、本当にありがとうございます」

 

 そう言って、ゆったり深々とお辞儀をされる。

 

「そんな、改まって感謝を言われる程の事でもないじゃない。友達ともっと仲良くなりたいって言う思いからの行動は、当然のものだし」

「それを気取らず自然体で当然と言える方が、どれだけいるでしょう。優輝さんは名前の通り、優しい輝きに満ち溢れた素敵な方ですわ」

「う、うん。あ、ありがと……」

 

 ふわりと柔らかく微笑む蒼月さん。な、なんだろ、面と向かって褒められると、妙に気恥ずかしいものだね。

 

「それと私……少々恥ずかしい話なのですが。このように気の置けない会話を出来る「友人」と言える方は、今まであまりいなかったのです。栄陽学園に入るまでは、透華さんだけでしょうか」

「まあ、天王寺家のお嬢様って知ったら、一歩引いちゃう人が多いだろうしね」

「そう、なのでしょうね。血筋で言えば、私も月影も、無関係なのですけれどね」

 

 苦笑しながらそう言う蒼月さん。血筋に関しては、蒼月さんの表情からして……前に加藤さんに「力で示せ」って言われた通り、あまり気にし過ぎないようにしている、てところだろうか。

 

「なので、私達にこのように友人と呼べる方が沢山出来た事を、とても感謝しています。特に優輝さんと瑞希さんは、そのキッカケを作って下さった方ですので……友への親愛の情に格差があるのは、あまり良い事とは言えないかもしれませんが。お2人の事は、親友のように思っておりますわ」

「そっか……ありがと、とっても嬉しいよ」

 

 素直に感謝する。出来れば、他のみんなとも、同じくらい親しくなって欲しいけど……まあ、心を捻じ曲げることなんてできないし、何より、自然と親友と思えるのが、本当の親友だろう。

 

「でも、そういう話なら、別に僕と2人きりでなくても……少なくとも、姉さんは一緒でも良かったんじゃ?」

 

 ……まあつまり。姉さんには聞かせたくない、もしくは姉さんがいると話がスムーズに進まないような話がまだある、ということだろう。

 

「それは……優輝さんだけに、尋ねたい事がありまして……えーと……」

 

 蒼月さんが辺りをキョロキョロ見回して、声が届く範囲に人がいないことを確認してから、少し近付く。

 

「前々から、もしかしたら、とは思っていたのですが。今日の採寸で優輝さんのお体に触り、疑念が強まりました」

「疑念……穏やかじゃない表現だけど」

 

 んー……何か不快な事、しちゃってたんだろうか?

 

「秘密にしておきたいようですので、ハッキリとは言いませんが……優輝さん……私達に偽っていませんか?」

 

 更に近付いて、耳元でそう尋ねられた……あー……つまりは。

 

(そっかー、ついに友達に秘密バレたかー……姉さんが大丈夫と判断したから、問題ないのかなと思ってたんだけどなー……)

 

 まあ、料理長さんには速攻でバレたし、友人の誰かにも、その内バレるだろうとは思っていたけど。特に蒼月さんには。

 

 なんにしても。こう秘密裏に尋ねられてしまった以上、曖昧な返事は不誠実だろう。とはいえ、直接伝えるのも……んー……とりあえず。

 

「……偽っている、て言うのは語弊があるかな。僕は、僕が服装通りの人物だとは一度も言ってないしね」

「そうですね。なので今日、お体に触って確信したかったのですが……正直、もしかしたらという気持ちは強まりましたが、確信までは行きませんでした。優輝さん、体格も骨格も、ほぼ女の子でしたので」

 

 む。確信したから切り出したのかと思ってたんだけど、それは予想外。まあ、確信出来なかったのも仕方ないかな。

 

「僕の体格から割り出そうとした感じかな。お医者さんの話では、一卵性双生児だからじゃないかって言われてるよ。本来は僕も、姉さんと同じ、普通に女の子として生まれるはずだったんじゃないか、だって」

「そうでしたか……まあ、一卵性は、その確率の方が遥かに高いらしいですからね」

 

 それでも疑念を感じるところが、さすが服作りが趣味なだけある。僕の料理と同じく、本気の趣味なんだろうなあ。

 

「ところで、いつ頃気になり出したの?」

「そうですわね……キッカケは遠足の時の、魔獣討伐時の優輝さんの動きを見てから、でしょうか。ですが、疑念が強まったのはやはり、鷺宮村での着せ替え会ですわね」

 

 ふむ、その辺りか。戦闘モードの時はバレないようにとかあんまり考えてないし、しょうがないかな。

 

「言い訳になるかもだけど。セーラー服は学園指定の制服だし、着替えも毎回真っ先に更衣室に行って、着替えてすぐ出て行ってるし。校則的にも倫理的にも、ギリセーフなんじゃないかなー、と思ってるんだけど……」

「はい、優輝さんがみなさんにとても気を遣っているのは存じております。友達ですもの、優輝さんが誠実で真面目な方なのは、十分理解しています。なので、責めるつもりはありませんわ。可愛らしい格好をしている理由も、察していますから」

「そう言って貰えて嬉しいよ。うん……慣れてるとはいえ、本意ではないんだよ……うん」

「それでも、双子のお姉様に……大好きな瑞希さんに喜んで欲しいから。ですわよね?」

「うん、まあそんな感じ」

 

 蒼月さんも月影ちゃんが、自分の趣味に合わせて着せ替え人形扱いを受け入れてくれている事に、気付いているのだろう。だがら、姉さんの気持ちも僕の気持ちも察せたのだろう。

 

 うん。本当に、良い友達に恵まれたよね、僕も蒼月さんも。

 

 それはともかく。

 

「その……僕の秘密に気付いてさ。蒼月さんは僕とは距離を取りたくなった、とか、あるかな?」

 

 蒼月さんの様子からして、僕の秘密に気付いた今でも、特に気にしていないっぽいけれど……せっかく友達になれたのだから、変に距離を取られたり気遣われ過ぎたりとかしたら、ちょっとだけ寂しい。

 

「むしろますます優輝さんの事を好きになりましたわ! より深く優輝さんの事を知れたので衣装のアイデアが捗りそうですし今後は瑞希さんの許可なく自由に着せ替え人形役をお願い出来そうですし! 良い事尽くめですわ!」

「……オブラートに包まずはっきり着せ替え人形って言ったね」

「ふふ。秘密をバラすつもりは毛頭ありませんが、精神的アドバンテージのようなものを感じていますので。なにより、優輝さんとより親密になれた気がして、とても舞い上がってしまっています!」

「それはなにより。モデル役は、まあ……お手柔らかにお願いね」

「はい! くふふふ……」

 

 僕の返答に、ちょっとだけアブナイ感じの笑みを浮かべる蒼月さん。脳内では、色々な衣装を着た僕を妄想しているのだろう……やっぱり変わり者だなあ。

 

 実に楽しそうな蒼月さんを見ながら、なんとなく、姉さんが「問題ないだろう」と判断した理由が、わかった気がした。

 多分姉さんは、蒼月さんが僕の秘密に気付きかけていることに気付いていたのだろう。その上で直触れを許可したのは……今の蒼月さんの反応も、姉さんは予測していたからだろう。

 

 まったく……姉さんも人が悪いなあ。よく知ってるけど。

 

「さて、そろそろお祭り会場へ行こ? 先に出たのに姉さん達に追い付かれたら、変な勘ぐりされそうだし」

「そうですわね。行きましょうか、優輝くんさん?」

「……その内自分から明かすつもりだから、口を滑らせないでね?」

「はい、十分気を付けますわ」

 

 ……こうして、学園に通い出してから2番目に僕の秘密に気付いたのは、蒼月さんになった。

 

 

 

 

 お祭り会場に着いてからは、瓶ラムネのみを買って、屋台を見て回ったり人混みを眺めたりして、まずは雰囲気を楽しんだ。本格的な食事系のは、ヒロが来てから一緒に楽しみたかったしね。

 

「友達と待ち合わせしてますしあなた達はお呼びではないです邪魔しないでくださいっしっしっ!」

 

 ケータイで待ち合わせ場所を決めてそこに向かうと、ヒロ達がナンパされていた。まあ、ちょうど追い払い成功したところだったようだけど。

 

「あっ優輝さん蒼月さん、ここでーす!」

 

 僕らを見つけ、大声でこちらを呼ぶヒロ……ほんと、図太くなっちゃってまあ……入学当初の、注目され過ぎて意識を彼方に飛ばしてた頃が懐かし……いや、当時から食が関わってたら1人でナンパ撃退してたし、意外と変わってない、かな?

 

「おまたせ、はこっちの台詞かな? 主に屋台見学してたから、どんな屋台メシがあるかは粗方把握済みだよ」

「流石優輝さんっお気遣い感謝感謝です! 早速屋台食べましょー!」

「屋台は食べ物ではない」

「……屋台で、お夕飯……」

「です! 目指せ全店制覇!」

 

 テンション異様に高いなあ。可愛い。

 

「いやいや、流石に全店食べるのはヒロでも……え、本気?」

「本気の本気っマジと書いて、です!」

「……ちなみに……本気を意味する『マジ』、は……意外と昔から使われて、います……」

「さてさて! まずは屋台メシの定番! ベビーカステラからです!」

「いやいや、定番って言ったら焼きそばじゃ?」

「それか、たこ焼きですわね」

「じゃがバターは外せんな」

「……鶏皮餃子」

「え? いやいや、それはどっちかと言うとマイナーな方じゃないかな?」

「んもぅどれでも美味しいのでとにかく買いましょう食べましょうハリーハリッジュルッ!」

 

 ついに我慢出来なくなってきたヒロが、目を爛々と輝かせ涎を溢れさせながら急かし出す。その様子にほっこり笑い合いながら、僕らは先行するヒロを追いかけた。

 

 

 

 

 ちなみに、最初はヒロが冗談を言っていると思っていたのだけど、今日のヒロの食欲は留まるところを知らず、気付いたら食べ物系屋台をコンプリートしていた。

 

「大大大っっ満足です〜……ペロペロカジカジ」

 

 とはいえ、流石のヒロもお腹ぱんぱんになったのか、最後に手にしたりんご飴はちびちび齧ってたけど。

 

「みなさん、堪能していただけたようで。お誘いして大正解でしたわ」

「ありがとね、蒼月さん。今度は全員で来たいね」

「うむ」

「はいです!」

「ん……(こくり)」

 

 なんにしても。みんなの楽しそうな顔が見られただけで、僕としては大満足だった。

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