優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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新学期最初のHRでの一幕

「……まぁ、蒼月ちゃん優輝さん大好きだし、予想の範囲内ではあるよねぇ」

「私がどうかしましたか?」

 

 食後のティータイム中、蒼月さんが現れた。予想より早く部屋から出てきたけど、集中力が途切れて空腹を覚えたのかな。

 

「こんばんは、蒼月さん。すぐお夕飯食べる?」

「はい、お願い致します」

「ただ今温め直しております、少々お待ち下さい」

「ありがと静海、お願いね」

「今は1年夏の、天王寺家に招待された日の話していてな」

「流石、蒼月ちゃんのシンビちゃんは流石だねぇ」

「シンビ……え、誰ですか?」

「審美眼とでも言いたいのだろう」

「1年夏、私の招待、審美眼……というと、優輝さんの秘密について尋ねた時のお話、でしょうか」

「そうだよ」

「ふふ、懐かしいです。あの話を切り出すのは、なかなか勇気が要りましたわ。嫌われてしまわないかドキドキものでした」

 

 む、何気に新情報。そんな様子は感じなかった、と思うのだけど。

 

「それはむしろこっちの話だよ。ますます好きになったって言われて、内心ちょっとだけ戸惑ってたくらいなんだけど」

「あら、そうだったんですか。ふふ、お互い心配し過ぎだったようですね」

「だね」

 

 再びあの時の情景を思い出し、微笑み合う。

 

「さて、私は先に風呂に行くが……その前に蒼月、新作衣装の進捗はどうだ?」

「ええ、デザインの方向性は粗方定まりましたわ。食後に描き上げますので、明日にでもご意見お願い致しますわ、瑞希さん」

「うむ、承知した」

 

 姉さんはそう言ってから、静海からお風呂セットを受け取りお風呂場に向かった。

 

「しかしまぁ、瑞希も大概だけど、蒼月ちゃんも趣味に全力疾走って感じだねぇ」

「生き甲斐ですので。ところで、天王寺家にご招待した時のお話は、もう全部終わってしまいましたか?」

「そうだね、大体は」

「んじゃあ、夏休みのお話も大体終わりな感じ?」

「そうだね……後は、追込みの話くらいかな?」

「ふみゅ?」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「もうダメだ……オシマイだぁ」

「勝てる訳がないよぉ……ヤツは伝説の……」

「はいはい、口よりも頭と手を動かそうね」

 

 前に聞いた事のある諦め文句を呟くアキと雅。

 

「何故速攻終わらせないのか、これがわからない。少し集中すれば、3時間もあれば終わるだろう?」

「……(こくり)」

「無茶を言わないでくれ……」

「それが出来るんは2人くらいよ……だよね優輝!?」

「そんな必死な顔で言わなくても、ほとんどの人はそんな早くは終えられないよ。姉さん、問題見た瞬間に答えを書き出してるくらいだからね。普通の人なら、無理なく計画的にやれば……一週間くらいかな?」

「もう3日しかないんだが……」

「んみゅっ無理だぁっ!」

「サボった2人が悪いんだよ。頑張れば終わる量なんだから、頑張って」

「うむガンバレガンバレ」

 

 夏休み終了間際の、雷曜日朝。いまだ夏休みの宿題が終わっていないアキと雅が、追試勉強の時のように僕に泣きついてきた。

 ちなみに、闇曜日の二学期始業日に提出だから、雅が言った通り、残り約3日だ。

 

「僕も3日くらいで終わらせたし、なんとかなるよ」

「いやぁ〜優輝も大概天才だしねぇ」

「だよなぁ。俺らの頭じゃ厳しいっす」

「こらこら、自分を卑下しない。頭の良し悪しじゃなくて、サボったのが原因なんだから」

『ぐぅ……』

 

 僕の指摘に、2人が唸り声をあげる。

 

「……ヒロさんは……」

「私ですか? えっと……8月前に終わったので、10日くらいですかねー」

「ん……平均的……」

「ですかねー?」

 

 クッキーをつまみながら雑談するヒロと月影ちゃん。夏休みの宿題片付け会にいるのは、いつもの昼食会メンバー+雅だ。

 

「むぅー……わかんないよー助けて優輝ー」

「しょうがないなあ……ていうか宿題なんて、授業で習った事の復習や応用ばかりなんだから。追試勉強の時に教えたでしょ」

「そう言われても、なぁ?」

「ねぇ?」

 

 彼氏彼女揃って、似たような顔をする。仲が良いのは良いけど、それぞれの悪いとこまで移っちゃうのはいただけない。

 

「とりあえず、今日のお昼は僕らが作ってあげるから、気にせず集中してね。アキは海老天丼、雅は牛カツ丼でいいかな?」

 

 あまり宿題の邪魔にならないように、でもそれぞれのヤル気を奮い立たせる好物を乗せた丼ものを提案する。まあ、アキは願掛け的な意味で海老だけど。

 

「んっオッケー!」

「流石優輝さん、俺達の欲しいものをよくわかってるぜ!」

「あ、私は両方でお願いしまーす!」

「私は海老にするかな」

「……牛カツ丼を……」

「はいはい。ああちなみに、宿題の進捗次第で、2人のだけグレード下げるから。頑張ってね?」

『……へ?』

「具体的には、海老天が桜海老入りかき揚げ天に、牛カツ丼のお肉がペラッペラになります」

「マミヤッ全力でいこっ!」

「おう、出し惜しみは無しだぜ!」

 

 まったく調子良いんだから……ふふっ、2人とも可愛い。

 

 

 

 

 そんな感じで飴と鞭を使いながら、2人には出来るだけ自力で宿題を解かせた。結果、なんとか始業日の明け方には終わったようだ。

 

 

 

 

「みんなおはよーそしておひさーあはははー!」

 

 始業式前の教室に、僕と姉さん、アキヒロ雅と一緒に入る。いつものようにアキは、元気良くみんなに挨拶をしてるけど……

 

「海老江さん久しぶりー、今日も元気……元気?」

「げんきげんきーんあははー!」

 

……充血した目と目元に隈を作った顔でハイテンション挨拶すれば、誰だって心配するだろう。まあただの徹夜明けテンションだし、無事宿題も終わったしで、精神的には超元気だろうけど。

 

 そんな感じでみんなに心配されていたアキと雅だけど……別の意味で心配されてた友人が1人。

 

「みなさんおはようです! 新学期もよろしくお願いします!」

「おーおはよー鯨井さ……お、ぅえ? えっと、鯨井さんっすよね?」

「はい? 私は私ですよ? ……私の顔に何か付いてます?」

「いや、見た目はいつも通り可愛いっすよ。胸もいつも通りご立派っす」

「ですよねー、も〜不安になるような事言わないで下さいよ〜巻さ〜ん」

「あ、はいっす……あれ、ウチが変なんすかね?」

「いえ、巻さんの反応は正しいと思うわ。過程を知ってる私でも、未だに慣れないもの」

 

……とまあこんな感じで、ある意味鮮烈な夏休みデビューを果たしたヒロに、クラスの大多数は大いに戸惑っていた。

 

「ふむ、陽気な鯨井 ヒロも悪くない。それに、肉体がさらに引き締まったように見える。引き続き我が嫁として励むが良い」

 

 そして、相変わらず上から目線で僕らを嫁扱いする飯屋峰君。まあ、ひと月程度で彼の性格がマトモになるなんて期待はしていなかったけど。

 

「さて。ひと月以上我と接せられず、さぞ恋しかったであろう?」

 

 飯屋峰君はヒロに一方的に話しかけながら、実に自然な足取りで近付き、ヒロの胸に手を伸ばす――

 

「お触り厳禁です!」

 

パシンッ

 

――けどヒロは、難なく手で打ち払い飯屋峰君の懐に入り込み――

 

ゴッ!

 

「――ヴ!?」

「エッチなのはイケナイと思います!」

 

――下から突き上げるかのような掌底を彼の顎に叩き込んだ。まともに食らったから、当然一撃でKOだ。まあ、自業自得。

 

「まったく、油断も隙もありませんね!」

 

 崩れ落ちる飯屋峰君に対し、いかにも怒ってます!的な感じに頬を膨らませるヒロ。可愛い。

 

『……ぽかーん……』

「……てあれ? みなさんどうしたんですか?」

 

 あまりに鮮やかに撃退したので、クラスメイトのほとんどが呆然としていた。

 まあね。前回も一撃で撃退してたけど、あの時はがむしゃらに腕を突き出して偶然倒した感じだったのが、今回はまったく取り乱さずに冷静に打ち倒したのだし、ビックリもするよね。

 

「……なんか鯨井さん、めちゃめちゃ強くなってないっすか? 実力的にも精神的にも」

「えぇそうね。ヒロは夏休み中に、とても頑張っていたから……でも、私の知らない短い期間でさらに磨きがかかってて、ちょっと驚いたわ」

「やっぱり夏は人を変えるんだなぁ……俺も夏休みデビューすれば良かったかな」

「とはいえ、オドオド可愛い鯨井さんが見られなくなったのは、ちょっと寂しいな……」

 

 クラスメイトのヒロへの反応は、大きく分けて眩しい人を見るものと、昔を懐かしむような郷愁の目に二分していた、気がする。

 

 

 

 

「みなさん、お久しぶりです〜。そして鯨井さんは、すっかりクラスの人気者ですね〜」

 

 飯屋峰君を縛った後、新生ヒロは、ネイ先生が来るまでクラスのみんなに質問責めに合う羽目になった。

 

「まぁ? ここまで強くなってしまったなら、注目を浴びてしまうのも仕方ないですね!」

 

 それに対してヒロは一切戸惑うことなく、みんなの質問にドヤ顔で答えていた。

 

 ほんと、強くなったねえ……しみじみ。

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