優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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夜食クイズ

 その日の消灯時間1時間前。約束通り、アキヒロの部屋を訪ねた。

 

「ということで。アキのやる気スイッチを押しに来たよ」

「私のやる気スイッチまで押してどうするつもりですか!?」

「いやいや……まあ、間違いでもないけど」

 

 全人類共通のやる気スイッチのひとつではあるし、ヒロ特効なのは確かだしね。

 

 僕の手には、お鍋。まあ要するにアキ、と一応ヒロに、夜食を作ってきたのだ。

 

「優しい良い匂いですねー。これは――」

「ヒロ待った。今回はヒロじゃなくてアキのために作ってきたんだから、アキに当ててもらわないと」

「あっそれもそうですね!」

「わたしがどしたのー……なんか良い匂いするけど……」

 

 僕らの話し声を聞きつけ、奥から相変わらずローテンションなアキがのそりと現れた。2人とも髪がしっとりしてるし、アキは肩にタオルをかけている。どうやら今日は、部屋の内風呂に入ったらしい。

 

「アキに元気になって貰おうと思って、お夜食作ってきたよ」

 

 アキが鍋に注視していたので、率直に理由を伝えて、2人の目の前で鍋の蓋を開く。もわっと湯気と出汁の香りが立ち上った。

 

「今朝急に思い立ったから、あり物で作ったんだけど」

「これは……豆腐とかいわれのスープ?」

 

 半透明のスープに、豆腐半丁くらいの四角くて白っぽい物体に、細いナッパ。かいわれは正解だけど。

 

「惜しい、ちょっと間違い」

「え? むむむ……」

 

 不正解と言われ、正解を言い当てたくなったのだろう、少しやる気を出してお鍋の中身を観察し出す。うん、これで今夜の目的は半分達成かな。

 

「スープの色で分かり辛いけど……この豆腐、真っ白じゃない? あーなる。これ卵豆腐ね!」

「正解!」

「やった!」

「というわけで。アキを元気づけるためのクイズ付き夜食だよ。夜食だから胃に優しいものを、と思って作ったんだ。どうぞー」

「わーい優輝大好き!」

 

 ぴょんと飛び跳ねて嬉しさを表現するアキ。可愛い、けど、抱きついてこないあたり、まだまだ本調子ではないかな……まあ鍋を持っている現状で抱きつかれたら危ないけど。

 

 

 部屋に入れてもらいスープカップを出してもらい、手渡す。

 

「じゃさっそく、いただきまーす」

「いただきますー!」

 

ズズッ……

 

「んふぅ……優しい味ー。おいしー」

「だねー。ほっとします」

「ん、お粗末様です」

 

 

 

 

 翌朝。

 

「みんなおはよー。だいぶ暑さも和らいできたよねぇ」

 

 食堂で顔を合わせて開口一番、普段しないようなお日柄についての話題を始めるアキ。今日も朝鍛錬に顔を出さなかったけど……んー。昨日に比べればだいぶ元気出て来てるけど、いつも通りって感じではないかな。

 

 というわけで。今夜もやる気スイッチ作戦は続行だ。

 

 

「今日の夜食クイズだよー。今日のスープに入っている野菜を当ててね」

 

 今日は地曜日で授業がなかったから、買い出しで食材は十分。なので、昨日より少し凝ったものを作ってみた。

 

「匂いからして……テーマは夏野菜、でしょうか。早く食べたいです!」

「ふみゅ……流石にヒロじゃないから、食べてみないと全部はわからないわ。というわけで、いただきまーす!」

「いただきます!」

 

ズズッ……

 

 2人仲良く元気良くいただきますして、スープを口に含む。

 

「んー今日のもおいしー。それに、やっぱり優しい味ー」

「だねー、ほっとする味だねー」

「じっくりトロトロになるまで煮込んだからね。今日のも夜食にピッタリな、胃に優しいものになってるよ」

「ふみゅ。となると……あんまり繊維質が多いのは使ってないよね。んで夏野菜……もむもむ……」

 

 再び口に入れ、ゆっくりもぐもぐして味わいつつ、使った野菜を考察するアキ。

 

「……うみゅ。正解は! トマト、茄子、玉葱、オクラ、ズッキーニ!でどうだ!?」

「うーん、また惜しい」

「えーウソだー。これで全部……あっもしかして、上に散らしてある乾燥パセリ含む?」

「正解」

「えー、ズルくない?」

「美味しいですー」

 

 

 

 

 翌朝。明日はいよいよ武闘祭な訳だけど、アキの様子は……

 

「みんなおっはよー! 絶好の武闘祭日和だねぇ!」

「開催は明日だけれどね。まぁ過ごし易い気候だし、鍛錬日和ではあるわね」

 

 いつも通りの元気な声が、早朝のグラウンドに響き渡る。今日は朝鍛錬に参加したし、

 

「ぎゅー!! んふふーなんか久しぶりな気がするー!!」

 

アキの日課だった朝抱きつきが、数日ぶりに来た。

 

「おはよ、アキ。ようやくいつものテンションだね」

「あっは! おかげさまでね! んもぅやる気満々よー!」

 

 んー。空元気ではなく、本当にいつものテンションに戻ってる気がする。

 

 んー……それでも。

 

(まだ足りない)

 

 そう、足りない、物足りない。せっかく武闘祭なんだし、半月前の異様なテンションでないと、お祭りが似合うアキには足りない。

 

 今夜で最終調整といこう。

 

 

「夜食クイズの時間だよー」

 

 と言う訳で、今夜も夜食を作って持っていった。

 

「あれっ今日もくれるん――って臭っ! 優輝ニンニク臭いっ!」

「そりゃあ、ニンニクたっぷり使ったからね」

 

 そう言って、丼、スプーン、箸が一つずつ乗ったトレイをアキに突き出す。

 

「夜食に向かないでしょうに! ていうかこの時間にニンニク食べたら元気になり過ぎて眠れなくなるわ! えっもしかしてツッコミ期待されてた?」

「あはは、半分くらいはそれもあるかな」

 

 もう半分は、アキを更に元気にするためだ。

 

「もう待ちきれないですっハヤクッハヤクタベサセテッ!!」

「うわ」

 

 結果、食欲を刺激しまくる匂いに、ヒロが発情した犬ように元気になった。予想はしていた、けどちょっと怖い。

 

「アキに元気になり過ぎてもらいたくて作って来たんだから、まずはアキに食べてもらわないと。ヒロはちょっと待ってね」

「ハッハッハッハッ!」

 

 そう言うと今度は、お肉を前にマテされている犬みたいになった。やっぱり怖い……けど、さっきに比べればちょっと可愛い。

 

 まあそれはともかく。

 

「え、マジで食べないとダメ?」

「駄目って訳じゃないけど、出来れば食べて欲しいな。アキには、普段よりも元気な、絶好調状態で武闘祭に出てもらいたいからね。そうじゃないと――弱過ぎてつまらないかもだから」

 

 ニヤリと不敵に笑い、そう告げてみる。

 

「!! へぇ……優輝にしては珍しく挑発的じゃん?」

「それだけアキとの対戦に期待してるんだよ。まあ僕とアキとのカードがあるかは、クジ引きだから完全に運だし、そこはどうしようもないけど」

 

 今度は変に演技しない、普通の笑顔でそう言う。でも、アキの顔を見れば、挑発の効果はあったようだ。

 

「んみゅ、優輝の気持ちはわかった! けど今食べたら、興奮で寝不足になって当日最高のパフォーマンス発揮出来なくなるかもだけど?」

「一口くらいなら大丈夫だよ、多分」

「優輝にしてはアバウトだねぇ」

「んー、そうでもないよ? 確かにニンニクは、元気になるイメージが強いけど。実は、イライラを抑えて寝付きを良くする効果もあるんだよ」

「えっマジで?」

「マジな話だよ。個人の体質で差異はあるから絶対ではないけど、食べ過ぎなければ多分大丈夫」

「……優輝ってほんっと、優しいよねぇ」

「ん、ありがと」

 

 なんかしみじみと言われた。まあ、嬉しい評価だね。

 

「そんな訳で……ヒロが我慢の限界近そうだし、お早く一口召し上がれー」

「んみゅっそこまで気遣われちゃあ食べない訳には、よね! んじゃあっオープン!」

 

 そう元気よく言い、どんぶりの蓋を開けると、もわっと広がる湯気と共に、更なるニンニクの香りが部屋中に広がる。ごくりっと喉を鳴らす音が聞こえた。

 

「なるなる、ガーリックライスのステーキ丼ね……! めっちゃ美味しそー!」

「美味しくないわけがないですね!!」

「んで? 今日もクイズって言ってたけど、何を当てさせたいのん?」

「うん、今日は……まずは、お肉の部位かな」

「オッケ、んじゃいただきまーす! はむっ」

 

もぐもぐ……

 

「んまーい!!」

 

 飲み込むより早く、アキが歓喜の声を上げる。

 

 ふふふ。アキのこの声は、いつ聞いても嬉しい気持ちでいっぱいになって、ほっこり笑顔にさせてくれる。大好き。

 

「もぐもぐごくんっ! なにこれめっっっちゃ柔らかなんだけど!? んみゅっこの柔らかさは牛ヒレ、と思わせておいて硬いはずのモモ肉! どうよ!?」

「正解!」

 

 ふむ。さすがに3日目ともなると、答えにひねりを加えていてるのに気付いたか。

 

「じゃあ二問目」

「えっ」

 

 まだクイズが続くと思っていなかったのか、小さく驚きの声を上げるアキ。

 

「さっき「まずは」って言ったでしょ。というわけで。このお肉はモモ肉の中でも硬めな部位なんだけど。さて、どうやってここまで柔らかくしたでしょうか」

「ふっふっふー。優輝、あたしをあまり甘く見ない方が良いよー。モモ肉だって思った時点で気付いてるもんね!」

 

 ドヤ顔でそう言い切り、続けて解答する。

 

「ソースに使ってるみじん切り玉ねぎに漬け込んだ、と思わせといて同じくソースに使ってるみじん切り舞茸に漬け込んだ! でしょ!?」

「不正解」

「ええっウソ!?」

 

 想定通りの誤解答とリアクションに、内心ほくそ笑む。

 確かに玉ねぎにも舞茸にも、お肉を柔らかくする成分が含まれているけど、今回はそれらに漬け込んではいない。

 

「ソースはひっかけ。正解は「牛乳に一晩漬け込んだ」でした」

「なにそれズルくない!?」

「でも事実だし。姉さんに聞いてみても良いよ?」

「瑞希に聞けって、優輝に不利なこと言うわけないじゃん……って、なんで負け惜しみみたいなこと言ってんだっけ?」

「さあ? まあクイズはオマケみたいなものだし、美味しく食べてもらえて僕は満足だよ」

「そんなことより早く食べさせてくださいー……生殺しですー……」

『あっ』

 

 ヒロが力なくそう呟く……オアズケしてたの忘れてた。待たされすぎてすっかりシオシオだ。

 

「ごめんねヒロっ、はいどうぞ――」

 

と、丼をヒロに差し出し

 

がしっ

 

「――って、どうしたの?」

 

た手を、アキに掴まれる。

 

「も、もう一口だけちょうだい?」

 

 どことなく悔しそうな顔で、そうオネダリされた……ふふふ。夜食でヤル気スイッチ作戦は、大成功かな?

 

「もともとアキのために作って来たんだから、遠慮せずどうぞ。あと一口くらい良いよね、ヒロ」

「ハイドーゾ」

 

 ……あんまり良くなさそうだけど気にしない。

 

「はむっ……んーみゅ、やっぱ美味い! ほいヒロ」

「待ってましたー!! はぐはぐはぐはぐもぐもぐもぐもぐ!! ほいひいへふ〜〜!!」

 

 ……こうしてお夜食は二人に美味しくいただかれ、結果。

 

 

 

 

 翌朝の朝鍛錬時。

 

「おっはーー!!」

「よーーございまーーーーすぅ!!」

「朝一でやかましい黙れ」

 

 アキヒロは、異様に元気いっぱいだった。計画通り……いやまあ、ヒロの方がテンション高めなのは、予定外だけど。

 

 まあ、なんにしても。

 

「これでより盛り上がりそうだね」

「まあ、張り合いはありそうだな」

 

 今日は、武闘祭初日。朝鍛錬は欠かさずするけど、準備運動的に軽く流すだけにして、お祭りに備えた。

 

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