優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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武闘祭、開催!

「おはよーおはよーグッモーニン!」

 

 朝食準備中、エリスが元気よくリビングに飛び込んできた。このテンション、武闘祭当日朝のアキを思い出すなあ。ふふっ。

 

「さーて今日の武闘祭の話、朝食楽しみにしてたんだよーなにかなー」

「正しい日本語の文法で話せ」

「おっ瑞希おはよー、こんな朝早くから起きてるの珍しいじゃん、武闘祭の話は食べながらで良いよー」

 

 確かに姉さんの言う通り、今日はエリスの日本語がおかしい。それだけ武闘祭の話が楽しみだったらしい。

 

「姉さんが構わないなら、食べながら話すよ。ちなみに今日の朝食は、」

「匂いからして……中華風卵粥?」

「正解。お好みで鶏そぼろ、青梗菜(チンゲンサイ)のおひたし、炒り白ゴマ、クコの実をトッピングしてね」

 

 そう言いながらリビングに入り、出来上がったお粥が入った土鍋をテーブルの鍋敷の上に置く。トッピングの入った器は、僕の後に続いていた静海が持って来て、テーブルに並べる。

 

 んー、それにしても。

 

「朝から土鍋料理。なんだか豪華な雰囲気ですわね」

「そだねー。んーおなかぺこぺこー」

「優輝の料理なのだ、ありがたく食え。おかわりも良いぞ」

 

 数日前から日記を見ながらの昔話を始めたわけだけど。

 

「朝食にこうして故郷組が一堂に会するの、何気に久しぶりだよね」

「そうだったか?」

「うみゅ、そうだったんだよねぇ。後は月影ちゃんがいれば……っと」

 

 慌てて口を手で押さえるエリス。

 

「……無い物ねだりをしても仕方がありません。ええ仕方がありません……はー……」

 

 せっかくの楽しい雰囲気が、少し暗くなる……僕も月影ちゃんがいたら、とは思うから、気持ちはわかるけど。

 

「とにかくいただきますしよ? それで、月影ちゃんも大活躍した武闘祭の話で盛り上がろう!」

「……そうですわね」

 

 寂しそうな笑顔でそう同意する蒼月さん。月影ちゃん欠乏症は深刻だなあと思いながら土鍋の蓋を開け、お粥をよそう。

 

 さて。昨日は確か、当日の朝鍛錬まで話したはずだから、次は……

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「あははははっ今日も元気だご飯が美味い!」

「ご飯が美味しくて最高の朝ですグッモーニンワールド!」

「やかましい静かに食え」

 

 朝食もハイテンションで平らげるアキヒロの2人……ちょっと元気にさせ過ぎたかな?

 

 ちなみに今日の朝食は、トマトレタス厚切りハムオーロラソースを挟んだマフィンバーガーと、コーンクリームスープ。いつもより軽めな朝食メニューだけど、満腹で武闘祭に挑むことのないように、て配慮だと思われ。

 

 まあ、ヒロはいつも通り、常人の3倍は食べてるけど。

 

「まあまあ姉さん、今日は大目に見てあげよ? せっかくのお祭りなんだし、それに……元気過ぎるのは、僕のせいだし」

「ならば許そう。存分に暴れろ」

「いやいや……暴れるは極端でしょ」

『あははははは!!』

 

 揃って快活な笑い声をあげるアキヒロ。

 

 うーん、なんていうか。最近のヒロ、仕草がアキに似て来た気がする。まあ幼馴染なのだし、ヒロの性格が明るくなれば写ったりもするのかも。

 

 さて。そんなこんなでいつもより賑やかに朝食を終え、今は訓練棟に向かっている。

 武闘祭の期間中、朝のホームルームはない。1年生は更衣室で着替え、訓練棟内で自由待機だ。

 

 訓練棟は、一般的な学校で言う所の体育館だ。ただし栄陽学園のこの施設は、十分な戦闘スペースを確保するため、かなり大きめに作られている。だいたい通常の3倍くらいらしい。

 

「いよいよご開帳だね! うぉおおおおワクワクして来たぁー!」

「俺も朝からワクワクしっぱなしだぜ!」

 

 訓練棟内は、普段は可動式の大きな壁板で、1年生の訓練区画と2、3年生の区画に分け隔てられている。理由は、いきなり上級生の高レベルな訓練風景を目の当たりにして、尻込みしたり面食らったりしないように、とのこと。

 そしてこの壁は、1年生が栄陽学園の戦闘訓練という特殊な授業に慣れ、上級生の実力を見ても衝撃を受けないレベルに実力が達するだろう秋口に取り払われる。まあ要するに、武闘祭の日にだ。

 

『今からぁ、間仕切り壁を開きま〜す。壁の近くにいる人はぁ、少し離れて下さ〜い』

 

 スピーカーから聞こえて来たネイの声の後、

 

ガチャン……ゴウンゴウン……

 

と駆動音を鳴らして、壁がスライドしていく。

 

 そうして開き切った先では、上級生が並んでこちらを見ていた……ちょっと威圧感。

 

『1年生の皆さん、ようこそ武闘祭の会場へ。私達上級生は、君達守護者候補生を歓迎します』

 

 舞台の上、始業式とかで学園長がありがたい話をして下さっている演台で、上級生代表生徒がそう挨拶した。

 

 金髪のさわやかイケメンだ。確か、現生徒会長の……纐纈(こうけつ) 直仁(なおひと)さん、だったかな。

 入学式の日の部活棟入口で、新入生に部活案内のビラを配っていた人だ。あの日の部活棟は人混みでごった返していたので、ビラを見ている余裕はあんまりなかったけど。

 

『武闘祭は、みなさんがこれまで守護者候補生として培ってきた努力の成果を披露する場です。是非全力を出し切って下さい、応援してます。ふふ』

『キャーーナオヒトサマーー!!』

『ちっ……』

 

 爽やかイケメンのキラリと輝く締めの笑顔に、女子の黄色い大声と男子の小さい舌打ちが会場内に響く……料理長さんの時を思い出す反応だね。

 会場の反応は男女で分かれているけれど、個人的にはその笑顔に嫌味なモノは全く感じない。やはり生徒会長は、アイドル的な人気と人となり、両方が加味されて選ばれるんだなあ。

 

『さて、上級生代表としての挨拶はこのくらいにしまして。これより、武闘祭を開催します!』

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 生徒会長さんの宣言と歓声により、会場がビリビリと震えた。いよいよ武闘祭、開幕だ。

 

 

 

 

 開催宣言を終えた生徒会長さんと入れ替わるように複数人が舞台に上がり、一人用演台が撤去され、長机・椅子・三脚マイクスタンドが二本設置され、三人が舞台上に上がって来て二人が椅子に座る。立ったままの男子生徒は手にマイクを持っているから、司会者かな。

 というか、真ん中の椅子に座ったのはネイ先生だ。で、その右隣の人は……羽織を頭に被って顔を隠しているから窺えないけど、体格や着ている着物からして――

 

『みなさんお待ちかね! いよいよ決闘(祭り)の火蓋が切って落とされる寸前となりましたぁ!』

 

――と考えている内に、男子生徒の司会進行が始まった。

 

『わたくしは放送部員にして司会進行と実況を担当致します、ケットー・マキヤマ! 解説は、去年3年D組の担任で今年1年D担任という変わり者集団ばかりを望んで担任し続ける変人! こう見えて一応ベテラン教師のぉ!』

『は〜い、私はぁ――』

『――ネイ先生の話し方は時間かかるのでキャンセルしまぁす! というかこんなオットリ喋りで果たして解説がマトモに務まるのでしょうか!? まぁ務まる理由はみなさんもうご周知かと思われるのでキャンセルしまぁす!』

『むぅ〜。な〜んか私の扱い雑――』

『早速武闘祭の概要説明と参りましょう!』

 

 うーん、今日のアキに負けないくらいハイテンションな実況者だ。というか雑な紹介をされたネイ先生がむくれた顔をしている、可愛い。

 

『と、例年なら続くのですが。今年はっ! ななぁんとっ!! 超特別ゲスト解説者がいらっしゃっていまぁす!!』

 

 司会者さんの台詞に、皆の視線が羽織の人物に集まる。まあ、僕と姉さんと友人達には、正体バレバレなのだけど。

 

「超特別ゲスト……一体何者なんだ……!」

 

 ……雅のそんな呟きが聞こえた。声色からしてノリとかじゃなく、本気で気付いていないようだ。さすが天然。

 

 それはそれとして。舞台上では実況者さんが、さk……羽織仮面の人物の後ろに回り、

 

『ゲスト解説者の正体は! この方でぇす!!』

 

羽織に手をかけてバッと持ち上げて顔を晒す。

 

『はじめましての方ははじめまして。守護者をさせていただいている、珠洲野守 咲です。上手に解説出来るかわかりませんが、よろしくお願いしますね』

『………………』

 

 しばしの静寂。予想外の人物だったからか、ほとんどの生徒が唖然としているようだった。

 

 一拍置いて。

 

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 会場内に開催の宣言の時以上の歓声が轟き、今日1番に空間がビリビリ震える。ていうかちょっと耳が痛い。

 

『珠洲野守様!?』『マジかよ!?』『ナマ珠洲野守様だぁ!』『うおおお噂以上に美人だ!』「なめたい」『でも』思ったよりは可愛い系だな!』「カワイイ!」『美人で可愛いお姉さんって感じね!』

 

 咲さんの容姿に対する様々な感想が飛び交う。まあ、守護者候補生にとっては芸能人以上に雲の上な人物であり、最終目標でもある人物なのだ。当然の反応だね。

 

『はーいはいはい皆様の歓喜と驚きは私もよぉく理解出来ますっ! んが! 進行が進みませんので静粛にお願いします!!』

 

 取り払った羽織を咲さんの椅子の背もたれにかけながらの実況者さんの呼びかけに、ややあってから静けさを取り戻す。

 

『ご協力、ありがとうございまぁす! それでは概要に移ります!』

 

 そう前置きしてから、武闘祭の概要説明が始まる。まあ、事前に渡されていた「武闘祭のしおり」の内容とあまり変わらないので、再確認みたいなものだ。

 

 要約するとこんな感じ。

 

 

◯1日2日目は一年生の部。

◯3日4日目が二年生の部。

◯5日目が三年生の部。

 

 3年生は下級生より生徒数が少ないから、少し早く終わる。その代わり?に、エキシビションマッチ的なものが行われる。

 1年生の学年上位4名は上級生の上位者への挑戦権が与えられるわけだけど……まあつまり、その挑戦試合のことだ。

 

 対戦相手は全クラス無差別で、くじ引き形式。エキシビションの組み合わせも同じくじ引きで決定される。クジには数字が書いてあり、同じ数字の相手が対戦者となる。

 

 1試合の制限時間は4分。その時点で決着がついていない場合、審判の判断でよりダメージを受けている方の負けとなる。

 

 

 まあ大体こんな感じだ。

 

 さっき生徒会長さんが言っていたけど。武闘祭は、入学してからこれまで守護者候補生として培ってきたものの成果を披露する場だ。

 入学当初こそ、クラスD意外はその時点での総合実力を加味されて割り振られているけれど。これまでの努力と隠された才能の開花状況次第では、クラスCの生徒がクラスAに勝つ、なんてこともあるかもしれない。さすがにクラスSは厳しいだろうけど。

 

 

 さて。一番重要なくじ引き結果だけど……

 

「初戦はハズレかあ」

「そだねぇ」

 

……友人達とは、誰とも当たらなかった。残念。

 

「まっ初戦はウォーミングアップってことね!」

「アキの強さは認めるけれど。まだ見ぬ対戦相手を格下と見なすと、足下すくわれかねないわよ」

「ん〜でもさぁ。アタシたちぃ、咲様に鍛えられ組じゃん? クラSでもソウさんツキちゃんレベなんてパイセンでもあんまいないだろし〜、ちゃけ余裕じゃん?」

「うむ」

「はい! 誰にも負けません!」

「……ん(こくり)」

「実力に自信を持つのは良い事だけれど、油断していい理由にはならないわ」

「うん、だよね」

「運も実力のうちと言いますから、油断で運を渡してしまう事もあり得ますわ」

「でもまあ咲様に鍛えられてても今の俺じゃあ、クラスSで一番弱いヤツにも勝てないだろうけどな!」

 

 雅だけ消極的とも取れる発言をするけど……悲しいかな事実だから、否定はしない。

 

 それにまあ。

 

「だからまあ、最初っから全力だぜ!」

 

 尻込みはまったくしていないから、善戦してくれるだろう。なにせ、咲さんに加え、僕の母さんにも鍛えられたのだから。

 

 こんな感じで、クジ結果への友人達の感想はいくつかに分かれたけれど。全員一致している思いもある。

 

「なんにしても」

「どっちにしても!」

「友達だからって、手は抜かないからね」

「うむ」

「もち!」

「です!」

「おう!」

「え〜めんど」

「まぁね」

「ええ!」

「(こくり)」

 

……一人だけ一致してなかった気がするけど気にしない。表情や声色は嫌がってないしね。

 

 そんな感じで意気込みを交わし合っていると、

 

『さぁていよいよ対戦の始まりです! 最初のカードは……どうやらクラスSとクラスDという勝敗の予測がつかないカードのようです!』

「っと、始まりますわね。というわけでみなさん、行って参ります」

 

 そう告げて、蒼月さんが対戦エリアに進み出る。

 

 蒼月さんのくじ番号は1だった。要するに、映えある武闘祭第一試合は彼女と、同じく1の番号を引いたクラスDの誰かが対戦相手、ということだ。

 

 で。

 

「ふっ……NO.1を引いてしまうとは、やはり我は王の器らしいな。そして同じくNO.1を引いたお前も、やはり我が嫁に相応しいということ……これは運命というものだ」

 

 ドヤ顔ドヤ声でイタイ発言をしながら、ゆったりとした歩調で僕らクラスDの集団から出てきたのは……まあ、台詞で分かる通り、彼だ。

 

「魔獣討伐時に証明された我とお前の圧倒的実力、まだ知らぬ民草に魅せようぞ!」

「対戦、よろしくお願い致します」

 

 相変わらず自分が将来この国の頂点に立っていると信じて疑わないキングムーブに、なんでもないかのように礼儀正しく綺麗なお辞儀をする蒼月さん。

 そのなんとも噛み合わないやり取りに、一時会場から静まり、妙な空気が流れる。

 

「キャー素敵ですキングー!!さすがの威厳ですキングー!!ハイッ!!」

『王様サイコー!! 王様ファイオー!!』

 

 そんな空気にめげずに彼を応援すり黄色い声が、少ないながらも上がる。時折僕につっかかってくる、最戸さん含むなぜかチアコスのキングファントリオだ。

 いや、三人以上の声が上がってたし、少しファンは増えているようだ。僕には理解しづらいけど、俺様キャラには一定の需要があるらしい。

 

 何にしても、キングファンの声援のおかげで場の空気が少し和らいだ。最戸さん、グッジョブ。

 

『……何やら一瞬妙な空気が流れた気がしましたが、気を取り直していきましょう! 最初の対戦はぁ! クラスはS、美しき黒髪の弓手、天王寺蒼月! 対するは玉石混交のクラスDより、謎の自信を振りまく俺様系イケメン! 二刀流の飯屋峰王者!』

 

 空気が戻った瞬間を見計らって、実況者くんが実況を再開する。

 

「両者、構え!」

 

 レフェリー役の先生の指示で、二人が定位置について構える……さて。これでようやく、

 

「レディィィィ……ゴオォォォォ!!」

 

カーン!!

 

『試合!!開始です!!』

 

 レフェリー先生が振り下ろした手と共にゴングが鳴り響き、武闘祭(たたかい)の火蓋が切って落とされた。

 

 ……ていうか、生徒も先生もかなりテンション高いなあ。まあお祭りなんだからこうでなくちゃ、とは思うけども。

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