優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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アキVS僕

 武闘祭第一試合が終わり、友人達は見事全員勝ち残っていた。

 

 蒼月さんと飯屋峰君の試合はどうしたって? さっき言った通り友人全員、なので、当然蒼月さんが勝った。それも圧倒した。

 

 内容は、えっと確か――

 

 

 

 

「ふははははは!!」

「……」

『天王寺選手、連弩のごとく連射! 本当に弓なのかぁ!? 対する飯屋峰選手は二刀で全て斬り払っています! なんと激しい応酬でしょうか!!』

『お互いやりますね』

 

 一見互角のように見えるけど、飯屋峰君が徐々に距離を詰めている。

 大半の弓使いの攻略法、近接戦に持ち込む腹積りなのだろう、けど。

 

(蒼月さんにしては、矢の弾道が直線的過ぎる……ふむ)

 

 なんとなく、蒼月さんの意図が見えた。

 

「流石我が嫁と褒めてやりたいところ、だがあ! ぬるいぞ!」

 

 そうしてついに、蒼月さんにギリギリ刃の届かない位置まで彼の接近を許してしまった――いや。誘導した。

 

(さて、蒼月さんはどう動くかな)

 

 もう半歩踏み込まれれば当たる、と言った距離で、蒼月さんはおもむろに弓を

 

ぽいっ

 

と放り投げた!?

 

「なに!?」

 

 弓手が弓を投げ捨てるという予想外の行動に、警戒して急制動をかける飯屋峰君。

 

(気持ちはわかるけど、それは悪手かな)

 

 一瞬棒立ちになる飯屋峰君。その刹那があれば、風属性の蒼月さんが近接戦闘の射程距離に入り込むには十分すぎる。

 前もって蒼月さんの射撃に違和感を抱けていれば、弓を手放した意味を少しでも察せていれば、彼ならガードも間に合ったかもしれない、けど。

 

(予想外の行動に対する判断が遅い。決着かな)

 

 剣を上段に構えた状態で静止していた彼に蒼月さんは踏み込み深く沈み込み、

 

旋風(つむじかぜ)!」

「ごぶぉ!?」

 

彼の顎に捻りを加えた風属性付与のアッパーカットを放った!

 

『王様ああああああ!?!?』

 

 天井近くまで打ち上げられ落下してくる彼を、今度は風のクッションでふよんと受け止め、衝撃映像を回避する蒼月さん。

 

 うん、なんというか。完全敗北だね。

 

 飯屋峰君がふわりと床に落ち付いたのを確認してから、レフェリー先生の方を向いて判定待ちをする。

 

「勝者、天王寺 蒼月!」

「対戦、ありがとうございました」

 

 その声を聞いてから、再び開始前のように飯屋峰君にお辞儀をして退場する蒼月さん。彼に意識はないようだから、聞こえてないだろうけど。

 蒼月さんのお辞儀の後、待機していた治療班が担架で速やかに飯屋峰君を運んで行く。

 

『あ、という間に終わってしまいました!! これは飯屋峰選手が井の中の蛙的なアレでイキっていただけという事でしょうか!?』

『いえ、彼は言動に問題があるためクラスDですが、実力だけならクラスSです』

『つまりは?』

『同じクラスSレベルとはいえ、天王寺選手の方が遥かに上手(うわて)という事ですね。やろうと思えば、弓術だけでも圧倒出来たと思います』

『なぜそうしなかったのでしょうか、ナメプでしょうか?』

『どちらかというと「弓手だからと言って接近戦が弱い訳ではない」、のアピールかと思います。飯屋峰選手も、大体の弓手が苦手とする接近戦に持ち込もうとしたようですが、逆にその心理を上手く利用されたカタチですね』

『なるほど! なんにしても流石一年クラスS上位と目される実力者! 鮮やかに魅せてくれました!』

 

 

 

 

――だいたいこんな感じ。

 

 弓をポイしたのは僕も驚いたけど、その程度で大きな隙を作るようでは、どうあがいても蒼月さんには勝てなかっただろうな、と思う。

 

 まあ、完膚なきまでに負けた人の事はどうでも良いとして。

 

「思ったより早かったね」

「うみゅ! 全力でぶつかるよー!」

 

 二巡目で、僕はアキと、

 

「今日こそ一撃入れてみせますっ!」

「ん……(こくり)」

 

ヒロは月影ちゃんと当たっていた。

 

 僕らの武闘祭は、ここからが本番だ。

 

 

 

 

『続いての試合は18番! 選手は……こぉれは実に面白くなりそうなカードです! クラスDの海老江選手、同じくクラスDの水城 優輝選手の対戦です!』

『おお……!』

 

 実況者さんがさらに興奮した様子で僕らの名前を読み上げ、会場内がにわかに騒めく。

 

『海老江選手は、一回戦にて縦横無尽な動きで相手を翻弄して圧倒したのは、皆様の記憶にも鮮烈に刻まれている事でしょう! 対する水城 優輝選手は、大剣で抜刀術の如く神速の一撃を繰り出し、クラスSの選手を瞬殺するという激烈なインパクトを与えた猛者です! いやが上にも期待が高まる対戦と言えまぁす!!』

 

 今実況者さんが言った通りの戦闘を披露したからか、僕らのカードは大いに注目を集めていた。ちょっと恥ずい。

 というか。『瞬殺』は的を射た表現なんだろうけど……殺したかった訳でも実際殺した訳でもないのだし、あんまり好きじゃないかな。

 

『さらに言えば、両選手は親友と呼び合う程の仲良しです』

『つまりは?』

『相手の手の内を熟知した仲なので、ハイレベルな試合が期待されます』

『注目の一戦という事ですね!? 全学年の皆様、このカードは決して見逃せませぇん!!』

 

 ちなみに聞いてて分かる通り、解説のネイ先生は通常会話(おっとり)モードではなく、早口会話(しっかり)モードだ。

 

「さて、いこうか!」

「押忍っ!!」

 

 僕はぺちぺちっと両頬を軽く叩いて、アキは手の平と拳を打ち鳴らしてそれぞれ気合いを入れ直し、一緒に対戦エリアに向かった。

 

 

「両者、構え!」

 

 所定の位置に着いて礼をし合い、レフェリー先生の指示のもと僕はいつもの肩に剣を乗せる構えを、アキもいつもの、腰を低くし両手のナイフ逆手に持ち、引き絞って狙いを定める弓手を思わせる構えを取る。

 

 刹那、固唾を飲む音も聞こえそうな程の静寂の後。

 

「レディィィィ……ゴオォォォォ!!」

 

 レフェリー先生が腕を売り下ろしたと同時、

 

「ふぅぅっ!!」

「《迅雷(弱)》!」

 

弓矢のアキと鉄塊の僕がお互いに襲いかかる!

 

 僕が魔獣戦時に多用している《迅雷》は雷属性の戦闘精霊術。雷結界を武器を含む全身に纏わせることで雷の如き速さで動けるようになり、超スピードによる回避困難な斬撃&電撃による必殺の一撃を放つ、がコンセプトの技だ。

 相手を『必ず殺すための技』として磨き上げてきたモノなので、殺し合いではない普段の模擬戦や今日のような試合で使う時は、出力を絞って使っている。

 ようするに何が言いたいかというと。相手を侮っての(弱)では決してない。

 

 それと(弱)の理由はもう一つ。

 

 (弱)でないと模擬武器の消耗が激しく、全力なら1、2回の《迅雷》でボロボロになってしまうのだ。学園からの無償の譲渡品とはいえ、使い捨て感覚は流石に申し訳なくて、なかなか頻繁には出来ない。

 

 さてそれはそれとして。

 

(やっぱりアキも初手から全力で突っ込んで来たか。僕も非殺傷モード時の全力だからお互い約束通り! うんっ嬉しい楽しい!)

 

ガインッ!!

 

 僕とアキの刃が打ち合う金属音が響き渡る。とはいえ僕の必殺レベルの一撃をアキが真正面から打ち合ったら、まず吹っ飛ばされるか武器破壊していたはずなので、力を上手く受け流したのだろう。

 

(すごいすごい! 入学当初のアキじゃあ出来なかっただろう芸当が出来るようになってる、さすが努力家アキ!)

 

 嬉しくなって勢いを殺さず一回転して追撃、一撃目よりもさらに速く鋭く!

 

「うっわ怖っ!!」

 

 いかにも恐怖を感じている声色で叫びつつ僅かに身を引きギリギリ避け、

 

(でもアキ、笑顔だ)

 

るだけでなく、通り過ぎる刹那に合わせて僕の大剣に両手のナイフを打ち当てて飛び上がる、その体重の乗った打ち当てで大剣の軌道が僅かに下がる!

 

(この動きは、となると――)

 

 そのままアキは空中一回転し、体重スピードを乗せた

 

「《紅蓮脚》っ!」

 

燃えるかかと落としを僕の後頭部目掛けて打ち下ろす!

 

(まあ予想通り、アキの得意技だものね)

 

 最初の授業の時は、攻性精霊術との組み合わせではないただの空中かかと落としだったなあとふと懐かしく思う。

 なんにしても、このタイミングで使ってくるだろう事もだいたい予想通り、つまり対策も考えてある、ちょっと思い切りがいるけど!

 

「ふっん!!」

 

 両足を地から浮かせ大剣を振り回した遠心力で体ごと引っ張らせて緊急回避!

 

「うっわそんなんアリっ!?」

 

 燃える蹴りが空振ったぼぉうっという音と共に予想外の避け方をされて驚愕の声を上げるアキ、けどまだ続くよ!

 

「らああっ!!」

 

 《迅雷》の出力を僅かに上げつつ纏った雷を操り姿勢操作、袈裟斬りの流れで引っ張られていた体の回転方向を、アキを脳天から真一文字に斬り下ろす流れに変え全体重を乗せる!!

 

「らめそれしぬうぐっ!!」

 

ガギイッッ!!

 

 アキは着地と同時に両足で思い切り踏ん張り両手のナイフを頭上にクロスして構えて僕の渾身の一撃をギリギリ受け止める。

 ちなみに防御が間に合わなかった場合、勢い的にこの模擬剣でも運が悪ければ死ぬ。まあアキなら回避なり防御なり間に合うだろうから、こうして遠慮なく攻撃したのだけど。

 

 さて、こうして受け止められて刹那とはいえ空中で静止させられてしまった。受け止めた衝撃に耐えるので精一杯のアキに追撃は多分無理だろうけど念のため、

 

「ふっ!」

 

さらに腕を押し込んで反動を付けて後ろに跳んで着地、間を置かず更にバックステップで大きく下がって距離を取りアキの出方を見る。

 

「んあーこれダメムリっ!」

 

 脳天一文字斬りを防いだ姿勢のままだったアキが尻餅をつき、両手を開きナイフを手放す。

 

「ふふ、もう終わり?」

 

 挑発するように微笑みながらそう聞いてみる。

 

「むぅ〜優輝のイジワルッ! 痺れでこれ以上戦えないって分かってるでしょ!」

「んー、そうなの?」

「そうなのっ! うぐぅ〜……」

 

 そう呻いて、開いた両手の平をぷらぷらと振る。可愛い。

 

 アキの言っている痺れは多分、一文字斬りを防いだ衝撃で手が痺れてナイフを握っていられない、のともう一つ。僕の《迅雷》の効果だ。

 

 《迅雷》は、持っている武器含む全身に雷結界を纏わせている。なので、この状態の僕に近接戦を挑むと、電撃で軽度のダメージを受けながら戦う事になる。

 その点アキの基本戦法は、リーチの短い二振りのナイフと持久力を生かしたヒットアンドアウェイによる長期戦を見越したものだ。僕の速攻特化な《迅雷》相手では、すこぶる相性が悪い。

 

 とはいえ、戦闘開始してからまだ10秒ちょっとしか経っていないので、アキの《迅雷》によるダメージと痺れは、まだまだ大したことないはずなんだけど。

 

 ちなみに、《迅雷》中は自分もちょっと痺れてたりする。耐性あるから肌がピリピリする程度だけど。

 

「最高のタイミングで放った《紅蓮脚》を避けられちゃった時点で、あたしの負け確よ……ていうか優輝の一撃重過ぎて肘と膝笑ってるしもうマジムリ」

 

 んー……相変わらず言葉足らずな感じだけど。要するに、あのレベルの《紅蓮脚》はもう放てないから勝ち目がない、てとこかな。

 どうやら、真一文字斬りをまともに受け止めたダメージは、僕が思っているより深いようだ。最後まで諦めずに動き続けて勝利をもぎ取る印象のアキだけど、そもそも自由に動けないんじゃあ勝ちようがない、か。

 

 もう終わりなのは残念だけど。殺し合いではないんだし、降参も仕方ないね。

 

「というわけで!」

「ということで?」

「海老江 茜葵、降参しまっす!」

 

 元気良くそう言いながら、ちょっとぷるぷる震えている両腕を上げて降参のポーズを取るアキ。チグハグ可愛い。

 

 レフェリー先生はその姿を見て頷き、

 

「勝者、水城 優輝!」

 

高らかに判定を述べた。

 

『はっはやいっ! 水城 優輝選手、さすがに一撃でノックアウトとはいきませんでしたが、再びあっという間に決着をつけてしまいましたぁ! というか色々と速すぎて満足に実況出来なかったのはお許し下さい!』

『うんうん、実に見どころのある試合でしたね』

『私には速過ぎて何がなんだか! 珠洲野守様、次元の違うこの試合のご感想をどうぞ!!』

『そうですね……切り替えの速さと的確な判断力の応酬が素晴らしかったわ。お互い自信を持って放った技を回避されてしまって、だからと言って止まらないですぐに的確な次の一手を繰り出し続ける。出来る子はそうはいないと思いますよ』

『なるほど! なんにしても水城 優輝選手は今武闘祭学年上位候補と言って差し支えないでしょう! 彼女の今後の試合も期待大でありまぁす!』

 

 僕は実況の声を聞き流しながら、尻餅をついたままのアキに近寄りながら語りかける。

 

「一人で立てる?」

「んみゅ、まぁだいじょぶ……ちらっちらっ」

 

 ……とはいいつつ、僕の手をあからさまにチラ見する。

 

(顔に「手を貸して欲しいなっ」って書いてある。可愛い)

 

 それと。普段なら声に出して要求するだろうにそれをしないってことは……企んでるね、これ。

 

(まあ、膝にダメージ与えちゃったのは事実だし、甘んじて受けよ)

 

 大体何をしたいのか予想ついてるしね。

 

「ほらアキ」

 

 模擬剣を左手で持って右手をアキに差し出す。

 

「ありがとーおっととぉ!」

 

 手を掴んだのを確認してアキを軽く引っ張り起き上がらせると、少しわざとらしい感じにアキがたたらを踏み僕にガバッと抱きついてくる。やると思った。

 

「あっ優輝ごめーんありがとね!」

「はいはい」

「……バレてるか」

「まあね」

「でも受け入れてくれる優輝大好き!」

 

 そう言って顔に顔をスリスリするアキ。衆人環視の中なので、流石にちょっと恥ずい。

 

「もうくすぐったいって、ほら行くよ」

「ほーい!」

 

 それはそれとして、いつまでも対戦エリア内にいては邪魔になるのでそのまま歩き出した。

 

『美しいユウジョウシーンです! 美少女同士の密着スキンシップ、ごちそうさまでしたぁ!!』

『うむ、『『ごちそうさまです』』だ』

 

 退場時、何故か感謝された。同意の声が会場内の至る所から聞こえてきたけど気にしない……聴き慣れた人の声が混ざっていたけどそれも気にしない。

 

 

 

 

「ふむ、まあまあだったな。最後降参したのは情けなかったが」

「けどよ、優輝さんの一撃必殺を阻止しただけでも大金星だぜ!」

「それにしても、優輝さんの三連撃は凄まじかったわね」

 

 友人達の僕らの対戦への感想は、だいたいこんな感じだ。おおむね高評価かな。

 

 

 

 

 アキとの対戦後は、試合を観戦しつつ僕らの対戦とか友人達の試合の反省会をする。

 ちなみにこの二巡目で他に敗退した友人は、雅だ。結構善戦したけど、クラスAの人相手は雅にはキツかったようだ。

 

「攻撃は最大の防御とはいうけどよ。ガードもやっぱ重要だよなぁ……もっと上手くならないとなー。後で月影さんにコツ聞いとこう」

 

 雅は、防戦に回されると押し切られてしまうことが多い……友人達と組み手稽古する時、月影ちゃん以外だとまず防戦に回されてるから、本当に苦手なのだろう。まあ、自分の弱みを知っているのだから僕から言うことは特にない。

 

 ……というか。付き合ってる二人が揃って同巡目で敗退か。

 

 

 さて。雅が「後で聞く」と言った理由だけど。

 

『続いての試合は36番! ……こぉのカードも要注目ぅ! クラスSから、今学年最強候補と目されている(しろがね)の小さな要塞! 天王寺 月影選手! 対するはクラスDより、水城 優輝選手と同じく前二試合とも相手をワンパンでノックアウトした、爆にy……爆進美少女! 鯨井選手でぇす!』

『おお……!』

 

次の試合の出場者だからだ。

 

 ……ヒロの事をいやらしく紹介しようとした実況者君は、多分後でネイ先生に叱られると思う。

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