優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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瑞希vs蒼月

 さて、そんなこんなで二巡目はすべて終了し、日を挟んで今日は三巡目から。

 

 三巡目では、姉さんとパフィンさんが当たっていたけど……いつもの授業とあんまり変わりない、いつも通りの展開だった。

 

「もうムリィ〜、コーサンしま〜す」

「ふむ、まあこんなものだな」

「勝者、水城 瑞希!」

 

 一応お祭りなので、いつもの組み手稽古時よりは真面目に戦っていたし、銃剣型に変えてから前より善戦するようにはなったけど。パフィンさんは姉さんには勝ったことがなく、今日もいつも通り降参していた。

 

 というかパフィンさん、姉さんにはまず勝てないと思って全力を出していない節がある。まあ実際、姉さんとても強いから、全力出しても勝てないだろうけど。

 

 まあ……なんというか。僕ら友人達にとっては見慣れていて、見所がなかった。

 

 ということで、ちょっと特殊な試合があったので紹介。正確には、試合ですらなかったのだけど。

 

 それは、三巡目の加藤さんと小椋さん、四巡目の加藤さんと萩さんの試合?だ。

 要するに、武将加藤家の末裔とその家臣の末裔との試合なわけで。武闘祭前から、この組み合わせになったらどう展開するか注目されていたのだけど……予想外の展開になった。

 

「トーカ様に攻撃なんて出来ません! 棄権します!」

 

「家臣が敬愛する主君に弓を引くなど、あろう筈がございません」

 

 家臣二人とも、即棄権したのだ。

 

「クラスSの訓練の授業では、お馴染みの展開なんですけれどね」

「ん……(こくり)」

 

 天王寺姉妹情報によると、いつもの事らしい。

 

 ちなみに、試合開始前に棄権した二人は、後で特別訓練授業を受けさせられるらしい。栄陽学園流の、体育科目の追試的なものらしい。

 

 

 

 

 さて。ちょろっと四巡目の話をしたけど、ここで試合数について。

 

 一年生は200人なので、四巡目に残り生徒25になり、2で割り切れなくなる。ので、一人くじ引きでシード枠を引き当てたような感じで、四巡目の試合が免除される。

 五巡目も13人になって一人試合免除されるけど、四巡目五巡目でシード枠を引き当てた生徒は、残り試合強制的に一番手になるので、連続しての試合免除は起きないようになっている。

 最後の六巡目も、シード枠で上位4名扱いされる生徒が一人出るのだけど。ここまで勝ち残った時点で相応の実力は証明されているので、文句はほぼ上がらないらしい……とまあ、だいたいこんなシステムだ。

 

 ちなみに、二年生は200人、三年生の生徒数は100人なので、やはり途中で2で割り切れなくなるので先程のシステムが適用される。

 

 さて、話を四巡目に話を戻そう。

 

 加藤さんの試合?はともかくとして、四巡目で注目の試合はやっぱり、

 

「ふむ。何気に、お前との対戦は初だな」

「そうですわね。お手柔らかにお願いします」

「断る」

「ですか。ではお互い全力で」

「うむ」

 

姉さんと、蒼月さんのカードだ。

 

 

 

 

『さあ皆さん、次はおそらく四巡目一番注目の試合になること間違いなしでしょう! 12番の試合はクラスSより! 天王寺 蒼月選手! 対するはクラスDより! 水城 瑞希選手!』

『おお……!』

『蒼月選手は言わずもがな、ここまで圧倒的な実力で勝ち進んで来ました! 対する瑞希選手ですが、中距離からの水属性攻精術と近距離での短剣による猛攻と、隙のない戦いぶりで安定した印象です! が! 彼女はあの水城 優輝選手の双子の姉! まだ実力を隠していると思われます!』

『実力を見せていないのは確かですね。というか、今大会での彼女の戦闘スタイルは、本来の彼女のものではないんですよね』

『というと?』

『彼女は、拳銃型の使い手ですので』

『なるほど、武闘祭では本来の実力を見ることは出来ないと! 惜しいものがありますが、殺し合いではないので致し方ありません!』

『いえそうじゃなくて』

『はい?』

『相手は、一年生上位の実力者である蒼月選手です。なので、本来のスタイルではないにしろ、プライドの高い瑞希選手は相手に敬意を評して全力で戦うはずです。そして――私も、銃を持っていない状態での彼女の全力は、見たことがありませんので……とても楽しみです』

『なるほど、ネイ先生でも予測がつかないと! 何のための解説役なのでしょう!』

『ちょ』

「両者、構え!」

『さあそんなことよりいよいよ試合開始です!』

『私にだってわからないことはありm』

 

「レディィィィ……ゴオォォォォ!!」

 

カーン!!

 

 前解説が長かったので、レフェリー先生の判断で強制的に試合開始したようだ。むくれて口をつぐむネイ先生可愛い。

 っとそれよりも、楽しみだった姉さんと蒼月さんの試合に注目しよう。

 

ビュビュビュビュンッ!

 

 ゴングとほぼ同時に蒼月さんが矢を連射していたようだ。対する姉さんは――

 

「やはり凄まじいな、だが――」

「!」

 

――短剣で斬り払いながらゆっくり歩を進める。

 

 その様子に蒼月さんは驚いた表情を見せつつ、矢を射る手は止めない。驚いても攻撃の手を一切休めない精神力に感嘆する、流石は蒼月さん。

 

 しかしまあ。初見はやっぱりアレ、驚くよねえ。

 

「……アレどうなってるのん?」

 

 呆然とした顔と声でアキがそう呟く。

 

 「アレ」とは何かは、まあ聞き返す必要はない、見たまんまだ。

 

 姉さんは短剣で矢をいくつか斬り払いながら距離を詰めている――全部の矢を、ではない。

 蒼月さんが手を抜く訳はないから、矢は全部姉さんの体のどこかしらに必ず当たるコースだろう。

 要するに、一切の無駄撃ちはしていない――はずなのに、半数以上の矢は姉さんにギリギリ直撃しないコースに逸れていた。

 

『おおっと、蒼月選手の矢が全く当たりません! これはどうしたことかっ矢避けの加護的な何かでしょうか!?』

『防精術にそんな限定的なのはないです。あれは多分、水属性防御結界でしょう』

『防御結界ですか!? にしては、矢が弾かれているという感じには見えませんが!』

『アレは恐らく、月影さんの護身術と似た性質です。彼女の防御結界に触れた矢は、流水に流されるかのようにするりと流されたのでしょう』

『なんとその様な性質の結界が!?』

『流石にすべては無理なので、正面直撃コースの矢のみを剣で斬り払っている、といったところでしょうね』

 

 実況君と解説のネイ先生のおかげで、僕の説明の手間が省けて試合に集中出来るのが良いね。

 

 と、実況席の声が途切れた瞬間、ゆっくり間合いを詰めていた姉さんが歩みを止める。位置は中距離、姉さんの攻精術の有効射程範囲内。

 

「蒼月。お前の真髄は、このような普通の矢ではないだろう?」

「…………」

 

 矢を斬り払いつつ、姉さんが話しかけ始めた。

 

「普通の矢を使うのは、練習のようなもの。お前の攻撃の本命は、風の矢、もとい、風の刃だ」

 

 ……会話というか、挑発、かな。

 

「先程言っただろう、お互い全力で、と。こんな訓練モードの攻撃が、お前の全力な筈がない」

 

 蒼月さんは別に、手を抜いている訳ではない。けど姉さんの言う通り全力ではない、というか、対人戦で全力――風の刃の矢という殺傷力高めな攻撃はほぼ使わない。

 姉さんが練習や訓練モードと言ったのはそれが理由。蒼月さんは、風の刃の矢という攻精術だと殺傷力が高いので、まだ目視し易い物理の矢を使って射撃の練習をしているのだ。

 姉さんが訓練時に殺傷力の調整が出来ない(というか面倒だからしない)銃を使わないように、蒼月さんも万が一がない様に、殺傷力の調整の難しい風の刃を訓練では滅多に使わない。夏休み中に、月影ちゃんとの模擬戦でちょっと使っているのを見たことがあるくらいだ。

 

 ……こういう所も似たもの同士だよね、2人は。

 

「さあ、ウォーミングアップはこのくらいにして――やろうか、全力(殺る気)で」

「……」

「お前程の実力者なら、銃持ちでない私の全力ではそうそう死にはしない。だろう?」

 

 さらに挑発し、蒼月さんのヤル気を高める姉さん。それまで無言で矢を射続けていた蒼月さんは、

 

「ふふ」

 

短く微笑み、つがえようとしていた矢を矢筒に仕舞い、

 

「では――本番といきましょう」

 

キリリと弓を引き絞る蒼月さん。矢を番えていない、ように見えるけど、目に見えないだけで番えているのだろう。引き絞った弦から微風が発生していて、彼女の黒髪がなびいているから。

 

「《疾風牙》!」

 

ビュオゥッ!

 

 普通の矢が放たれた音とは少し違う音が放たれ蒼月さんの長い黒髪が勢いよく後ろへ靡く。風のだから不可視だけど、矢を放ったのだろう。

 

ガギンッ

 

 姉さんが半歩横にズレて短剣を振るうと、衝突音と共に髪がブワッと激しくなびく。

 

「ふむ」

 

 姉さんの頬が薄皮一枚切り裂かれ、血で滲む。防御結界を斬り裂いて傷付いたらしい。

 

「ふ」

 

 頬の血を指で拭い、不敵にニッと笑う姉さん……あー、あの楽しそうな顔。殺す気な本気で行く時の顔だ。

 

「ふふ」

「ふふふふ♪」

 

 お互い似たような笑顔を浮かべ、蒼月さんは弓を再び引き絞り、姉さんは短剣を蒼月さんに突き付ける構えをし――

 

「《アクアバレット》!!」

「《疾風牙》!!」

 

――姉さんが水球弾を乱れ打ちながら突撃し蒼月さんが不可視の風の矢を乱射しながら姉さんと一定の距離を保ちながら駆け抜け、

 

バヂュバヂュバヂュバヂュ!!

 

風刃と水弾がぶつかり弾ける音が会場内に鳴り響き続ける!

 

 

 

 

カンカンカンカンカンカーン!

 

「そこまでっ!」

 

 結局二人は、制限時間まで弾幕追いかけっこをし続けた……とまあ、これだけ聞くとサバゲーでもしていた風に聞こえるけど。実弾使用しているようなものなので、実際は正気の沙汰じゃない。

 

 姉さんと蒼月さん、お互いの実力をよく理解し合っているから出来る芸当だから、良い子は絶対にマネしちゃダメだよ。

 

『なんという激しい攻防だったのでしょう! 両者一歩も引かず、まさに互角と言って良い一戦でした! 珠州野守様、ご感想を!』

『どちらの攻精術も、まともに当たったら間違いなく大怪我を負う強力なものでした。そんな攻撃を最後まで繰り出し続けた集中力、素晴らしかったですね』

『なるほど、ありがとうございます! さて、結果はレフェリー先生の判定になりますが!』

 

 試合終了のゴングの後、お互い肩で息をしながら開始位置に戻り、判定が下るのを待つ。

 そんな二人の様子は……うん、なんていうか、仲良く髪ボサボサの服ボロボロだった。美少女が台無しである。

 

(んー……傷は蒼月さんの方が目立つけど、姉さんは水の結界の効果で小さい傷がすでに塞がってるだけで、服の破け自体は姉さんの方が多い。つまり、実際ダメージを負った回数は姉さんの方が多い……はず)

 

 そう頭で予想していたところで、レフェリー先生が二人の間に立った。

 

『情報が入ってきました! 今回の試合、ダメージ蓄積料は水城 瑞希選手の方が多いと判断されたようです! よって!!』

「勝者、天王寺 蒼月!」

『おおおおおお!!』

 

 判定に会場が沸き立つ。やっぱり蒼月さんの勝ちか。

 

「うむ、まあそうであろうな」

「私としては、ほぼ互角だと思いましたが。審判先生がそう判断したのなら、受け入れますわ」

「まあ、良い運動になったな」

「ふふ、そうですわね」

 

 二人とも、判定に不満はないようだ。というか、スッキリした顔をしている。ここまで手応えのない相手ばかりで微妙にフラストレーション溜まってたっぽい。

 

 

 

 

 さて、姉さん蒼月さんの試合が、四巡目最後の試合だったわけだけど。

 

「後楽しめそうなのは……月影ちゃん、蒼月さん、サチさん、加藤さん、かな」

 

 さてさて。この内誰かと当たるかな?

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