優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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サチvs透華

 小休止を挟んで五巡目。六巡目含めて残り9試合だ。

 

 で。僕は2番だったわけだけど、対戦相手は、

 

『五巡目2番目は! クラスAより、最戸(さいと) (めぐり)選手! 対するはクラスDより、水城 優輝選手です!』

 

 キングファントリオのリーダー格の、最戸さんだった。

 

「ついに公の場であなたをぶっ飛ばせるわね!」

「よろしくね」

 

 開始位置に立った所でシュシュッとシャドーボクシングをしながら話しかけられた。

 

 素手でシャドーボクシングしてたけど、彼女の武器はステゴロではなく、ジャマダハル。グリップを握りこみパンチの要領で刃を突き刺すアレだ。種類としては短剣かな?

 

 ちなみにトリオの他2人、遠木さんは二巡目にサチさん、大城さんは同じく二巡目に加藤さんと当たり、既に敗退している。

 

『優輝選手については、もう説明不要でしょう! 対する最戸選手は、クラスA上位の実力者! 前試合ではクラスSの生徒に一歩も引かず判定勝ちをもぎ取ったガッツある選手! これまでほとんどの相手を一撃で沈めてきた優輝選手にどう立ち回るか、要注目です!』

「実況の人が言ってたけど! 私ガッツだけは自信あるから! 一撃でKO出来るとは思わないことね!」

「うん、期待してる」

「ふん、余裕ぶっちゃって」

 

 最後にそう捨て台詞を残して、両手にジャマダハル型模擬剣を装備する最戸さん。

 

 さて。ここまで勝ち進んで来た訳だし、クラスSの人にもなんとか勝ってるし。確かに最戸さんは、クラスA上位の実力はあるのだろうけど。

 

(失礼かもだけど――役不足)

 

 多分、一撃で倒せる。

 

「両者、構え!」

 

 レフェリー先生の指示が出たので構える。

 

「レディィィィ……ゴオォォォォ!!」

「《迅雷》!」

「さあ来い!」

 

 最戸さんはこちらに水を纏った刃を突き付ける。恐らく受け流すつもりなのだろうけど――

 

「はああ!!」

 

 ガアアン!!

 

「アババババーーッ!?」

 

――受け流せずまともに食らい、感電しながら吹っ飛んだ。

 

「勝者、水城 優輝!」

 

 

 

 

「優輝の重すぎる一撃、この数試合見ただけで受け流せるわけないじゃんねぇ」

「うむ、当然だな」

 

 

 

 

 さて、僕の五巡目はともかく。今回一番盛り上がった試合の話をしよう。

 

『6番目は! クラスSより、加藤 透華選手! 対するはクラスDより、塩谷 幸子選手です!』

 

 この2人のカードだ。

 

『加藤選手は、優輝選手の様な速さはないものの、戦鎚による重い一撃で相手を粉砕し続けて来ました! 加藤選手の前では、下手な防御は返って命取りと言えるでしょう! 対する塩谷選手は、相手の動きを良く見極める堅実な立ち回り、そして太刀による鮮やかな抜刀術で危なげなく勝利して来ました!』

『とはいえ、お二人とも今武闘会では、まだまだ全力は見せていないと言えます。特に加藤選手は、魔獣討伐時に比べたら大人しすぎると言っていいですね』

『つまりは?』

『塩谷選手はクラスSの実力があります。なので、この試合で加藤選手の本気が見られると思って良いでしょう』

『なるほど! クラスS上位陣レベルの実力、皆様刮目してご覧あれ!』

「両者、構え! レディィィィ……ゴオォォォォ!!」

 

カーン!!

 

「疾っ!」

 

 試合開始直後、戦鎚を下段に構え地を滑るような動作で疾走する加藤さん。重そうな武器の割に接近スピードはなかなか早い、というか特攻のような勢いだ。

 

「……」

 

 対するサチさんはこれまで通り冷静な視線で相手を見据え、

 

「破っ!」

 

ブオン!!

 

半歩下がり上体を反らし避ける。

 

「羅ぁっ!」

 

 避けられたことを気にせずブオンブオン重そうな音を響かせ連撃を繰り出すけど、サチさんはすべて難なく避ける。けど、相手の攻撃が苛烈だから反撃には移れないでいる。少し距離を置かないと……

 

 十数秒の連撃の後、急にバックステップで大きく下がる加藤さん。サチさんが咄嗟に抜刀しようとピクリと動いたけど、加藤さんの離れた速度の方が僅かに早く、間合いから外れてしまう。さすがにクラスS上位、簡単に隙は晒さない。

 

 サチさんは刀の柄に手をそえ少し腰を落とし、いつでも斬りかかれる態勢ですり足でジリジリ距離を詰める。本格的に攻撃に転じる気のようだ。

 

「わたくしの連撃を難なく避ける観察眼、さすがですわね。特別に褒めて差し上げますわ」

「ええ、ありがとう」

「そして、感謝もしてあげますわ――今回の武闘祭で、やっと全力を出すに値するお相手と当たったのですもの!」

 

 興奮したようにそう叫び、精霊術を行使する加藤さん。

 

「《地烈波》!」

「!」

 

 その場でブオンと振り抜いた戦鎚から発生した衝撃波と石礫が、床を走りサチさんに襲いかかる。ここまでの試合では使用していなかった、加藤さんの地属性の攻精術だ。

 

「《風刃結界》!」

 

 サチさんは完全には避けきれないと判断したのか、鞘から抜刀して刃を走らせ風の防御結界を張る。《風刃》とあるように、近付いたものを鎌鼬で傷付ける攻撃性を伴った結界だ。あれなら衝撃波も礫もすべて防げるだろう。

 

「たああ!」

 

 サチさんは結界を張っただけでなく、そのまま《地烈波》に突っ込む、もとい加藤さんへと距離を詰める。

 

「《烈風剣》!」

「《岩砕破》!」

 

 間合いに入った瞬間サチさんが、凝縮された風の力を居合と共に抜き放つ得意技を放ち、合わせて加藤さんが地の力を凝縮し纏わせた戦鎚を打ち当てる。

 

ギギャアアン!!

 

 風と岩、金属と金属が撃ち合う激しい音がビリビリと空気を震わせる。やっぱり精霊術がぶつかり合うのは良い、とても興奮する。

 

「くっ」

「うっふふ」

 

 衝撃でお互い弾き飛ばされ離れるけど、

 

「奮っ!」

 

 着地の際、激しく足を踏ん張り衝撃を無理やり殺し間を置かず駆け出す加藤さん。なかなか思い切った切り返し。力強くて素敵だ。

 サチさんも負けず、着地の衝撃を風と足捌きで緩和し静止、迫ってくる加藤さんへ

 

「《疾風剣》!」

 

抜刀し鎌鼬を纏った衝撃波を放ち牽制する。

 

「砕!」

 

 対する加藤さんは駆けながら戦鎚を振り《疾風剣》にぶつけ無理矢理散らす。完全に散らし切らなかった鎌鼬が加藤さんの足を浅く斬り裂く。

 

「羅ぁっ!!」

 

 それを意に介さずその場で飛び上がり、サチさんの間合いに僅かに届かない位置の床に戦鎚を思い切り打ち下ろす。

 

「《震烈波》!!」

「なっ!?」

 

 地震かと思うような激震に、サチさんが僅かにバランスを崩す。そこに追撃するように、砕けた床材の破片の礫が足元から襲いかかる。

 

「くっ《風力結界》!」

 

 咄嗟の判断で簡易結界を張って礫を防ぐ。簡易だから強度不足で全部は防げず、いくつか突き抜けた礫がサチさんの足を傷付ける。疾風剣で足を傷付けられた事への意趣返しだろうか。

 

 礫攻撃を最小限のダメージで防いですぐ立ち直るけど、加藤さんにとっては十分な時間。

 

「不ぅーっ!!」

 

 戦鎚を振りかぶり地属性の精霊力を溜めて大きく一回転、立ち直ったばかりのサチさんへ遠心力を乗せた必殺の一撃を打ち下ろす!

 

「《岩砕烈破》!!」

「《疾風剣》っ!」

 

 サチさんもなんとか攻撃を繰り出せたけど、咄嗟の《疾風剣》では加藤さんの重い攻撃は受け切れず、

 

バギィイン!!

 

「ぐっ!」

 

サチさんの模擬刀が耐えきれずに砕け折れる。

 

「羅ああ!!」

 

 加藤さんは止まらずとどめとばかりに裂帛の声と共にブン回す!

 

「《疾風剣》っ!」

 

 それに対し、残った柄を両手で持ち直し迫る戦鎚に打ち当てる。当然柄も破壊されるけど、

 

「ふうっ!」

 

反動を使って加藤さんから距離を取る事に成功する。柄による一撃は攻撃ではなく、回避目的だったようだ。

 

「疾っ!」

 

 間を置かず追撃しようと駆け出す加藤さんだけど。

 

「そこまで!」

「っ!」

 

 レフェリー先生の静止の声に急停止する加藤さん。サチさんは、短く両手を上げていた。

 

「降参します。武器破壊された時の衝撃で、これ以上腕が動きそうにないので」

 

 僅かに震える腕を掲げて、降参する。キチンと理由を伝えるところが実にサチさんらしい。

 

「……ふぅ」

 

 サチさんのセリフを聞いて、加藤さんが力を抜いて戦鎚を下げ、一息吐く。

 

「勝者、加藤 透華!」

『ワアアア!!』

 

 レフェリー先生の判定に会場が沸く。熱戦だったものね、当然だね。

 

「流石です、加藤さん。対戦、ありがとうございました」

 

 サチさんが加藤さんへ近付き、握手を求めて手を伸ばす。

 サチさんは毎回、相手をKOしていない限り敬意を評して必ず握手を求めている。生真面目可愛い。

 

 それに対し加藤さんは、

 

「腕、痛いのでしょう? 我慢しないでサッサと治癒を受けに行きなさいな」

 

若干呆れたような表情でそう返した。

 

「骨折はしていないと思うから、握手が先よ。感謝は、出来るだけ早い方が良いものでしょう?」

「……生真面目ですわねぇ。まぁ、そうまで言うのでしたら」

 

 苦笑しながら、サチさんと握手する。

 

強敵(とも)への感謝の握手。なんと美しいのでしょう! 皆様、両選手の健闘を称え拍手を送りましょう!!』

 

パチパチパチパチパチパチ……!!

 

 大きな拍手が上がる。一撃必殺の一方的な試合も悪くないけど……力と力のぶつかり合い、技と技との鎬の削り合いの方が、お祭りとしてはやっぱり盛り上がるしね。

 

(まあ、僕はショーとして魅せる主義はないから、戦闘スタイルは変えないけど)

 

 にしても。確か訓練館の床材は、精霊術の衝撃をある程度緩和吸収する、壊れにくい特殊な素材で出来ているはずなのだけど。少しとはいえ、精霊剣無しで破壊出来るとは。

 

(……加藤さんと戦いたいな)

 

 拍手喝采を受けて照れ笑いを浮かべるサチさんと、満足げなドヤ顔で手で髪をファサッとかきあげる加藤さんを見ながら、僕はそんな事を考えていた。

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