優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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挑戦試合

「この日がきっかけで、加藤さんとも友達として付き合い始めた感じかな……まあ結局、親友と呼べるまでの仲にはなれなかったけど」

「……ですわね」

「今も名字にさん付けだし、蒼月も様付けしてるし。なんか理由あるん?」

「理由は…………やっぱり、壁役がいたから、かな」

「壁役?」

「従者のお二人ですね。正確には、萩さんお一人なのですが……」

 

 ……いつでも張り付いたような笑みを浮かべていた萩さん。彼女は、加藤さんに悪い虫が付かないように……どころか、加藤さんが出来るだけ誰とも仲良しな間柄にならないよう動いていたのだろう。

 なので、学生時代に加藤さんとギリギリ友人と言える関係だったのは……僕、蒼月さん、月影ちゃん、後は……サチさん、かな。それくらいで、親友レベルの付き合いをしていた人は、親友兼従者の2人以外いなかったと思う。

 

(……。萩さんと仲良くなれてれば、もしかしたら……)

 

 ……いや。もう終わってしまった話だ……ifで頭を悩ませるのはよそう。

 

 僕と蒼月さんが黙り込んでしまったので、なんとなくしんみりとした空気になってしまった。

 

「さて。腹が減ってきたな」

 

 空気を読んで?姉さんが話題転換してくれた。

 

「ん、そうだね……話の区切りも良いし、少し早めだけど。そろそろお昼ご飯の仕込みしよっか?」

「了解致しました」

 

 僕が目線を向けると、即返してくれる静海。

 

「ねね、お昼何にするん? おにくたべたーい」

 

 さっきまでのしんみり空気なんて知りませんよーとでも言うように、エリスが朗らかな声で聞いてくる。好き。

 

「朝は中華風お粥だったでしょ。せっかくだから、今日は中華デーにしようかなって。何作るかは、後のお楽しみね」

「ほーい」

「卵料理もお願いします」

「ん、了解」

 

 

 

 

 ただ今調理中。鶏ガラベースの葱と卵のスープ、卵・葱・焼豚のシンプルな炒飯、それと青椒肉絲。2人のリクエスト通りの、卵かお肉を使った料理達だ。

 

「そう言えば、思い出話の続きだけど」

「うみゅ?」

「二年生三年生の試合に関してなんだけど。日記に詳細書かなかったから、かなりうろ覚えなんだよね」

「ふむ。まあ確かに、印象に残った試合はないな」

「てゆか、優輝さんが関わってない時点で瑞希が覚えてるとは思えない!」

「はは、当然だとも」

「まぁ、気持ちは解ります」

「というわけで、具体的には話せないんだけど……どうする?」

「無理に話さなくて良いよ。書いてない、覚えてないってことは、優輝さん的にも印象に残った試合がなかったってことでしょ?」

「まあ、そういうことだろうね」

 

 となると……んー。

 

「じゃあその辺りの話は流す程度にして。上級生への挑戦試合の話をするね」

「オッケー!」

 

 ということで。次は主に武闘祭最終日、僕らの一年生上位4名の、上級生への挑戦試合の話をすることになった。

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

 武闘祭最終日。三年生の試合が終わったら、僕らの挑戦試合で、武闘祭の締めとなる。

 

 それにしても。なんというか、うーん……まあ、二年生の部よりはまだ見応えある試合もちらほら……

 

「うわ……私達、強すぎ……?」

 

 アキがそう呟いていた。多分一年生全員思ってはいたけどあえて口には出さないでいたのに……

 

(……まあ、僕もアキと同意見なわけだけど)

 

 失礼だとは思うけど。正直言って、特に二年生全体の実力の平均は、今年の一年生より低いと思う。

 まあ、接戦の試合は多かったので、スポーツ観戦的な視点で見られる人なら盛り上がれたのだろうけど。僕的には、得られるもののほぼない試合ばかりだったので、正直退屈だった。

 

 ……いつだったか、ネイ先生が言っていたことを思い出す。「今年の一年生は実力派揃い」、だったかな。自惚れ過ぎるのは良くないけれど、それが真実であると実感した数日だった。

 

 

 

 

 でもまあ。

 

「流石に三年生上位陣の試合は、それなりに見応えあったよね」

「そうでなくては張り合いがありませんわ!」

「ですが、負ける気はしませんね」

「……(こく)」

 

 三年生の部の試合が全て滞りなく終わり、残る試合は一年生上位4名の上級生への挑戦試合のみ。

 僕らの武闘祭での、本当の意味での最後の見せ場、その直前。三年の部の上位陣インタビューが行われる中、僕達は観客席最前列の席に座り、出待ちをしていた。

 

 挑戦試合も、五十音順で呼ばれる。要するに、加藤さん、蒼月さん、月影ちゃん、僕の順だ。

 

(んー。僕がトリなの、ちょっとだけ緊張する、かな?)

 

 対戦相手も、ここまで通りくじ引き……と聞いているけど。この最後の試合、実際は違う気がする。

 

 と言うのも。待機する直前、ネイ先生がやって来て、一つ約束を交わさせられたのだ。

 

 

 

 

「みなさ〜ん。いよいよ〜、挑戦試合ですね〜」

「ネイ先生も、解説お疲れ様です」

「そうですね〜……正直もう寝てしまいたいです〜。結果はだいたい読めますから〜」

「そうですか? 三年生上位陣、試合では出していない実力を隠しているとかは――」

「ないですね〜」

「そうなんですの? なら余計に負ける気がしませんわね!」

「ですわね。まぁ油断は大敵ですが」

「……ん」

「みなさんの実力ならぁ、普通に全力で当たればまず負けないと、先生は思いますよ〜」

「ふむ、そうなんですか……」

「ではでは、健闘を祈ります〜」

 

 そう言い残して去って行こうとするネイ先生……

 

「あ〜、そうそう優輝さ〜ん」

 

……が、途中で立ち止まって僕を手招きする。

 

「まだ何かあります?」

「さっき言いましたが〜……全力でいっちゃって良いですから〜」

「……? はい、そのつもりですけど」

「《弱》、じゃなくて、ですよ〜?」

 

 ……それは。殺す気で行って構わない、ということだろうか。

 

「……いいんですか?」

「腐っても〜、三年生上位陣ですから〜。相手の武器的にも……いえ、まぁ、大丈夫でしょう〜」

「……わかりました」

 

 

 

 

 ……その時は、まだくじ引きしいてなかったんだけど。ネイ先生は、すでに僕の対戦相手を知っているようだった。つまりはそういう事だ。

 まあ、僕らが全力を出しても大丈夫な相手と当たらせてくれるのなら文句はないから、突っ込んで聞きはしなかったけど。

 

 ……それはそれとして。

 

『さぁみなさんお待ちかね! 今武闘祭、最終試合の時がやってまいりましたぁ!』

 

 やっと挑戦試合が始まった。

 

 

 ……のだけど。予想通り、全試合一年生の勝利で終わった。その中でも接戦だったのは、唯一1試合。初戦の加藤さんくらいだね。

 

 んー。ただ結果だけ書くのもなんだし、三試合をダイジェストで紹介しよう。

 

 まず、初戦の加藤さん。

 

『初戦の対戦は、一年生より! 「粉砕舞踏」の加藤 透華選手! 挑戦を受けるのは三年生より! 「破壊の鉄球」竹田(武田) 真厳(まいわ)選手!』

 

 加藤さんの相手は、棍の先に鎖で繋がれたツルリと丸い鉄球が繋がれた、フレイル使いだ。

 

 同じ打撃系ながら、遠距離型だったのでだいぶ苦戦してたけど。

 

「《岩砕破》! 羅ああ!」

 

ゴッ!!

 

「ごふぅっ!」

 

 鉄球を放ったタイミングを上手く見計らって懐に飛び込み、KOさせた。

 

「勝者、加藤 透華!」

「ハァ……ハァ……と、当然ですわ!」

 

 ……制限時間残り10秒でわりと息も絶え絶えで、色々とギリギリの勝利だったけど。まあ、勝ちは勝ちだ。

 

 加藤さんの試合はそんな感じで、次は蒼月さん……実況君の部分も端折ろう。

 

『挑戦を受けるのは二年生より! 「自在槍」の鈴鹿(すずか) (ともえ)選手!』

 

 蒼月さんの相手は槍使い。上級生選手の内、唯一の二年生にして唯一の女性だ。

 二つ名の通り、槍を手足の延長の如く自在に操る猛者、だったのだけど。

 

「《五月雨疾風牙》」

 

ビュビュビュビュビュビュビュビュ――

 

「無理無理無理無理ィ!!」

 

 物理と風の矢の混合を雨の如く連射され近付く事すら出来ず、開始10秒後くらいに涙目で降参した。うん、アレは普通に怖い。

 

 次、月影ちゃん。

 

『挑戦を受け……うーんもはやどちらが挑戦者か分からなくなってきましたが! 三年生より、「猛炎」の金堂 勇侍!』

「見ていて下さいサチさーん! アレ!? さっきまであの辺に……」

 

 月影ちゃんの相手は、剣術部部長さんだった。相変わらず、サチさんへの過剰なアプローチは続いているらしい。

 

 ちなみにサチさんは、金堂先輩が対戦エリアに出て来たと同時に移動して四方副部長さんの影に隠れた。

 

 まあそれは置いといて。

 

「……《黒鉄結界》」

 

 流石の月影ちゃんも、金堂先輩の掴みどころのない、恐らく我流の剣技すべて受け流すのは辛いと判断したのか、確実に勝ちに行った。

 

 で。

 

「おらあああ! 《猛・炎・剣》!!」

 

バギイン!!

 

「アレエ!?」

「……」

 

 結界に僅かに傷を付けつつ派手にブチ折れる金堂先輩の模擬刀。数秒で元の状態に修復される結界。

 

「まだまだぁ!」

 

 武器破壊が起きたら、大体の人はリタイヤするのだけど。ルール上は、制限時間内なら何度でも模擬武器の交換はしても良い。

 

「これ破るの無理じゃないかな……?」

 

 金堂先輩は、武器交換して結界を斬り付けてを三回繰り返してリタイヤした。ショボン顔が印象的だった。

 

 さて、最後の僕の番だ。思った以上に早く来た。

 

『三年生より! 「剛剣」の今河(いまかわ) 義基(よしき)選手!』

 

 今河先輩は僕と同じ大剣使いで、細身の僕とは違いガッシリ筋骨隆々の、大剣使いでも違和感のない体格をしていた。穏やかそうな糸目が特徴的だ。

 

「よろしく頼む」

「はい、こちらこそ」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「さて、ここでタ◯シ視点に移らさせてもらおうか」

「言いたいことはわかるけど、ヨシキね。それはそれとして、突然どうしたの?」

 

 僕の対戦内容を話そうとしたら、唐突に姉さんが割り込んできた。

 

「うむ、たまには別視点からの話も面白いと思ってな」

「というか今河先輩の視点て。どこ情報なの?」

「優輝ファンクラブの会報誌の、インタビュー記事だな」

 

 あっ……なんとなく先が読めた。でもまあ、どんな感想が書いてあったのかは気になる。

 

「うんまあ……ここまでほぼずっと僕視点で話してたし。ここらで別視点も面白いかもね」

「あたしも別に良いよー」

「問題ありません」

「うむ、皆の許可も出た事だ。これより◯ケシ視点を語らせてもらう」

「ヨシキ先輩ね」

 

 姉さん的に、今河先輩の事自体はどうでも良いらしい。

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

(水城 優輝君、か)

 

 対戦エリアに出て挨拶を済ませた、ゴングが鳴るまでの僅かな時間。俺は、優輝君について調べた情報を軽く思い返していた。

 

(恵まれた才能、恵まれた環境。それに奢らず慢心しない努力の出来る天才、というのが俺が抱いた印象だが)

 

 これまでの試合と周囲からの評判を照らし合わせて、その印象通りで間違いない、と思っていたのだが……

 

(可憐な外見のせいで、まだ見誤っていた部分があったのかもしれないな……)

 

 実際に相対した者のみわかる、予想以上の気迫。全力でぶつからなければ、俺の勝機はないと感じさせる。

 

「レディィィィ……ゴオォォォォ!!」

 

カーン!!

 

「《迅雷》!!」

「!!」

 

 開始と同時に放たれた殺気に刹那思考が停止する。

 

 ハハッなんて事だ、確実に見誤っていた。もはや試合ではなく死合い、全力で防がなければ死ぬ。

 

「《地陣結界》!!」

 

 地の力を大剣に纏わせ、全力で握り締めて死の刃を受け止める。

 

バガアアアン!!

 

 彼女と俺の模擬大剣同士が激しくぶつかり合う。彼女の必殺の――全力全開の必殺の一撃。もはやそれは、電撃を纏った大剣ではなく、落雷そのものだ。

 

バギイインッッ!!

 

 衝撃に耐えきれず、両者の模擬大剣が激しく砕け折れた。

 

(選んだのが結界で良かった……攻性術だったら、俺の腕は焼け爛れていたかもしれない……)

 

 とはいえ、衝撃と電撃で、腕は麻痺していた。これ以上は大剣を満足に振るえない。

 

「……俺の負けだ」

「……」

 

 お互い得物を無くしているが、戦意喪失した俺に対し、彼女はまだまだヤル気満々といった眼差しだった。正直、完敗だ。

 

「勝者、水城 優輝!」

「……ふうっ」

 

 レフェリー先生の判定が下って、ようやく彼女から戦意が消えた。

 

(ああ……試合で良かった、模擬武器で良かった、精霊剣同士でなくて良かった。でなければ、俺は確実に死んでいた……)

 

 これ程死を覚悟したことはなかった、魔獣討伐ですらまだ生温いと感じるほどに。

 

 俺は、彼女の学年上位者インタビューを思い出す。

 

(……守護者を目指すとは、こういうことか)

 

 学年上位になった程度で満足してはいられないな、これは。

 

「この武闘祭で、やっと全力を出せました。対戦、ありがとうございました! ふふっ」

 

 スッキリ満足したような素敵な微笑みと共に、手を差し出される。可愛い。

 

 俺が情報を得たのは、彼女のファンクラブ会員とやらからだったが……なるほど、ファンクラブが出来ないはずがない。俺も、すっかり彼女に惚れてしまっていた。

 

(さて……会員登録しに行くか)

 

 痺れの残る腕で優輝君の感謝の握手に応じながら、俺はそう考えていた。

 

「この手はしばらく洗えないな……」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「まぁ流れ的に、そうなる気はしてたよねぇ」

「ですが気持ちはわかりますわ。優輝さんの笑顔、素敵ですので」

 

 面と向かって笑顔を褒められると、なんか妙に恥ずい。

 

「それにしても。あの時の今河先輩の呟き、そういう意味だったかあ」

 

 僕のファンクラブに入る決意を固めた瞬間だったとは、思わなかった。

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