優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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寧花祭初日

 出だしの呼び込み要員は、ヒロと月影ちゃんだ。

 

 人通りの多いだろう場所に行き、月影ちゃんには造花のアルストロメリアの花束を持って立ってもらい、近寄った人にヒロがメニューを見せながら、ライブキッチン・アルストロメリアの紹介をする――とまあ、そんな感じの作戦。

 

「ここが料理部の出店かぁ……なかなか凝った内装だな」

 

 ヒロ月コンビと入れ替わりで、お客様第一号が来た。ていうか早いなあ。

 

「いらっしゃいませ、アルストロメリアへようこそ!」

「やぁ優輝君、武闘祭以来かな」

「へ? あぁ先輩! その節はどうもです」

 

 親しげに話しかけてきたから誰かと思ったら、僕の挑戦試合のお相手、今河先輩だった。

 

「メイド服か……うん、対戦時は勇ましく感じたものだけど。やはり君は、そういう可愛らしい格好も似合っているな」

「ふふ、ありがとうございます!」

 

 蒼月さんお手製オリジナル制服を良く言われて、友達を褒めてくれたみたいでなんだか嬉しくなる。

 

 蒼月さんが作ってくれた制服は、メイド服を基準にしている以外は、全員少し違ったデザインになっている。

 僕のは、着物風メイド服って感じだ。カラーリングは深緑を基調としている。僕の瞳の色だ。

 姉さんのは、基本は僕と同じ感じの着物風だけど、カラーリングは青。姉さんの瞳の色だ。

 アキのはミニスカメイド風で、アキに良く似合うサンライトイエロー。

 パフィンさんのもアキと同じデザインで、カラーリングがピンクで甘ロリ風味。

 ヒロのは、シンプルなクラシカルタイプで、カラーリングは濃紺。スカートは、膝がちょうど隠れる位のミドル丈。

 最後に月影ちゃん。ヒロと同じくクラシカルタイプだけど、カラーリングが黒基調で、スカートはくるぶし位までの超ロング。

 

(うーん……みんなそれぞれ違っていて、蒼月さんの『可愛い』へのこだわりを感じるね)

 

 さて、制服の説明はこのくらいにして。

 

「僕を褒めても何も出ませんよ。ここは料理店ですから」

「ああ、そうだったね。じゃあ注文しようか」

「これがメニューだ、お客と言う名の限定的ご主人よ」

「あ、あぁ、ありがとう……噂通り、顔は瓜二つだけど、性格は180度くらい違うんだね」

 

 姉さんが妙に偉そうな態度で先輩にメニューを渡す。もう姉さんたら、愛想良くしてって言ったのに、しょうがないなあ。

 

「オススメは魚のコースだ、優輝の担当料理だからな。さあ選べ、魚を」

「あっはい」

 

 更には圧迫注文まで始めた。さっきのは百歩譲るとしても、それは良くない。

 

「あのさぁ瑞希……」

 

 流石に見かねたアキが、姉さんに注意、

 

「それはアタシにケンカ売ってるって事でOK?」

「OK」

 

じゃなかった。まあ、アキ担当の牛モモステーキはオススメは出来ないと言ったと取れなくもないけど……

 

「よっし表へ出な、ケッチャコ――」

「はいはい、お客様1人しかいないからって遊ばないの。先輩、この娘担当の牛ステーキもとっても美味しいので、好きな方を選んで良いですからね」

「好きな方、か」

 

 ふむ、と小さく唸り、細目をさらに細めて考え込むような仕草をする先輩。けど、それも1秒程度。

 

「魚のコースを頼む。ご飯は白米で」

「かしこまりました」

 

 最初から決めていたかのように、迷いなく魚を選んだ。早すぎてなんか気になるだけど……ともかく初注文で、僕の担当料理だ。早速取り掛かろう。

 

「アキ、オードブルお願いね。パフィンさん、クレープはお客様がメインを――」

「んう?」

 

 ……1人だけ静かだと思ったら、クレープ食べてた。いやまあ……パフィンさんは合間にスイーツ食べさせるとなんか作業効率上がるから、食べるのは許しているし、そのためにクレープの材料は多めに用意しているけれども。

 

「はあ……パフィンさん、早すぎだよ」

「試作したから〜。試作は食べて良いんよね〜?」

「本番当日だから本来はアウトだよ。もう口に入れちゃってるから仕方ないけど。でも、あんまりフリーダムな行動したら……流石に怒るからね?」

「りょ〜」

「パフィンはしょうがないなぁ、このスイーツジャンキーめ☆」

「うむ、少しは自重するがいい。滅多に怒らない優輝を怒らせると、怖いぞ?」

「他人事みたいに言ってるけど。2人に宛てても言ってるからね?」

「んにゅ?」「む?」

 

 ……わざとらしいすっとぼけに、ちょっとイラッとする……ここで怒ったら2人の思う壺だと思うから、気を落ち着かせる。

 

 ちなみに、こうして雑談しているけれど、僕とアキは仕込みの手を動かし続けている。まあ、普段集まってお料理会してる時のノリはだいたいこんな感じだから、緊張していない証拠だ。まだお客さん1人だし、緊張のしようもないけど。

 

 

「お待たせしました、こちら前菜になります!」

 

 アキが先輩にサラダとスープを運び、僕はシロダイをポワレ中。月影ちゃんが選んだ、活きの良い最高のシロダイだ。皮の焼けるパチパチという音が心地良い。

 良い感じに身全体が白くなったら火を止めて裏返し、余熱で数秒身の側に火を通して……ん、こんなものかな。

 お皿に乗せて、事前に作って置いたガーリックトマトソースをかけてからパセリを散らし、レモンを添えて、完成!

 

 

「……美味いな、これは。学食の味にも決して引けを取らないな……でもどこか家庭的というか、優しい味というか。とにかく、とても美味いよ」

「ありがとうございます」

 

 細目をさらに細め、美味しそうに魚と白米を口に運ぶ先輩……ふふっ。

 

(うんうん……この顔を見るために、僕は料理をしている。最高に楽しい!)

 

 

 

 

 さて。コース料理ではあるけど……よほどの少食でなければ、腹7分目位の量にしている。少食の月影ちゃんにとって丁度良い量、が基準だ。

 

「ご馳走様、美味しかったよ。けど、量は少し物足りないかな」

 

 先輩から、予想通りの声が上がる。反応からして味は満足していただけたようだから、計画通り。

 

「まあ、ですよね」

「ふむ、何か理由が?」

「このレストランが、学園祭の出店だからですよ。他にも飲食物の出店はある、というか、半数近くは何かしらの飲食物を扱ってますし、満腹だと他店のが食べられないでしょう?」

 

 経費を抑えるため、という理由もあるけど、少量にした主な理由はそれだった。僕も、出店リストで気になるお店があるしね。料理長さんのとか、後は……薬膳料理屋台、というのが気になる。

 

「なるほど……君は、気遣いの出来る素敵な娘だね」

 

 そう言い、微笑ましいものを見るような視線を向けてくる先輩……なんかむず痒くなる。

 

「いえいえ。うちで満腹になった結果、他店の売り上げが著しく下がったりなんかしたら申し訳ないな、て思っただけですよ」

 

 別に、売り上げ勝負したい訳じゃないし、不和はなるべく避けたい。あくまでことなかれ主義による利己的な選択なのだ。

 

 とはいえ。やはり僕の、僕らの料理で、たくさんの人に喜んでもらいたい気持ちはある。

 

 ので。

 

「というわけで」

「ということで!」

「お客様1号の今河先輩。もしお味に満足頂けたのでしたら、口コミをお願い出来ますか?」

「ああ、それくらいお安い御用さ。本当に美味しかったからね」

「ありがとうございまーす!」

 

 快く引き受けてくれた。

 

 

 

 寧花祭開始から、約1時間後の10時くらい。ブランチと言った時間だからそろそろ次のお客様来ないかなーと思っていたら、来た。

 

「こんにちは、優輝さん……暇そうね」

「まあ、寧花祭カタログにはレストランと銘打ってるし。混むのは11時頃からじゃないかな」

 

 お客様2号は、サチさんだった。

 

「お〜、さっちゃんいらは〜い」

 

 手に付いた生クリームをペロリと舐めながら、パフィンさんが返答する。って、またいつの間にか食べてる……

 

「まだお客さんが少ないだろうと思って、他にも連れてきたわ」

「こんにちは。じゅ……部長さんはいないのね」

 

 サチさんの後から入ってきたのは、剣術部副部長の四方さんだ。店内を見回し、少し残念そうな声色でそう呟く。

 

「仕方ないっすよ、四方先輩。あの部長さん巨漢過ぎて、花? って感じじゃなくなっちゃいますからね」

 

 そう言いながら入ってきたのは、雅だ。

 

「おー来たねマミヤ! ……両手に花抱えて来たんはちょーい気になるけどっ」

「たまたまだって。俺は一途だぜ?」

 

 女連れで入店して来た彼氏に、アキがわざとらしい膨れっ面で文句を言う。声は嬉しそうだから、2人の関係の良好さがうかがえる。可愛い。

 

 さらにもう1人。

 

「サチさんにレストランデートに誘われるなんて、最高です! テンション上がるな〜!!」

 

 剣術部部長の、金堂さんだ。

 

「さっちゃん、デートなん〜?」

「断じて違うわ。アルストロメリアに誘ったのは事実だけれど」

「はっ!? もしやこれは、「私を食べて」というサインなのか!?」

「そんなわけないだろう万年発情ザル。1」

 

 2人が揃うとよく見かける、いつもの罵倒……と、四方先輩の謎のカウント。なんだろ?

 

「マミヤよ、サチはどんな台詞で誘っていた?」

「えっとな、確か……「親友がレストランで出店しているので、お昼に食べに行ってあげて下さい」、だったと思うぜ。」

「……言質は取れそうにない誘い方だな。つまらん」

「そう! 部長は勝手に着いてきただけで、一緒しようって誘ったのは四方先輩とマミヤ君だけよ! 優輝さん、勘違いしてないわよね?」

「うんまあ、デートではないよね」

「……ふぅ」

 

 僕の台詞に、安心したように溜息をつくサチさん。相変わらず、金堂部長さんには迷惑させられているらしい。

 

「まぁそんなわけで、食事に来たわ。少し早いけど、お昼時には忙しくなって、こうして挨拶出来ないかもしれないから」

「ふふっ、そうなってくれたら嬉しいね」

 

 そこで雑談を終えて、アキに案内されて席に着く4名様。注文は、男子2人が牛、女子2人が魚だった。

 

 

 4人にメインの皿を並べ終えたタイミングで、追加の3名様が入店した。

 

「わたくしが! 来て差し上げましたわ!」

「ユーキとアキー! ボクもいるーぞー!」

「アンズさん、お店ではしゃいで透華様の品性を貶めたいんですか? こんにちは皆様」

 

 加藤さんトリオだった。相変わらず目立つ3人組だね。

 

「いらっしゃいませ、アルストロメリアにようこそ!」

「ヨーコソされるぞー! アキ達のカッコーかわいーなっ!」

 

 アキの元気な接客に、元気に返す小椋さん。元気キャラ同士、2人はわりと気が合うらしく、顔を合わせると必ず元気な挨拶をし合う仲だ。

 ちなみに小椋さんは、一人称が「ボク」でシンパシーを感じているのか、僕にも毎回元気に挨拶してくれる。元気可愛い。

 

「いつもながら、アンズさんが恥知らずにやかましくて申し訳ないです」

「アンズっていうなー!」

「名前がアンズと呼べるから問題ないでしょう、キョウさん」

「むーっキョウだってばー!」

「そう読んだでしょう?」

「あれっ?」

 

 萩さんの小椋さんイジりもよく見る風景だ。萩さんの「いつ見ても同じに感じる笑顔」もいつも通り。

 

「ふむ……ハーブティーは、ないのですわね」

「そこは申し訳ない。流石に経費がね……」

「まぁ、わたくしは食事に来たのであってお茶をいただきに来た訳ではありませんし、かまいませんわ。別に、あなた達の顔を見に来た訳ではありませんからね?」

 

 ……なんか最近の加藤さんは、ツンデレみたいな台詞を最後に言いたがる気がする。

 

 それはそれとして。注文は、加藤さんと小椋さんが魚、萩さんが牛だった。

 

「透華様、少々行儀が悪いですが、メイン料理をシェア致しませんか?」

「牛モモ肉、だったかしら。ふむ……あまり食べる機会がない部位ですわね。えぇ、よろしくてよ」

「あーボタンズルーい! トーカ様、ボクとも半分こしましょー!」

「同じ料理でシェアしたいなんて、意味不明なこと言いますね」

「杏、コースは基本シェアを前提としていないわ。食べる機会の少ない部位でなければ、牡丹の申し出は断っていたわね」

「むー」

「うふふ、料理の前でそのように不機嫌な顔をしてはいけないわ、杏。美味な料理も美味しく感じられなくなりますわよ」

「……はっ。その通りですねトーカ様!」

 

 うーん……小椋さんの反応、相変わらずの子犬を見ているようだ。忠犬可愛い。

 

 

「いやぁ、さすがサチさんがオススメするだけあって、最高に美味かったです! いかにも肉食ってるって肉で、ガッツリ精力付きましたよ! この後サチさんをいただきたいですねぇ!」

「2」

「ていうか男女2対2で食事って、なんか合コンみたいで興奮しますねぇ! どうです、この後合同コンパならぬ合体コン――」

「3、アウト。てめぇは永遠右手と合体してろシ◯ザルが」

 

ボグッ!

 

「ぐはぁっ!?」

 

 食事を終えた金堂先輩が下ネタを(本人はサチさんを真面目に口説いているつもりらしい)連発し、四方先輩が台詞を遮るためマジ殴りした。何度か見た事のある光景である。

 

「シンさんいきなりグーパンはヒドくない!?」

「3回でヤるって宣言しといただろうが劣頭自慰ザルが」

 

ブスリッ

 

「目えぇぇーー!?」

 

 今度は目潰しした。話には聞いていたけど、コンボは初めて見た。

 

「他の客に迷惑だろうが叫ぶな黙れ」

 

パアン!

 

「ふぐをっ!?」

 

 最後に手の平を思い切り顔面に叩き付けて、その勢いのままアイアンクローを極めて店外に連れ出す……こうして嵐は去った。

 

「ふむ、ジャンケンのようだったな」

「あーそだねぇ、グーチョキパー!」

「あ、お金まだもらってないや」

「先輩2人のお会計は元から私持ちの予定だったから、心配しないで」

「相変わらず生真面目で律儀な奴だな、サチは。あのような迷惑猿の分まで払おうなどと」

「一応、剣の腕と指導の腕前は認めているもの」

「サチさんの美点だよね。そこが好き」

「……! ふふ……気分良いから、マミヤ君の分も払いましょうか?」

「おっマジでか。ラッキー!」

「……さっちゃんチョロ〜ん」

 

 サチさんご一行は、こうして慌ただしく帰っていった。

 

 

「ご馳走様でした。なかなか美味でしたわ」

「ユーキ、サカナうまかったぞー!」

「透華様のお口に合う味、感謝致します」

 

 加藤さんトリオが食事を終えて帰ってから数分後。

 

「ただいま戻りましたー!!」

「……ただいま、です……」

 

 入れ替わるように、宣伝組のヒロ月コンビが戻って来た。

 

「これお土産でーす。(やす)王国風お好み焼きが変わり種でオススメです! 料理人がコワモテだったからかお客さん少なかったですけど、美味しいですよ!」

「おぉっウマそな良いかおりー!」

 

 ヒロが色々と屋台飯を……つまりは他の出店品を買って来てくれた。オススメとか美味しいって言っているし、ヒロはもう食べたのだろう。まだ食べるのだろうけど。

 

「ありがとヒロ。せっかくだから少し早いけど、これをお昼がわりにしよっか」

「……(ふるふる)」

「月影ちゃん?」

 

 否定するように小さく首を横に振る、と、視線を入口に向ける月影ちゃん。

 

「申し訳ありませんが、客ですわ」

 

 蒼月さんが入店してきた。いや、後ろにあと2人……?

 

「レストラン……ライブキッチンってなんだ?」

 

 武闘祭の挑戦試合で、加藤さんが戦った竹田先輩と、

 

「お邪魔しまーす……おぉ、意外と本格的じゃん」

 

同じく挑戦試合で蒼月さんのお相手だった、鈴鹿先輩だった……あれ? なんかここまでのお客さん、武闘祭挑戦試合のメンバーばかりのような……

 

 

 

 

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