優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

81 / 103
食い倒れデートと読書デート

「屋台メシといえば! たこ焼きイカ焼きお好み焼き!! ですっっ!! はふっはふはふ!!」

「いつもながら、ヒロはほんと美味しそうに食べるね。はく……ん、ジューシーで美味しい」

 

 そう言いつつ僕も、トマトケチャップとマスタードたっぷりのフランク・フルトをかじる……両手に屋台料理のビニール袋を大量に持っているから、若干食べ辛い。

 

 ちなみに、僕が持ってるけど、これは全部ヒロが買ったヤツだ。

 内容は、えーと……焼きそば、焼き鳥、唐揚げ、揚げ餅、肉巻きおにぎり、焼きトウモロコシ、じゃがバター、タコス、ドネルケバブ、フランク・フルト……既に凄い量だ。

 ちなみに今ヒロは、たこ焼きを食べながらもう片方の手に持ったお好み焼き(豚玉)を見ている……アレ絶対、たこ焼き食べながらお好み焼き食べる事を考えてるよね……

 

「というか、お昼にお好み焼き食べたのにまた買ったんだね」

「はむはむごくんっ! お昼のは海鮮、今回のは豚ですので! っと優輝さん優輝さんっ屋台で釜焼きピザですって! シンプルなマルガリータが良いですかねー!」

「あ、うん。いいね」

 

 実に生き生きしていて、最高に可愛い……いやまあ、実は少し引いてはいるのだけど。

 だってヒロの食欲が、いつも以上に凄まじいから……胃は本当に大丈夫なのだろうか?

 

「の前に、スイーツでお口リセットです! 屋台と言えばかき氷! ……は、時期的にないみたいですね……残念! ならばっわたあめチュロスベビーカステラです!!」

 

 なんか大丈夫そう。デートでテンションと食欲と胃の容量、ついでに消化速度が倍増しているのだろうか。

 

 

 

 

「な、なんかすいません、1人で盛り上がっちゃって……ズルズル」

 

 買ったものを粗方食べ終えて我に帰ったのか、ションボリして謝るヒロ……締めのラーメンをすすりながら。

 ほんと、今日のヒロはよく食べたなあ……この体のどこにあれだけ入ってるのやら。

 

 すごいね、人体。神秘すら感じる。

 

「気にしないでよ。僕は、美味しそうにいっぱい食べるヒロが、とっても可愛くて大好きだよ」

「んぐっ!? けほっけほけほけほっ!!」

 

 僕のセリフに思わずむせるヒロ。狙った訳ではないけど、タイミングが良すぎたらしい……ちょっとイタズラ心が湧く。

 

「あと、ヒロって大食いだけど食べ方綺麗だよね。食や料理人に対する敬意を感じるって言うか……そこも好き」

「は、はぅぅ……あ、あんまり好き好き言わないで下さい〜……優輝さん、さすがに狙って言ってますよね」

「半分はね。でも、親友に好きって言うのは普通じゃないかな」

「うー……その言い方、なんかズルくないですか? その、色々と……」

「ふふふ」

 

 俯いて赤くなり、恥ずかしそうな声で文句を言ってくるヒロ。とても可愛い。最初に会った頃の、内気な態度を思い出す。

 

(さて、からかうのはこのくらいにして……一生懸命頑張ったヒロを、褒めてあげないと)

 

 確かにヒロの性格は表向き、ポジティブで明るいものになったけど。根っこというものは、なかなか変わらないものだ。

 

 要するに今のヒロは、理想の自分を演じているのだ。それで良い方向に向かっているのだから、大きな問題はないのだろう。

 

 けど、演じているということは、多少無理をしているとも言える。だから僕は、ヒロを定期的に褒めて、ガス抜きというか、やる気充電というかをしてあげている。まあ、調子に乗りやすいから、タイミングは計らないと、だけど。

 

 今日の午前中も、ヒロと月影ちゃんの宣伝のおかげで、想定以上の(姉さんにとっては想定内だったみたいだけど)お客さんが来てくれたし。ちゃんと褒めてあげないとね。

 

「今日はお疲れ様、ヒロ。いいこいいこ」

 

 俯いているヒロの頭に手を乗せ、優しく撫でる。さすがに人目があるから、抱きしめたりはしないけど。

 

「はふぅ……えへへー」

 

 ナデナデされ、気持ち良さそうにふにゃっと笑うヒロ。とても可愛い。

 

「明日も一緒に頑張ろうね」

「はいっ! 私にドーンと任せて下さいっ!!」

「ふふふっ」

「えへへっ」

 

 元気いっぱいに大きな胸を張るヒロが、今日もすごく可愛い。僕も頑張らないと!

 

 

 

 

「ただいまー」

「ですっ!」

 

 ヒロがラーメンを食べ終えてから、調理室に戻る。

 

「うむ、お帰りだ……ヒロはかなり食いまくったようだな」

「まあ、そうだね」

 

 ヒロの充足した声で、どういうデートだったか察したらしい。

 

「はい! 数日分は色々充填出来ましたよー! たぶん!」

 

 満面の笑顔で姉さんにそう返すヒロ。可愛い。

 

くいっ

 

 ん。この服の袖を軽く引っ張られる感覚は、月影ちゃんからの「私はここにいます」コールだ。

 

「……」

 

 キョロリと探す、と、いた。なぜか引っ張られたと思ったのと逆側に。

 

「次、は……ん……私に、お付き合い、下さい……」

 

 ほんのり頬を染めて視線を逸らして、そう頼まれた。超可愛い。

 

「僕でよろしければ喜んで、お嬢様」

 

 そう告げてから屈んで月影ちゃんに視線を合わせ、エスコートするように手を差し伸べる。

 

「……(こくり)」

 

 しばし視線を彷徨わせてから、ひとつ頷いておずおずと手を伸ばし、僕の手を取る。

 

「……なんか、私の時と誘う態度違くないですか? あの誘われ方、いいなー」

「態度が違うというか、お前から率先して優輝を引っ張っていた訳だが」

「はわー、そういえばそうですねー。私ってばダイタンになったものですねっ!」

「さて、いこっか」

「ん……」

 

 ……いつまでもここにいると2人に茶化されそうな気がするから、とりあえず部屋を出よう。

 

 

 

 

 さて。そんな訳で、月影ちゃんとのデートだけど。一緒に行きたいと指定された場所は、漫研の出し物である、漫画&ラノベ喫茶だった。

 

 学園祭パンフによると、本は全て商業本ではなく個人作成本、いわゆる同人誌オンリーらしい。

 

 しかも我が学園の漫研部長は、同人界では若きレジェンドと言われているほどの作家らしく、パンフにはそのことが強調されていた。

 

 僕は、商業で活躍しているプロの漫画家さんを数名知っている程度の漫画好きだから、そこまで押されても凄さがよくわからないのだけど……まあとにかく。

 

 要するに、同人界隈にて超有名な人が、漫研部長らしい……金堂先輩みたいな変人じゃありませんように。

 

「お邪魔しまーす」

「……お邪魔します」

「ようこそ、おいで下さいました」

 

 出店場所である漫研部室に入ると、丸眼鏡に司書風の服を着た受付さんに、よく訓練された綺麗なお辞儀と共に挨拶される。

 

「当喫茶は、皆様に静かに読書を楽しんでいただくため、大声での会話を控えていただく、という、ルールを、遵守…………」

 

 スラスラと利用上のマナーを読み上げる受付さんが、僕らを注視してから台詞がしりすぼみになる。なんだろ?

 

「部長!! 銀!! ミュ付!!」

 

 ……。大声での会話を控えるとはなんだったのか。店員自らいきなりルールを破っていた。

 

 銀は月影ちゃん、ミュは……まあ僕の事だよね。多分、()城 ()輝、かな?

 

「マジで!? 了解!!」

 

 呼ばれて返事をした小柄な少女が、これまた大声でそう返す。

 

「待ってたよー月影たーん!! ああああいつもながら可愛い眩しいたまんない!! マジ神・聖っ!!」

 

 月影ちゃんへと急接近急停止し、月影ちゃんの姿をスケッチブックに物凄い速さでバリバリ描き出した、桃色髪ショートヘアの少女…… 多分この人が、漫研部長。

 

 超スピードで動き続ける彼女の手をみつつ、後ろに回ってそっとスケッチブックを覗き込む。

 

上手(うま)っ……これプロで通じるんじゃ?)

 

 速筆のラフ画で漫画チックにディフォルメされているけど、一目で月影ちゃんとわかる完成度だった。可愛い。

 

 月影ちゃんは慣れているのか、微動だにせず描かれ続けている。

 

「漫研にはよく来るの?」

「ん……それなりに……書店や図書館には、まず置かれないものが読める、ので……」

「なるほど、同人誌目的ね」

「……むっはあぁ〜〜……充・実っ……!」

 

 あらゆる角度から月影ちゃんをスケッチしていた漫研部長さんが、満足げに深く長いため息を吐く。

 

「……さて。おかわりDAっ!!」

「え?」

 

 これで終わりかと思ったら、再び眼光を鋭くこちらに急接近急停止しスケブを広げる。今度は僕の番らしい、

 

「っと、初対面だった。水城 優輝さん、スケッチ良いですか!?」

 

と思ったら、律儀に許可を求めてきた。暴走しているように見えて、思ったより冷静なようだ。

 

「えっと……とりあえず自己紹介を。僕は月影ちゃんの友達で、水城 優輝です」

「むっはあぁ〜〜噂通りのリアル僕っ娘ぉ!! 漫研部長の五郎丸(ごろうまる) 林孤(りんこ)ですっよろしくお願いスケッチ良いですか!?」

 

 興奮を抑えきれないのか、自己紹介にスケッチ許可要請を混ぜる五郎丸部長さん。

 

 んー。月影ちゃん、大人しく描かれるがままだったけど……あまり騒がしいのは得意ではない月影ちゃんが大人しかった事からすると、

 

「月影ちゃんと同じような特典をいただけるなら」

「ほぅ、なかなか鋭いですねぇ。そこも噂通りで素敵です!」

 

 さっきから言っている噂とやらが少し気になるけどとりあえず。予想通り月影ちゃんとは、自由にスケッチさせる代わりの交換条件があるようだ。

 

「一応確認です。月影さんと同じく「スケッチの代わりに本を自由に呼んで良い」、で良いですか?」

「んー……それは普段の条件じゃないですか?」

「……ふふふ、ほんとに鋭いですね。お察しの通り、普段のではない交換条件でどうでしょう?」

「ケーキセット、ドリンクは紅茶でお願いします」

「交渉成立!! 念願のミューたんんん〜〜!! ヤッバ間近だと噂以上にマジ超美少女。たまんな〜〜いむっはあぁ〜〜!!」

「うわ」

 

 ギラギラした目で僕をスケッチし始める五郎丸部長さん……ていうか鼻血まで出していた。興奮し過ぎでちょっと怖い。

 

 月影ちゃん、よく無表情でいられるなあ……それだけ慣れているのだろうか。

 

 

 

 

 数分後。

 

「んんんんん〜〜……!! 実に! 良い画が描けましたよぉ!! お二人共、ご協力感謝感激雨霰です!! 充・実……という訳でご案内致します」

 

 満足しきって熱が覚めたのか、何事もなかったかのようにウェイターモードに入る部長さん。切替え凄い。

 

 

 

 

 出だしこそ、ヒロとのデート以上に騒がしくなったけれど。その後はヒロの食い倒れデートとは対照的な、月影ちゃんらしい、静かな読書デートとなった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

ぺらっ

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

ぺらっカチャ

 

 時折挟まれるページをめくる音とティーカップの鳴る音のみが、静かな空間に響く。学園祭の出し物としてはあり得ないくらいの静寂の空間。結構落ち着く。

 

 短編の同人ラノベをキリの良い所まで読んだ所で、頭を上げて月影ちゃんの様子を伺う。

 

「…………」

 

 読書に集中している時の月影ちゃんは、ページをめくる以外は微動だにしないので、よく出来たお人形のようで、独特の美しさがある。僕は、それを眺めるのが結構好きだったりする。

 

 その姿を眺めながら、少し冷めた紅茶を一口飲み、カップを静かに置く

 

カチャ

 

けど、本当に部屋全体が静寂に包まれているので、小さな音でも良く響く。

 

「…………。優輝さん、は……」

 

 その音で、僕が見つめている事に気付いたのか、本から視線は逸さずに月影ちゃんが口を開く。

 

「ん、何かな?」

「……。今……楽しい、ですか……?」

「楽しいよ。月影ちゃんが楽しそうだしね」

「……ん」

 

 それだけ言い、再びしばらく無言で本に集中する月影ちゃん……うん、読書中の月影ちゃんはやっぱり絵になる。

 

 

「…………。優輝さん、は……」

「うん?」

 

 僕も読書に戻ってから、ややあって。再び月影ちゃんが話しかけてきたので頭を上げ、月影ちゃんの方へ顔を向ける。今度は月影ちゃんも顔を上げ、こちらを見ていた。

 

「……もし……目の前に、魔神がいたら……戦えますか……?」

 

 ……どういう意図の質問だろう? んー……まあ、意図はともかく。

 

「戦わない、かな」

「…………」

 

 続きを促すかのように、月影ちゃんは無言でこちらを見続ける。

 

「今の僕じゃあ多分、復活したばかりで弱ってる魔神でも、ちょっとの足止めがせいぜいだろうし。だからまずは、相手が本調子じゃない事を指摘して、手を引いてくれるように交渉する、と思う。咲さんが見える範囲にいるなら、話は変わるけどね」

「……ん」

 

 表情が変わらないから、僕の答えをどう受け取ったのかはよくわからないけど。読書に戻ろうとしたから、ある程度満足してくれたのだろう。

 

「月影ちゃんならどうする?」

「…………」

 

 集中し始める前に、こちらからも同じ質問を返す。問いかけに対し月影ちゃんは、しばし考えるように目を閉じる。

 

「……私は……守護する事しか、出来ません……」

 

 目を開いてからのその答えも、やっぱり具体的な意図がわからないものだけど。

 

「ん、魔神と対峙する時は頼りにしてるよ。月影ちゃんの防御結界は超一流だからね」

「……」

 

 僕の台詞に、月影ちゃんは数秒視線をこちらに向けてから、ゆっくりと本へと戻す。

 

(……?)

 

 ん、とか頷きとか、何かしら返す月影ちゃんにしては珍しく、いつも以上に反応が薄い。

 

(んー……実力のある月影ちゃんでも、やっぱり魔神との対決には不安を感じてるのかも)

 

 守護者最有力候補とはいえ、まだあくまで候補だしね。精霊神剣と契約出来るかどうかとか、期待に対する重圧だとかで、どうしても不安を感じてしまうのだろう。

 

「自分のやれる事を、精一杯やるしかないよね」

「…………ん」

 

 僕の呟きに、少し遅れつつ今度は返事をくれた。

 

(10年後くらいに復活する、2人の魔神……被害が少なく済むように、もっと強くならないと!)

 

 ……でもまあ、今から思い悩んだ所でどうしようも無い。今は、月影ちゃんとのデートの時間を楽しもう。

 

 

 

 

 その後は特に会話もなく、学園祭初日の終了時間まで静かに読書した。慌ただしかった初日の肉体的・精神的疲れを十分に癒せた気がする。読書デートに誘ってくれた月影に感謝だね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。