夕飯は、もやしとわかめの中華風スープ、青梗菜とツナのおひたし、麻婆茄子に、エリスのリクエストのエビチャーハンだ。
「……いつものと味付け違うんだね」
「あの時の味を再現してみたからね」
「ふみゅ、なる。でもまぁなんてゆーか、うーん……懐かしい味? って感じ! 嫌いじゃないわ!」
……ふう、不評じゃなくて何より。実は「いつもより美味しくない」と言われないか、内心ちょっとドキドキしてたりしたんだよね。
「そう言えば。寧花祭終了まで話したんだったか」
「ふふっそうでしたね」
「優輝的に、次の印象深い思い出は、やはり生徒会役員選出会と言う名のスクールアイドル決定戦か?」
「…………そうかもね」
まあ確かに、印象深くてよく覚えてはいるのだけれど……姉さんのワザとらしい言い方に、なんか話したくなくなって来た。栄陽学園の生徒会役員選出会は、姉さんが言ったように、アイドル総選挙のようなお祭り騒ぎだったからだ。
「優輝さんが複雑そうな顔になるなんて……是非聴きたい!」
「うむ。私も改めて、当時の優輝の心境を聞きたいな」
「同じくですわ」
「はあ……ん、了解」
という訳で、やっぱり話す事になった。
――――――――――
寧花祭も終わり、ここ一週間は特に大きなイベントもなく、みんなまったり過ごしていた。
ちなみにアキは、武闘祭後のようにしばらく腑抜け状態だったけど、日曜日朝くらいにようやくいつものテンションに戻った。
で。寧花祭終了一週間後の闇曜日。
今日は全校集会があり、寧花祭の出し物で優秀な業績を残したクラス・部活の発表と賞状が送られるイベントがある。
(……おー。服飾部は寧花賞かあ)
各賞の受賞は、秘密裏にお客として紛れ込んでいた審査員による採点と、生徒と来場者に配られた人気投票用紙の数と感想の内容によって決まる。
アイデア賞、ユーモア賞、ユニーク賞等色々あるのだけど、寧花賞は最も華やかだった出し物に与えられるらしい。ドレスの展示販売だったし、実際かなり華やかだったし、納得の受賞だ。
各賞は各出し物につき、1つの賞しか授与されない。そして残すは、最優秀賞のみ。大繁盛だったから、何らかの賞は取れておかしくない、と思っていたのだけど……まだ僕ら料理部は賞を貰っていない。
も、もしかして……
「ふ」
前の席で腕を組んで座っている姉さんが、不敵な笑みを漏らす。姉さんがこういう笑い声を出した時は、だいたい僕にとって好ましい何かが起きる直前。
そして予想通り。
『では最後にみなさんお待ちかね! 最優秀賞を発表致します! 審査員点と投票数、なんと共にブッチギリの1位! 料理部出店「ライブキッチン・アルストロメリア」でぇす!!』
「ふははははは!」
「うわびっくりした」
……嬉しさよりも先に、姉さんの高笑いに驚いた。
『最優秀賞を受賞した料理部の代表者は、壇上へお願い致します!』
……そしてそれを気にせず司会進行を続ける司会者君、なかなかの大物だ。
さて。それはそれとして、表彰状と表彰盾の授与だ。料理部の代表者は当然部長――
ぐいっ
「何をしている優輝。早く行かないか」
「へ?」
――姉さんが僕の手を取って席から立たせて引っ張っていく……アレ? 部長なんで席から全く動いてないんですか?
そうして有無を言わさず姉さんに壇上まで引っ張られ、司会者君も有無を言わさず進行を続ける。
『料理部代表にして時期部長は皆様ご存知! 武闘祭でも大活躍された「無双の雷牙」こと! 水城 優輝さんでぇぇす!!』
「ん゛」
……唐突な二つ名付けでの紹介に、羞恥で思わず変な声が出そうになった。ギリギリマイクに拾われない程度の音に抑えられたけど。
(ああ……これまた、料理部メンバーで僕だけ聞かされてないパターンだ……)
部長が微動だにしないのも、1番喜びの叫びを上げそうなアキ(プルプルしていて今にも騒ぎたそうにしているけど)が大人しいのも、あらかじめ最優秀賞を受賞したと知っていたからだろう。
……後で部長さんから聞いた話だけど。入賞したチームには前日に、賞状授与の代表者を決めておくよう通知が来るらしい。で、通知を受け取った部長さんに姉さんが、時期部長候補の僕を代表者として出したいと伝えたらしい。
(姉さん、というか、みんなのサプライズ精神には困った物だなあ……まあ、悪い気はしないけどさ……)
僕は心でひとりごちて、精神を落ち着けるよう努める。けれども受賞式は無慈悲に進んでいく。
『最優秀賞、おめでとうございます! サービスの良さ味の良さ店内と店員の華やかさなどなど、多くの点で最高評価だったようです! 賞状授与の前に、感想を一言お願いします!』
いきなり知らされて何も言う事考えてないんだけど……はあ。まあ、アドリブで簡単に一言。
『こちらこそありがとうございます、という気持ちです。みんなに私達の料理を美味しそうに食べて貰えて、とても嬉しかったです』
僕はただ、「僕の料理を食べて喜んでもらいたい」という趣味を、全力で走っただけだ。だから、感謝しかない。
「謙虚だ……」「カワイイ!」「なめたい」「可憐だ」「我が嫁だからな」「笑顔ステキー!」「料理美味しかったよー!」「来年も期待!」
僕を褒める様々な声が、至るところから聞こえてきた……照れるより、恥ずい。何も聞かされてなかったから、気構え出来てないからね……うー目立ちたくない早く席に戻りたい、というか寮に帰って料理とかして気を落ち着けたい。
とまあこんな事があり、学園長先生に賞状と表彰盾を授与され。こうしてようやく解放され――
『さぁて皆様、寧花祭表彰式はこれにて終了ではありますが! 速報でございまぁす!!』
――なんかまだ続いた。
『武闘祭・寧花祭共に優秀な成績を収め、さらに謙虚で人柄も良い事で学園中に知られている水城 優輝さんはなんと! 教員全員満場一致で、次期生徒会長に推薦されたようです!!』
……、は?
「……どうしてこうなったのかなー……」
生徒会役員どころか会長に推薦され、困惑して呆然としたまま教室に戻った僕は、そう呟いていた。
「生徒会長かー……目立ちたくないなー……」
「学園の三大行事の内2つであれだけ目立つ行動しといて、今更そう言われてもねぇ」
「だよなー。それでいて性格も良いしな!」
「有名にもなりますよね! さすが優輝さん!」
「うー。でもでも、強い人と戦いたかっただけだし。みんなに美味しい料理食べて貰いたかっただけだし」
「そういうところよ。その精神、栄陽学園生として模範的過ぎて、評価される点しかないわよね。つまり、推薦されたのは必然よ」
「ちゃけばぁ、諦めたらぁ……ラク〜になれるよぉ〜?」
「……うーん」
友人達からも口々に褒められる……むう。嬉しくもあり、気恥ずかしくもあり。
というか自分としては、生真面目さではサチさんの方が上だと思ってるから、生徒の代表というなら彼女こそ相応しいと思うんだけど……自分の高評価に、戸惑うばかりである。
「サチでは役不足だろう。この学園での生徒会長は、アイドル的な意味合いも兼ねているからな」
「あー、なるほど……」
……アレ、僕声に出してたっけ? まあ、姉さんなら表情で丸分かりか。
「アイドル……
「良かったな、優輝。咲殿に近しい立場を体験出来るぞ」
「咲さんの目指した部分は強さであって、そっち方面じゃないんだけど」
「遅かれ早かれ、優輝はそういう立場に立たされるだろう。予行演習だと思えば良い」
「……まあ、どう足掻いても辞退は出来ないんだけどさ。それでもちょっとの愚痴は出ちゃうというか、聞いて欲しいっていうか……そもそも、全校集会であんな発表されたら、会長でなくても何らかの役員に就かされるの決定済じゃない」
通常、生徒会長に推薦された生徒は、掲示板に張り出されて初めて全校生徒の知るところとなるらしい。ので、今回のような集会での発表は、かなりの異例らしい。
というか。生徒会役員選出会て、僕は具体的には何をさせられるんだろう……不安しかない。
その日の放課後。ネイ先生に先導され、選出会についての説明を受けに、僕らは生徒会室に向かった。
「そういえばネイ先生」
「はいはい〜?」
「陣頭に立って僕を推薦したの、先生ですよね」
「優輝ちゃんの魅力を〜、より多くの人に知っていただきたかったので〜。テヘッ☆」
悪びれもなく肯定された。ちょっとウザい、けど可愛い。
さてそれよりも。
「姉さんが役員に推薦されてるのは、ちょっと予想外かも」
「うむ。優輝が生徒会入りすると、優輝を愛でる時間が多少は削られるからな。ゆえにねじ込んだ」
「何やってるのさ姉さん……まあ姉さんの事だし、ギリギリ不正じゃないとこを攻めたんだろうけど」
「はいです〜。瑞希さんはぁ、自分が生徒会に入る事のメリットを〜、先生方や現生徒会メンバーのみなさんに、丁寧にプレゼンしてました〜」
「推薦とは……」
「ふふ、瑞希さんらしいですわね」
「推薦されるように自身を売り込むのは、アリだと思いますわ。まあ、わたくしのように普段の振る舞いから選ばれるのが理想ですけれど!」
「あ、奇遇……じゃないよね」
生徒会室前まで来た所で、天王寺姉妹と加藤さんと鉢合わせた。と言うより、僕らが来るのを待っていた、かな。
「ここに集まった皆さんがぁ、今年生徒会に推薦されたメンバーです〜」
僕の予想の答えを、ネイ先生が教えてくれた。
「と言いましても〜。瑞希さんと月影さんはぁ、会計と書記への推薦ですが〜」
「あ、そうなんですね」
「流石に生徒会長戦の枠には入れなかったな。まあ面倒だからそれで良いのだが」
「ん……あまり、目立つ役職ではない、ので……ありがたい、です……」
「あー、そうだね。選ばれたら拒否権ないもんね」
応援合戦での応援対象は、生徒会長へ推薦された生徒のみだけど。生徒会役員は全員推薦式で、選ばれたら余程の事情がない限り、基本拒否は出来ない。
しかも応援合戦対象外の会計と書記は、推薦=決定だ。つまり、2人はすでに生徒会入りしているようなものなのだ。
(しかしそうなると……僕が生徒会入りしないと、姉さんが好き勝手する恐れが……あー)
何か、姉さんに謀られた感。
「……やるね、姉さん」
「ふ」
語らずとも、その笑みは答えを言っているも同然だった。
生徒会長選……思ってた以上に、頑張らないとダメなようだ。
「ようこそ、おいで下さいました」
生徒会室の扉を開けると、早速現生徒会長の纐纈会長さんが出迎えてくれた。
「やあ、来たね。待ってたよ」
「月影たんキター!」
「ようこそ〜。あ、私お茶入れてくるね。ほうじ茶しかないけど、いいかな?」
「あ、お構いなく」
他の人、現生徒会役員と思われる皆さんからも、口々に歓迎?の言葉をかけられる。
「とりあえず座って下さい。まずはこちらの自己紹介から始めたいと思います」
「はい、お願いします」
そんな流れになったので、僕らは近場の椅子に座った。
「さて、私の事はもうすでに知っているかと思いますが。現生徒会会長を務めさせていただいている、三年の
そう言い、相変わらず嫌味の感じない爽やかな笑みを浮かべる纐纈会長さん。
「副会長をしている、二年の
次に挨拶してくれたのは、現副会長さん。濃い茶色のセミロング髪を短めのポニーテールにしており、太めの眉が印象的だ。
「ふむ、ギリギリ美少女と言った所だな」
「ちょ」
姉さんが突然かなり失礼な評価を下した。
思った事をつい口走っちゃう癖は、姉さんにもあるのだ。双子だし、やっぱり似た癖はあるものだよね。
ただまあ、僕が零すのはいわゆる「恥ずかしい台詞」的なヤツだけど、姉さんは逆だ。見下しというか毒というか……要するに、不和を生みかねない類いなのだ。
一応、双子の僕の評価まで下がりかねないと自覚出来るようになったのか、毒吐きは小さい頃に比べれば遥かに少なくなったし、言い草もマイルドになった。のだけど、今回の発言は……
「あっはははっそうよね! 自分でも、一応美少女って言えなくもいかな程度だって思ってるわ!」
……どうやら彼女は、わりとフランクな性格なようだった……気を悪くされなくて良かった。
「月影たんとはすでに知り合いですが! 自分は漫研副部長兼生徒会書記で三年の、
……現書記の人、随分濃いキャラクターだなあ。というか、公然とロリコン宣言するって、月影ちゃんに取って安心要素皆無じゃ……生徒会役員として問題ないのだろうか。
「公然だとは思いますが一応付け加えますと! ロリとは決して触れてはならぬ神聖不可侵の存在! 一定距離を保ち、視聴覚のみで愛でるモノでありますゆえ! NOタッチ!」
……一応、紳士的?ロリコンらしい。蒼月さんも月影ちゃんもノーコメントだし、本心ななだろうし、恐らく大丈夫なのだろう。多分。
ちなみにキャラは濃いけど、彼の容姿の方はこれと言った特徴がない。黒髪短髪眼鏡、くらいかな。
「お待たせ〜。ほうじ茶しかなかったけど、良いかな?」
「え? あっはい。ありがとうございます」
さっきと同じようなセリフに一瞬戸惑う。
彼女は僕の戸惑いの声を一切気にせず、ゆっくりマイペースにみんなに湯飲みを配り、それを終えてから自己紹介する。
「私は
緑の黒髪のコケシを思わせるボブヘアーに丸顔で、見た目や喋り方からも、いかにもおっとり天然系な人だ。マッキーは……副会長さんの事かな?
現生徒会メンバーの自己紹介が終わり、続けて僕らが手短に自己紹介を済ませた。
「書記と会計は、複数人在籍可能であります。故に、次期生徒会書記は月影たん、会計は長瀞殿と水城 瑞希殿で決定ですな」
「ふむ、そうか。先輩会計殿、よろしく頼む」
「マヒローで良いよ〜。よろしくね〜ミキミキ〜」
「ミキミキか……」
姉さんがなんか可愛らしい渾名を付けられていた。
「あー、噂通りなら、ミュッキーも生徒会入れちゃうかな。もうよろしくで良いよね〜」
「ミュッキー……僕の事ですか?」
「そだよ〜」
僕も微妙な渾名を付けられた……可愛いような、可愛くないような。
「ごめんね、まひるはちょっと捻った渾名付けたがるのよ。どうしても嫌な響きだったりしたら、拒否していいからね」
「えーと……まあ、公の場で渾名呼びされなければ」
「そこは大丈夫、
「ですか。ならかまいませんよ」
「書記の月影ちゃんは、えっと……シャイタン、かな〜」
「……?」
月影ちゃんが、どことなく不思議そうな顔をする。渾名の由来が意味不明だからかな。
「多分、シャイな性格で三峰先輩に「たん」付けされてたから、だと思うわよ」
「そだよ〜。シャイタン、ダメ〜?」
「……。優輝さんと、同じく……」
「わーやったー」
月影ちゃんも、生徒会室のみなら構わないらしい。
「さて。軽く親睦を深められた所で、そろそろ説明を始めましょうか」
雑談のキリの良い所で、纐纈会長さんが話を戻しにかかった。
「あ、あら? わたくしの渾名は?」
何故か加藤さんだけ長瀞先輩に渾名を付けられず、不満気な顔をしていた。
微妙な渾名付けられなくて良かったと思うんだけど……まあ、仲間外れ感あるからね、仕方ないね。
「透華様。長瀞先輩は「生徒会入りが確定の方」にだけ、渾名を付けたようですわ」
「あー、なるほど」
長瀞先輩、誰彼構わず付けてる訳じゃないらしい。
「ふっふふふ……負けませんわよ、水城 優輝!」
「あ、うん。何すればいいのかまだわからないけど、お互い頑張ろうね」
「その辺りも今から説明しますので、各自メモの用意をお願いします」
何故だか加藤さんのやる気に火が付いた所で、纐纈会長さんによる生徒会役員選出会の説明が始まった。