そうして僕は、応援期間中はアピールの剣舞の練習に費やすことにして無難に過ごし。いよいよ応援期間の最終日、全校生徒の前でのアピールタイムの日を迎えた。
アピールタイムの一人当たりの持ち時間は、最大10分。一年生の五十音順から始まるので、僕は三番目だ。
というわけで。最初の加藤さんトリオのアピールを聞いたのだけど……時間いっぱいまであーですわこーしますわとマニフェスト的なのを語っていたけど、大雑把に要約すると、
「わたくしが生徒会長になった暁には、訓練の授業担当の教師の増員と質の向上、武闘祭の賞の改訂を約束致しますわ!」
だいたいこんな感じだ。相変わらず勝ち負け白黒に拘る人だ。まあ、向上心が高い人は割と好きだけど。
2番目の蒼月さんは、やっぱり月影ちゃんと一緒に舞台に現れた。今日の2人の衣装も、服飾部――蒼月さんのお手製なのだろう。
蒼月さんは、青と白を基調とした、精霊国極北の
月影ちゃんも同じく藍凛風衣装で、カラーリングは紅白。どことなく、巫女さんを彷彿とさせるデザインだ。
「私は、栄陽学園生がより訓練に身を入れられるように、息抜きの場――部活動の環境をより良くし、快適にするために働きます。有り体に言うなら、部費の増額、でしょうか」
そんな蒼月さんが掲げたのは、やはり部のため――自分の趣味の充実のためのものだった。応援期間中も今も部のアピールをしているし、このマニフェストは誰もが予想していたと思われる。
とまあこんな感じで、前2人はただマニフェストを語っただけで済ませていた。目を見張るような派手さはないけど、2人とも、生徒会長に選ばれた時の事を真剣に考えていると分かるアピールだった。
(よし――僕も張り切っていこう)
さて、いよいよ次は僕の番だ。今は舞台袖で、呼ばれるまで待機している。
今の「僕」は、寧花祭の時の深緑カラーの着物風メイド服を纏い、手には奇妙に湾曲した模擬剣を持っている。ショーテルという武器だ。
何でメイド服で変わった剣を持っているのかと言うと、姉さん曰く「最高に映えるから」らしい。
うん、確かにこの組み合わせは、壇上でなくとも目を引く。
『続きまして。水城 優輝さんのアピールタイムになります。どうぞ』
司会の先生が僕の名前を呼ぶと、
『ワアアア……!!』
会場に大歓声が湧き上がった。
「ふふ、大人気だな」
「……そうだね。アイドルなんてガラじゃないんだけどね」
嬉しそうに呟く目の前の「僕」に、僕は諦め混じりにそう返す。
……さっきから、ときどき僕に「」を付けている理由だけど。今僕は、2人いるからだ。
「さて、お呼びだ。堂々とゆくが良い」
「まあ、うん。やるからには、真面目に真剣に」
そう呟き、舞台袖から静々歩いて観客に姿を晒す。
『……!?』
2人の「僕」が姿を現すと、会場が戸惑いで響めく。まったく同じ見た目と服装・挙動をする人物が現れたら、それは当然驚くだろう。
(……まあ、もう1人の僕は、僕の髪と同じ長さのウィッグ、目には僕の瞳の色と同じになるカラコンまでして変装した姉さんだけど。どれだけの人が、瞬時にその結論に至ったかな?)
姉さんも武闘祭で活躍していたし、僕らが双子だというのは周知の事実だけど。それでも今この会場内で、2人の「僕」がどっちが誰だかを見分けられる人は、多分ネイ先生くらい……いや、もしかしたら、ウィッグとカラコン外すまで、ネイ先生でも気付かないかもしれない。それだけ姉さんの僕トレースは、鏡写しのように完璧だと思う。
つまり。インパクトは絶大だ。それがどれだけ票に影響あるかは未知数だけど、無影響ではないはず。
『それでは、アピールをお願いします』
さすがに司会の先生には僕らがやる事は伝わっているから、滞りなく進行してくれる。
さて、既にアピールタイムに突入しているので、残り時間9分と55秒だ。さっそく剣舞を始めよう。
「僕」は僕と全く同時に観客に向かってお辞儀をし、全く同時にショーテルを構える。
「――――」
「――――」
……たっぷり10秒、微動だにせず見つめ合い、
「「イヤーーッッ!!」」
同時に同じ声同じ声量で裂帛の雄叫びを上げ振りかぶり打ち付ける。
カシーン!!
模擬刀のぶつかり合う音が響き渡る。
ショーテルという武器を選んだのは、先程言ったように奇妙な見た目が映える、というのもあるけど。この武器は、連撃性に優れているのだ。
特殊な形状だからそれなりの修練が必要だけど、というか久しぶりに手に取ったから僕も感覚を取り戻すのに数日かかったけど。慣れれば様々な角度からの攻撃が可能で、手首をくるりくるりと返すことで間を置かず連撃するその様子は、剣舞としてよく映えるのだ。
さらに、鏡写しのように剣を撃ち合う2人の僕の姿は、ただ1人で舞い踊るだけでは生み出せない神秘的なインパクトがある。
約7分、剣舞を披露し続けた。流石に少し息が上がる。
「「イヤーーッッ!!」
最後に強く撃ち合って、反動を付けて下りバック転し、最初の睨み合いの姿勢に戻ってから呼吸が整うのを待つ。
「「……スゥーー……ハアーー……」」
最後に一つ大きく深呼吸してから構えを解き、正面を向いて深くお辞儀する。当然寸分違わず姉さんも僕と同じ動作をしている。
数秒の静寂の後。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ――!!
会場内が拍手の大音量で揺れる。
(よし、大盛況)
拍手がいつまでも鳴り止まないので、数秒してから頭を上げ、司会の先生が持ってきてくれたマイクを受け取り口に近付ける。それに合わせて、徐々に拍手が収まる。
さて、アピールタイムの残り時間は少ない。規約では、何か一言だけでも意味のある発言をしなければならない。発言しないと大きな失点になるらしいので、剣舞も無駄になってしまう。
「私がアピールに剣舞を選んだ理由は、私が守護者候補生であり、剣が得意だからです。とはいえ、私の最も得意とする「剣撃」は、既に武闘祭で見せてしまっています。なのでこの度は、魅了する剣として「剣舞」を披露させていただきました」
まず最初に、僕がアピールタイムに剣舞を選んだ理由を語る。
「大剣を主武器に選ぶ前に、私は様々な剣を試してみました。この武器――ショーテルもその一つです。ショーテルは使いこなせるようになるのに、相性と修練がとても必要な剣ですが、扱えるようになればとても強力です。もし、ショーテル型の精霊剣の契約書がいるなら、今日の私の使い方を参考にしていただけたら、と思います」
次に、ショーテルのような癖のある形状の精霊剣と契約したとしても、キチンと精霊剣と向き合い修練を積めば、十分強くなれる点をアピール。
「共に切磋琢磨して、今よりもっともっと強くなりましょう。生徒会長になったなら、そのためのちょっとした手助けが出来ればと思います。遠慮なく、生徒会にご意見ご要望をお寄せ下さい」
最後にマニフェストを述べ、お辞儀して締める……まあぶっちゃけちゃうと、会長になっても具体的に何すれば良いか思いつかないから、して欲しい事を教えて、という意味だ。
そもそも、ネイ先生曰く、生徒会役員は見本的な学園生として振る舞えれば良いだけで、役員になったからと言って大幅に仕事が増える、などと言う事はないらしい。それに、生徒に快適に学園生活を過ごしてもらえるよう学園側がかなり気を遣っているため、通常の高校に比べても生徒会のやる事は、かなり少ないらしい。
ので、掲げたマニフェストを実現させる必要はまずなく、むしろあまり大きかったり多くの公約を掲げたりすると、逆に生徒会長の座から遠退く可能性すらあるらしい。
(あれ……そうなると加藤さん、1番不利なマニフェスト掲げたような……)
ドヤ顔でマニフェストを語っていた加藤さんが若干不憫に見える……いやうん、まあ。後は先生方と現生徒会役員のみなさんが判断する所だ。僕が心配しても意味はないか。
さて、一年生の候補者は僕で最後なので、次のアピールタイムは二年生だ。そして五十音順だから、トップは女部田先輩――ロールさんだ。
「時間が押してるから、早速いっくよー☆ 『PRISM DANCE』!」
「「Yeahhhh!」」
最初は、もはや応援期間のゲリラライブで恒例になった、PRISM DANCEワンコーラスバージョンだ。
(うーん、ここ一週間でみんな飽きるほど聞いたはずだけど――何故だか飽きないし、テンション上がるんだよね)
やはり、ロールさんの歌声には不思議な力があるのだろう。僕も自然と気分が高揚していた。
「あっは☆ みんないい感じにノッて来てるねっ! んじゃ次はお待ちかね! 新曲だあっ!!」
「うおおおおーー!!」
「神曲キター!!」
一曲歌い終え、間を置かず次の曲へ移る。
「いっくよー!
GUARDIAN SWORD……守護者の剣、か。守護者を目指している身としては、いやが上にも期待してしまう曲名だ。というか、栄陽学園生なら聴かざるを得ないよね。
想いを 込めて掲げる
guardian sword!
いつも走り続けて いつも頑張り続けて
明日を見続ける あなたが眩しいから
燃え尽きてしまいそうで 不安になるけど
絶対立ち止まらない そんなあなただから
あなたの強さ あなたの気高さ
全部知っているから
だから私は 叫ぶように 詠う
大切なモノを守りたい
あなたのことを守りたい
あなたを守れるなら
例え声が枯れても
大切なモノを守りたい
あなたの笑顔守りたい
魂 込めて貫く
i'm guardian sword!
新曲は、今までの曲とは少し毛色が違った。曲調はやっぱり激しめのロック調だけど、歌詞は、純粋で真っ直ぐな、切なる想いを詠ったものだった。
そしてなにより。この詠を歌うロールさんの声を聴いていると――
(ゾクゾクするっていうか……この不思議な感じ、どこかで……)
聴いていると精神が揺さぶられ、体が勝手に震え出す、この感じは――そう、咲さんに頼んで、神話級精霊剣の神性を体験させてもらった時の、あの生存本能が刺激されたゾクゾク感と身震い、あれに少し似ている。
厳密に言えば違う、というか逆な気がするけど……とにかく、未知の感覚というか感動というか……あーうー、上手く言葉に出来ないのがもどかしい!
「……ふっふふ」
「ん、姉さん? ……!?」
隣から聞こえた小さな笑い声に、思わず目を向けると――姉さんは心底楽しそうに、ニイィと口を歪ませて笑っていた。
「うわ……今度はどんな悪巧み思い付いたのさ」
「ふふ、まだ秘密だ、思い付いたばかりで具体的には言えないしな。なに、優輝が不利益を被る内容ではないさ」
「それはわかってるけどね……あんまりロールさん弄らないであげてね?」
「ふむ、まあ奴次第ではあるが、前向きに検討しよう」
(あ、ダメかも、凄い楽しそうだし)
僕の心配に気付く事なく、ロールさんは公約を語り続けている。とりあえず、
(ロールさん、姉さんがご迷惑おかけするからごめんなさい)
心の中で、先に謝罪をしておいた。
「生徒会長権限で、
「「「「Yeahhhh!!!!」」」」
そうして、ロールさんのアピールタイムも滞りなく終了した。
ライブ終了後の会場内のファンの歓声は、開始直後より確実に増えていた。僕も、多分姉さんをも感動させられた歌だったし、当然と言って過言じゃないよね。