優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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神話対話と仮契約

 ちょっと盛り上がったいくつかの小話の後、昼食作りに入る。今日はトマトとフレッシュバジルのサラダ、オニオンコンソメスープ、ボロネーゼスパゲティの、シンプルなイタリアンだ。

 

「優輝さんはトマトをキメると話が止まんねぇからよ」

「え? ……ああごめん、夢中で話しちゃってた、えへへ」

 

 エリスのツッコミで僕の口が止まる。

 

「んまぁ可愛いからヨシ!」

「うむ」

「ですわね」

「同意致します」

「ん、ありがと」

 

 トマトが美味しいからか僕の舌は滑らかになっており、今していた話の内容をよく覚えていなかった。

 二年生の一学期の遠足あたりの話から再開したのは、覚えているけど……みんなの話によると、夏の長期休みに僕の家や天王寺家に集まって特訓した事くらいまでを1人で延々と語り、他の4人はしばらく相槌を打つ機械になっていたらしい。

 

 素直に反省。

 

「そこまで話したとなると、次は二学期の始業式……つまりはあのイベントだね」

 

 うん、あの話はシラフで話したかったから、正気に戻れたのは良いタイミングだったかな。

 

「おっなになに、盛り上がりポイント的な?」

「そうだよ。二年生限定で、栄陽学園生にとって一番の目玉行事だからね」

 

 日記を開いて、その当時の事を鮮明に思い出しながら、そのイベント――「神話対話」について話す事にした。

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

 光陰矢の如し。熱中出来る事があると、季節はあっという間に過ぎ去るものだ。

 

 とはいえ振り返ってみると、一学期の学園のイベント事は一年生の時と大差なかった気がする。

 それでも熱中出来ていたのは、やっぱり同年代の友達と一緒だったからだろう。村では10歳位上か下の子しかいなかったからなあ。

 

 まあそれはそれとして。

 

 二学期には、一年の時にはなかったイベントがいくつかある。というか、二学期登校初日にいきなりある。それは一年の時の精霊剣大契約会に並ぶ、守護者候補生にとっての一大イベントの一つだ。

 

「ネイ先生情報だけど。今年の二年生は強者揃いだからか、「白銀(しろがね)の世代」なんて呼ばれてるらしいよ」

 

 他の国なら黄金世代とか(ぎょく)の世代とかだろうけど、精霊国では銀が最も尊ばれているから、白銀だ。

 

「ほむ。それってさぁ、やっぱ銀髪な月影ちゃんがいるからってのもあるよねん」

「だろうね」

 

 イベント会場へと向かう道中のバス内で、何故かジャンケンで僕の隣の席を獲得したアキと雑談する。

 

 二年生全員がクラス毎のバスで向かっているのは、首都にある某大型展示場。今日のイベントはそこで行われる。

 

 理由としては……広い方が、『もしも』の時に被害が大きくならないからだ。それに、一応室内だから、ある程度の機密性を保てるというのもあるかな。

 

 魔獣がほとんど発生する訳でもない首都内部で、安全に配慮しなければならないイベントと言えば。当然、精霊剣に関するイベントだ。

 

 イベントの名前は……やたら長ったらしい正式名称があるのだけど、あまりに長いので、だいたい通称の「神話対話」で通っている。

 

 どんな行事かを簡単に言うなら。契約者のいない神話級精霊剣との、契約交渉の場だ。

 

 現在この世界で確認されている精霊神剣の数は、全部で8。内2本は侵略者である魔神のものだから別として……それ以外、魔神が来る以前からこの世界に存在していたと言われているのが、6。

 

 その内『金剛』『極光』『暁闇』は契約済みだから、未契約剣は残り3。で、『重圧』は未だ行方不明中だから、今回触れ合えるのは『鋼鉄』と『粉砕』の2本のみだ。

 

 ちなみに、精霊神剣はある意味核兵器以上のヤバい存在だから、移動にはかなり厳しく制限がかけられており、契約者以外は首都の東庵から外に持ち出す事が法律で禁じられていたりする。

 

 

 

 

 さて、そんなこんなでバスで移動する事数十分。会場に着いた訳だけど……二年生全員で契約チャレンジに来た訳だから、精霊神剣との握手会にも順番がある。

 

 期待値が低め(出来ないとは言っていない)なクラスCから始まり、B、A、Dの順で対話をする。契約の期待値が高い(と思われる)クラスSは大トリだ。

 

 この神話対話で少しでも精霊神剣に興味を持たれた人は、定期的にその精霊神剣に触れさせて貰えるようになる。

 

 具体的には一、二週間に一回位らしいけど……精霊神剣は人間と遜色ないレベルの精神を持っているので、途中で飽きられたり、機嫌を損ねて対話拒否される場合もある。ので、未だ2本と契約を結べた者は、記録された歴史上存在しない。大体は剣の側から対話拒否されるパターンで打ち切られているらしいので、剣の「求め」と契約希望者とで方向性が合致しなかったのだろう。

 

 でまあ。ネイさん情報によると、学園主催で神話対話を使ったちょっとした、賭け事が毎年行われているらしい。

 商品は抽選で、学食割引券8枚綴りを20名様に。賭けの対象は、どっちの精霊神剣に誰が興味を持たれるか、らしい。

 

「あたしは優輝が『鋼鉄』に興味を持たれるに賭けるわ」

「私もアキちゃんに同じくです!」

「俺は、月影が『鋼鉄』に、だな」

「『粉砕』さんは〜?」

「本命はまぁ、加藤さんよね。私はそれに賭けるわ」

 

 僕の友人間での予想は主に、『鋼鉄』が僕か月影ちゃん、『粉砕』が加藤さんだった。というか、殆どの生徒がこの3択だと思われる。

 

 2本の精霊神剣の形状がその理由だ。『鋼鉄』は地属性、つまりは月影ちゃんが契約中の長剣型『堅固』と同じだし、剣のサイズ的には、僕が契約している大剣型である『遠雷』と同系統だからだ。

 

 『粉砕』の方は戦鎚型だから、戦鎚使いの加藤さんと武器の相性は良い。ただまあ、加藤さんも加藤さんの戦鎚型『烈震』も地属性で『粉砕』は風属性だから、そこは微妙に相性悪い。

 

 さて、そんな感じに雑談していると、クラスAの最後の人が落ち込んだ顔でクラスに戻り、いよいよクラスDの順番になった。今年はまだ、2本に興味を持たれた人はいない。

 

 

 

 

「まあ、私は銃使いだからな。残念ながら駄目だった」

 

 姉さんが、誰が見ても明らかにまったく残念そうでない様子で戻って来た。

 

「ていうか、静海いるしね。もとより姉さん、まともに対話する気なかったでしょ」

「そんな事はないぞ。今日の会話は有意義なものだった」

「うん? ……ああ」

 

 そっか。姉さん、精霊神剣作成のプロジェクトに関わってるし、すでに何度も2本と会話した事あってもおかしくはないか。まあ、クラスのみんなには内緒だから、この場ではこれ以上突っ込んで聞きはしないけど。

 

「……よし。じゃ、行ってきます」

「うむ、頑張れ優輝」

 

 姉さんの声援に背中を押されて進み出る。咲さんの『金剛』と何度か会話した事あるし、他の人に比べれば緊張はしていないけど……まあ、とりあえずは『粉砕』からかな。

 

(初めまして、こんにちは)

《興味ないね》

 

 生意気そうな少年のような声が頭に響く、ていうかいきなり断られた。えー……

 

(少しくらい会話を……)

《大勢に話しかけられて疲れてるんだよ。もう今日は興味が持てそうな相手以外とおしゃべりしたくない。それに、君の事は瑞希から前から聞いていたし》

(なるほど、すでに僕の情報はあるからこれ以上はいらないと)

《そゆ事。じゃね》

 

 そう言われ、唐突に気配が遮断される。一方的に通話を切られた感じだ。駄目だこれ。

 

「……こほん」

 

 ……気を取り直して、今度は『鋼鉄』に触れて呼びかける。

 

(初めまして、こんにちは)

《…………。水城 瑞希と似て非なる、精神。そうか、其方が、水城 優輝……か》

 

 独特な話し方だけど、どこか深い叡智を感じさせる、老人のような声……これが『鋼鉄』。

 

《水城 瑞希、から、話は聞いている。が……なるほど、なるほど強い……力強い、精神よ……我が力を求めるか?》

 

 おっ……さっきと違い、会話が進みそう。

 

 さて、喜ぶのはともかく質問に答えないと。

 

(確かに、精霊神剣の力を欲しています)

《力とは何か》

 

 短く単純な質問、だけど深い質問。でもまあ、答えは決まっている。

 

(自分と友達の平穏を守るための手段です。それを邪魔するモノを打ち壊すための、強き力を求めています)

《……ふ、ふふ。守る為に、破壊を求める、か。優しき暴力、とでも言おうか……》

 

 変わらずの淡々とした口調ながら、声色はどこか優しげに感じる。好印象、かな?

 

《……。また、会おう……次はじっくり、語らおう……》

(……はい、ではまたの機会に)

《うむ…………》

 

 ゆっくりと気配が遠ざかる。話は打ち切られたけど、どうやら僕へ興味を持ってくれたようだ。

 

(まあ、とはいえ。僕とは契約してくれないんだろうな)

 

 完全に気配を感じられなくなってから、そう思い浮かべる。

 

 別に、『鋼鉄』と僕の性格的相性が悪そうだとか思ってた訳じゃないけど……対話してみた感想として、やっぱり僕以上に相応しい相手がいるよねと、改めて思ったからだ。

 

 

「優輝〜! どだったの〜!?」

「おっと」

 

 戻ったら、アキがキラキラした目でカバっと飛びかかってきたので、抱き止めて受け流してから答える。

 

「んー。まあ、なんていうか。鋼鉄さんとはまた会いましょう、て言ってお別れしたよ」

「おおー興味持たれてるじゃん! やった勝った! 食券はあたしのものだー!」

「ふふっ、抽選に当たればね」

 

 そんな雑談しつつクラスのみんなの所に戻ると、

 

「ふ、流石は我が嫁、見事関心を持たれたか。だが我は、その上を行って見せようぞ!」

 

すれ違い様、高らかにそう宣言した飯屋峰君が、自信満々威風堂々と精霊神剣の元へ歩んで行った。どこからあれ程の根拠のない自信が溢れてくるのだろう、相変わらず不思議だ。

 

「滑稽だな。己の器を知れ」

 

 姉さんの小馬鹿にした声が聞こえた。気持ちはわかるけど、辛辣だなあ。

 まあそれも仕方ない。彼の性格じゃあ、あの2本にはまず気に入られはしないだろうし。

 

「……(ムス)」

 

 とか考えてたら、早くも帰って来た、いや早いな。流石にこの早さは予想外だ。

 

 

 

 

 対話は続き、現在はクラスS。蒼月さんが『粉砕』を手に持って対話中だ。

 結構長く、加藤さんの次くらいに長く対話している。蒼月さんが風属性だから興味を持ってくれたのかもしれない。

 とはいえ蒼月さんは弓使いだから、武器としての相性は最悪なのだけど。

 

 やっぱり、戦鎚使いだから、加藤さんと『粉砕』は会話が今のところ1番弾んだようだ。けどまあ、僕が賭けたのは加藤さんにじゃない。

 

「そいやぁ、ユキさんは誰に賭けたんだっけ〜?」

「ん、あれ? 言ってなかったっけ?」

「そう言えば、聞いてないかもです!」

 

 クラスSの対話の様子を眺めながら、チョコチップクッキーをもぐもぐしていたヒロとパフィンさんがそう尋ねて来た。

 

「僕は当然――月影ちゃんが『鋼鉄』と契約する、にだよ」

「!」

 

 確信を持ってそう告げると、それを聞いたサチさんが息を飲む。

 

「……はっきり「鋼鉄と契約する」って言うとは思わなかったわ。何か確信があるのかしら?」

「前から、月影ちゃんの性質と鋼鉄さんは、相性が良いと思ってたからね」

 

 名は体を表す。人名もそうだけど、精霊剣の場合は直結と言っていい。

 

 精霊神剣『鋼鉄』は、名の通り鍛えた鉄のような精神性や性質を探究するモノだろう。

 そして、月影ちゃんが今現在契約している剣の名は『堅固』、属性は地。『鋼鉄』は属性も剣の形状(大きさはともかく)も同じ、言わば上位互換と言える。

 

「対話してみて改めて思ったよ。鋼鉄さん、月影ちゃん見たいな娘、大好きだろうなってね」

「え、それは……つまりはロリコ」

「そうじゃなくてね」

 

 アキの台詞に途中で思わずツッコんでしまった。

 

「んまぁそれは流石に冗談だよん。んで、どゆこと?」

「僕が鋼鉄さんに言った、精霊神剣を求める理由――「守るための手段が欲しい」に好印象だったみたいだから。つまりはそれが鋼鉄さんの「求め」ってことだね」

「……つまりどう言う事だ?」

「ってばよ?」

 

 イマイチピンと来ない様子のアキと雅。

 

「多分だけど。鋼鉄さんの固有精霊剣術、防御結界系だよ。月影ちゃんは防御結界が大の得意だし、月影ちゃんが求めるモノを考えるなら、それはもう相性抜群だろうね」

「んみゅ? 優輝、月影ちゃんが何を求めるか聞いてたのん?」

「聞いてはいないけど、予測は出来るよ。月影ちゃんなら「何物をも遮る、鉄壁のような守りが欲しい」て答えると思うんだよね。月影ちゃんの「求め」と鋼鉄さんの「求め」がこれ以上ないくらいガッチリ噛み合うだろうから、即行契約もあり得るんじゃないかな」

「おぉ、なるほど! そう言われてみればそうだな!」

「はぇ〜すっごい! それなら月影ちゃんで決定じゃん!」

「一応、僕の予測の話だけどね」

 

 ここまで言ってようやく理解出来たようで、スッキリしたような顔で頷き合う2人。仲良しカップル可愛い。

 

 ざわっ……

 

 と、雑談に集中していたら、何やら周囲が僅かにザワ付いた。理由は、蒼月さんの対話が終了したからだ。無手でまっすぐクラスへ戻ろうとしているので、特に色良い返事はなかったらしい。

 

 さて、ザワ付いた理由は蒼月さんではなくて、次の人だろう。蒼月さんの次だから、つまりは――守護者筆頭候補の、月影ちゃんの番だ。

 

「…………」

 

 前に進み出た月影ちゃんは、ちらと『粉砕』に視線を向けたけど、すぐに視線を変えて『鋼鉄』へと近付いていく。はなから『粉砕』とは相性が悪いと判断しての行動だろう。

 

「ん……(ぺこり)」

 

 一度お辞儀をしてから『鋼鉄』を抱き抱えるように持つ。月影ちゃんミニマムだから、そうしないと大剣型の『鋼鉄』をまともに持ち上げられないのだろう。可愛い。

 

…………………………

 

 ……それまでとは違い、場が沈黙に包まれる。それだけみんな以前から、この対話には注目していたということだ。

 

「…………」

 

 月影ちゃんが『鋼鉄』に触れて数秒後。

 

キィン――!!

 

「「!?」」

 

 刹那の甲高い金属音と共に淡く灰色に発光しだす『鋼鉄』、はともかく耳痛っ。

 なまじ耳が良いので今みたいな唐突な激しい金属音苦手なんだよね……あいたた……はあ、ビックリした。

 

 耳に治癒術をかけるとすぐに、大きくなった周囲のザワ付きが耳に届く。当然、月影ちゃんと発光を続ける『鋼鉄』のせいだ。

 

「…………」

 

 厳かに発光する巨大な神剣と、それを扱うには明らかに不釣り合いな短躯の銀髪の少女が、抱き抱えるように持ち、静かに瞑目する。その光景は、もとより神聖さを感じさせる容姿の月影ちゃんを、より一層神秘的に見せる。

 

「……………………」

 

……………………………………

 

 最初こそ大いにザワ付いていたけど、月影ちゃんがこれまでの人以上に長時間対話する様子を見て、再び会場は静寂に包まれる。

 

 そして、月影ちゃんと『鋼鉄』の対話が始まって、約十数分後。

 

「……ん」

 

 月影ちゃんは小さく鼻から息を吐き、静かに瞳を開いてこちら――生徒のみんなに視線を送る。良い結果だろうとは確信しているけれど、月影ちゃんが何を言おうとしているのか想像すると、流石にちょっとドキドキする。

 

「…………。第4位神話級精霊剣『鋼鉄』……固有精霊術は、強固な防御結界……」

 

 月影ちゃんが静かに語り出す……神話級だと言う事は『鋼鉄』本人?から語られており公然の事実だけど、等級……神話級だから「位階」だけど。『鋼鉄』の位階や固有精霊剣術は、今まで語ってはくれなかった。それを月影ちゃんが口にすると言う事実。

 

ブオン!!

 

 月影ちゃんが両手で『鋼鉄』の柄をしっかと握り、振り回す。最初に触れた時は重そうに抱き抱える状態だったけど、今の素振りはどうみても軽々と。

 

 つまりは――!

 

「……今はまだ、仮契約、という形ですが……契約致しました……」

 

………………………………………………………………………

 

「え?」

 

 精霊剣との「仮契約」なんて初めて聞いたから、ちょっとだけ思考停止したけど。人間と変わらない精神、趣味嗜好を持っている存在なのだから、そういう流れになる場合も無きにしも非ず、なのかな?

 

 まあ何にしても。人類が行っている「仮契約」と同じ意味ならばそれは、正式な契約の一歩手前、条件が整い次第契約しても良いと言う意味だ。

 

 つまり。月影ちゃんは本日を持って、「守護者候補生」から「未来の守護者」になったのだ。実質、新たな守護者の誕生と同義だ。

 

 その事に理解が追いついた、政府関係者含む会場のほとんど人は、

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

大いに沸いたのだった。

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