優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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二年目の武闘祭、サチさんvs僕

「ちょっと思ったんだけどさ」

 

 神話対話の話が大体終わってから、エリスが尋ねてきた。

 

「その年の武闘祭、月影ちゃんはどんなポジションだったん? 仮とはいえ契約してたんなら、普通の精霊剣士じゃあ万に一つで判定勝ちくらいしか目がないっしょ」

「月影は元々強いので、どっちにしろ誰にも勝ち目はなかったのですけれどね」

「え? あぁそかそか、実力隠してたらしいねぇ」

 

 蒼月さんに指摘されて、月影ちゃんの当時の秘密を思い出し苦笑いを浮かべるエリス。それに釣られて、僕も苦笑いで話に加わる。

 

「ていうか、月影ちゃんのあれは!ある意味反則みたいなモノだよね……姉さんですら、当時の月影ちゃんの真の実力がどれ程までかはわからなかったんでしょ?」

「うむ、そうだな。周囲が認知しているより高いのだろうとは勘付いていたが。まあ私は、月影のそういう強かな所を気に入っている」

「あはは……姉さんにとっては、「強か」で済む話なのね」

 

 その隠し事のせいで、一苦労……レベルじゃない苦労を経験したのだけど。まあその辺りの話は日記に書いてないし、今は置いといて。

 

「それはそれとして。超越者(仮)だった訳だし、普通は出場させられないっしょ?」

「条件付きだけど、したよ?」

「え、そうなん?」

「じゃあ次は、その辺りの話をしよう。二年生の時の武闘祭の話だね」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

 月影ちゃんの仮契約から早一ヶ月寂、二年生の武闘祭は目前だ。周囲は例年通り武闘祭の話で盛り上がっているのだけど、今年はそれに加えて、月影ちゃんの話題で盛り上がっていた。具体的には、月影ちゃんの武闘会での立ち位置だ。

 

 仮とはいえ精霊神剣と契約したので、月影ちゃんの戦闘力は疑いようもなく学園一になった。そもそも月影ちゃんはもう準守護者なので、守護者候補を育成するための機関である栄陽学園に通う必要は、すでにないのだけど……

 

「……その……もうしばらく、皆さんと一緒に、学生……していたい、ので……」

 

 友人達と――僕らとの学園生活をまだ謳歌したいから、二年生の間は学園に籍を置いていたいと希望したらしい。その時の頬を赤らめ視線を逸らし恥ずかしそうに報告する月影ちゃん可愛いが過ぎた。可愛いオブ可愛い。好き。

 

 と、生徒会会議で聞いたその内容を、先行して親友にのみリークする。まあすぐに出回る情報だし、言いふらさないと知っているから、だけど。

 

 ちなみに、何故仮契約となったのか月影ちゃんに聞いたのだけど。鋼鉄さん曰く、すでに精霊剣と契約していたから、らしい。

 

 本契約の条件の一つとして、今契約している剣との契約を破棄する事が条件として出されたらしい。つまり、二重契約を嫌ったと言う事だ。

 

 月影ちゃんは、今まで共にあった相棒とも言える剣との契約を破棄するのは忍びなかったらしく、現在鋼鉄さんと話し合って折衷案を模索しているらしい。

 

 ……話を戻して、武闘祭だ。

 

 月影ちゃんは守護者(仮)だから、武闘祭に参加する意味があまりない。間違いなく学園最強だしね。

 

 けど月影ちゃんとしては、学園の二年生として行事を楽しみたい。とはいえやはり一般候補生との実力差は如何ともし難い。

 そこで僕ら生徒会と職員が話し合って決めた妥協案が、こちらです。

 

「月影ちゃんは素手のみ、防御結果も使用不可。有効打を一撃でも当てられたら負け」

「うみゅ、あからさまなハンデだねぇ」

「まぁ、月影さん強すぎますからね、仕方がないですよ」

「ん……その条件で、かまいません……」

 

 

 

 そんなこんなで武闘祭当日。

 

『今からぁ、間仕切り壁を開きま〜す。壁付近にいる人はぁ、少し離れて下さ〜い』

 

 スピーカーから聞こえて来たネイ先生の声の後、

 

ガチャン……ゴウンゴウン……

 

と駆動音を鳴らして、壁がスライドしていく。

 

 去年に一年生席から見聞きした流れ。この後生徒会長の挨拶を挟んで、武闘祭開催となる。

 

 つまりは、僕のお仕事だ。

 

「1年生の皆さん、ようこそ武闘祭の会場へ。私達上級生は、守護者候補生の皆さんを歓迎します」

『『キャーユキ会長ー!!』』

 

 全学年から、黄色い声や野太い声が上がる……だいぶ慣れたとはいえやっぱり気恥ずかしいので、気を抜くと赤面しそうになる。まあそんな事より挨拶だ。

 

「武闘祭は、みなさんがこれまで守護者候補生として培ってきた努力の成果を披露する場です。ついに今年度、新たな守護者が1人誕生しましたが、未契約の精霊神剣はまだ存在していますし、これまでの、これからの努力は決して無駄にはなりません。是非、皆さんの全力を見せて下さい、ふふっ」

『『キャーユキ会長可愛いー!!』』

 

 用意した台詞を言い切り笑顔で締めると、再び声援が上がったので一礼してから、

 

「では――これより、武闘祭を開催します!」

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

開催を宣言して、歓声が冷めぬ前に舞台袖に下がった。

 

 

「くすっ、だいぶ生徒会長さんぶりが板に付いたようですね」

「……茶化さないで下さいよ。少し慣れただけで、注目されるのは相変わらずむず痒くて仕方ないです」

 

 舞台袖にて、柔らかな声色で咲さんからそう話しかけられる。今年も咲さんは解説者席で親子揃って見学・解説役をする事になっている。

 

 去年と違うのは、今年は一年生だけでなく全学年分の試合、つまりは五日間全部見学するらしい。魔獣大発生だとかの緊急事態でも起きなければ、だけど。

 

 当初は去年と同じく、一年の部を見学するだけだったらしいのだけど。月影ちゃんが仮契約して準守護者になったから少し荷が降りて、若干時間の融通が効くようになったのだとか。

 加えて、先輩守護者として新人教育の名目で頻繁に月影ちゃんと会えるように色々と予定を組み直したら、結果時間が余った、との事。月影ちゃんが準守護者になった影響で咲さんの負担が減ったのは、僕としても嬉しい。

 

『そしてそして、なぁんとっ!! 超特別ゲスト解説者がいらっしゃっていまぁす!! どうぞこちらへっ!!』

「お呼ばれしてしまいました。それじゃあ、行ってきますね。優輝さんも試合、頑張って下さい」

「はい、ありがとうございます」

 

 実況者君にお呼ばれした咲さんが解説者席に向かったのを確認してから、僕は二年生席に戻って行った。

 

 

 

 

 一年生の部は滞りなく終わった。特筆して強い生徒もいなかったし、見所も特になかった。ちょっと残念。

 

 それはそれとして、現在は二年生の部が進行中で、すでに数試合消化済み。ここまでで注目のカードと言える対戦はなかったけれど。

 

「優輝さん、お手柔らかに、なんて言わないでよね」

「ん、了解」

 

 僕対サチさんのカードなら、それなりに盛り上がるだろう。

 

「……とは言ったけど、一応確認ね。それは全力出して欲しいって事だよね」

「もちろん。実戦形式でいきましょう?」

 

 サチさんの提案に少し思う所はあるけれど。彼女の実力なら、まあ死にはしないだろう。

 

 

「両者、構え!」

 

 レフェリー先生の指示で、定位置について構える。

 

「レディィィィ……ゴオォォォォ!!」

 

カーン!!

 

「《迅雷》ぃ!」

 

 ゴングが鳴り響くと同時、相手を殺すレベルの迅雷を発動して斬りかかる!

 

「《烈風斬》!」

 

 対するサチさんも、小手先の技を使用せず、自身の最高火力を出してきた。

 

ガガアアン!!

 

 ぶつかり合う力と力。落雷と烈風が激しく鍔迫り合う。

 

 僕の《迅雷》のコンセプトは、一撃必殺。牽制の小技も使えるけど、真に磨き上げたのは、実質これ一つ。ただ一つを磨き上げてこそ真の意味での『必殺技』になり得る、と言うのが僕の持論だ。

 

 とはいえやはり、弱点というものは存在する。それが、風属性だ。つまりサチさんの技と僕の技は、相性が悪い。

 

 正確に言えば、「敵対した場合」、だけど。共闘する場合はむしろ相性最高なんだけどね。

 

 敵対した場合何故相性が悪いのかというと、『電撃』が『風』に散らされて、威力が減衰してしまうからだ。

 

『おおっとぉ!? これまでほとんど一撃、あるいは一方的に圧倒してきた優輝選手と、まさかの拮抗ですっ! 優輝選手と言えど強力な風属性相手には勝てないのか!!』

 

 タイミングを逃さず実況君が実況を差し込む。去年の僕の試合は実況する間もなく一撃で終わってたから、雷属性の天敵とも言えるこのカードのこのタイミングを、前から狙っていたのだろう。

 

 でもまあ。僕は《迅雷》を必殺技として磨き上げて来た。

 

「やああっっ!!」

「くっ!」

 

相性をぶち抜いてこそ、必殺技というもの。裂帛の気合いと共に雷撃をさらに強めつつ剣をさらに押し込む!

 

ピシピシッ

 

 それに耐えきれず、お互いの模擬剣にヒビが入る音が聞こえ、

 

バギイイィンッッ!!

 

ついに砕けた。去年の挑戦試合の時よりは数秒保ったかな。

 

 さてそれよりも。砕けた武器の交換のためのタイムは可能だけど、サチさんとは実戦形式と約束した。

 

 つまり――タイムなんて甘えはない。

 

「《迅雷拳》!」

「《烈風脚》!」

 

 刹那の間も置かずお互い刀身が砕けた武器を放り、格闘戦に移る。サチさんもその辺りを正しく理解してくれていて嬉しい。

 

バヂイン!!

 

 雷を纏った拳打と烈風を纏った鞭の様にしなる回し蹴りがぶつかり合う。

 

『いつの間にやら格闘戦が始まりましたあっ! は、早いっ! 二選手共早すぎてまともに実況出来ませぇんっ!』

 

 まあね、精霊術士最速の攻撃が可能な雷と、速度は雷に一歩劣るけどかなり素早く動ける風じゃあね、仕方ないね。

 

『お互い譲らず、と言った攻防ね。二人共、良い気迫です』

 

 実況君に代わり、咲さんが状況を端的に説明する……とまあ、このように実況席の様子を理解できる程度には、僕の方には余裕がある。

 

 勿論、手を抜いてなんかいない。ただまあ、勝ち筋がみえている分、僕には心に余裕があるのだ。

 

「はああっ!」

「くっ……ふうっ!」

 

 風で雷撃が散らされるとは言っても、まったく通っていない訳ではない。風の防護を抜けた雷撃が触れた場所が痺れで感覚が鈍くなっているのだろう、徐々にサチさんの動きに精細さが失われていく。

 

 とはいえこちらも、風の影響でただの格闘戦とは比べ物にならない速度で体力が奪われている。

 

 お互い長期戦は不利……と、普通なら思うだろうけど。サチさんと僕とでは、僕の方が少しばかり有利なのだ。ちょっとズルな気がしないでもないけど……まあ要するに。

 

 サチさんは女の子だから。どうしても、僕より体力的に少し劣る。

 

「っあ」

 

 体力的にもダメージ的にも限界だったのだろう、気力に追い付かずサチさんが足を躓かせる。

 

「おっと」

 

 いつ頽れてもおかしくないと思っていたからか、咄嗟に前に出て、床に激突する前に受け止めていた。

 

「あっ……あ、ありがと、優輝さん。っはぁ、ふぅっ」

「ん、どういたしまして……はふう」

 

 息も絶え絶え状態で言葉を交わす。さて、それはそれとして。

 

「まだ何十秒かはあると思うけど、まだやる?」

「ふぅ……優輝さんの意地悪……はぁ……もう限界よ……」

「うんまあ、わかってはいるけど。一応実戦形式って約束したしね」

「っんっしょ」

 

 残りの気力を振り絞って、サチさんが一人で立ち上がり、

 

「私の負けです」

 

サレンダーした事で、試合は終了した。

 

「勝者、水城 優輝!」

 

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 派手な攻防を繰り広げられたからか、会場は今大会で一番の大盛り上がりを見せたのだった。

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