優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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特別挑戦試合 月影ちゃんvs僕

 その後の試合で盛り上がったのは、姉さんと蒼月さんの試合くらいかな。

 

 試合内容は去年と同じくかなりの激しい攻防となり、去年と同じく制限時間一杯までお互い撃ちまくっていた。

 

 ただ、去年と違い審判員による判定はなかなか纏まらず、ビデオのスロー再生による判定に持ち込まれ、最終的に今回は姉さんが判定勝ちをもぎ取った。

 

「うむ、良い運動にはなったな」

「ふふ、ですわね」

「親友同士で殺し合いみたいな事しといて、終わったらいつも通り。相変わらず仲良しだよねぇ……」

「あはは……」

 

 正直、僕含め友人達全員ちょっと引いていた。まあ本人達が楽しそうだから良いけど……

 

 

 

 

 さて。そんなこんなで二年生の部も滞りなく終わった。

 

 個人的に見所があった試合を挙げるとなると、やはり姉さんと蒼月さんの試合が1番かな。後は、加藤家取り巻きの、杏ちゃんと萩さんの試合は手に汗握る良い試合だった。

 

 それと、んー……アキと飯屋峰君の試合かな。

 

 飯屋峰君は、相変わらずの完全我流の剣って感じだけど、それでもやはり、性格に難ありでなければクラスSレベル。時間切れまで打ち合う接戦でアキが判定負けした。

 

 まあ、次の試合で月影ちゃんと当たっちゃって瞬殺されちゃったので、やっぱり彼の試合はあんまり印象に残っていない。

 

 ちなみにヒロも月影ちゃんと当たって、去年と似たような感じで負けた。

 

 月影ちゃん強いなあ……ワクワクしちゃうね。

 

 ということで。今年の二年の部上位4名は、

 

  天王寺 月影

  加藤 透華

  水城 瑞希

  水城 優輝

 

となった。

 

 

 三年生の部はカット。印象に残ってるのは、特待生枠で試合免除されてたロールさんが締めにやったミニライブくらいで、試合に関しては特に言うことはない。

 

 

 

 

 さてさて、今回の挑戦試合だけど。今回挑戦を受ける上級生は武闘祭の記録上初となる全員二年生、とネイ先生が言っていた。

 

 うんまあ……三年生の面目を潰してしまうのは申し訳ないけど、明らかに今年度は二年生の方が強いからね、仕方ないね。

 

「はああ!」

 

 僕の相手は、赤髪の長剣使いの……ジョシュア君、だったかな。一年生上位4名の一人だけあって筋は悪くないけど、まだまだ腕で剣を振ってる感じで未熟だ。

 

「剣の握りに力が入り過ぎてるかな。まあそれよりもまず、下半身を重点的に鍛えようか」

「はぁっ……はぁっ……あ、ありがとうございますっ!」

 

 試合後に軽くアドバイスして終了。

 

 ちなみに、加藤さんと月影ちゃんの試合も僕のと似たような流れで終了したけど、

 

バギイ!

 

「ふん、雑魚か」

 

姉さんだけは、容赦なく一年生君を倒しちゃっていた。

 

「ありがとうございますっ!」

 

 ……でも何故か感謝されていたので、姉さんのお相手の彼は姉さんが容赦しない事込みで姉さんに割り当てられたのだろう、多分。模擬剣で殴られ罵倒されたのに幸せそうだし。

 

 とまあ、こうして挑戦試合は終了した。

 

 

 

 

 で。例年なら、このまま閉会式に行く流れなのだけど。

 

『皆さんお待ちかねぇ!! ついにこの時間がやって来ましたぁ!!』

 

 今年は最後の最後に大会の締めとして、特別挑戦試合なるものが企画されていた。

 

『今大会の最後を飾る特別挑戦試合ぃ! 主審を務めて下さるは、なんと! 守護者・珠洲野守 咲様ぁ! 対戦カードは、「新星守護者」! 天王寺 月影選手ぅ!!』

 

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「…………」

 

 気恥ずかし気に少し頬を赤らめる月影ちゃん可愛い。守護者になっても基本的には引っ込み思案だしね、仕方ないね。

 

 でまあ。月影ちゃんのお相手は、奇しくも同じ大剣使いになった、

 

『対する挑戦者はぁ! 精霊神剣『鋼鉄』との契約を有力視されていた1人! 月影選手を除けば恐らく学園最強っ! 「無双の雷牙」! 水城 優輝選手ぅ!!』

 

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『『ユキ会長ー! がんばれー!』』

 

僕だ……うん、まあ、これは月影ちゃんじゃなくても普通に恥ずい。注目され過ぎて若干ムズムズする。

 ……こんな風に注目されるのが快感なんて、ロールさんは凄いなあ。

 

 さて、それよりも特別挑戦試合だ。

 

 この特別挑戦試合は名前の通り、今大会のみの特別な試合だ。内容は実況君の通り、月影ちゃんvs僕の試合だ。

 

 去年の一年生無双はともかく。例年通り、挑戦試合とは「格上の胸を借りる」のが主旨だ。つまり、挑戦者が勝てる事は基本的にない。

 

 そういう意味で、この特別挑戦試合は「特別」とついているけど、正しく挑戦試合だ。何故なら――

 

キィン――

 

「……」

『おおっ皆さんご覧下さい!! 月影選手が掲げた鋼色の大剣が淡く発光していまぁす!! な、なんと神々しい精霊光でしょうか……!!』

 

 二年の部ではハンデで素手だった月影ちゃんは、この試合で『鋼鉄』でもって相対してくれるからだ。

 

 でまあ。月影ちゃんが精霊剣持ちなら、当然僕も精霊剣持ちだ。流石に模擬剣じゃあ話にならない。

 

 ちなみに、武闘祭中は全生徒体操着だけど、この試合は特別にお互い戦闘着に着替えさせてもらっている。月影ちゃんはともかく、これで僕は、正真正銘の全力で挑める体制になれた。

 

 主審を咲さんに替わったのも、このためだ。魅せるための試合とはいえ精霊剣同士のぶつかり合い、生身のレフェリー先生じゃあ身の危険があるからね。

 

(さて。合わせるように、て言われてたっけ。こんな感じで良いかな)

 

バチバチッ

 

 月影ちゃんに合わせて僕も大剣型精霊剣「遠雷」を掲げ、軽く電撃を纏わせて発光させる。

 

『『おおお……!』』

 

 お互い精霊剣を発光させた事で、オーディエンスのボルテージも上がる。

 

「さて、では始めましょうか。両者、構え」

 

 咲さんの指示に従い、僕はいつも通り肩に乗せるように構え、月影ちゃんは正眼に構える。

 

「……。始め!」

 

カーン!!

 

「《迅雷》! はああああ……!」

 

 僕はゴングと同時に《迅雷》を発動、ただし直ぐには飛びかからず電撃を溜め、破壊力をUPさせる。

 

ガインッ!

 

 対して月影ちゃんは変わらずの不動で、『鋼鉄』を正面に突き立て、

 

「《鋼鉄結界》」

 

防御結界を発動、自身の全面に半透明で鋼色な板が現れた。

 

(いつものと違う。多分あれが、月影ちゃんの新たな防御結界……そして『鋼鉄』の固有精霊剣術、かな)

 

 分析しつつ、電力を溜め続ける。

 

 一応、咲さん監修の下でした月影ちゃんとの精霊剣での模擬戦で、『堅固』持ちの月影ちゃんの《黒鉄結界》はぶち破った事あるけど……

 

(多分僕が負ける。けど、これまで積み上げてきたものに自信はあるし、一矢……の先端分くらいは報い……れるといいな)

 

 とか思ったりもしたけど、まあ要するに。

 

(――よし)

 

 充電は十分。

 

「てやあああああああああ!!」

 

 ただ全力でぶちかますのみ!!

 

パ――ガアアアンッッ!!

 

 恐らく人生で最大威力の一撃! 僕は稲妻となって《鋼鉄結界》へ斬りかかる!

 

ガガガガガガ――!!

 

 予想通り、《黒鉄結界》より更に硬い!

 

「やああああああーー!!」

 

 それでも、更に気力と精霊力を注ぎ込む!!

 

ピシッ――

 

「……!」

 

 まだ仮契約だからか予想以上には硬くなかったらしく、《鋼鉄結界》に亀裂が走る!

 

 これは予想外だったのか、月影ちゃんが僅かに瞳を大きくする。

 

(いける!)

 

 剣を振り抜いた後の事を一切考えず今の僕のありったけを込めて押し込む!

 

「ああああああああああ!!」

 

ビシシッ――ピシビシビシピシビシビシ!

 

ひびが広がっていき――

 

――ッガシャアン!!

 

遂には分厚いガラスを打ち割ったような破砕音と共に、ついに《鋼鉄障壁》が砕け散った!

 

(や、やった!)

 

――と喜びに打ち震えたい所だけど、油断大敵、挑戦試合はまだ終わっていない。去年の武闘祭で、ヒロが月影ちゃんの結界を破った喜びで隙を晒して負けたのをよく覚えている。

 

 つまり。月影ちゃんの防御結界を破ったこの刹那こそが、ある意味1番油断出来ない――

 

ヒュ――

 

(やっぱり来た!)

 

 空気中に溶け込むように霧散し切る刹那、《鋼鉄結界》の破片による目眩しの中、突如として白い何かが眼前に迫る!

 

(白いのは月影ちゃんの太ももかな)

 

 と冷静に考えつつも思考を高速で走らせる。

 

(予想通り足技が来た、この剣を振り切って霊力も出し切った状態で出来る回避行動は――膝の力を一気に抜いてのしゃがみ込み!)

「……」

 

ガシッ

 

「うぐっ」

 

 しゃがむ事を見越していたのか、月影ちゃんの足が僕の首に難なく絡みつく。蹴りではなく首4の字固めか。

 

(このままじゃあ絞め落とされる、でもまだ!)

 

 絞め付けがキツくなる前に首に力を入れ上半身を勢い良く後ろに倒して床に叩き付――

 

ドンッ

 

(えっなにこれ後ろに壁!? そんなものあるはず――《鋼鉄結界》か!)

 

 飛びかかると同時に僕の背後に張っていたのだろう、ただ僕が背中を軽く打ち付けただけで終わった。ここまで読み負けるとは。

 

ギュウ――

 

(苦しっ――でもまだ!)

 

 僕は雷属性のスタンガン人間、関節技は悪手!

 

「ライッ!!」

 

 頭部に電撃を集めると、電気で逆立った僕の髪の毛が月影ちゃんの足に触手のように絡み付く、そこにさらに電流を送り込む!

 

バヂイ!

 

「……っ!」

 

 痛みと痺れのせいか足の拘束が一瞬緩む、

 

「っん……!」

 

けど月影ちゃんは更に強力に絞め付け、そのまま振り子のように全身を傾け――

 

ミギッ

 

――という音と衝撃と共に、僕は意識を手放した。

 

 

       ――――――――

 

 

「あ、あれはまさしく転◯華!」

「知っているのか?」

 

 何やら訳知り気に、月影が優輝にかけた技名らしきものを口にするアキ。

 

「某格闘漫画に登場した技だよ! まさかこの目で実際に見ようとは……!」

「あー、そう言えば月影さん最近、異様に筋肉ムキムキなキャラばかり出てくる格闘漫画見てました!」

 

 ……月影は本当にジャンル問わず読むな。

 

 さて、それはそれとして。

 

「勝者、天王寺 月影さん!」

 

 咲殿により勝者の宣言がなされ、

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

熱い攻防に息を呑んで見守っていたオーディエンスが、我に帰ったかのように沸きたった。

 

「……!」

 

 勝利宣言を聞いた直後の月影の動きは迅速だった。

 

「んっ」

 

 失神中の優輝のヤバい感じに曲がっている首をすぐさまコキッと矯正してから膝枕状態に持っていき、

 

「……《治癒(リカバリー)》」

 

初歩の治癒術をかけ始める。月影の治癒術は普通レベルだから、あくまで応急処置だな。

 

「親友相手だろうと、真剣勝負を約束したなら手は抜かないし容赦もしない。サチといい、優輝には生真面目な友人が多い事だな」

 

 まあ、学園が超優秀な治癒術士を擁しているからこそ皆、遠慮せず殺る気でやれるのだが。実際に本当に殺る気で試合した者は、ごく少数だろうが。

 

「うーん。優輝が大怪我を負ったのに、冷静過ぎないか?」

 

 何やらマミヤが尋ねて来た。

 

 そんな事を気にするとは、マミヤは相変わらず凡人だな。だから私は此奴を、マミヤという渾名とアキの恋人という事以外覚えられないのだ。

 

「大天才はこの程度の事で狼狽えたりはしない。想定内だからな」

「どういう事だ?」

「優輝が大怪我を負うだろうから、すでにロキをすぐに動ける位置に配置してある」

「はいはーい! ウチ、参上っす!」

 

 言っている内に、治癒術担当の教師よりも早くロキが何やら口上を述べながら優輝の側に飛んでいき、

 

「むむむっ……《復活(リザレクション)》っす!」

 

 現在確認されている治癒術の内、最高レベルのを僅かに集中しただけで発動させる。うむ、流石は私が仕込んだ治癒術の天才だ。

 

復活(リザレクション)をこれ程の速度で……! 天才か?」

 

 治癒術担当の教師が驚嘆の呟きをこぼす。ふふ、もっと褒めるが良い、その賛辞はロキを見出した私への贈り物だ。

 

 

       ――――――――

 

 

 ……後から聞いた姉さんの話によると、僕が気絶中の何十秒かに、こんな感じのやり取りがあったらしい。

 

 

「――はっ!?」

 

 気が付くと、どことなく心配気な瞳をした月影ちゃんの顔、視界の隅にやり遂げたぜ的なドヤ顔で手の甲で額を拭う仕草をする癒円さんの顔があった。

 

「えーと……どんな状況?」

 

 癒円さんが治癒術で治してくれたのは解るけど。

 

「首の骨が折れてたっす!」

 

 爽やかな声で物騒な台詞を言われた。

 

「ああ……」

 

 思い出した、月影ちゃんに関節技かけられてたんだった。

 

 にしても…… 後頭部がほんのり暖か柔らかで心地良い。そして月影ちゃんの顔が近い。ふむ。

 

「やっぱり月影ちゃんは可愛いなあ」

 

 至近距離にある整った顔を眺めながら、まだぼんやりとする意識でそんな感想を……

 

「……っ!」

 

 ぼふっと音がしそうな感じで一気に月影ちゃんの顔が赤くなる……あー、また無意識に口に出しちゃってた。

 

「キキキキキマシタワーー!!」

「落ち着けニック」

 

「え?」

 

 その喜声で、周囲の状況に気付く。

 

(あ……保健室とかじゃなくて、まだ武闘祭会場なんだ)

 

 さらに聴衆からの喜声が続く。

 

「月影ちゃん膝枕尊い……!」「俺もしてもらいた、いや、ユキ会長にしてあげ、いや、いや……あーユキ会長にも月影ちゃんにもなりたい!」「はー……! はー……!」「落ち着け蒼月、うむそうだ冷静に撮影しろ、興奮で我を忘れるのは後にしろ」「良いもの見せて頂きました」

 

「あ、あはは……変な注目を集めちゃったみたいだね……ごめんね、月影ちゃん」

「……(ぷいっ)」

 

 僕の謝罪の言葉に更に顔を赤くし、顔を背ける月影ちゃん。うん、やっぱり超可愛い。

 

 それに、やっぱり月影ちゃんはとても優しい娘だ。注目されていて恥ずかしいだろうに、僕が覚醒してから意識がはっきりするまで膝枕を続けてくれたのだ。好き。

 

 

 ……こうして特別挑戦試合は、何とも締まらない感じで終了した。

 

 

 

 

 ちなみに、武闘祭の終了後一週間、会場修復のため訓練棟への立ち入りが禁止となった。精霊剣同士の精霊力のぶつかり合いのせいで、僕らの周囲の床は大きくひび割れ陥没までしてしまったからだ。

 

 精霊術士同士のぶつかり稽古は想定していても、精霊剣同士のぶつかり合いは想定してなかったのだろうし、まあ仕方ない。特例で精霊剣を使わせてくれた学園に、改めて感謝。

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