ブライトラップ 〜ヤンデレブライトにゆっくり溶かされていく〜 作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り
気づいたら、ブライトのトレーナーにされていた! そして、お茶会に参席! もう逃げられないぞ!
あ……ありのまま今起こったことを話したぜ!
——数週間後、俺はブライトの仮トレーナーにされていた。
あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!
『俺はブライトに偶然廊下で出会ったと思ったら、いつの間にか仮トレーナーにさせられていた』
な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……催眠術とか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗——ハイパーマイペースの片鱗を味わったぜ……。
しかし、違和感に気づいた時にはもう既に遅い。
次に行われる選抜レースまで残り一週間を切った頃。
その日のトレーニングを終えると、メジロ家で行われるお茶会に誘われ、いつの間にか参席していた。
「——というわけで、ご紹介いたしますわね〜」
ブライトがいつも通りの笑顔で——と言っても最近出会ったばかりだが——紹介するのは、三人のメジロのウマ娘。
「左から、凛とした強さを持つドーベル、誇り高きマックイーンさま。そしてわたくしの大好きな、優しいライアンお姉さまです〜」
妹分の言葉に、ライアンと紹介されたウマ娘が照れたようにして、はにかむ。
「えへへっ、こんにちはっ、あたしたちのお茶会へようこそ。で、ブライト……この方は?」
「はい、わたくしの仮トレーナーさまです〜」
「仮……?」
そう呟き、マックイーンは訝しんだ。
確実に着々と逃げ場をなくされている気もするが……。
ここは、ブライトの言葉足らずな部分を補うことにする。
「選抜レースまで練習を見るという……」
「ああ……なるほど。確か、もうすぐですものね。専門の方に集中的に見ていただくというのは、大事なことですわ」
マックイーンはウンウンと頷く。
どうやらメジロのウマ娘達には、納得してもらえたらしい。
それからも、よく話は弾んだ。
ブライトとのトレーニングはどうですか?
うん、ちょっとタイムが、ね……。
ひょっとして、このままだと選抜レースは……。
いや、ブライトはスローペースだけど、スタミナがある。こちらで仕掛けるタイミングを指示したりすれば、長距離でならその弱点を補っていけるよ。
主にトレーニングの話だったが、それでも思いの外、彼女らとの会話は楽しいものだった。
そもそもトレーナーはウマ娘のことが好きでなるものなのだから、それも当然といえる。
かくいう俺も、ウマ娘が好きでトレーナーになった口である。
トレーナー養成所に入って必死に勉強と研修を重ねたのも全て、ウマ娘を側で支えたいという願いから——あれ……? でも、そう思うようになったのはどうしてだ?
どうして俺は、ウマ娘のことが好きになって、それで彼女らを支えたいと思ったのだったか……。
頑張ってトレーナーになろうとしていた他は皆、各々トレーナーを目指した理由があった。
小さい頃にレースを見て夢中になった。
美少女と同じ空間に居たい、ぐへへ。
トレーナーって、給料良さそうじゃん。
自分のトレーニング理論を証明したい。
大なり小なり何かしらの理由があって、皆その理由を叶えるためにまっすぐだった。
じゃあ、俺は?
それが、どうしても思い出せない……。
まるで記憶の道に霧がかかったように思い出せないのだ。
「う〜む……」
「……トレーナーさま? お加減が悪いのでしょうか〜?」
俺は俯きながら唸っていると、ブライトはウマ耳をやや垂れさせ、顔を下から覗き込んでくる。
いかん、心配させてしまったか。
しかし次の瞬間には、そうですわ〜! と言わんばかりに笑顔を咲かせた。
「仮トレーナーさま、お紅茶はいかがですか〜? ぜひ、コンポートしたリンゴを入れてみてくださいね」
「あ、ああ……任せるよ」
そう言うと、ブライトは側にあったポットを傾け、カップへと紅茶をゆっくり淹れてくれる。
仕上げに、焼き色の甘そうな光沢を放つリンゴを二欠片入れて完成。
ブライトからしっとり湯気の立つそれを受け取り、啜った。
「……美味いな、これ」
そう、口から溢れるように呟いた。
コンポートしたリンゴの甘味と酸味が、紅茶の豊かな風味と合わさることで、また違う顔を覗かせる。
美味い、間違いなく美味い。
それに、どこかホッと安心のする味でもある。
できれば毎日飲みたいぐらいだ。
「美味しいですわよね〜。それに、お紅茶には風邪予防の効果があると、アルダンお姉さまが仰っていましたわ〜」
「紅茶には殺菌効果のある成分が入っておりますものね」
「へえ〜」
ブライトとマックイーンの説明に頷きつつ、美味しく紅茶を啜る。
俺がいるせいか、ドーベルはちょっと不機嫌そうに、ライアンは俺たちの会話に微笑みを浮かべていた。
お茶会は初めてのものだったが、概ね楽しいものなのかもしれない。
そういえば、さっき——
「——ところで、アルダンって……?」
そう軽い気持ちで口にする。
さきほど出てきた名前。
ブライトが『お姉さま』と言っていたので、おそらくメジロのウマ娘なのであろう。
この場に居ないメジロのウマ娘が気になり、尋ねたのだが……尋ねた瞬間、皆一様に表情を陰らせてしまう。
「いえ、それは……」
困ったようにして、ライアンが言い淀んだ。
まるでその様子は、答えるのが憚られることを聞かれたようで——
次に、意を決したマックイーンが口を開く。
「……実は、アルダンさんは体調を崩されて、寝室で休養している最中ですわ」
「……体が悪いんですか?」
「それも、あります……ですが今回、体調を崩されたのは……アルダンさんのトレーナーさんが行方不明になったことが起因しています」
行方不明……?
そういえば今年、行方不明になったトレーナーが一人いるって学園から知らせが届いていたような……。
「早く、見つかるといいな……」
「……ええ」
俺は再び紅茶を啜った。
けれど、その紅茶は少しだけ苦いような気もして——
その後、見事ブライトは選抜レースで一着となった。