ブライトラップ 〜ヤンデレブライトにゆっくり溶かされていく〜 作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り
担当が増えるよー、そしたらヤンデレがどうするか分かるよね?
「ブライトさん! これからよろしくお願いしますね!」
元気一杯に挨拶したのは、栗毛のウマ娘。
トレーナー室によく響くその声は、ブライトに大きく目を開けさせるには十分なものだった。
「ほわぁ〜……トレーナーさま、この方は?」
「ああ、紹介するよ。理事長の薦めでウチに新しく入ることになった子だ。まだ中等生で学園に来てから間もない、仲良くしてやってくれ」
「……ほわぁ」
俺がそう言うと、ブライトは改めて彼女に向き直り、じっと少女のことを見つめ続ける。
それを受け、俺と少女は額にじんわり汗をかいた。
——新人のウマ娘がチームに馴染めることは少ない。
大抵、先輩のウマ娘に仲間外れにされる。
そうでなくとも、トレーナーが優先するのは大きなレースがある先輩ウマ娘の方だ。
疎外感を感じ、チームを去るウマ娘も少なくない。
ウチのチームの方針として、そうならないようにするつもりだが……。
それもすべて、ブライト次第だ。
彼女が否といえばチームとして成り立たない。悪いが、新人のこの子には他をあたってもらうことになる。
だが——杞憂だった。
ブライトはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべた。
「はい、こちらこそよろしくお願いしますわ〜。何かお困りのことがあれば、トレーナーさまか、わたくしかにお聞きくださいまし〜」
少しだけ緊張していたその子もそれを聞いて、パァッと笑顔を咲かせる。
「はい! 先輩に負けないぐらい頑張ります!」
ふぅっ、なんとかなったか……。
仲良くできそうな二人の様子に、俺はホッと胸を撫で下ろす。
俺は何を不安に思っていたのだろうか……ブライトに限って、新人に酷いことをするはずもないのに。
担当への信頼が足りていない自分を貶しつつ、とりあえずはトレーナーの仕事を全うすることにした。
「それじゃあ、二人の自己紹介も終わったところで早速だが、トレーニングといこう。それでウチの大体の雰囲気を掴めるはずだからな」
「わかりましたわ〜、それでは今日もトレーナーさまはお声を張り上げるのでしょうか〜?」
「声を張り上げる……? もしかして、トレーナーさんってスパルタ!? っ、私はスパルタでも全然構いません! 耐えてみせます! まずは手始めにタイヤを引きながらフルマラソンでしょうかっ! さあさあさあっ!」
「近い近いっ! そこまで厳しくするつもりないからっ!? それと、ブライトは勘違いさせるようなこと言うな! スパートのタイミングを指示しているだけだろう!」
ブライトもそうだが、またまたぶっ飛んだウマ娘がやって来たな……これから忙しくなりそうだ。
そんな予感めいたものを感じつつ、彼女がやべー奴と知っておきながらムリヤリ押し付けて来た理事長には制裁を加えなければと考える。
よし、この件を秘書のたづなさんへ事細かにお知らせして、理事長の3時のおやつを抜きにしてもらうおう。
卑怯? 残忍? 何それ、美味しいの?
美味しいお菓子なら、理事長の目の前でたらふく食うがね。はっはっはっ。
♦︎
それから、さらに数ヶ月後。
俺たちは東京レース場にやって来ていた。
『——先頭を駆ける黒鹿毛に栗毛が迫る! その差は残り一バ身! ゴールまでもう少し、どちらが今レースを制するのか!』
もちろん、栗毛のウマ娘は俺の担当の子だ。
彼女は歯を強く食いしばったかと思うと、脚にこれでもかと力をこめ芝コースを蹴る。
「いいぞ、追い抜かしてやれっ!」
「ゴール板までもうすぐですわ〜」
俺とブライトの声援が届いたのか、ゴールの瞬間。
相手よりもほんの少しだけ前に出ていたような気がした。
『ゴォォォーール! 熱いレースを繰り広げてくれました! 目視での判定は難しいので、結果は写真判定となります!』
それからしばらくして、電光掲示板に写しだされた一着は——ウチのウマ娘の名前だった。
「よしっ……よぉ〜しっ!」
俺は謎のガッツポーズをとり、喜ぶ。
ブライトもこちらへ嬉しそうに駆けてくる後輩の姿を見て、微笑んでくれていた。
「あの子、頑張りましたわね〜」
「ああ! 今までのトレーニングの成果が出て——って、ブライト?」
「? どうかなさいましたでしょうか〜、トレーナーさま?」
「あっ、いや何でもない……」
ふいに出てしまった声を、何とか誤魔化す。
確かにブライトは普段の優しげな笑顔だった。誰が見ても安らぐような、そんな素敵な笑顔。
そう、何も不安がる必要はないはずなのに。
何故か『後ろに倒されたウマ耳』だけが、やけに不安を駆り立てた——