ブライトラップ 〜ヤンデレブライトにゆっくり溶かされていく〜   作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り

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 ひぃえぇぇ……ヤンデレこわいよぉぉ……。


消えた担当と溶かされていくトレーナー

 

 

 

 

 ——ある日、担当が消えた。

 

「ブライト、あの子から何か聞いてないか? 今日は風邪だとか」

「いえ、今朝からお姿が見えなく……」

「そうか……無断でトレーニングを休むような子ではないはずだが」

 

 あの子はいつもなら休む時は理由とどれぐらいの休息が欲しいのか、キッチリと連絡しているはずだ。

 それがないというだけで、こちらも心配になってくる。何かあったのではないかと。

 

 そう思えば、居ても立っても居られなくなってきた。

 

「すまん、ブライト少し待っててくれ。寮の方に確認してくる」

「はい、トレーナーさま。お待ちしていますわ〜」

 

 ……妙な胸騒ぎがする。

 

 焦燥感に引き摺られるまま、俺は寮へと急いだ。

 

 

 ♦︎

 

 

 担当の子が所属しているのは、粟東寮。

 そこで、寮長であるフジキセキに担当のことを尋ねてみたのだが——

 

「トレーナーさん、落ち着いて聞いて」

 

 やけに真剣みを帯びた表情で単刀直入にそう言われた。

 

「やっぱり、何かあったのか!?」

「うん、その前にこれをトレーナーさんに」

 

 フジキセキが懐から取り出したのは、綺麗に梱包された一枚の手紙だった。

 

「これは……?」

「今日、姿を見かけなかったからその子の部屋に行ってみてたら、綺麗に整頓された部屋の机にそれが。おそらく、中身は……」

 

 フジキセキは言葉を濁した。

 まるでそれ以上先は、手紙が教えてくれると言わんばかりに。

 

「……きっと、ちょっと反抗期で一人旅に行っているだけだよな?」

 

 俺はそう自分を誤魔化しつつ、震える手でもって手紙の封をなんとか破いた。

 その手紙に書かれていた内容は——

 

『私、トレセン学園を辞めます』

 

 ——から始まった。

 自然と手紙を持つ手に力がこもり、皺が入る。

 それでも、読むのだけはやめなかった。

 

『正直、私はトレーナーさんのことが嫌いです。なぜ? と、どうしようもないあなたは今不思議に思っているのでしょうね。トレーナーさん、覚えていますか? 最初、私がいくらハードなトレーニングをお願いしても突っぱねてきましたよね? あの時、私思ったんです。ああ、このトレーナーさんは私のレース人生の邪魔ものなんだって。私がトゥインクルシリーズに入ってからかれこれ一年経ちました。もう、どんなトレーニングをしてもGⅠの怪物たちには敵いっこないです。あなたでなく、他のトレーナーなら——もっと私のことを受け入れてくれるトレーナーなら違ったレース人生を送れたでしょうね。でも、これでトレーナーとの担当契約もようやく切れてせいせいします。さようなら』

 

「そんな風に思っていたんだな……」

 

 俺はそっと静かに手紙を閉じ、読み終えるまで待っていてくれたフジキセキに向き直る。

 

「……トレセン学園を辞めるそうだ」

「そっか……大丈夫なのかい、トレーナーさん?」

「問題ない、しっかりしているあの子ならレースの他にも道がいくらでも——

「そうじゃなくて、トレーナーさんは大丈夫なの?」

「ああ……大丈夫——俺は大丈夫だ」

 

 誰とも知らない何かに念を押すようにして言い放ってからフジキセキに手紙を押しつけ、踵を返す。

 

「俺はブライトを待たせているから、これで」

 

 そうして、その場を足速に去った。

 

「……最後は目も合わせてくれなかったね、トレーナーさん」

 

 ——彼女の手に残った手紙には幾つもの皺と雫に濡れていた。

 

 

 ♦︎

 

 少し気分を落ち着かせてからブライトの待つ、芝コースに戻ってきた。

 

「ブライト、待たせたな」

「いえ〜、それよりもどうでした?」

「ダメだった……学園を去るそうだ、もう二度と戻ってくるつもりもないだろう」

「……そう、なのでしょうか」

 

 ブライトはその表情に影を落とした。

 ブライトと彼女は仲が良かった。さぞ、ショックなのだろう。

 しかし、ここは心を鬼にしなければならないんだ。一人のトレーナーとして。

 

「悲しみに暮れる時間はないぞ。次のレースもそろそろだ。早速、トレーニングに——

「トレーナーさま」

 

 声を遮ったブライトの方を見る、そうすると彼女は穏やかな声音で続けた。

 

「どうか、ご無理はなさらないでくださいまし」

 

 無理……? 無理なんて……。

 

「そんなもの、……っしていないぞ」

 

 胸の内から溢れる何かを必死に抑えようとしていたが結局、その声は震えていた。

 もう既に限界だったのかもしれない。

 

「トレーナーさま、お膝に」

 

 ブライトは芝コースに座り、ぽんぽんと自身の腿の上へと俺を誘導する。

 一瞬のためらい。

 けれど、大人としての恥や外聞など構っていられなかった。

 彼女のなすがままその腿に頭を預ける。

 

 ——包み込まれるように柔らかいブライトの腿は、心安らぐ温かさがあった。

 

「わたくしは、何があってもトレーナーさまのお側に居ますわ〜」

 

 そう言い、ブライトは優しく微笑む。

 

 その言葉と優しさに、堰き止めていたものはついに決壊した。

 

「っ……俺が……俺が何したって言うんだよっ! 必死に二人の成長に合わせてトレーニングを組んで、食事も太り気味にならないようにダイエットメニューを考えた! すべて二人にレースで活躍して欲しかったから頑張れたんだよ……そしたら、『私たちのためにいつもありがとうございます!』って。俺はバカだから、それでスッゲェ喜んだよ。これからも二人のために頑張るぞっ、て。でも……あれは全部嘘だったんじゃねーかっ! 春も夏も秋も冬もっ! 一年間レースを駆け抜けてきたのは全部嘘だったのかよっ! ちくしょう……ちくしょう……どうして俺がこんな目に遭わなきゃなんねーんだ……なんでこんな惨めな気持ちに……」

 

 声を荒げて本音をぶちまける。

 それでもブライトは「大変でしたわね〜」と相槌を打ち、話を聞いてくれた。

 ずっと頭を撫でてくれていた。

 とめどなく溢れる涙は止まることがない。

 ブライトの撫でる手はどこまでも温かく優しいもので、あまりの心地よさから自然と瞼が重たくなっていく。

 

 ……もう、俺にはブライトしかいないのかもしれない。

 こんな辛い思いをするぐらいなら、他はいらない。この幸せがありさえすれば良い。

 

「……ありがとう、ブライト」

 

 心からそう呟く。

 

 そうして暗く微睡んでいく意識の中、一瞬垣間見えたブライトはその微笑みを三日月に歪めているような気がした——

 

 

「ぐ〜っすりとおやすみください、トレーナーさま〜」

 

 

 

 

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