ブライトラップ 〜ヤンデレブライトにゆっくり溶かされていく〜 作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り
うーん、探偵っぽくなってきたな……。
——担当が消えてから1ヶ月後のことだった。
もはやメジロアルダンのトレーナーが失踪した話も聞かなくなってきた頃、俺は再びメジロ家のお茶会に参席していた。
「——トレーナーさん、すっかり元気になりましたねっ!」
その最中、ライアンはニコッと爽やかな笑顔を浮かべてそんなことを言う。
その言葉に、俺は静かに頷いた。
「うん、ようやく自分の中で整理がついた気がするよ」
「はい、ホントに良かったです。以前見た時は今にも死にそうな顔をしていたので」
そうやって、ライアンはホッと息を吐く。
よほど心配をかけたんだろうな……。
身を案じてくれるのは嬉しいが、俺としては複雑な心境だ。
ちっぽけなプライドであろうと、年下の——それも教え子ぐらいの子に励まされるというのは些か恥ずかしい。
しかし、深く落ち込んでいたのは事実であるため頷かざるを得ない。
今の俺はきっと、苦笑いを浮かべていることだろう。
「それで、その居なくなった子はどんな子だったの?」
次はドーベルが話を振ってきた。
珍しく興味でもひかれたのだろうか。
「いつも元気一杯で笑顔の絶えない子だったよ……でも、今思えばあの笑顔も全て偽物だったのかもな……」
「まだ引きずってるじゃん」
「あれ、もしかして嵌められた? そんな……不覚ッ! この俺がドーベルなんかに嵌められるなんて……!」
「アタシなんかって何!? 自分で墓穴掘っただけでしょっ!」
ちょいと軽口を叩くと、ドーベルの怒りゲージはマックス——にはならず、俺もドーベルもその顔は僅かに笑っている。
お互い冗談で言っているだけだからだ。
ドーベルとこうした気軽なやり取りができるぐらいには、ここ一年とちょっとで仲良くなれた。
俺はブライトの家族をより知ろうとして。ドーベルは姉妹同然のブライトのトレーナーである俺を知ろうとして。
お互いが歩み寄った結果である。
唯一、消えた担当とはできていなかったことでもあるが……。
「その方は今どちらに?」
今度はマックイーンが真剣みを帯びた表情で尋ねてきた。
「それが……わからないんだ。一応、学園を辞めるということで理事長に確認してもらったんだが、退学届もだしていないらしくて……家に連絡をとっても誰も知らないと」
「そう、ですか……」
そうやって4人で会話をしていると、隣で紅茶を淹れていたブライトが紅茶のなみなみと注がれたカップを俺の前へと差し出してくれた。
「トレーナーさま、お待たせしました〜。お紅茶ですわ〜」
「ありがとう、ブライト」
「それと、お紅茶に合う、あま〜いお菓子も用意致しましたわ〜」
「確か、高級スイーツ店の限定品だっけ? 美味しそうだな」
瞬間、マックイーンのウマ耳と尻尾が激しく揺れた。
「っ、限定スイーツ!?」
「どうした、マックイーン? 取り乱して」
「あ、いえ何でもありませんわ……ケーキが冷めるといけません、早くお食べになりましょう」
「ケーキは元々から冷めているんだが……」
マックイーンの目はスイーツに釘付けであった。
瞳孔を開ききったそれは、少し怖い。
今にも飛びかかりそうなぐらいだ。
しかし——ブルルッ、俺の体は少し震えた。
話をしていると、喉が乾くため紅茶を次々と飲んでいたが、まさか仇となるとは。
思い立ったら吉日。
すぐさま椅子から腰を浮かせ、立ち上がる。
「ごめん、紅茶を飲みすぎた。少し席を外すよ」
「わかりましたわ〜、それまでお菓子は我慢しています。みなさまでお食べになった方が美味しいので〜。そうですわよね〜、マックイーンさま?」
「えっ……?」
部屋を出かけた時、フォークを持って固まったマックイーンの姿がチラリと見える。
その表情は、実に悲壮という言葉が似合っていた。
哀れなり、マックイーン。
♦︎
「……ふぅ、スッキリした〜。ん? これは……何だ?」
トイレにて所用を済まし、お茶会に戻ろうとしたところで、廊下の隅っこ——置物の影に隠れ落ちているそれを見つけた。
「トレーナーバッヂ……?」
拾って照明の光を当ててみれば、小さく輝くそれは間違いなくトレーナーバッヂであった。
誰の? ってもしかして、俺のか……?
すぐさま自分の左胸を確認するが、自身のトレーナーバッヂは服にしっかりと張り付いていた。
どうやら、少なくとも俺のではないようだ。
ということは、このメジロ家にやってきたトレーナーの誰かのものである可能性が高くなってくる。
そも、簡単に落ちるものでもないと思うが……。
「あとで調べておくか」
持ち主は困っているだろうし、探せばすぐ見つかるだろう。
そう思い、俺はそっとそのトレーナーバッヂをポケットにしまい込み、お茶会へと戻った。
——その日も、メジロアルダンとは会えなかった。