ブライトラップ 〜ヤンデレブライトにゆっくり溶かされていく〜   作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り

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 私はあまり服飾関係に強い方ではないので、メジロブライトさんの私服に関して適切な表現が出来ているのか不安です……。


ブライトとのデート

 

 

 

 

 

 

「ブライトまだかな……」

 

 トレセン学園の校門前。

 休日のよく晴れた空のもと、腕時計の針を切なく見つめながら一人呟く。

 

 待ち合わせの時刻になっても、未だブライトの姿は見えない——まあ、いつものことだが。

 

「……気長に待つか」

 

 ちょうど今は真昼時。

 そして休日というのも手伝ってか、お出かけをしようとするウマ娘達の姿がチラホラと見えてくる。

 

 例えば、あの二人仲良く並んで歩く栗毛と黒鹿毛のウマ娘。

 

「——今日はどこに行くの、スペちゃん?」

「はい、今日はこの前できたばかりのスイーツ食べ放題のお店に行きたいですっ、スズカさん!」

「……今日は別のお店に行きましょう?」

「えぇぇっ!? 美味しい季節のフルーツを使ったスイーツがあるらしくて、ライスさんとオグリさんも今日行くって言ってましたよっ!」

「なおさら、別のお店にしましょう! できたばかりのお店が潰れちゃうわ……!?」

 

 やはり、どのウマ娘も休日のお出かけを楽しみにしているようだ。

 日々のトレーニングの疲れを癒せるのだから、それも当然か。

 

 ——思えば、このところレース続きでブライトに負担を掛けすぎた。

 レースへの調整のために、潰れていく日曜。本来、友達とお出かけをしているはずなのにだ。

 それでも彼女は何の文句もなく厳しいトレーニングに付いて来てくれている。

 

 俺としては、なるべくその頑張りに報いてやりたい。

 それがたとえエゴだとしても構わない。

 できるならば他のウマ娘と同じように、ブライトが今日という日を楽しんでくれることを願う。

 

 ——もう、決して見放されないように。

 

 ……どうやら俺は担当が消えた日から、すっかり臆病になってしまったらしい。

 

 

「……おっと、きたか」

 

 そんなことをぼんやり考えていると、学園の方からようやく見知った影が近づいてきた。

 その影は、軽くゆっくりとした動作でこちらに手を振っている。

 

「トレーナーさま〜、おまたせいたしました〜」

 

 ブライトだった。

 しかし今日は一味違うようで。

 いつものトレセン指定のジャージではなく、私服を身に纏っていた。

 

 ——フリルの付いた緑と白のシャツワンピース。

 上から下まで淡いエメラルドグリーンに染められたそれは、例外的にスカートの端の白フリルと胸元から衿ぐりにかけて白の布地が広がっている。

 ゆったりとしたその服は、ブライトによく似合っているのだと思う。

 

 ……わざわざ口に出すのも、気恥ずかしくてとても言えないが。

 

「待ち合わせの時間から30分ぐらい遅れたけど、どうした?」

「どの服を着ていくかで迷ってしまいまして〜」

「そっか、何かあったわけじゃなければ良いんだ。それじゃあ、行くとするか」

「はい、トレーナーさま」

 

 ——こうして、ブライトとの『デート』が始まったのである。

 

 

 ♦︎

 

 ——初めは映画だった。

 

 わたくし、是非トレーナーさまに見ていただきたい映画がありますの。はい、トレーナーさまもご存じの通り、トレーナーさまと担当ウマ娘さまの恋愛を描いた作品ですわ〜。歳の差や立場といったお二人の間に訪れる様々な試練……と、ライアンお姉さまオススメの作品で、トレーナーさまもお楽しみになられると思います。? 本物のトレーナーと担当ウマ娘がそんな映画を一緒に見ていたら誤解が生まれる? そうなのでしょうか〜? あちらの会長さまとトレーナーさまはご一緒にこの映画を見られたそうなので、きっとわたくしたちも大丈夫ですわ〜。え〜い。

 

 ——次に、喫茶店。

 

 美味しいですわ〜……サンドウィッチとお紅茶がお口の中で仲良しさんになられています〜。トレーナーさまも——あら、ふふっ、トレーナーさまもそう思われますか? お口の周りにパンのおかけらが。ひょい、ぱくっ。? トレーナーさま、どうかなされたのでしょうか? お顔が真っ赤ですわ〜。

 

 ——さらに遊園地へ。

 

 メジロ家の所有する遊園地ですわ〜。本日は貸切となっていますので、わたくしたちでたぁ〜くさん遊べますわ〜。最初は、ジェットコースターに致しましょう。メジロ家の誇るこの遊園地のジェットコースターは、高さ200メートルでそこからの急降下は世界一です。是非、体験してみてくださいまし〜。? トレーナーさま? 今度はお顔が青いですわ〜。それにお体も震えて……ジェットコースターが怖いのでしょうか? まあ、そんなことない、と。ふふっ、トレーナーさまも男の子ですわよね〜。

 

 

 ——そして最後に。

 

 

 ♦︎

 

 

「……ここは俺たちが初めて会った公園?」

「はい、どうしてもトレーナーさまと最後にここを訪れたくて〜」

 

 土、赤みの増した白樺、やや落ちた葉。

 ブライトと会った時は冬で白樺の木にはほとんど葉がついていない状態だったが、秋に近い今は生えた沢山の葉が赤くなりつつあった。

 

 ——かさっかさっ。

 落ちた紅葉を踏みつつ俺たちは公園の奥へと進み、あの日のベンチに二人して座った。

 

 そしてまた、ひらりと落ちていく紅葉を見上げる。

 

「……懐かしいですわね〜」

「……そうだな」

 

 ——あれからニ年経った。

 クラシックの終盤に差し掛かったブライトは未だ快進撃を続けている。

 そのたびに思うんだ。

 彼女との出会いは『奇跡』だったのかもしれない、って。

 

 それだけ、ブライトとの日々は光輝いたものだった。

 今日のデートも、意志の強いブライトらしくやや押しの強いところもあったが、時間に縛られることなく二人でゆっくりと流れる時間は幸福に感じた。

 

 

 あのときの——昔の楽しかった日々を思い出すほどに。

 

 

「ブライトと街を歩いていて、思い出したことがあるんだ」

「はい」

 

 ブライトは柔らかく返事をし、こちらに向き直る。

 その瞳はどんな内容でも受け入れるという優しい光を宿していた。

 だから、一瞬だけ躊躇いつつも話すことができたのかもしれない。

 

「……俺は子供の頃、この街にしばらく住んでいたんだ」

「住んで、いた・・……?」

「ああ、父親の仕事の都合上、すぐに引っ越したけどな」

「トレーナーさまがいなく……いなく……」

 

 反芻するようにそう呟くと、ブライトはそのまま俯いてしまった。

 表情は前髪に隠れて伺えない。けれど、ウマ耳は下に垂れている。

 

 ……不安にさせてしまっただろうか。

 

 しかし、すぐさまその考えは甘かったのだと思い知ることになる。

 彼女にとって、俺がいなくなるというのはその程度では収まりきるはずもないのに。

 

 

 ——そんな愚かな俺への罰は、ブライトの『涙』として現れた。

 

 

 ——ポツリ、ポツリ。

 いくつもの透明な滴が彼女の手に落ちていく。

 

「……また、どこかへと行かれてしまうのでしょうか……?」

 

 その声は震えていた。

 そして頬を伝う、一筋の涙。

 はらはらと流れ、止まることはない。

 

 ……やってしまった。

 担当ウマ娘を傷つけるなんて、俺はトレーナー失格だ……。

 

 弱弱しく俺へと彷徨うように伸ばされたブライトの手を、ガッシリと強く握る。

 突然に手を握られ驚いた彼女は一瞬、振り解こうとするが、それでも俺は決してその手を離さなかった。

 構うものか。

 もうどこにもいかないと証明するためなら、いくらでも強く握ってやる。

 

「本当は俺、担当が消えた日にトレーナーを辞めようって思ってたんだ……」

 

 そう言うと、彼女はビクッと体を揺らした。

 徐々にその金色の瞳は恐怖に彩られていく。

 

 前からそうだった。

 彼女は何かに怯えている。

 だから、その何かを拭い去るために言ってやるんだ。

 

「それでも俺がトレーナーを続けていられたのは、これからもずっとブライトと一緒にいたいからだ」

 

 

 どんな辛いときも側にいて支えてくれた。時間を気にせずいつまでも。

 そんな彼女のマイペースさにどれほど救われたことか。

 だから、今度は俺がブライトの側に居て支えたいんだ。

 

 ブライトはさらに流れていく涙など気にせず、何度も何度も頷いた。

 

「はいっ、トレーナーさま。これからもずっとお側に居させてくださいまし」

 

 そう言って、彼女は泣きながらも花咲くように笑ってくれて。

 俺もそんな彼女に、ぶきっちょに笑い返したりして。

 

 やがて訪れた夕暮れ時。

 地平線の彼方へ沈みゆく眩しいまでの光に、二人はどこまでも溶けていった。

 

 ——もう決して離れたりなどしないから。

 そう誓って。

 

 

 

 しかし、その翌日。

 メジロ家に落ちていたトレーナーバッヂは、現在も行方不明であるメジロアルダントレーナーのものであると判明した——

 

 

 

 

 

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