薩摩の子   作:キチガイの人

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 何とか頑張って投稿しました。

 補足ですが、タイトルの『薩摩の子』はアイのことを差します。『推しの子』が「推してたアイドルの子供に転生した話」であるように、『薩摩の子』は「薩摩出身の子供に転生した元アイドルの話」になります。
 ん? 薩摩の子の子は庇護対象では?
 そ、そうなりますね(ボーナスを原作購入に消えるかもしれない貧者の目)。


010.本日は台風なり

 中央駅を走る電車において、もっとも貧弱なのは何線なのか。

 地元民なら口をそろえて『指宿(いぶすき)枕崎(まくらざき)線』と答えるだろう。ちょっとした大雨で、この路線の電車はすぐ止まる。もちろん貧弱なのには理由があり、指宿・枕崎線は崖側に線路があるため、崖崩れ等の事故の可能性も考慮しているためである。

 逆に、俺たちの乗る『鹿児島本線』はなかなか止まらない。

 そりゃ内陸部を走っているから、崖側を爆走するクソザコ路線とは安全性が段違──

 

 

 

 

『──せします。現在、台風7号の影響により運転を見合わせております。繰り返します。指宿・枕崎線、鹿児島本線──』

 

 

 

 

 まぁ、台風は別だわな。

 

 

「学校行けなくなっちゃったね」

 

「まだ休校の知らせは来てないんだよなぁ」

 

 

 中央駅改札口前には、通学予定の学生が大多数を占め、通勤できず絶望するワーカホリックも数名見受けられる。人という人の山であり、中央駅で足止めを食らっている俺とアイは何とか壁側のスペースを確保し、並んで寄りかかりながら事の顛末を見守る。

 本当は彼女だけでも椅子に座らせてやりたかったが、待合室や柱の座椅子はジジババが占拠しているので、大変申し訳なかったが座るのを諦めてもらった。全然気にしてないよーと笑っていたが、これがあと何時間続くかわからないからせめて楽な姿勢をさせてあげたかったなぁ。

 

 

「ほら、風邪ひく前に拭け」

 

「ありがとー」

 

 

 中央駅に来るまでの間に横殴りの大雨によって、俺とアイは制服がぐちゃぐちゃに濡れていた。俺の学ランも重みが増し、彼女もセーラー服が肌に張り付いて気分的によくないだろう。

 こうなるだろうなとは予測してたので、予備カバンにタオルを何セットか用意していたのが功を奏した。まだ乾いているタオルを一枚渡す。彼女は「オーカの匂いだぁ、えへへ」と幸せそうに笑う。柔軟剤の香りしかしないはずなんだが。

 

 俺は髪を拭く彼女をよそに、地元のニュースを確認する。そして大雨と嵐吹き荒れる現状だが、まだ強風域でしかないことに驚きを隠せなかった。

 基本的な台風は沖縄を入り口として、九州を舐め回して四国本州へと進出する。そのため九州と沖縄は台風が勢力を保った状態で直撃することが多い。それがこのザマである。ここまで強い台風ってのは珍しいが。

 

 さっさと休校にしてほしい。

 だから自称進学校って呼ばれるんだよ。

 

 

「うー……オーカ、ちょっとこれは寒いかも? このままだと風邪ひいちゃうかなぁ。どうしよっか?」

 

「……あー、どうすっかなぁ」

 

 

 彼女の言葉に目を細め、アイの言葉も一理あるので打開策を模索する。

 すると、彼女はおもむろに俺の学ランのボタンを外し始める。なるほど、学ランを欲しているのか。確かに保温効果はあるから、彼女に渡すのもやぶさかではない。

 

 

「ぎゅーっ」

 

「……アイさん? ここ公共の空間なんですが。自宅ではないのですが」

 

 

 そして真正面から抱きつかれた。

 学ラン越しなら耐えられるかもしれないが、俺とアイを隔てるのは俺のカッターシャツと彼女のセーラー服のみである。肌着をカウントしないなら、かなり距離が物理的に近い。

 心臓の鼓動が感じられるくらい、強く抱きしめてくるのだ。温かいけど、周囲の目が冷たいんです。

 

 

「これでオーカも温かいでしょ。しかも美少女の肌の温もり付き。どう? 嬉しい?」

 

「俺はそれより人の目が気になるんだが」

 

「ここはあなた方の自宅でも、学校でもないんですよ。せめて自重くらいはしてくれないですかねぇ? と言っても意味はないと思うのですが」

 

 

 側から見ると馬鹿ップルですよ。

 そんな失礼な言葉と共に現れたのは、俺と同じ制服姿の咸だった。この天気なのに、なぜか雨に打たれた形跡がないのが気になる。親父殿が雨粒よけながら移動できるタイプの人なので、絶対にないとは言いきれないが。

 

 

「あ、みっちゃん、おはよー」

 

「おはようございます、星野さん。今日も彼氏さんとイチャコラしてて楽しそうですなぁ」

 

「凄く楽しい!」

 

 

 中々名前が覚えられないアイは、咸のことを『み……何とか君』と呼んでた。なので矯正を諦めた彼は『じゃあ、みっちゃんでいいですよ』と妥協案を出した。

 それ以降、彼女は渾名で彼を呼ぶことになる。

 

 咸は先ほどまでアイが寄りかかっていた場所に陣取り始めた。つまり彼女が俺の懐で暖をとる理由ができてしまったのだ。この胡散臭い男はなんてことをしてくれたんだ。

 そうなると、いつものパターン。

 俺はアイの抱き枕に甘んじることになる。

 

 

「不満そうな顔をしながらも、星野さんの肩を自然に抱き寄せてるのが桜華の良いところですよね」

 

「? そりゃ人が多いからな。寒い上に変な奴に絡まれても困るしさ。彼女を守るのは当然のことだろう? ……あ、すまん。もしかしてアイ、嫌だったか?」

 

「頭も撫でてくれると私は喜びますっ!」

 

「それは関係なくないか?」

 

 

 既に毒を食らわば皿まで。

 地に落ちている俺の名声がさらに落ちること以外に断る理由がなかったので、俺はポンポンと軽く頭をたたく。

 目を細めて喜ぶ姿は猫のよう。

 

 

「………」

 

「咸、それってブラックコーヒーだよな? ラッパ飲みしてるが苦いんじゃねーのか?」

 

「砂糖水のようなものですよ」

 

 

 それは味覚が壊れているのでは?

 病院行くべきだと思う。

 

 なんて馬鹿みたいな話をしていると、片手に握ってたスマホにメールが入った。アイや咸にも同じタイミングで来たことから、なんの通知なのか察することはできた。

 代表として咸が確認する。

 案の定自称進学校からの一斉メールだった。

 

 

「要約すると『気合いで来い』だそうです」

 

「「………」」

 

「……冗談ですよ? 本日は休校になりました。明日は朝から自宅待機だそうです。ここに居ても仕方ないですし、さっさと帰りましょう」

 

 

 自称進学校特有の無茶振りと、この胡散臭い男の嘘か真か分からない言いように、思わず表情が固まる俺とアイ。冗談という言葉に、二人はホッと胸を撫で下ろすのだった。コイツの嘘だけはマジで本当に判断つかない時があるんだよなぁ。

 そうなると帰宅の準備だ。

 俺は学ラン脱いでアイの肩にかけ、自分の荷物と彼女の荷物を持ってその場を離れようとする。

 

 それを止めたのが咸だった。

 東口のバス停に向かおうとしたが、彼は西口を簡単に指差して微笑みを見せる。

 

 

「ウチの者を待機させてます。お送りしましょうか? 桜華は別にいいとしても、島津に連なる分家の女性を大雨の日に傘も渡さず帰すのは、我が家の沽券に関わります。傘はないですが車を出させましょう」

 

「俺の扱い」

 

「送ってくれるのは嬉しいけど、オーカと一緒に帰れないのは嫌だなぁ。せっかくのお誘いだけど、ごめんね?」

 

「桜華単体なら、の話です。もちろん貴女と桜華を送り届けますよ。安心して乗車して頂ければ」

 

「それならお願いします」

 

 

 素早く手のひらを返したアイは、彼の申し出を快く引き受けた。そして俺もオマケ扱いではあるが、東口で大雨に打たれながらバスを待つのもアレなので了承した。

 送迎とかアイドル時代には日常茶飯事だったんだろうなぁ。島津本家も同じような感じだが、ウチは『自分のやれることは自分でやれ』をモットーに生きているので、送迎できる環境下にないことを余計に申し訳なく思ってしまう。

 

 しかも、だ。

 外に停めてあった車を見て、アイは唇を震わせながら指差す。

 

 

「私は車について詳しくないんだけどさ……これ外国の有名な車だよね? 云千万するって聞いたことがあるんだけど……」

 

「よくご存知ですね。あ、別に緊張することはありませんよ。これ私の金で買いましたし、免許取れば私が乗り回しますし」

 

 

 アイはウチの車は母上の軽自動車のみって言ったら……落胆するかな? 別に金を持ってないわけではなく、使いやすいもの重視で買うからね。海外の車は維持が面倒だと咸も言ってたしなぁ。

 そもそも俺も車は詳しくない。

 母上と同じ「人と荷物が入って、ガソリンで動けばなんでも良くない?」派の人間なんだけど。

 

 三人を乗せた外車は、運転手の女性の徐行運転で発進する。外車は暴風雨に揺られ道を行く。

 俺は内装に感心していると、アイが俺の服の裾を引っ張る。用があるらしい。

 

 

「オーカも免許取るの?」

 

「取る予定だけど……別に軽乗り回すために取るわけであって、俺に咸程の高級車は求めないでほしいんだけど」

 

 

 情けない俺の告白に、彼女はブンブン顔を横に振った。

 

 

「そんなの関係ないよ! わ、私は、オーカの運転する車に、乗ってみたいなーって……一緒にドライブしたいなって」

 

「そ、そうか。覚えとく」

 

 

 ……運転免許早めに取らんとなぁ。

 18歳になった瞬間に、教習所に行くことも検討しないとな。……バイトして金貯めないとなぁ。どれだけ頑張っても将来金欠予定ってのは悲しいも

 

 

 

 

「──あ、あと! オーカと車の中で……その、えと……え、エッチな、こと……して、みたい、なぁ……?」

 

「………」

 

 

 

 

 え、待って。

 車って運転するもんだよな?

 え、ヤるの? ヤっていい場所なの? 俺全然知らんのだけど。そういうプレーが存在するのか? もしかして元旦那とヤったことあるのだろうか? マジか。マジなのか。

 

 世の中には俺の知らない世界がある。

 俺は宇宙猫になり、アイは頰を真っ赤に染め、運転手の女性は苦笑いを浮かべ、咸は1リットルサイズのペットボトルのブラックコーヒーをゴクゴク飲み干すのだった。

 

 

 

 




裏設定登場人物紹介

種子島(たねがしま) 未来(みらい)
 島津の家臣団が一つ、種子島家の長男。今作において種子島家は島津勢力内の内務を担当しており、島津家当主から『この家がいないと政が回らない』と言われている。星野アイのことを当初は「主人公の傍に置いとくのはマズいのでは?」と危惧していたが、彼女の人となり、主人公への献身を直にみて、応援することにシフトチェンジする。星野アイは主人公に相応しくないと言った薩摩藩内の全反対派を説得&懐柔した陰の功労者。余談だが、一つ上の爆乳美少女の姉が居る。彼女の評価は『蜀の諸葛亮以上の軍才を持つ法正レベルの智者』にして『どうしようもない人格破綻者』である。
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