薩摩の子   作:キチガイの人

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 温度差あるので風邪ひかないように、アクア視点です。
 仕事終わって執筆する時間帯に喘息の発作出て、更新速度が遅くなってます。咳多すぎて、脇腹が筋肉痛になって、咳すると痛くて執筆が……の繰り返しです。たすてけ。
 感想お待ちしております。


100.星野家緊急家族会議

 対面のソファーに座るルビーは泣く。

 視認出来る程度の大きな粒をボロボロ流し、それは止まることを知らず。涙を拭おうとせず、ただひたすらに──カレーライスを頬張る。スプーンで掬って口に入れ、味わうように咀嚼し喉に流し込む。そして、また掬う。その繰り返し。

 

 特筆するような美味しさがあるわけでもなく、あくまでも普通の美味しさ。使っているのは市販の固形タイプのカレールー。カレーの具材の代表格であるジャガイモ・人参・玉葱も、近くのスーパーで格安で購入したものだと聞いた。豚肉も特売だったらしい。

 隠し味も一切入っておらず、カレールーの箱の裏側に記載のある通りに作った、何の変哲もない無難なカレーライス。米は鹿児島県産(身内が作った)らしいが、それがカレーを特別に格上げする要因足りえない。

 なんらかのオプションも、もちろん入ってない。

 

 普通の、ごく普通のカレーライス。

 手順通り作れば、誰でも作れるはず。

 

 

「「………」」

 

「アクアもルビーも泣くほどカレーが好きなんだねっ。知らなかったなぁ。あ、おかわりも沢山あるからねー」

 

 

 なのに──どうして涙が止まらないんだろう。

 製作者のアイに指摘されなければ、自分が泣いていることすら気づかなかった。

 

 俺も、ルビーも、ただ無言で涙を流している。

 涙という不純物が入って、カレーの味が落ちてしまうと分かっていても、その涙を拭う時間すら惜しく、ただただ手を口を動かすのみ。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 完食して一息つき、その余韻に浸る。

 母親の作ったカレー……前世では生まれた直後に母親が亡くなり、今世ではアイ(母親)が俺が4歳のときに凶刃に倒れた。実の母親が作った料理を味わったこと自体少なく、アイの作ったカレーなんて初めて食べたかもしれない。

 一足先に完食したルビーはキッチンで2杯目を調達しに行った。

 あそこまでの量を食べようとする妹を、俺は初めて見た。

 

 ……これが、おふくろの味か。

 もう味わうことはないと思ってたし、俺には味わう資格すらないと思っていた。

 

 

「どう? 私のカレー、美味しかった?」

 

 

 覗き込むようにアイが微笑む。

 答えは自分の中で既に決まっていたので、自然と笑いながら答えた。

 

 

「あぁ、また作ってほしいくらいに」

 

 

 感謝の意を込めて、皿洗いは自分から志願した。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「ヤバい、お兄ちゃん先生……生まれそう……うっぷ」

 

「さすがに食い過ぎだ馬鹿」

 

 

 嬉しさと感動のあまり、その後も2回お代わりした残念な妹を介抱していると、アイがスマホの画面を見ながら声をかけてきた。彼女は桜華のベッドの上に寝そべり、画面を操作しながら暗い顔を作る。

 昨日からアイが暗い輝きを見せることが多くなった。

 それこそ、アイと再会する寸前のルビーのように、今まで見たことのない推しの表情が垣間見える。

 

 原因は考えなくても分かる。

 俺とルビーの父親──父親? カミキヒカルのことだろう。

 

 

「アクアはさー、あいつに復讐するつもりだったんだよねー?」

 

「……そのつもりだったよ」

 

「それって──今でも実行可能なやつ?」

 

 

 暗く冷徹な問いに、俺は短く熟考した。

 状況によってカミキヒカルへの復讐方法は変えるつもりだったし、何よりルビーの安全のためにも最後は物理的排除も本気で考えていた。

 ……小さい頃に書きなぐった、実行できるかどうかも怪しい筋書きは流石に無理だと思うが、それでも徹底的に奴を追い詰めるつもりだった。アイを殺しやがった、俺たちの父親に、慈悲の欠片も与えるつもりはなかったのだ。

 

 あらゆる状況に対応しようと、何年もかけて準備していたはずだったのだ。

 まさか、戦闘力も言動も存在すらも変態な、洒落にならないくらい厄介な男に変貌しているなんて、想定外の中でも最悪な部類だった。

 

 

「……いや、十中八九無理だと思う」

 

「そっかぁ。残念だねっ」

 

 

 十中八九と言うか、正直、あの男には何をやろうとも暖簾に腕押し状態じゃないかと思うが。これが普通の人間であれば話は違ったかもしれないが、不運なことに桜華の親父さんすら認める、化け物級の変態が今のカミキヒカル。

 体の主の悪行に罪悪感を抱かないどころか、自分とは関係ないと切り捨て、自身の目的を最優先で動く、天才的な武人。

 桜華が元社長に「直接手を下さないように釘を刺したが、かなり言い過ぎたかなぁ」と反省していたが、逆に止めなかったら大変なことになっていたと思う。

 

 俺の答えにアイは残念そうに笑う。

 実行可能だった場合──俺の復讐劇が再開するところだったかもしれない。

 

 

 

『……ふむ。私は島津少年の武人としての才に、興味以上の感情を抱いている』

 

『オーカは危ないことはもうしないよ。だから諦めて』

 

『それは実に惜しい。君は島津少年のことを知らなさ過ぎる。親愛の情? 愛のために生きる? 宝の持ち腐れとは、今の少年のことを言うのだろう。あれの本質は首狩りだ』

 

 

 

『……なるほど? 余計なお世話かと思うが、自身の言葉の真偽すら理解せぬまま、少年に囁く愛に重みはあるのだろうか?』

 

『あなたに関係ないっ』

 

『余計なお世話だと事前に断りを入れたはずだ。……まぁ、確かに私には関係ないな』

 

 

 

『……なんともまぁ、厄介な。かつて愛そうと試みたカミキヒカル青年を捨てた君が、島津少年を愛し続ける自信はどこから来るのかね? カミキ青年の二の舞になるのではないか?』

 

『関係ないって言ってるでしょ!? 私はオーカが好きっ! ましてや彼ではないあなたに言われる筋合いはない!』

 

『確かにアイ君の言う通りだ。()()()()()()()()()()()()、ということか』

 

『──っ!』

 

 

 

 その後も『何様のつもり!?』というアイの怒りに、『ただの変態だが?』と涼しい顔で油を注ぎ、星野アイという少女に燃料を投下するような男だ。

 精神的な報復は意味を成さないと思っていいだろう。

 

 では暴力に訴えるか?

 あの素人目からしても化け物じみていた、桜華とカミキの攻防戦を間近で見た後に、それが成功するとは到底思えなかった。アイやルビーに普段見せるような年相応の心優しい少年が、それを破り捨てて、ただひたすらに『相手を殺すこと』しか考えてないような技術を用いて、的確に相手を殺めようとした姿がフラッシュバックする。

 妹が小さく「……怖い」と身を震わすくらい、あの時の桜華は狂ってた。

 

 そこまでして仕留めきれない相手。

 俺たちでは物理的排除は不可能と言っていいだろう。

 

 

「……カミキ君、どうしてあんなのに乗っ取られちゃったのかな」

 

「……アイ」

 

「……カミキ君の状態だったら仕留めやすかったのに」(ボソッ

 

「……アイ?」

 

 

 推しから聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がする。

 まさかカミキヒカルも「殺したかったけど死んでほしくなかった」と言われようとは思ってなかっただろう。少なくとも、今のカミキヒカルよりはナイフ一本で殺めやすい相手だったのは確かだ。

 俺だって前のカミキヒカルが良かった。あの張本人なら気兼ねなく復讐できるし、アレのようにネットの玩具になったりしなかったはずだ。『止まらないカミキヒカルBB』とか『カミキピピック』とか『異世界カミキ』とか意味わからん。俺と同じ顔で変なことをしないで欲しい。

 

 というか、俺の殺意はカミキヒカルよりも、数々のカミキ関連のBB素材を作り出し、挙句の果てに『止まらない星野アクアマリンBB』を生み出そうとしやがった、五代 友厚に向いている。

 あいつ絶対に許さない。

 カミキと俺のBBを横に並べて再生するな。

 

 だからこそ、気づかなかった。

 俺たちがいつの間にか──カミキヒカルの死を惜しんでいることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいつの前世の死因を聞いて、牡蠣を大量に送り付ければ?って思った。

 

 

 

 




【とある男たちの苦悩】

兼定・咸「「タスケテ……」」

未来「おハーブが生えますわ」

咸「お、おかしい。私たちって仕事上の付き合いですよね? そのうち解消される関係のはずですよね? 解消される先が見えない」

未来「じゃあ、続くんじゃない。墓場まで」

兼定「クソッ。既に外堀(伊集院家)が埋められてらァ。相手は余所者だぞ……? 男ならぶん殴れば全部終わンのによォ」

未来「あれ完全に打算なしの好意のみの感情だもんね。星野アイ理論応用編とか笑う」

咸「笑い事では……! ──と、ところで。い、今LINEしている相手は?」

未来「あー、咸には関係ないから安心して」

兼定「やけに楽しそうじゃねェか」

未来「そう?」

未来「まぁ……そこそこ、楽しいかなぁ」

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