薩摩の子 作:キチガイの人
感想お待ちしております。
脇腹の件ですが骨折れてなかったです。やったね。
でもクソ痛いです。鎮痛剤がぶ飲みします。
故事成語に『背水の陣』というものがある。
一般的には後に引けないレベルの絶体絶命の状況下で、全力を尽くすことのたとえとして用いられる。しかし、現実の戦だと余程の理由でもなければ、背水の陣というのは『死に戦』……つまり必ず死ぬ作戦なのだ。
逃げ場をなくすと人間って基本的に死ぬのである。
島津の戦史で有名な『耳川の戦い』も、
まず寡兵の
ちなみに大将首をがっぽり稼がれた大友家は、以降急激に衰退していくことになる。怖いね。
ん?
なんで耳川の戦いの話を始めたかって?
「………」
「「「………」」」
俺が現在進行形で耳川の戦いの大友側の気持ちを味わっているからだよ。
背後に男湯の暖簾、前方に星野ルビー、黒川あかね、寿みなみの連合軍が布陣している。俺は兼定と咸、アクアが温泉を満喫している状況を、この女性陣から死守しなければならない。
本音で言えば、ここをさっさと無血開城して、俺は早く部屋に帰りたいのだが、事前に報酬を提示されている身としては、ここを通すのは不義理に当たる。武力以外で彼女らに勝てる気が全くしないが、死を覚悟して戦うのが武士である。しゃーない、死するは今ぞ。
悲壮感丸出しの始まりではあるが、彼女らも俺を弁舌を以て開城を迫っている。俺の勝利条件は倫理観と常識を説いて諦めさせることであり、逆に彼女ら(特に黒川さん)を論戦の舞台で打ち負かす必要があるのだ。
勝てるかボォケが。
劉禅じゃ諸葛亮に論戦勝てねぇんだよ。
一条兼定じゃ黒田
「……そもそも、ここは混浴じゃありません。どこに人の目があるのか分からないこのご時世。女の子が男湯に入るのは世間体的にも、芸能スキャンダル的な意味でも、大変よろしくないと思います。ましてや仕事上だけの関係含め、正式な男女の関係じゃない方々が混浴すること自体が問題かと思われます。あと最初に申した通り、ここ混浴じゃないので。旅館の方々に迷惑かかるので、女性陣は女湯で楽しんでいただけたら幸いです」
何度考え直しても、これほど素晴らしい弁舌は思いつかない。
倫理観と常識でコーティングし、女性陣の身の心配も行い、第三者への配慮も行うことで、反論の余地を可能な限り減らす作戦である。
これで……引いてくれっ!
「私とお兄ちゃん先生は兄妹の関係だから、一緒にお風呂に入るのは普通だよ?」
「同じような家族構成の種子島家の姉弟は一緒にお風呂入ったことないらしいぞ。入るくらいなら自害するって未来が言ってた。それローカルルールじゃね?」
「でも『仲の良い兄妹は一緒にお風呂へ入るべし』って、古事記にも書いてあったよ?」
書いてるわけねぇだろうが。
古事記も日本書紀も万葉集も、万能の辞典じゃねぇんだぞ。
アクアが死んだ魚みたいな目で「ルビーが夜勝手に俺のベッドに入ってきて、いつの間にか一緒に寝てる。色々と色々で色々が限界。もうマジ限界」と、語彙力がゲシュタルト崩壊してた。男子高校生という年齢とカミキなヒカルの遺伝子のせいで性欲強めなアクア君は、色々と持て余しているし発散も難しいのだと。
これでルビーが温泉に突貫したら、性欲の爆発と妹を守る防衛機能で板挟みとなり、最終的に自害してしまう。島津ポイント高めで、星野アイポイントマイナスな、『切腹』という手段で。
何としても死守しなくては。
余談だが、現カミキヒカルからの雑談で、旧カミキヒカルはアイと関係を持つ前に、別の少女と齢11のときに関係を持っていたことが発覚した。とんだプレイボーイだとカミキヒカルは笑ってた。
つまり、アクア(とルビー)は、遺伝子をばら撒きまくっていたカミキなヒカルと、性欲ドスケベモンスターたるアイの遺伝子を受け継いでいることになるわけだ。芸能界ってこんなのばっかなの? あそこだけモラルと貞操観念が戦国時代してないか?
「この旅館は貸切だから他の人に見られることはないし、男の子と一緒に入ることも旅館の人に許可貰ったから大丈夫だよ? あと、私と咸君は恋人同士だから。大丈夫、今から恋人同士にするから」
「島津君に迷惑かけへんさかい、そこをどいてくれへん? せっかくのチャンス、大事にせぇへんと。……お願いっ」
黒川さんが俺の言い訳を一つ一つ潰していき、寿さんが感情に訴えてきた。なんだろう、一般的な健全で模範的な男子高校生としては正しい筈なのに、なぜか間違ったことをしている気分になる。
いや、分かるんよ。そして理解しているんよ。
強行突破しないだけ理性的だとは思うし、黒川さんには
と、ここで。
「オーカ、ルビー! あれ? アクアはもう入ってる? 家族全員で一緒に温泉入ろ!」
今回の旅行メンバーで最もモラルと貞操観念が欠落した
アホ可愛い光景ではあるが、彼女の口から紡がれるはアクアへの死刑宣告である。兄と入る気満々だった妹は、それに義理の同世代な年齢の父親も追加されると知り、耳元まで赤くして抗議する。
「ちょ、へぇっ!? さ、流石にパっ、パパと入るのはちょっとぉ……!?」
「だそうですアイさん。俺もルビーの意見に賛成」
「えー。でも昔はアクアとルビーと一緒にお風呂入ってたよ?」
「何歳の時の話だよ」
俺の恋人は転生者云々の秘匿事項に関して配慮してくれないんだけど。一応は致命的な明言は避けているようにも見えるので、これでも暴露欲求を抑え込んで話をしている可能性もある。
寿さんは首を傾げている。
「常識はどうなってんだよ、常識はよぉ」
「混浴くらい、芸能人的にはまだマシだと思うけどねっ。アイドルしてた時もそうだったけど、もうドロッドロだよ、あそこ」
「? アイちゃんアイドルやってたん?」
あ、バレちゃった?とアイは小さく舌を出す。
この秘密主義の塊が、あっさりと過去(前世)でアイドルをやってたことをバラすとは、何か意図があっての発言なのだろう。黒川さんも目を見開いてんじゃん。
すぐに思いつくのは、私の秘密を知っちゃったねぇ、もう島津の一員(兼定との墓場コース)になるしかないねぇ、の外堀埋めを行うつもりなのだろう。最大の警戒対象であるカミキヒカルが変態だったことが判明したので、実はアイが生きてました暴露はそこまで秘匿するべき事項ではなくなった。どうせ普通の人は信じないだろうし。
でも、まだ兼定を堕としきれてない寿さんを巻き込むのは感心しないなぁ。
「そうそう、アイって地下発のアイドルやってたんよ。そこそこ人気だったんだぜ?」
「むぅ、そこそこじゃないよ? かなり人気だったんだからね!?」
「このビジュアルだからさ、存在感半端ないだろ?
「オーカ?」
とりあえずインパクトのある言葉で、寿さんの記憶を吹っ飛ばそう。
「でも桜華君。さすがのアイちゃんでも、ステージに
「あかっち?」
「ママの方が
「ルビー?」
アイと
話題がそこに切り替わり、論争が白熱するのだった。
「良き湯でした」
「桜華、足止めご苦労さんってなァ」
「……? 何の話をしているんだ?」
「「「「……あ」」」」
ついでに、俺の男湯防衛も成功するのだった。
「東京ドームのステージにアイと
「「「
「??????」
桜華「みんな小部屋で寝るんよな?」
アクア「大広間は食事とパーティゲーム用で借りてるらしいからな」
桜華「小部屋にも小さい温泉が配置されてるらしいぜ? もちろん混浴しようが俺は全然知らないし、関与しないからな?」
女子組「「「「!?」」」」
男子組「「「?????」」」