薩摩の子 作:キチガイの人
あと、次章が前後編になる可能性ががががが。
感想お待ちしております。
「そろそろ寝る準──」
「こんなところにカラオケの機材が置いてあるぞ」
「いいモン見つけたな、アクア。せっかくだし何曲か歌ってみるか?」
「カラオケでオールも乙なものかと……おや、辛口採点システムも搭載してるんですね」
大広間でダラダラと時間を潰していた男共。
規則正しい生活を心掛けている薩摩の民として、オフトゥンでスヤァする時間になったので、監督係として就寝を呼びかけようとしたところ、俺の言葉は見事にガン無視されるのだった。
私は悲しい。
「……そんなに彼女と寝るのは嫌か」
「オレとあの女を同じ部屋にしたのはテメェだろうがァッ! あァ!? マジであの女と一緒に居ると頭が狂いそうになるンだよクソがッ! こっちにその気はねェって何度も何度も何度も何度も何度も何度も言っても、全然聞きやしねェ!」
「でも一緒に風呂は入ったんだよな?」
「………」
俺の質問に、兼定はサッと視線を逸らした。
陥っている状況はマジで撫子と一緒なんだよなぁ。共通なのは、自分に向けられる悪意に対しては何も思っちゃいないが、善意に関しては耐性が紙装甲であるという点。
なので寿さんは兼定に対しての行動すべてに、決まって『嫌なら嫌って言って。しないから』的な迫り方で、大胆なアプローチで気を引こうとしているのである。善意耐性ZEROな伊集院家の暴力装置には、それを断る機能は備わっていなかったのである。もしかしなくてもポンコツか?
抜群のプロポーションを持つ現役グラドルとの混浴なんざ、とりあえず兼定は100回ぐらい死ねばいいと思うのだが、それをすると寿さんが悲しい思いをしてしまうので、複雑な心境ではあるが祝福しながら観察している。
馬鹿どもの不幸は蜜の味。でも、寿さんの幸せの方が優先度高いわ。
あのダイナマイトボディーを布一枚越しに接触された伊集院の童貞の顔、見れるもんなら見てみたいと思う。彼女の「兼ちゃんのか、身体……ようさん鍛えとるなぁ」って一幕もあったらしく、兼定が宇宙猫になってたとか。ソースは某グラドル。
柔らかかったのかね。これ以上深くは聞かんが。
「で、そこん詐欺師もお楽しみでしたね」
「まだ大丈夫、まだ大丈夫の筈です。彼女の好意も恩によるものなので、いつか彼女も自身の感情の正体に気づく筈なんです。所詮は仕事上の関係、いつか別れるのが当たり前なんです。えぇ、今だけの関係です。彼女は恋に恋しているだけなので、まったくもって全然問題ない筈です。いつか彼女にふさわしい男性が──というか、その男の登場が遅すぎやしませんか?」
「じゃあ、その『男』ってのがお前なんじゃない?」
「………」
俺の指摘に、咸はサッと視線を逸らした。
愛を知らない男にとって、愛情を向けられて浮かぶ感情は『疑念』である。自身が愛される筈がない、自身にはその資格がない、彼女の抱く感情は間違いである──という、自身のガバ考察を盲信しているのが、今の税所家の麒麟児なのだ。
女々しいとか関係なく、本気でそう思い込んでるから質が悪い。
面倒だな、一発ぶん殴ったら治るか? 治るか以前に、既に壊れているから治しようがないかもしれんが。
黒川さんも面倒臭い男を好きになってしまったもんだ。
……逆に、彼女ぐらいじゃないと、この愛を知らないモンスターを攻略することが難しいのかもな。大丈夫、島津家は黒川様の味方やで。
「インモラル兄貴も年貢の納め時じゃない?」
「勝手にインモラル認定するな。ルビーは妹だ。何と言われようが、俺が守るべき妹なんだ……!」
「お、そうだな。相手もそう思ってたらいいね」
「………」
アクアも『戸籍は一緒だし、俺はもう誰とも付き合わんから勘弁してくれ』路線で妹を説得中との事。島津家的には、エメラルドされると世間体的に非常に困るので、アクアの思い描く案を支持したい。が、欲張りな元人気アイドルの娘が、それで満足するとは思えないんだよなぁ。
興味本位で前世の話を聞いたことがあるが、
前世の死亡時期が関係しているのだろうか?
アクア曰く、吾郎医師が成熟した年齢での死亡からの転生のため、今世は『第二の人生』感があると言っていた。対して、齢12で世を去った天童寺さんにとって、今世のルビーは『前世の延長上の人生』と思っている節がある──と、薩摩随一の考察班たる黒川様は仰られていた。
そりゃ兄妹なんて関係ないのスタンスになるわな。ルビーはアクアのように前世と今世を割り切れていないのだから。つまり、前世とは別と考え妹と認識するアクアと、生まれ変わった上に最愛の先生にも会えたわ運命じゃん結婚したろ精神のルビーという構図だね。地獄か?
余談だが、生まれ変わったアイもルビーと同じように延長上の人生思考だと見受けられる。今世が血の繋がらない赤の他人であるにも関わらず、それでも双子は自分の最愛の子だと認識している。
カミキも導春の延長線上の人生観だろうなぁ。旧カミキヒカル成分が行方不明になってるし。
閑話休題。
気持ちを切り替えて、俺たちはトップバッターのアクアの美声に野次を飛ばしていると、女子組も大広間に集まってきた。
お迎えかな? 色んな意味で。
「ルビーも歌ってみるか? ほれ、マイクをどぞ」
自信満々のルビーはマイクを握りしめて、元人気アイドルの娘の名に恥じない歌を披露しようとする。前にアイの歌を聞いたことがあるが、辛口採点で高得点をたたき出していたのだ。もしかしたら、ブランクのあったアイよりも、今もアイドル目指して努力しているであろうルビーの方が、歌唱力が上なのでは?と期待は高まる。
歌う曲は、アイの代表曲。前にも聞いたことがあるが、あれはテンションが上がる。
観客の期待も最高潮。
ルビーは呼吸を整えて、その顔に比例した美声で歌を紡ぐ──
32点
顔に反比例した歌唱力だった。
どうすんだよ、この空気。通夜でももう少し盛り上がるぞ。
「……アイドルって、顔と踊り上手けりゃ売れる商売なンだな」
「マ゛マ゛あああああああああっっ! そこの口悪い奴がいじめるううううううううう!」
俺もびっくりだよ。
続けて黒川さん、寿さん、鷲見さんも歌ってみたが、そこそこの点数は確保していた。それこそルビーの倍以上くらいは。……元女優、現役グラビアアイドル、現役ファッションモデルよりは、歌える方がいいとお義父さんは思うわけですよ。
なんて天を仰いでいると、ルビーはマイクを兼定に手渡した。
その顔に挑発的な笑みを浮かべて。
「そんなに言うのなら、もちろん上手なんだよね?」
随分と手の込んだ自殺だなぁ。
なんて思いながら、兼定が無言でマイクを受け取る姿を眺める。咸が嫌がらせとサプライズをかねて、最近の恋愛ソングを予約にぶち込んだ。
「──いいぜ、本気で歌ってやらァ」
披露後、勝者は「オレの勝ち。何で負けたか、明日まで考えときな」という言葉を残し、敗者は「存在自体がいじめるううううううううう!」と母親に再度泣きつくのだった。
あと、本気の恋愛ソングを聞いた寿さんが耳まで真っ赤にしてた。
「……あれ? 未来どこいった?」
「個室で寝てるのでは?」
「MEMちょさんも?」
「おそらくそうかと」
「ふーん」
桜華「~♪」
咸「~♪」
ルビー「(´◉ᾥ◉`)」