薩摩の子 作:キチガイの人
オリキャラのみの登場です。次回は三人称視点の原作キャラ(?)のシリアス回で、今章は終了です。次章から──鹿児島版2.5次元舞台編です。舞台のシナリオも作るのかよ頭おかしくなるわ。
感想お待ちしております。
草木も眠る
古来、時刻を2時間で干支一つとして表し、丑三つ時はちょうど北東の『鬼門』と重なることから、幽霊が出やすい時間帯と考えられていた。
昔に俺が遅くまで起きてたとき、母親から「早く寝ないと幽霊が出るわよ」と言われたことがあり、それに対し「幽霊に首はあるの?」と返して以降、幽霊が絶滅してしまったのを思い出す。母親から二度と幽霊関連で脅されることはなかった。
しかし、成長するにつれて幽霊の存在というものは、空想の産物だと認識させられる。午前2時ちょっと過ぎた時間帯に目が覚めようと、気にせず外を徘徊するようになった。
そんな俺は旅館の屋上に足を運んだ。
ちょっとした憩いの場として、簡素なベンチが置いてあったので、そこに腰を掛けて夜空を見上げる。
ド田舎なので人口の明かりは少ない。
故に──天上には満点の星空が浮かぶ。
「──何恰好つけて天体観測してんのよ。似合わないわよ」
「うっせえわ、知っとるわんなこと」
ノスタルジーな俺の気持ちを助走をつけてぶん殴ってきたのは、情緒の欠片も理解できない人格破綻者な撫子だった。俺と同じように旅館から支給された浴衣を着用しているが、さすがガワだけは一級品の女である。絶妙に色っぽいし、身体のラインを隠しやすい
……コイツ、俺の隣に座って、あろうことか腕組んで胸を強調し、足組んで太ももをさらけ出したぞ。俺の性別が男であることを忘れているようだ。
正直どうでもいいけど。
「……何の感想もなし? 私たち、元許嫁だったわよね?」
「そんな設定もあったなぁ」
「設定言うな」
親同士が決めた関係なんぞに、今さら何の感情も抱かないからな。何か言いたそうな表情をしている撫子には悪いが、俺にとって『許嫁』という立場は、その程度の認識である。
つか、今の俺は彼女持ちだし。
アイのメンタルブレイク未遂犯だし。
「お前だって、正直に言って俺の事何とも思ってなかっただろ」
「……違う、って言ったら?」
「笑う」
「ぶっ殺す」
薩摩兵子特有の殺気で睨まれるが、肩をすくめて受け流していると、撫子は諦めたように大きくため息をついた。そんな困った子を憐れむような目で見られても、こっちが逆に困るんだが。
「つか何の用だ」
「単純に涼みに来た……って、そんな疑うような目で見ても何も出ないわよ。ほら、今日はなんか奇跡的に蒸し暑さがないでしょ?」
「確かにそうだな。ここ最近は夜でも容赦なく暑いし」
とりあえず嘘は吐いてないので、俺は天体観測に戻った。
涼しい風が頬を撫で、その心地よさは撫子も同じように考えているのか、結果として一緒に輝く星空を眺めることになる。
夜空が暗いからこそ光が眩しい、無数に広がる星の数々。この光景を見て連想するのは、やはり俺の最愛の人だった。どっかでか『死者が星々となって生者を見守ってくれる』なんてフレーズを耳にしたことがあるが、彼女もあの星々のどれかになったことがあるのだろうか?
気が付いたら生まれ変わってた──あの転生一家は口をそろえて言ってたのを思い出す。彼女らが生まれ変わった理由は分からんが、完全に死した者は、どこへ逝くのだろう。
撫子の座っている領域を侵さないように、俺はベンチに寝転がりながら観察していると、ふと撫子は再度俺に声をかけてきた。
星を見て連想した人間が共通の者だったのだろうか?
「……悪かったわね、アイさんのこと」
「初邂逅の時の話か。俺じゃなくてアイに直接言え」
彼女の声色からして、アイと初めて会ったときのメンタルブレイクのことを言っているのだと察した。俺もその時のことを思い出し、若干イラッとしたのでぶっきらぼうに返す。
「アイさんには何度も謝罪したわ。今回の件も、ね。全然気にしてないって返されたけど」
「……まぁ、アイツならそう返すか」
「……そんなことより、カミキヒカルへの報復を手伝って、って」
逆に許されなかった方が楽レベルの無理難題だな。
俺もアイに頼まれて軽く考えてみたが、物理的にも社会的にも、あの変態に深刻なダメージを与える手段が『牡蠣を定期的に送って祈る』しか思いつかん。そして、この報復が難しい状況ですら、カミキの計算の内であろうことは想像に難くない。
敵にするとホンッッットに厄介なんよ、アレ。
味方でも厄介って大友家の当主さんも言ってたけど。
「今回のカミキの件は、本当にお前らしくなかったわ。最初お前のこと無関係だと思ってたもん。数年前に龍造寺と大友を割った奴の手腕とは思えねぇガバガバ計画だったし」
「そのことはあまり蒸し返さないで頂戴。あなたの過去レベルの黒歴史なんだから」
「さらっと俺の過去を黒歴史扱いするのやめてくんない?」
アイと会う前はマジでやべぇ奴だった自覚はあるんだから。でも他人から言われるのは納得いかない。事実陳列罪は良くないと思うんよ。
撫子は俺の嫌そうな声色で笑いやがり、「そう、よね……」と言葉をつづけた。
「自分の才を過信し過ぎたわ。それは認める。えぇ、全てにおいて焦ってた自覚はあるのよ」
「なぜ?」
「……一番は、アイさんを早く安心させたかったってところかしらね」
俺や馬鹿共の性別は男性。
対して撫子は生物学上は女性。
俺や馬鹿共とつるんでは馬鹿みたいなことをして人生を満喫しているアイではあるが、撫子との交流も大事にしている一番星。一緒にスイーツを食いに行ったりもするし、ファッションに気を使わないアイを撫子が連れ回すこともあった。
勉強で分からないことも懇切丁寧に教えてたこともあったし、アイのスマホに保存されている写真は、俺と同じ比率で撫子が写っているらしい。
「私も同世代の友達なんて初めてだったし、彼女も初めてだって言ってたわ。血生臭い話や、仕事の話は口外していないけれど、私の昔話はアイさんに話したこともあったわ。そして──アイさんの過去も聞いた。前世も、今世も」
女性同士だからこそ言えることもあるのだろう。
過去だけに注視すれば、現状では撫子がアイのことを一番よく知っているのかもしれない。次点で黒川さんかな?
「彼女と話をして分かったわ。あなたの言う通り、彼女は咸に似ている。まぁ、暴露欲求はあの男にはないけれど、徹底的な秘密主義。彼女ね、あなたからの指示以外では、ネット上で自分の存在を完全に隠しているのよ。SNSもせず、LINEも必要最低限の交流しかせず、他人の写す写真も極力入らないように立ち回ってる。アイドル時代の経験の賜物でもあるでしょうね」
いや、多分これは。
「そこまで隠さないといけない理由も、彼女は十分理解している。自身の安全の為にあなたが動き、その周囲も同調して動いている。自分が勝手なことをすれば、それ相応の迷惑が掛かってしまうと。確かに、かなり破天荒な言動と経歴を持つ彼女だけれど、それでも島津 桜華に迷惑をかけるような行動は控えていたわ」
そうか、なるほどなぁ。
「だからこそ──私は納得できなかった。私の友達は、どうしてこうも
撫子、お前は。
「あなた達のように、家のしがらみが存在しているわけでもない。私のように、何か悪いことをしたわけでもない。星野アイという少女は、普通の女の子のように、もっと自由であるべきはずなのに。彼女を縛るものなんて、本当は何一つない筈なのに」
アイの友達として。
「だから、カミキヒカルが立花 導春だって知ったとき、本当にうれしかった。あぁ、彼女を物理的に害するものはもうないんだと。一人の女の子として、双子の母親として、自重しなくてもいいんだと。だって──彼女が本当に欲しかったのは、『愛』なんだから」
脳を焼かれてたんだ。
当主殿のように『アイ』に脳を焼かれまくって炭にされたわけじゃないけれど。こいつは『星野 アイ』に、友達として
彼女の焦がれるように語る様子を見て、俺は漠然とそう思ってしまった。
税所家の麒麟児も、種子島家の傾奇者も、伊集院家の暴力装置も、そして島津の法正すらも、愛を求める女の子に翻弄されているのだ。俺もその渦中の人なんだが。
「……というわけで、彼女の障害は概ね消え去ったわ。まだ立花の守護神って傍迷惑な存在が残っているけど。ちゃんと守ってやりなさい。泣かせたら承知しないんだから」
「はっ、初対面で泣かせた奴が言うと説得力あるわ」
「もしかして気づいてないの? あなた、私以上にアイさん泣かせてる自覚ある?」
ああ言えばこう言う。
本当に面倒な女だなコイツ。
故に、俺と撫子の気持ちは一緒なのである。
「やっぱり、俺お前が嫌いだわ」
「奇遇ね。私も同じ気持ちよ」
「相互理解が深まって何よりだ」
俺と撫子は互いに罵り合いながら、嗤って星を眺めるのだった。
「カミキの戯言は聞いたか?」
「えぇ、
「あぁ、やっぱそうなる? 前々から仲悪いからなぁ。かといって俺たちが口出せる立場じゃねぇし、本当に困ったもんだよ。しかも、俺たちにとって肝心なカミキヒカル関連の秘匿と来た」
「島津家の次期当主様は、よほど俺のことが嫌いらしいな」
「………」
「なんだよ、その無言は」
カミキ「ようやく巡り合えた──私のもう一つの好物よ」
カミキ「やはり鶏刺しは美味いな!」
宗虎「………」
宗虎「(島津の小僧、大将がまた勝手にくたばるかもしんねぇぞ……)」
【鶏刺し】
文字通り鶏の刺身。生で食う。もちろんカンピロバクターなどで食中毒の危険性もあり、最悪の場合は死ぬ。鹿児島・宮崎の鶏刺しは「たたき」のような感じで食されており、売る際は県独自の『生食用食鳥肉の衛生基準』の厳しい条件があるので、比較的安全。