薩摩の子   作:キチガイの人

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 シリアス回です。
 今回を以て今章は終了とさせていただきます。
 次章は銃創を舐める元子役や、カミキとは違うベクトルの変態なオリキャラが登場します。タスケテ……
 感想お待ちしております。


107.答え合わせ

 事務所の客室のソファーに座るは一人と一羽。

 中学生くらいの少女が不機嫌そうにスマホを操作し、赤いスカーフを巻いた一羽の鴉は、机の上で器用に作業をしていた。既に事務所内に他の人はおらず、事務所が自宅な少女と鴉のみが寛ぐ時間になっていた。夜空は見えるが、星は見えず月のみが顔を出す。

 

 少女は唐突に視線をスマホから上げ、わざとらしくため息をついた。

 カラスも思わず作業を止める。

 

 

「……はぁ、なんなのアイツ」

 

「荒れているね。急にどうしたんだい?」

 

 

 当たり前のように鴉は喋り、少女もそれを指摘する真似はしない。

 

 

「なにもっ! ただアイツがいつものように馬鹿やって、いつものように変態扱いされて、いつものように嫌われてるだけ!」

 

「なんだ、いつもの事じゃないか」

 

 

 少女は不満をぶつけるように、一連の流れを吐き捨てた。

 青年が一番星を煽り、一番星は青年を嫌い、双子も青年を嫌った。青年は少年と死闘を繰り広げ、最終的に青年は変態扱いされた。

 話していくうちに、少女の顔はさらに歪んだ。

 

 

「……どうして、あんなことしたのかな」

 

「………」

 

 

 鴉は少しだけ考えるそぶりを見せ、面白そうに笑った。

 その様子に、少女はさらに不機嫌になる。

 

 

「カタギリ、何が面白いの」

 

「いやはや、さすが鎮西一。ヘイト管理が完璧と称賛するべきなのか、相変わらず不器用だと嘆くべきなのか。どちらにせよ、あの鬼島津に貸しを作ったのは大きいね。次の舞台もあることだし、存分に胸を借りることにしよう」

 

「?」

 

 

 眉をひそめながら、可愛らしく首を傾げる少女。

 

 

「彼にとって一番大切なのは何なのか。それは大友家(宗家)立花家(自身の家)の名に傷をつけないこと。故に、彼は鷲見さんの変態疑惑を拭おうともしなかった。この件で非難されるのは『カミキヒカル』の名前だけだからね」

 

「確かにそうね」

 

「そう、二家の名さえ無事であれば構わないんだよ。それこそ──『立花 導春』という名すら、場合によっては簡単に切り捨てる。立花家に影響が出なければ、自身の名前が汚れようとも、彼は気にしないのさ」

 

 

 鴉は器用に急須(きゅうす)で茶を淹れる。

 

 

「彼は世間的には『カミキヒカル』の名を犠牲にし、同時に星野家にとって『立花 導春』を忌み名にすることに成功した。星野家がいくら嫌おうとも、立花家自体にさして被害はないからね。同業者に恨まれることが多いから、そこに星野家の面々からの憎悪が向いたところで、今さらだろう?」

 

「……どうして、そんな面倒なことを?」

 

「アイ君、並びにその遺児のためだろうね」

 

 

 コップに注いだ茶を少女の前に差し出す鴉。

 

 

「彼女からしてみれば、姿形は見知った者でも、中身は全く別人の第三者からの言葉だ。何様案件と言われても否定できないし、あんなのに言われてはアイ君も可哀そうだ。でもね、彼が彼女に発した言葉の数々は、いつかは誰かが指摘して気づかせてあげるべきことでもある……と僕は考えるよ。あの首狩り桜華と本当に幸せになるのなら、ね。彼女が彼への憎悪の感情が大きいのも、心のどこかでアイ君も考えていたんじゃないだろうか? でなければ、あそこまで怒ったりしないよ」

 

「それって本来は蛮族共がしなきゃいけないことでしょ? アイツがわざわざ煽る必要はなかったんじゃないの?」

 

「アイ君にアンチテーゼを叩きつける? そんなことを島津の連中(アイ信者達)ができるはずがないだろう。君が島津……いや、首狩りの両親に何を期待しているか知らないけれど、鬼島津は武人としては超一流だが、親としては三流以下の愚物だよ。ましてや、一般家庭に求められる両親像を、島津家に求めるのは酷ってもんさ」

 

 

 首狩り桜華を内勤にしたこと自体が異常なんだよ、と鴉は笑う。

 いくら島津の真似事をする欠陥品だろうと、彼が島津の名を背負う以上、島津の人間として生きて死ぬべきだ。だから鬼島津は今まで、息子が自身を捨ててまで島津に徹したことを咎めなかった。それが為政者(島津の者)として、当然のことである。家を背負うものとしての責務であると、茶を器用に飲みながら鴉は語る。

 首狩りに殺された身としては、アレが内に引きこもっている状況は、大友方としては大歓迎なんだけどと肩(?)をすくめた。

 

 

「鬼島津も、その奥方も、『アイ君と双子に与えるべき愛情とは何なのか』を模索している最中なんだろう。まぁ、正しい両親像が何なのか、僕は皆目見当もつかないけどね。そんな方向性が定まっておらず、とりあえず今迄の分まで甘やかしている島津連中が、アイ君に嫌われるようなことをすると思うかい? 必要であれば鬼島津も覚悟を決めるだろうけど、今すぐに突きつけるべき事実でもない。ゆっくり、時間をかけてやればいい」

 

「……じゃあ」

 

「『どうして彼が、自ら嫌われ役を演じたのか』かい? 僕の推測になるけれど、彼女の言葉を借りるなら──『憎しみは、とびっきりの愛』とでも言えばいいのかな?」

 

 

 何言ってんだコイツ、と少女は半眼で鴉を睨む。

 

 

「物心ついたときから両親はおらず、死の間際まで立花家を支え続け、加えてバキバキ童貞のまま牡蠣に討たれた彼。自身には全く関係なくとも、一度は肉体的に関係を持った女性と、幼き頃に親を失った双子が存在する。身体を借りている奪った身として、そして──次世代を立派に育てるのは当たり前という立花家の元当主としての価値観から、どうにか星野家を支えてやれないかと彼は考えたわけだ」

 

 

 その母親を間接的に殺め、双子に影を落とさせたのが、その身体の元の持ち主なんだけどね。傍から見れば完全にマッチポンプだよね、と鴉は苦笑する。

 星野家に興味がない? それは嘘ではないが、本心でもない。彼としては星野家の行く末に興味もないし、島津家自体は彼とは元々『敵』だった。しかし、今の身体の持ち主として、星野家を無視はできない、と。

 

 

「理想の父親像が分からないのは彼も一緒。そうなると、彼女のために何をするのが、一番彼女の為になるだろうか? 考えた結果が、彼女から嫌われる存在(アンチテーゼ役)になることだったんじゃないかな。首狩りや鬼島津、他の島津連中ができないことを、彼が代わりに行う。アイ君も島津連中を嫌いたくはないだろうし、あの変態であれば存分に憎悪をぶつけられる。これ以上の適任が他に居ると思うかい?」

 

「………」

 

「他にも理由がある。それは──『カミキヒカル』への救済だ」

 

 

 少女は「あれに助ける価値なくない?」と困惑し、鴉も「僕も同意見だよ」とため息をついた。

 気持ちは同じな二名だった。

 

 

「これは僕の個人的な考えで、おそらく彼も同意見だろうけど、人間の人格形成は環境によって左右されると思っている。日本人は勧善懲悪が大好きだけど、はなっから完全な『悪』なんてものは、この世には存在しないものさ。自身を『悪』であると自覚して耐えられる人間は希少だし、そもそも物事の善悪は視点で大きく変わる」

 

 

 だから人間はいつの世も、相手を攻撃する『大義名分』を求めるのさ。これは時代がいくら進もうと、変わることのない不変の理だと、鴉は茶菓子を器用に啄む。

 

 

「カミキヒカルの所業は、もちろん許されるべきことではない。しかし、だ。ほぼ死んだも同然のカミキヒカルに、いわゆる『死体蹴り』を行うのはどうなんだろう? 死骸まで辱めるのは畜生にも劣る。カミキヒカルの名で散々好き勝手している彼が言えることではないけど、少なくとも彼はカミキヒカルから身体を貰った奪った恩がある」

 

「……それが、アイツの掲げる『恩義』ってやつ?」

 

「どうだろうね? どうして彼がカミキヒカルの肩を持つのか。僕はカミキヒカルの過去までは調べてないから分からないし、記憶を共有した結果、彼が『救いたい』と思った何かがあったのかもしれない」

 

 

 カミキヒカルの過去、想いは彼にしか分からない。

 鴉は茶をすすりながら続きを口にする。

 

 

「ファーストコンタクトは今後の友好関係に大きな影響を与える。そして、アイ君や双子からの第一印象は『最悪』の一言に尽きる。ましてや首狩りへの愛の全否定──それを『立花 導春』の名で行う。それはもう、憎くて憎くて、たまらないだろう。それこそ『カミキのことは許せないけど、導春のことはもっと許せないよ!』と思わんばかりに」

 

「あー……あれは実際にそんな感じだったわね」

 

「アイ君に必要であろう嫌われ役を演じる、カミキヒカルへの憎悪を肩代わりする──これが、彼なりの、星野とカミキへの『(憎悪)』なんだろう」

 

「推測にしては、随分と自信満々ね」

 

「あくまでも前世の僕は、こういう情報整理等で飯を食ってきたからね。戦える技術はあれど、荒事よりも情報考察が僕の基本業務だったよ」

 

 

 鴉は肩(?)をすくめた。そして、彼の演技は演技じゃない。あくまでも自身の思ったことを淡々と口にしているので、あの首狩りに嘘だと指摘されることはない。

 転生してからの彼は、こういうコミュニケーション系の嘘も磨きがかかったと、鴉は語った。

 

 

「もっといい方法があっただろうに、本当に不器用な男だよ」

 

「……そっか、どれだけアイツが頑張っても、アイツが勝手にやったお節介行為に変わりはないんだ。だから誰にも感謝されないし、なんなら誰も頼んでないし、それをわかっててアイツも好き勝手やってる」

 

「長年の怨敵(ライバル)だった鬼島津は察しただろうけどね」

 

 

 だから、と鴉は言葉を紡いだ。

 

 

「琥珀君は覚えててくれると嬉しいよ。不器用で歪んでいる、彼なりの愛情を」

 

「あんな面倒臭い男の所業、忘れたくても忘れられないんだけど……」

 

「確かに!」

 

 

 少女と鴉は笑った。

 夜は次第に更けていった。

 

 

 

 




大輝「カタギリさん、この給与明細の『特別調整手当』って何ですか?」

カタギリ「カァ」

大輝「……はぁ、代表じゃないと分からない、と」

カタギリ「カァ」

大輝「別にミスではないから、貰えるものは貰っとけ、と。そこそこ額が大きかったので確認だったんですが、分かりました。時間あるときに代表に聞いてみます」




【特別調整手当】
 姫川専用の追加給与。自分が遺伝子上の父親であることを知ったら困惑するであろうことを考慮して、養育費の意味も込めて作られた手当。もちろんカミキに聞いてもはぐらかされる。
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