薩摩の子 作:キチガイの人
主人公の両親の教育方針の歪さが露呈してますが、主人公にも原因はあるんです。ってか、当時の主人公が洒落にならないくらい狂ってたってのもあります。そこらへん、今章で深掘りされる感じですね。
感想お待ちしております。
夏休み最終日の夕方。
朝から昼まで税所家夫妻を巻き込んで、自身のものではない課題を処理していた記憶しかないが、なんとかギリギリで終わらせることができた。終わったときの達成感は、自分の宿題が終わった時以上にみんなで騒いでしまった。
元凶の母娘も泣きながら喜んでおり、手伝ってくれた皆様方に礼を言っていた。良かったね。でも新学期開始数日後にはテスト期間に突入するので、彼女らの勉強地獄は終わることはないのである。
テスト間近ではあるのは確かだが、昼まで勉強していたんだから、さすがにこれ以上勉強するとなると俺が辛いし、アイとルビーはもっと辛い。
なので星野一家、税所家夫妻と公共交通機関を使用し、俺の実家に赴くことになった。
理由はただ一つ。
「夏課題お疲れっしたー。んで、新学期も頑張りましょー。っつーわけで……乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
打ち上げである。
夏休み期間中のどこかでバーベキューしよっかって話はしていたが、なんか用意するのが面倒だなって後回しにしていた結果、今年はやらんくてもいっかって話をしていたのである。
しかし、課題を半泣きでやっている母娘の話をしたところ、ウチのオカンがバーベキューの用意をしてくれると言ってくれたのだ。場所確保も悩みの種だったものだから、親父殿の屋外修練所のスペースを借りられたのは大きい。
野菜や肉、海鮮まで俺の両親が用意してくれたのは、本当に頭が上がらない。
そんなわけで、俺は炭火がパチパチいってる金網の上で焼けるブツを、焼いては配膳する作業に勤しんでいる。焼いてて気づいたんだが……この肉、絶対に豚とか牛の前に『黒』の漢字がついているような気がするんだが。
少なくともバーベキューで扱っていい肉じゃないだろう。金銭換算を本能的に放棄した。
決して炭に錬成しないように、細心の注意を払って焼いていると、縁側の親父殿と雑談をしていた咸が俺に近づいてきた。
「私も手伝いましょうか?」
「お、助かるわ。そこの薩摩黒牛のカルビ焼けよ?」
「……なんだか手が震えてきましたなぁ」
これが人数分とかじゃなくて、マジで俺たちだけじゃ消費しきれない量があるのが問題なのである。まぁ、全部使えとは言われてないので、さっさと焼いて食って余ったら冷蔵庫行きなんだろうけど。アクアが「こんなに高級肉食っても胃がもたれねぇ、この身体最高」って言ってたのが印象的だった。
ルビーは……物凄く楽しそうだね。そりゃそうか。推し兼母親との、そして前世今含め、初めてのバーベキューなのだから。そして、アイもバーベキュー人生初参加じゃなかろうか。見てみなよ、あの笑顔。この星野一家の微笑ましい光景を見ただけで、あの再会劇のセッティングの苦労が報われるのである。
税所家の奥方は配膳に精を出している。黒川さんって率先して雑用やりたがるよなぁ。そういう性分なのだろうか? オカンからめっちゃ好評なんだよね、あの元女優。
夏季休暇最終日になると、薩摩の各家はそれぞれ家族内で食事会的な催しを行う。もちろん兼定や未来は自分家のに参加しているのだろう。
だが、税所家は違う。伊集院家や種子島家、それに新納家や川上家と違い、税所家は家族で食事会となると、咸ただ一人になってしまう。両親どころか祖父母もいねぇし。これは今に始まったことではなく、税所家って身内でのイベントが行えない家系なのだ。なんなら、コイツの誕生会すらロクにしなかった時期もある。俺、コイツの本当の誕生日知らない。
咸は正月に島津宗家に顔出すくらいで、それ以外の季節イベントは馬鹿共が無理やり誘わない限り、参加することがないのだ。ぼっちなのである。
「──咸君、ちゃんと食べてる?」
「えぇ、あかねも満足しましたか? あ、これ新しい肉です」
「……はい、あーん」
「私は大丈夫なので、あなたが食べて下さい。このような良い肉、なかなか食べる機会はないかと」
「あーん」
「………」
「あーん」
「………」
やっぱり黒川さんは最高だぜ。
この基本受け身の胡散臭い男は、多少強引でもこちらからコミュニケーションを図るのが得策であると、この数か月の付き合いで気づいたのだろう。自分が比較的やべぇ家庭環境であるって、本気で思ってない節があるからな。
あと、その胡散臭さに反比例して、妙に義理堅いからね、コイツ。さくっとエメラルドすると、たぶんゴールインは確定すると思われる。
笑顔で食べさせる元女優と、複雑そうな表情ながらも素直に差し出されたものを食す麒麟児。
その様子をニヤニヤ眺めていたところ、俺の肩をポンポン叩く者が現れる。
「はい、あーん」
「………」
星野一家でワイワイ楽しんでいたはずの元人気アイドル兼母親の差し出す肉を、俺は咸と同じような表情で食すのだった。
なぁ、咸。恥ずかしいねコレ。
♦♦♦
男性陣がバーベキュー後のコンロ等の跡片付け、女性陣が皿洗い等を分担作業し、一息ついたところで、夏最後のイベント。風物詩である、小花火大会の開催である。
打ち上げはしないけど、手に持つタイプの花火を買い込んだので、そのカラフルな火花を散らす様を、各々がそれぞれの感情を抱きながら眺めるのである。聞いた話によると、星野一家での花火は初めてとの事。そりゃ、双子が小さい時に花火なんて危険なことさせられねぇわな。
つか初めての事ばかりじゃねぇか。もっと色々と家族の思い出作らせなきゃ。(使命感)
俺はその様子を、縁側に座りながら、親父殿と一緒に眺める。
後方腕組島津×2である。
「今回はありがとうございます。彼女らも喜んでいますし、家族での良い思い出になったかと」
「……そうか」
ウチのオカンは子供たちの花火に火をつけて回ってる。
あんな笑っているオカン、実はそんな見たことない。楽しそうで何より。
ところで、返答した親父殿の様子が少々おかしい。なんというか……歯切れが悪いと言うか。いつもなら威圧感マシマシの、動かざること山の如くな印象があるのに。しかも、実の息子である俺に対してである。
こんな親父殿見たことない。明日は大雨洪水波浪雷注意報でも出るんだろうか。新学期早々、悪天候とは俺も運がないぜ。
「……すまなかった」
「………………………………………………………………………へ?」
急に、唐突に、前触れもなく、親父殿が俺に謝った。
俺に、謝罪の言葉を、口にした。
脳が処理しきれず、数分経過して出てきた単語は「へ?」である。
俺的には衝撃が大きかった。立花のオッサンが気持ち悪くなくなったレベルに驚いた。とりあえず、明日耳鼻科と精神科を予約しようと思ったぐらいには、彼の言葉が予想外過ぎたのだ。
もちろん、親父殿が俺に謝罪したことなど、人生で一度として存在しない。別に謝れないとかではなく、基本的に彼が謝るレベルの間違ったことをしないのが要因だった。社交の場では頭を下げるし、謝罪の言葉も口にする。しかし、家庭内で親父殿が俺に謝るなど、青天の霹靂だった。
「……俺、前線勤務に戻る感じですか?」
「そういうわけではないが……ふむ……」
てっきり先に謝罪が必要なことをさせられると思ったのだが、どうも違うらしい。そうなると、本当に俺が謝られた理由が思いつかんので、逆に怖い。
親父殿は顎に手を当てて考え込み、小さくため息をついた。
「人は自分の見たことしか模倣できぬ。自身の想定の範囲外のことなど、容易には出来ぬ」
「至言ですね」
「
だが……と、親父殿は徳利の酒を煽る。
咸が今回誘ってくれた礼として持ってきた焼酎を飲んでいるようだ。え、もしかして酔ってる?
「
「為政者に個人の情など必要ないでしょう。島津として、間違っているのは俺自身かと思いますが」
「
……間違っている?
「そして、
「それは違います。自身の丈に合わない生き方も、そして母上の気遣いを跳ね除けたのも、全ては当時の俺の不徳の致すところ。自業自得です」
「お前から拒んだからといって、歩み寄ることを止める理由にはならん」
親父殿は自嘲気味に笑った。
カミキの件で、自分にも思うことがあったのだろうか?
「……俺としては、それが正しいと思っています。それが島津としての理想的な在り方だと信仰しています。故に、親父殿が
今さら態度を変えられても困るしなぁ。
俺と両親の関係性は──これがしっくりくる。
既に『アイと共に生きて共に死にたい』という、最大級の我儘を聞いてもらったのだ。これ以上を望むつもりはないし、俺を気にかけるくらいなら星野家に目を向けてほしい。
俺は持っているのに放棄した人間だ。望んでも得られなかった人間に与えてほしい。
「アイも、アクアも、ルビーも、親の愛を十分に受けられなかった者たち。もう遅いのかもしれませんが、今からでも彼女らには『無償の愛』というものを享受してほしい。それが、俺の願いです」
親父殿の言葉を借りるなら、俺も『理想の父親像』が分からない人間である。ルビーからパパ扱いされているけど、双子に父親らしいことができるとはミリも思ってない。
それができるのは……俺が頼れるのは親父殿ぐらいだ。
親父殿が俺への接し方を後悔しているのであれば、それを糧にアイと双子に、その愛情を注いでほしいのだ。
俺の言葉に親父殿が目を見開く。
そして……静かに笑うのだった。
「……そうか、鳶から鷹は生まれるか。桜華、お前は強いな」
「どう逆立ちしても、親父殿よりは脆弱だと思うんですが?」
「……精進せよ」
「微力は尽くします」
【島津 桜華】
主人公。アイと出会う前の評価は『常識人に見える狂人』『正気と狂気が同時に内包されている』『薩摩兵子というよりも鎌倉武士』『島津を遂行する機械』『自身含め全て駒だと思ってそう』『死に急ぎ野郎』。
【
主人公の父親。通称『親父殿』。島津として正しく、父親としては失格な教育を主人公にしてきた。上の評価も、彼の教育も若干影響している。しかし、今の主人公を見て、自身の教育は間違っていたのだと気づく。この人も自身の父親の背中を見て、同じような感じで教育を受けてきたのでしゃーなし。