薩摩の子 作:キチガイの人
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夏休み明けの初日なので、授業は午前中で終了──って都合の良い話は一切なく、みっちりがっちり6時間目まで存在するのである。しかも、体育や芸術等の、いわゆる『ボーナス授業』は一切なく、代表5教科(国・数・英・理・社)が占めていたのだから、ルビーなんか机に突っ伏したまま動かなくなっている。頭から湯気出てる。
そりゃ、芸能科から普通科への編入なんだから、こうなるのも無理はない。高校受験で地獄を見たアイと同じ状況が、今の宝石妹を襲っている。俺個人としては、かなり頑張っているとは思うけどね。
帰る前にスーパー寄って、ハーゲンダッツ買ったろ。
5時限目と6時限目の間にある休憩時間。
ある者はクラスメイトと談笑し、ある者は夏休み延長戦として課題の処理に取り組み、ある者は別クラスから遠征して来た胡散臭い男とラブラブイチャイチャしたり。
そして、ある者は脳がオーバーヒートした娘/妹を介抱したり。
クラスメイトの数だけ物語が発生する。
「桜華、次の授業って何だったか?」
「英語だったはず」
「……ルビーの苦手科目か」
むしろ得意科目ってあるのだろうか?
アイは最近だと日本史が得意科目として口に出せるくらいには成長している。ウチに嫁いでくることがほぼ確定してしまった彼女だが、遡ること鎌倉時代……な島津の歴史を知る上でも、日本史は非常に重要になってくる。名家に嫁ぐなら、それ相応の知識はね?って話である。まぁ、アイの日本史の学力向上の大半は山田教諭のお陰でもあるんだが。
そして、アイさんは相変わらず英語が苦手な様子。
どうして人生2周目組が、一番のアドバンテージがあるであろう学問分野で白旗を掲げているのだろうか?と思わなくもない。海外NGだった元人気アイドルと、終末治療患者の生まれ変わりと考えれば、納得は出来るけど。
俺だって英語はそんなに得意じゃねぇし。母国語だって怪しいのに、他の言語に手を出そうと思う理由が出て来ないのだよ。
「まぁ、自称進学校(笑)だが、今期の1年の学力格差が全体的に大きいのは教師陣も理解してる……と思いたい。英語に関しても、普通に授業についていけるグループと、基礎の基礎から叩き込む初心者グループに分けられてる」
黒川さんやアクアには一生縁のない初心者グループの話だが、アイもそれに参加している以上、ルビーも参加しない手はない。
「英語の担当教諭に事前に話は通してあるから、次の次くらいからは、アイと同じ基礎を学ぶグループに配属されるとは思うぜ」
「あ、ありがとう……パパぁ……」
こうやって義娘の好感度を上げながら、クラスからの好感度は下がっていくのである。普通に、常識的に考えて、同世代の美少女に『パパ』って呼ばれてるの、俺も第三者視点なら犯罪を疑う。
学年トップクラスの美少女を彼女に持ちながら、その美貌に追随できそうなレベルの美少女も侍らせているとは何事か!って思う者も少なくないのだろう。下心を隠しながら、お近づきになりたい男子生徒もいるだろうからね。
どうせなら、星野一家の関係性を暴露して、全校生徒の脳を一度破壊尽くすことも視野に入れている。みんな、一緒に死のうぜ!
「いや、本当にすまん。ルビーには後で言って聞かせるから……」
「別にもう直さんくても大丈夫じゃない?」
嘘吐き少女の娘が、嘘が嫌という思考をしているのは、非常に興味深いともいえる。
そんでもって生前は『
それでアイドル目指すの辛くない?と思わなくもないが、それは一旦おいておこう。俺が今心配して何か変わる項目じゃないのだから。
肝心のパパ呼びの件だが、そんな嘘偽りに忌避感を持つ彼女は、俺との関係性を隠せない……いや、隠したくないのだろうと推測される。とっても生きづらそうな固定観念を持っているなぁと思いつつも、それを悪いと指摘するつもりはなかった。
いずれこうなるだろうって馬鹿共も同じ見解だったし。
むしろ、もう早めに『島津 桜華=ルビーパパ』の構図を浸透させた方が、後からグチグチ言われることが少なくなるんじゃね?って話になった。
手始めに、俺に『お義父さん、ルビーさんをください!』って言ってきた阿呆にチェストかましといた。
「事前に起こることが分かってりゃ、対策も練りやすいだろ?」
「あえてルビーからの呼び方を矯正しなかったも、それが理由だったんだな」
「相手の思考を釣るのは、俺たちの最も得意とすることですから」
この作戦、欠点らしい欠点と言えば、どう頑張っても俺の評価が『同世代の女の子にパパ呼びさせてるヤベェ奴』に固定される点である。
俺の評価は地に落ちるだろうけど、もっと地に落ちてる
♦♦♦
「そういや御三方は部活とか決まってるの?」
「「「演劇サークル」」」
授業も終わり、さっさと帰ろうぜと言う話になり、帰宅準備をしている段階で、ふと俺の脳裏に疑問がわいた。そして、考えたことをそのまま口に出したところ、薩摩新参者の3名は予期せず口をそろえて回答するのだった。
俺は思わず喉から「ヒョエ」と変な声が出た。
そりゃそうだろう。
××高校の演劇サークルなんざ、並みの人間よりは演じられるであろう集団止まりであり、一応学校側からも活動は認められているが、『演劇部』と言える程実績がない連中の集まりである。俺も演劇サークルが何やってんのか知らん。
そこに加入を希望しているのは、子役を経験した上で撮影側としての知見も持つアクア、アイドル志望ながらも女優としての活動も視野に入れているルビー、──そして、劇団『ララライ』の元若きエースにして舞台演劇の第一人者の黒川さん。
どう頑張って好意的に解釈しようとも、演劇サークルをオーバーキルする将来しか見えないのは気のせいではないはずだ。
絶対に違うと思うぞ。学生特有の『何となく目的もないが一応参加している』程度の役者と、それで食っていく、又は食っていこうと思っている奴の演技は。素人でも分かってしまう。
「……ちょっとリハビリしておこうと思ってな」
宝石兄のリハビリで自信消失する者が何名か出てくると思うんですがそれは。
「私もママみたいに女優もやってみたい! でも事務所がまだできてないし、それまでは学校で練習しようかなって」
俺知ってるからな。アクア曰く、ルビーの演技力は相当なもんだって。アイもその才能の開花を楽しみにしてたと言ってたし、少なくともサークルで終わるような演技力じゃないのは、見なくても伝わってくる。
「わ、私の場合は……演技しか得意なことはないから。というか、それしかできないし。咸君に迷惑かけたくないから、私が唯一できる部活を選んでみた」
将来の旦那さん(確定事項)の名声を考量する妻の鏡ではあるが、その選択でサークルが崩壊する可能性は計算してなかったように思われる。
アイも『私が本気出すと、主役を
どうしたもんかと首をひねって考え。
そう時間が経たないうちに答えが出た。なんだ、
「もう申請書は出したん?」
「今日の昼休みには出したな」
「そっか。一応、島津ん者も在籍している……というか、部活動の長をやっているから、いざというときはその人に助力を貰うと言い」
「それは助か──」
「まぁ、洒落にならないくらいヤバい人だけど」
「………」
まさか島津に属する者が普通のはずがないだろう?
3年生だから、1年間だけお世話になるだろうけどね。
え、その人の話を聞いたことない?
そりゃそうよ。俺たち馬鹿共視点からしても、ぶっちゃけ関わりたくないし、アイを関わらせたくなかったからな。
だって、その人──
「……その、どのくらいヤバいの?」
「3年の
「盛ったな!?」
「これで小盛だからな?」
「………」
──導春と別ベクトルの変態だからな?
桜華「頼れる兄貴分みたいな先輩だから安心して」
アクア「安心要素が見当たらないんだが?」
桜華「ケツ引き締めて行けよ」
アクア「掘られる前提の話なのか!?」