薩摩の子 作:キチガイの人
銃創を舐める元天才子役出してぇ。
感想お待ちしております。
──忠影殿は桜華の元ファンの反転アンチです。
その言葉に、私の心拍数は無条件で上がる。
心当たりがありすぎる言葉に、私は表情を引きつらせながら、隣に座っている咸君の顔を盗み見る。私に微笑み返してくるのを確認し、彼の言葉は
いじわるだなぁ、もう。
私の心境を知ってか知らずか、彼は自身の懐から一冊の単行本を皆に見せる。それは今回の話題の中心にある舞台の原作『
彼があまり漫画などを読んでいるのを見たことがなかったので、原作を所持してここに来ているとは思わなかった。
「忠影殿が著作の漫画『
「それは十分ベストセラーと言え……待て。島津家次期当主候補で、数百万のベストセラー抱える漫画家も兼業しているのか?」
「時間を効率的に使うのが上手なお方ですから」
アクア君は絶句する。
それは私も同じであり、到底真似できるようなことじゃないのは明らかだったから。
「話を戻しましょう。大まかなあらすじを一つ。『デウマキ』は架空の現代日本を舞台にした、王道……とは言い難いバトル漫画となっております。主人公の所属する『
「ゴメン、固有名詞ばっかりで覚えられない……」
「ルビーさん、そう難しく考えることはないですよ。だって──『デウマキ』の7割方はノンフィクションですから」
「えっ」
咸君は漫画をペラペラ捲りながら語る。
「この作品は九州の島津・大友・龍造寺の勢力抗争が元ネタの作品なんです。なんかファンタジーな設定が追加されていたり、一部が性別変わってますが、話の流れは史実準拠と言っても過言ではありません。そして主人公の『ハナ』こそ、桜華がモデルとなっています」
「……えっと、あの人ってオーカのこと嫌ってるよね? なのに、オーカが主人公のモデルとして漫画を描いているのはおかしくないかな?」
「普通ならそう思いますよね、アイさん。原作の時系列で話をすると、アイさんが桜華と出会う前──桜華が『完璧で究極の島津』を演じていた時代の話なんです」
今でこそ穏健(当社比)で温和(当社比)な桜華君だけど、当時の彼は平常時と戦闘時の温度差が激しい人間だったと咸君は語る。まさに『日常と死が同居している』を体現していた人物だった、と。
自身はそこまで武勇に優れているわけではないと笑い、上を敬いながらも下に手を差し伸べる心優しい少年。反面、敵と定めた相手には一切の容赦はせず、使える手は何を使ってでも首級を捥ぎ取る『首狩り』を冠する少年。そこに強弱は関係なく「
その語りにアイちゃんは自身の握り拳を包むように、何かに耐えるように耳を傾けていた。ルビーちゃんはそんな自身の母親の様子に戸惑いながら、桜華君の『死』の部分に怯えた表情を見せる。アクア君も顔色を変えずに聞いているけど、アイちゃんの様子を気にしている。
私も
そんな私たちの様子を見て、同情するような笑みを浮かべる。
「皆さんには中々に受け入れがたい話でしょう。ですが、当時の桜華はまさに、現役アイドル時代のアイさんに似たような存在だったんです」
「……どういう、こと?」
「彼もまた、幾多の薩摩武士の脳を焼いて来た罪深き男……ということです。私個人の見解としては、彼に『王』の器はなくとも、『将』の器はありましたからね」
どのような劣勢であろうと──否、劣勢であるからこそ、笑いながら陣頭に立ち、下々に自身の背中を魅せ、死など気にもせず敵地に特攻し首級を挙げる。薩摩武士の在り方を行動を以て示す
そして、忠影さんも脳を焼かれて──ファンになってしまった一人だったのだ。
『あー、あばら骨何本かやったなこりゃ。んで、包囲されたと。最っ悪』
『しっかし、奴さん正気か? 島津武者ってのは、劣勢の戦でしか勝てん生物だって小学校で習わんかったのかな? これが義務教育の敗北か』
『まぁ、いっか。ちょうど、龍造寺新四天王(5人)とかいう馬鹿げた存在が目障りだったんだ。四天王なのか、5人なのか、どっちだよ。仕方ない、四天王で統一させてやろうぜ』
『──敵は精強、龍造寺四天王が一人。相手にとって不足なし』
『目指すは大将首、ただ一つ』
『──総員、食い破れ。死するは今ぞ』
「桜華が戦場に大将として赴いたのは計7回。その全てにおいて、大小関わらず首級をあげているんですよねぇ。味方であれば頼もしいですが、同時代に敵として生きるには、これほど厄介な存在はいません。そして──忠影殿は、桜華の勲功の生き証人なんです」
漫画のヒロインも主人公に従事し、主人公のサポートをしながら、彼の活躍を見守っている描写がある。
「あ、ちなみに『デウマキ』のタイトル名にもなっているメインヒロイン的キャラは、忠影殿自身がモデルです」
「「「「………」」」」
なんか聞いちゃいけないことを聞いた気がする。
「忠影殿にとって桜華は『島津の体現者』であり、自身が仕えるべき
「……それでも、漫画を描き続けるんだね」
「私も最初は、当時の桜華の記録を残すための名目として書いているものだと思ってました。しかし、最新話を読んでみると、そうじゃない気がしてくるんですよねぇ」
「咸君、それはどういうこと?」
「作者自身が『主人公とメインヒロインはくっつかない』と言ってますし、主人公とイイ感じのヒロインは──どう見てもアイさんがモデルっぽいんですよね」
「え? 私?」
突然出てきた自分の名前に、目を丸くするアイちゃん。
登場時は賛否両論あったアイちゃん似のヒロインだったが、彼の描写手腕のお陰もあってか、今では人気ヒロインになっているのだとか。
忠影さんの情報が圧倒的に少ないので断言できないけれど、今の情報量だと彼が何を考えているのか、全く分からない。過去の桜華君を崇拝しているように見えて、なのにアイちゃんを自身の作品に登場させている……咸君は過去の桜華君を遺そうと考察していたけど……途中で目的が変わった?
もっと情報が欲しいなぁ。
「結論から言いますと、忠影殿は桜華にクソデカ感情を抱いているってことです。桜華のみ、彼は名前で呼びますし。今がどんなに憎かろうと、何かと仕事を任せたりとかしているので、心の底では信用はせずとも信頼はしているんじゃないでしょうか? 桜華も文句は言いながらも仕事はこなしますので、あの二人の喧騒は島津のBGMだと思っていただければ」
「BGMとして聞き流すのに苦労しそうだな」
アクア君の一言に、私含めて全員が縦に頷くのだった。
「え、待って。自分モデルのヒロインって、もしかしてオーカ狙われてた?」
「あ、それはないです。本人曰く『解釈違い』だそうで」
【
王道(?)バトル漫画。現代風日本の三つ巴の勢力抗争を舞台とした作品。今回舞台化されるのは『三州統一戦線』編。これは本編で桜華の台詞が元ネタの『陣中突破』のシーンも含まれる。他にも『ベイクドモチョチョ内紛』編とかも人気。
ルビー「余所者、かぁ」
アクア「まぁ、相手側の言い分は正しいな。俺たちはただの一般人だ。この弱肉強食の世界じゃ、お荷物扱いされても文句は言えない」
ルビー「……そうだよね、私たち何もできないし」
ルビー「………」
ルビー「………」
ルビー「……?」
ルビー「……うーん……ん……ん?」