薩摩の子 作:キチガイの人
次回、次期当主候補さん視点です。
感想お待ちしております。
2023/9/23修正 話数119→118
アクアのオファーに関しては一旦保留になり、契約書面は自宅への持ち帰りとなった。彼も契約書の裏側まできちんと確認しながら、難しい顔をしていた。演じる力すら道具とみなしていた、復讐の鬼と化していたアクアにとって、今回の件はかなりデリケートなものなのだろう。
千載一遇のチャンスとはいえ、決めるのはあくまでもアクアである。
やりたいと言うのであればアクアの肩を押してやろうと思うし、やりたくないのであれば無理強いをさせるつもりはない。それが例え、島津宗家からの要請であっても、だ。
俺に対しては当たりが強いが、アイツは愚か者ではない。いくら俺が絡んだ案件だろうと、アイツが口撃するのは俺に対してのみである。俺以外には冷静に判断が下せる奴なのは知っているし。
そんな悩み多きアクアを連れて帰宅した星野一家+αだが、帰宅途中に珍しい光景を見ることになった。正確には、アイの要望により書店に立ち寄ったのだ。俺が買った電子書籍しか読まないイメージがあった一番星が、まさか自分で書物を購入する日が来ようとは。
なんて思ってたけど、買ったのは『
「「………」」
そして、単行本を1巻から真剣に読んでいらっしゃる。
アイが先に読み、後からルビーが追い付くように読破していく構図だが、やっぱりアクアが演じる可能性のある舞台の原作は読んでおきたいのだろうか? 気持ちは分からなくもないので、購入に関して俺は口を挟まなかった。
サブカルチャーに寛容な島津なのであった。まぁ、トップがアレなので不思議じゃないけど。
……しかし、何だろう、この嫌な予感は。
それこそ書店を目指す話になったあたりから、俺の警戒アラームが脳内に鳴り響いているのだ。身に覚えがないので、かなり怖いんだけど、コレ。
「……アクア、なんか嫌な予感がするんだけど、なんか知らない?」
「……あー、知らない」
「お前絶対知ってるだろ」
「強く生きてほしい」
「待て、俺にいったい何が待ち受けてるんだよ!?」
俺は起こるかもしれない惨事に怯えるのだった。
♦♦♦
「それではオーカへの尋問を始めたいと思いまーす」
ほらな?
リビングの机やソファーを端に追いやり、床に座布団2枚が敷かれ、俺とアイは共に正座しながら対面していた。元人気アイドルの黒星がピッカピカで、少なからず怒っていることは容易に想像できた。が、なぜ怒っているのか皆目見当もつかない。
俺のベッドの端に座っているアクアは目を合わせないようにしながらマンガ読んでいるし、ルビーにいたっては寝転がりながら漫画に夢中である。年頃の女の子が、男のベッドに寝転がるのは大変よろしくないと、パパは思うのです。
「……えっと、アイさん。俺は何で尋問を受けているのでしょうか?」
「自分の胸に手を当ててみて」
おめー知ってるだろ?ってことか。
とりあえず記憶の海に潜って、彼女が怒りそうな要因を洗い出してみる。
「……
「違いまーす。後、その話詳しく」
「……
「違いまーす。後、その話詳しく。アクア、ベッドの下を気にしない」
アクアは気まずそうに読書に戻った。
寝転がっているルビーから蹴られてた。
しかし……これも違うのか。なんか知らんけど罪状が増えてしまった感があるけど、最近アイを怒らせるようなことって、これぐらいしかないんだよなぁ。
もう少し記憶をさかのぼってみるが……これだろうか? これならアイが怒る理由にも納得できるし、わざと隠していたことなので正座させられるのも無理はない。これ、バレちまったか。ってか、これ俺が叱られるだけじゃすまされないんだが?
「……もしかしてなんだけど、工事現場でカミキヒカルと殺り合ったとき、実はあばら骨を何本か折ってて、密かに通院してたのがバレた……とか?」
「──は?」
完治したけど、星野一家にバレないように日常を過ごすのは本当に大変だった。馬鹿共と軍師(笑)には看破されたから、いつ気づかれるだろうかと冷や冷やしてたもんだ。
まさか治った後に気づかれるとは思わなかったんだが、どうやらマジでバレてなかったらしい。それどころか、これは墓穴を掘りましたな。目からハイライトが消えてしまった一番星を眺めながら、自身の過ちを悟るのだった。ルビーの「パパってもしかして馬鹿?」という言葉が俺の胸に突き刺さった。
「……まぁ、それも後で尋問するとして。これのことだよ?」
アイが掲げるは『デウマキ』の第1巻。
忠影が趣味で描いてる漫画で、どうして俺が責められるのか?
「この漫画ってオーカがチェストしてた時期の話らしくて」
「ふーん……ん? はぁっ!?」
俺それ知らんのだけど!?
え、アイツ、俺の黒歴史で印税得てんの!?
渡された第1巻をペラペラ捲ってみると、ファンタジー要素ありのバトル漫画ではあるが、所々に既視感を感じるテイスト。この何も考えてなさそうなアホ面を晒す主人公にも覚えがあるし、今は神木プロダクションで変態やってそうな敵も存在している。
もしかしなくても、俺が主人公ですね。
言葉だけ切り抜けば、自尊心強めの発言に聞こえるかもしれないが、この漫画の主人公と同じことを昔やらかした記憶がある。
「問題なのが第3巻でオーカが『
「『日足』ってなんだ……?」
「アイ、1巻パラパラ捲っただけのコイツに、作中用語で聞いても意味が分からないと思うぞ。予想だが、『日足』って龍造寺家じゃないのか?」
「あー……第4次長島の時の話か」
アクアの補足で、アイが何の話をしているのか、おぼろげながらに理解する。確か龍造寺家の家紋って『十二日足』だったから、それが由来なのだろう。何年前か忘れたが、龍造寺家が長島(鹿児島の右上辺りの島)に侵攻してきたとき、諸事情で撤退が遅れて包囲されたときの話だろう。
劣勢過ぎてハイテンションだったので、部下の方々と「関ヶ原で徳川のボケナス共相手にできなかったことをやってみようぜ!」って話になって、ヤケクソで前進撤退した記憶がある。後に『令和版島津の退き口』と言われてる。
「それで、その長島ってところでの話で──」
そのヤケクソ退き口がどうしたのだろうか?
「──気絶しそうになったとき、わざと自分の腹部に短刀を1回刺して意識を保ったとかいう
「時効って言葉知ってるか?」
そんな自分でも忘れてた過去の話をほじくり返されて、カミーユされるのは理不尽だと思うんだけど。後から聞いた話だが、この漫画の戦闘描写は非常に精巧で迫力があり、過去の話でもあるにかかわらず、アイは非常に不安になってしまったとの事。許さんぞ忠影。
ちなみにアイの質問の答えは「だいたいは本当」である。本当は2回ほど刺した。
「この戦いで、ラッキースケベでヒロイン候補の女の子の胸を揉んだのも?」
「んなわけねぇだろうが」
あの! 長島合戦に! 女性は! いない!
俺と忠影と、明らかに素手で人を絞め殺せそうなガチムチのオッサン共しか参加しとらん。雄っぱい揉んでナニすんだよ。新納先輩以外の士気下がるわ。
その後も過去の話を何個か持ち出されて、それを必死に弁明する問答が続く。昔の俺は本当に危ないことしかしていなかっただけに、これがカウントされると、ビッグダディ真っ青の大家族が出現してしまうのだ。必死にもなる。
あとラッキースケベや、ちょっとエッチな展開はフィクションなので勘弁してほしい。
あーだこうだアイと言い合っていると、寝転がっているルビーが俺に声をかけてきた。
その内容は意味不明かつ、話の流れ的にも理解できないが、俺はとりあえず義娘の質問に自身の回答を提出する。
「この『
「言った……気がする。実際そうだろ?」
「そっかぁ。あと話は変わるんだけど……パパは忠影?って人と仲直りしたいの?」
「マジでいきなりだな。……昔はそんなに険悪じゃなかったし、今後の島津を運営していくうえで不和は解消しておきたい。他に付け込まれるスキにもなるからな。俺からは嫌ってないし、仲良くできることに越したことはないが……」
「そのためなら何でもできる?」
「何でもって……いや、
「ふーん。あ、ママ。話の腰を折ってごめんね。尋問の続きどうぞ」
ルビーが気にすることじゃないよな?
俺と忠影の不仲はもう修繕不可なので、ルビーはそんな気を遣わなくてもいいのに。そう思いながら──不思議なことに猛烈に嫌な予感がするのだった。
「『統率の取れない軍に勝機無し。まずは大将首を狙え』かぁ……」
「どうした、ルビー」
「なんでもないよ、お兄ちゃん」
カミキ「かな君、時計の針を高速回転させても時間は進まんぞ?」
かな「わ、分かってるわよ!」
カミキ「(なんだこのカワイイ生き物は)」