薩摩の子   作:キチガイの人

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 シリアス回です。忠影君視点です。
 クソ重いです。最後以外は。
 余談ですが、忠影の外見は『サクラ大戦』の真宮寺 さくらをイメージしていただければ。キャラ検索して、これが想像に一番近いでした。でも忠影は男です。
 感想お待ちしております。







 感想以外の場で私と話をしたいと仰る方がいましたが、活動報告ってPNの『キチガイの人』で出せないんですよね。名前隠してますし。もう隠す必要ないですけど。
 どうしても私にメールを投げたい方はID:149628の薩摩人(十六夜やと)にでも投げて下さい。同一人物だと明言して来なかったですが、既に何件か来てます、はい。目を通しますが、返信は行わないのでご了承くださいませ。


119.焼かれた者

 私は──ボクは、『島津』が嫌いだった。

 どれだけ歳を重ねても、身長や体格が同世代の男子の平均にも至らず、小さい頃から『女みたいな男』として馬鹿にされてきた。それは徐々に減っていったが、それが自身の家柄の兼ね合いで表沙汰になっていないだけ……というのは、さすがのボクでも理解できた。

 体格に引っ張られてのことなのか、武勇に関してもボクは苦手な方だった。そして頭脳に関しても、それほど特出しているわけでもなかった。

 

 

『女々しい男だ。宗家の嫡男がそれでいいのか?』

 

『薩摩隼人の風上にも置けん』

 

『島津の未来が心配だ』

 

 

 今まで島津に付き従ってくれた者たちにも陰口を言われる始末。その不甲斐なさを嘆くと同時に──ボクは心の底から、島津という一族が大嫌いだった。

 好きでこんな蛮族に生まれたわけじゃないのに、好きでこんな身体に生まれたわけじゃないのに、()()()()()()()()()()()()()、島津の連中を嫌悪していた。どれだけ成果を出そうとも、『できて当然』と一蹴される、この環境が嫌で仕方がなかった。

 ボクの両親も、陰では褒めてくれた時もあったけど、立場上どうしても表に出すことはできず、そして──他の連中のように、期待を押し付けてくることに変わりはなかった。

 

 長島合戦の時も、そうだった。

 あれが初陣だったし、ボクが13歳の時だっただろうか? 自身の不手際のせいで敵中に孤立無援となり、時間を稼ぐにしても戦力が足りず、どうあがいても絶望的以外の何物でもなかった。

 なけなしの反骨精神で、そこそこの武勇は供えてきたボクでも、人数差と言うものはどうしようもなかった。腹を斬ろうとする者すら出てくる始末で、血筋的に最上位のボクはこの有様。意思統一すらロクに行うことができなかった。

 

 そう、それが始まりだった。

 

 

 

 

 

『忠影、指揮権寄越せ。逃げるぞ』

 

 

 

 

 

 同じく初陣だった、もう一人の島津直系の男──桜華が言った。

 この包囲網を突破するために──敵大将に奇襲を仕掛けると。

 

 

『……とは言っても、ただ逃げるだけじゃ華がない。あそこで勝利確信してる龍造寺のアホ面、叩き潰して撤退するとしよう。先に謝っとく、全滅したらスマン』

 

『でもさ、どうせ死ぬんなら──島津らしく死んでみねぇか?』

 

 

 こうして、後世に『長島(令和版島津)の退き口』と呼ばれる、関ヶ原で同じことを行った義弘公ですら大絶賛するような、前進撤退が行われた。

 あの時のボクは、桜華の後ろでその勇姿を目に焼き付けていた。襲い来る敵を切り捨て、刺され撃たれても意に介さず、当代鬼島津の嫡男としての武功をあげるのだった。同じ歳であるにもかかわらず、その猿叫で敵を屠る武勇も、敵中突破を迷いなく選択する豪胆さも、自陣を去る際に爆発物()を仕掛ける知略も、ボクに持っていない全てを、あの男は持っていた。

 

 島津の者は、こぞって桜華の武勇を称えた。

 ボクは──何もできな

 

 

『忠影、ナイスファイト。次ん戦のときも、よろしくな』

 

『……ん? 何もできなかった? お前も何人か殺ってたじゃん。それに──真の大将たる者、生きて帰るのが仕事よ』

 

『お前は後ろでどっしり構えとけばいいんよ。前で潰すのが臣下の役目なんだからさ』

 

 

 だから泣くんじゃねぇよ、桜華はそう笑いながらボクの頭を撫でた。誰からも褒められることもなかった島津の無能者は、生まれて初めて両親以外の他人から、プラスの感情を向けられたのだ。

 次も後ろは任せた、と。

 

 その時のボクは、心臓をバクバク鳴らしながら、どのような感情を抱いていたのだろうか。

 島津の背中への憧れ?

 才多き男への嫉妬?

 それとも──本来なら抱いてはならない感情(恋心)

 

 少なくとも、あの日あの時から、ボクの目的は定まった。

 あの男を──島津 桜華を、島津家の当主にしようと。そして、ボクがあの男を支えようと。

 

 世界の景色というものは、こうも些細なきっかけで変わるものだろうか。

 自身の武勇を、自身の知略を、自身の教養を、無意味な努力だと諦めていたものを成長させていくのが、色彩を帯びていくように楽しかった。また一つ、彼の役に立てるのだと実感していくのが嬉しかった。同時期に、絵を描くことが好きだったボクは、漫画を描くことも始める。彼の軌跡を、少しでも多くの人間に知ってもらおうと思ったからだ。

 当時のボクは、これで島津は安泰であると。何なら九州征伐で失ってしまった『三州統一(鹿児島・宮崎)』を成すことも可能じゃないかと思った。

 

 そう、思っていた。

 

 

 

 

 

 ──島津 桜華の当主継承権の破棄。

 

 

 

 

 

 あの女(星野 アイ)が現れるまでは。

 その知らせを聞いたとき、目の前が真っ暗になったのを今でも思い出す。何なら、今でも夢に見る。

 

 どうして桜華が相続を放棄するのか。どうして父上がそれを認めてしまったのか。どうして鬼島津は何も言わないのか。どうして島津の者は桜華を『欠陥品』と蔑むのか。どうして例の馬鹿共も止めなかったのか。どうして桜華は──あの女を選んだのか。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてぇっ!?

 思考がぐちゃぐちゃになり、呼吸は思うように行えず、激しい怒りと疑念が渦巻く。やり場のない感情を、自身の趣味に向けることしかできなかった。

 

 あの漫画のヒロインを自分にしたのは、一種の願望と、あの女への意趣返しなのだろう。漫画の中でなら自身の心の奥底に眠る願望……『もし自分が女であったなら』を描くことも自由だ。それに、漫画の桜華は、ボクが理想とする『島津』のままでいられる。

 描き殴って、描き殴って、描き殴って、他より多少人気が出ても関係なく、ただただアイツの軌跡と自身の願望を描くだけだった。

 

 でも、違ったんだ。

 ボクは、最初から間違っていた。

 

 アイツと星野 アイが正式に付き合うとなったとき、ボクは気づいてしまったんだ。

 かつてボクが死ぬほど嫌悪していた『他者への過度な期待』を──ボク自身が桜華に強いていたことに。桜華もボクと同じように、島津という重圧に押しつぶされそうになりながらも、それを演じ続けていたという事実に。

 最悪だった。実際に吐いた。

 ボクは今まで桜華の傍に居ながら、アイツのことを何も分かっていなかった。

 

 そして、本当の桜華の気持ちを引き出したのは、星野 アイだった。

 編集担当の制止を振り切って、漫画の主人公を新しいヒロイン(星野 アイ)にしたのは、礼と贖罪だったのかもしれない。本心は自分でもわからない。

 分からないけど──自身のキャラを桜華の横に立たせ続ける自信も気力も、そして資格もなかった。

 

 ボクは桜華の背中を追って生きてきた。そんなボクは目標を見失い、手元に残ったのは『器用貧乏な才』と『次期当主の座』だった。

 昔ほど陰口を叩かれることはなくなり、ボクの家督相続に異議を唱える者もいない。しかし、ボクは知っている。島津の誰も彼も、本当は桜華こそ当主にふさわしいと思っていることに。そんなことはボクが一番理解している。星野 アイと出会ってから付き合うまでの女々しい態度のときの評価は、立花の精鋭共との乱戦で完全に払拭されている。

 何より、伊集院も種子島も税所も、ボクではなく桜華を見ている。ボクだって桜華が当主になるものだと思っていたから、あの馬鹿共との交流なんて最低限のものだった。ボク個人への忠義心など一ミクロンも存在しない。

 

 

「……ボクじゃ、無理なんだよぉ。桜華じゃなきゃ、ダメなんだよぉ」

 

 

 口から出てくる言葉を、他者に聞かせることはない。弱音を吐ける人間なんていない。当の本人である桜華が当主になる気がないし、父上がそれを認めている。余程のことが起こらない限り、それを覆すのは不可能だ。

 

 ……元々が島津宗家の嫡男だから、ボクが当主になるのは当然の帰結なんだろう。

 正直、やりたくない。できる気がしない。それでも、ボクがやらなきゃいけない。

 そんな気苦労も知らない桜華にも腹が立つし、勝手に期待して失望している自分にも腹が立つ。本当は、こんなことを言いたくはないのに、口から発せられるのは嫌悪感のみ。心底、嫌になる。

 何もかもが楽しくない。何もかもに期待できない。漫画を描くことも、惰性になっている。

 

 

 

 

 

 ボクは、何のために生きてるんだろう?

 

 

 

 

 

 そう思いながら、客室で星野家の客人二人と対峙する。

 ボクの漫画が舞台化されるらしい。そのオファーを星野 愛久愛海に頼み、その了承を得たところである。契約書に記された署名捺印がそれを物語っている。

 正直、舞台も適当にOKを出したもの。出来に興味もなければ、失敗したとしてもどうでもいい。それくらいの興味しかなく、オファーも舞台に携わるあちら側からの要望だった。

 

 ところで、舞台に関係のない星野 瑠美衣も来ているのはなぜだろう。

 まぁ、たいして興味はないが。

 

 

「……ふむ、確認した。以降の予定に関しては先方との話になるため、追って知らせる。ご足労、感謝する。では、次の予定があるので、私はこれで失礼する」

 

 

 あとはカミキヒカル氏に投げるとしよう。

 ボクは席を立ち──

 

 

 

 

 

「──忠影さん? 忠影君? どっちで呼べばいい?」

 

 

 

 

 

 双子の妹の方に呼び止められる。

 

 

「……同じ齢だ。島津の者でないのだから、好きに呼ぶといい」

 

「そっか。じゃあ忠影君、一つ提案なんだけど──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──パパ……島津 桜華に、一泡吹かせたくない?」

 

「……何だと?」

 

「一泡吹かせるってのも、別に誰かが傷つくわけじゃないんだけど──そんな最高の記事(シナリオ)を書いて来たんだ」

 

 

 その少女は瞳を白く輝かせながら、語るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はは、はは。はははははは」

 

「あははははハハははははははははははははっっ! あははははハハはははハハハハハハハハハハははははハハハハハハハハっっ──ゲホッ、きか、カヒュッ、ゲホッ、あはははは、ゲホッ、ゲホッ! 気管支に入、ゲホッ、ゲホッ、あははははハハはは……」

 

「──はははっ、腹が痛い」

 

「笑ったのは久しぶりだ。これは──悪くない」

 

「あぁ、いいだろう。乗ってやるぞ。島津の客人──いや、()()()

 

 

 

 




「落とすならADじゃなくて、直接Dを落とせば良いんだよ」
(『推しの子』星野 瑠美衣の台詞より抜粋)


「落とすなら雑兵じゃなくて、直接大将を落とせば良いんだよ」
(『薩摩の子』星野 瑠美衣の台詞より捏造)
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