薩摩の子   作:キチガイの人

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 ほのぼの兼シリアス回です。
 寒暖差にはご注意を。

 あと報告を一つ。
 今作発表前は星野アイだけを出す予定でした。彼女の情報が1話で把握できること、2話以降や原作がメンタル的に耐えられない等の理由から、適当に20話まで書いて見切りつけてハッピーエンドで終わる予定でした。
 ですが、想像以上に双子を出してほしいという声が多く、とりあえず双子を出すことが決まりました。かなり先になりますが。嘘じゃないです。手始めに買った手元にある原作①~③巻がその証拠です。二次創作執筆のために新品購入したのは初めてです。
 というわけで今作は今後も続く予定です。多分100話は軽く超えるんじゃないでしょうか?

 そんなわけで原作1巻読み切って再度廃人と化した作者です。今後とも応援・感想等頂けると幸いです。


012.歪な恋愛感情

「最近菓子折り多くなってないか? 母上どんだけ送ってくるねん」

 

 

 リビングの机に置かれているお菓子の箱を見て、俺はオカンの溺愛ぶりに溜息をついた。もちろん実の息子である俺宛では決してなく、娘のように可愛がっているアイの為である。

 ただ、今回の箱は少しおかしい。

 いつも母上が送ってくるような、数千円の菓子折りセットの箱ではなく、明らかに数万は軽く超えるでしょ?と断言できる箱なのだ。少なくとも高校生男女2人組が同棲している家に似つかわしくない代物だろう。これ木箱だよね?

 

 不可解な箱の正体。

 それを知っていたのはアイだった。

 

 

「それ家ちゃんが送ってきたやつだよ」

 

「誰だそれ」

 

「当主様」

 

「不敬ぞ?」

 

 

 おまっ、島津家当主を、んな友達感覚のあだ名で呼んでるのかよ。あまりにもの不敬ぶりに、一瞬アイが誰のことを言ってるのか、全く予想がつかなかった。

 つか『家ちゃん』って……相手は島津家当主だぞ? 島津の自宅警備員(専守防衛のプロフェッショナル)だぞ? 島津の双璧の一翼はこの人やぞ? 妻帯者で3人の子持ちやぞ?

 

 同居人の無礼を軽く咎めたが、衝撃的な事実がバンバン出てくるの何なの。

 その『家ちゃん』呼びを認めたのは当主本人であり、むしろお願いしますありがとうございます……的な様子だったようだ。どうやら俺には島津家当主の崇高なる考えは理解できなかったようだ。

 ……あ、こっちの高そうな箱には名前書いてる。現薩摩藩の家老に似たような名前があった気がするが別人だろう。気のせいだ。そうだと言って。お願い。

 

 

「オーカも食べていいって言ってたからね。また来週辺りに別のもの送るってLINEで言ってたし」

 

「俺もう薩摩藩が分かんねーよ……」

 

 

 俺のベッドで寝転がるアイの言葉に、俺は自分の所属する団体の将来を危惧する。あの人たちのことだから、大事にはならないと思うけどさぁ。

 

 ……ところで、サラッと流してたが、何当たり前のように俺のベッドで寛いでるんだ、この娘は。

 同棲当初は衣服含め私物の少なさから、俺のシャツを羽織って生活する痴女スタイルが見受けられたが、最近は衣服等も増えてきて、俺の学校指定のシャツが犠牲になることが少なくなった。

 部屋着だからなのか、今彼女の着ている服は黒の無地のTシャツに、藍色のジャージ素材のハーフパンツだ。ただサイズが合ってないのか、黒のシャツの首元から、彼女の艶めかしい鎖骨が見え隠れし、何ならブラの色すら確認できるくらいにぶかぶかだ。そういう服なのだろうか?と思ったが、なぜかその服に見覚えがあるんだよなぁ。

 

 

「アイ、それ着てるの俺のだよね?」

 

「うん」

 

「うん、じゃねーよ。自分の着ろや」

 

 

 何勝手に俺のタンスから衣服拝借してるんだよ。

 しかも、ハーフパンツに至っては、サイズが合わないと腰紐で調節している始末。

 もちろん彼女の服がないわけではない……と思いたい。学校用のシャツを頻繁に奪われるもんだから、部屋着を買うよう俺の数少ない貯金を崩して渡したはずなのだ。

 

 それを問い詰めたところ、あっさり言われた。

 

 

「お金はオーカのエロ漫画ボックスに返したよ」

 

「わざわざ分かりにくいところに返すな。つか、いい加減自分の服買えよなぁ。んな男物の華やかさの欠片もない、男臭い中古品なんて着なくても……」

 

「そんなことないよっ」

 

 

 寝ながらスマホを弄っていたアイは飛び起きる。

 恥ずかしそうに頬を朱に彩りながら。

 

 

「オーカの匂いが安心するんだもん……全然臭くないよ」

 

「……しかしだな、流石にそれは──」

 

「……そう、だよね。私はオーカの匂いが好きだし、これを着てると心が暖かくなるんだけど……オーカは迷惑だよね。私もオーカが嫌がることはしたくないから、分かった」

 

 

 少々傷ついた表情で辛そうに微笑む彼女は、おもむろに両腕をクロスさせるように服の裾をつかんで脱

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!? 分かった! 分かったから!」

 

 

 未婚の女性が考えなしに肌晒し過ぎじゃないですかね!? もっと自分を大切にすることを学んだほうがいいと思うのは俺だけか? いや、俺も最近の女性というものは語られるほど詳しくはないけどさぁ。

 

 その後、何とか知恵を振り絞った俺は「女の子モノの普段着姿のアイも見てみたい」という起死回生の一言で、何とか俺との普段着共有化を避けることができたのだ。言っても、2日に1回は俺の服を着てるんだけどさ。

 自分の服のはずなのに、徐々にアイの香りが混ざってくの怖いんだが。

 

 

 

    ♦♦♦

 

 

 

「──でさ、どうすればいいと思う?」

 

『静かにしろ。オレは天井のシミ数えるのに忙しいンだよ』

 

「俺の悩み事を後回しにするほどのことか?」

 

 

 彼女の恋愛行動バグってるんだけど。

 いつもの夜の外のベランダで、俺の悩みを兼定君に相談したが、どうやら相談する人選を大いに間違えてしまったようだ。

 

 

『ンで? 何の話だったか? 西洋式か和式、どっちで挙げるかの話だったか? アイツならドレスでも白無垢でも、どっちでも着こなすンじゃねーの?』

 

「まだ付き合ってすらいねぇのに、結婚式の形態を誰が相談するんだよ」

 

『……改めて思うが、ホント、マジで付き合ってないの何なンだろうなァ? さっさと覚悟決めて(諦めて)ほしいンだが?』

 

 

 可能性はゼロじゃない以上足搔くぞ俺は。

 たとえ状況が『信長の野望』シナリオをプレイし始めた瞬間に、全大名から無期限の包囲網を形成されている状況であろうとも、だ。武将俺一人だけど。

 

 

「……俺の思い違いかもしれないんだけどさ、冗談抜きにしてアイの恋愛観バグってないか? 頭の中で念仏唱えるのも厳しくなってきたんだけど。兼えもん、何か案だして」

 

『………』

 

「何か言って。シンプルに怖い」

 

『……いや、真面目な話なンだが』

 

 

 コイツの声色を聞いて俺も思考を切り替える。

 これは本当に真剣な話をするときの口調だ。

 

 

『……アイツの生前の過去、恋愛体験、アイツの渇望、この馬鹿の無能っぷり……うっわ、そうか。そういうことか。最悪じゃねェか。環境も条件も何もかも』

 

「何に気づいた?」

 

『前々からオレから見ても星野は異常だった。オレん所にも『どうやったら桜華とヤれるか?』って質問が来るくらいだ』

 

「お前んところにそんな相談来てたの!? ……俺その話聞いてなんだけど? ど?」

 

『うるせェ。後にしろ』

 

 

 電話の先から舌打ちが聞こえる。

 

 

『最初は元人気アイドルと言ってもビッチなンだな程度に思ってたが……これが成功体験による行動だったとしたら?』

 

「成功体験? 何のだよ」

 

『咸の野郎から聞いた話だが、星野は15歳……だったかァ? ンぐらいで元旦那と肉体関係を持って子を成した。15から20まで、その関係が『戸籍上記載はないが夫婦』だったのかまでは不明だが、結局アイツの旦那はアイツのことを愛してはなかった』

 

 

 愛の形は千差万別だが、少なくともアイの欲した『愛』ではなかっただろう。そう兼定は吐き捨てた。

 

 

『そんな人間が、転生して一人の男を好きになった。どうしても『愛』してほしい。ンで──その男は恋愛感情が分からないときた。加えて、星野の精神状況は男に依存気味。この条件下で、星野はどういう結論に至ると思う?』

 

「………」

 

『アイツは仮初とはいえ一度男女関係を手に入れた。もしアイツが──星野アイが『肉体関係を持つことが、恋愛における最低条件』だと思っていたら?』

 

 

 俺は彼女のことを想う。

 楽しそうな表情、自信満々な表情、悪戯っ子のような表情──その魅力的な彼女の心を、一度は手にし、そして塵のように捨てた男が存在する。

 ……吐きそうなくらいにイライラするなぁ。

 

 

『依存症で情緒不安定。生前と同じ年齢に差し掛かったのに進展のない状況、とどめに相手は難攻不落の名家の跡継ぎ。ビジュアルは置いといて、地位名誉が欲しい女どもからは、良さそうな優良物件ときたもンだ。そりゃ焦るのも無理ないわなァ?』

 

「つまり、だ。彼女から俺の貞操が頻繫に狙われる理由は、彼女の生前の体験に基づく歪な恋愛観と、恋愛感情がイマイチ分からん俺のせい……と言いたいわけか?」

 

『次の星野の誕生日まで数か月。予約済な状況だが、以前の旦那は星野を捨てた。アイツの過剰超えて異常なスキンシップは、テメェを取られないようにするための、一種の防衛機能なンじゃねェの?』

 

 

 それでも守れるかわからないときた。

 不安で不安で、仕方ないわなぁ。伊集院(いじゅういん)家の御曹司はそう嗤った。

 

 

「……どうすればいい?」

 

『さァ? 知らねェよんなもン。原因見つかったからって解決策が同時に出ると思ってンのか?』

 

 

 兼定は興味なさそうに突き放す。

 

 

『あとは早々にテメェが自覚するしかないんじゃねェの? 星野のメンタルケアも手段の一つだが……事情が事情なだけに、治る見込みなんかねェだろ』

 

 

 だが、と言葉を切って、兼定は口にする。

 

 

 

 

 

 

 

『──もしテメェが星野を拒絶する、または別の女を愛する……そんなことになれば、今度こそ星野の心は壊れるぞ。修復不可能なレベルになァ』

 

 

 

 

 

 

 

 テメェの性格からして、ありえないとは思うがなと兼定は吐き捨てる。

 思わずベランダの壁に寄りかかって、尻餅をつく。

 俺は状況が──想像の数千倍深刻であることに、今さらながらに気づいてしまったのだ。そして、彼女の運命は文字通り俺次第であることに、俺の無責任さが引き起こした結果に、天を仰いで苦悩するのだった。

 

 

『今の星野を見る限りだと、テメェの心が星野から離れれば、死ぬわな。言葉通り、自決すンじゃねェの?』

 

「……俺は所詮15歳のガキだぞ? 背負うにはちと重すぎないか?」

 

『諦めろ。テメェの信条に従った結果だ』

 

 

 その後、数度の言葉を交わし電話を切る。

 最後の言葉は、兼定の捨て台詞だった。

 

 

 

 

 

『何が『愛』が分からねェだ。じゃあ何か? オレ等が十全に愛を理解しているとでも? 分からねェのが当たり前だっての』

 

 

 

 




【島津 桜華】
 今作の主人公。普段着を自分→アイのローテーションで着回す。外堀を自分で埋めないとアイが大変なことになってしまう可能性があると気づく。自分の城の外堀を自分で埋めるとは何ぞ?

【星野 アイ】
 今作のヒロイン。転生者。普段着を買ってはみたが、それはそれとして主人公の私服を着続ける。許可は多方面から得ている。

【伊集院 兼定】
 口は悪いが、二人の恋愛成就を心から願っている。今回のアイの異常さに気づく。
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