薩摩の子   作:キチガイの人

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 シリアス?回です。
 アクア視点です。
 感想お待ちしております。



 高評価ありがとうございます。励みになります。
 低評価ありがとうございます。四足歩行のカミキヒカルがそっちに向かっているのでお覚悟を。


122.掴めないキャラを掴む

 『演じる』という分野において、俺は所詮、凡人である。

 周囲の人間の演技力が高すぎる……などという嫉妬にも似た言い訳を吐くこともできるが、なぜか『諦める』という選択肢を、無意識に忌避している自分もいる。

 自身は凡人だの、演技など復讐の手段だの、あれだけ豪語してきた自分だったが。心のどこかでは──そこれそ前世のアイと一緒にいた時の、あの演ずることの楽しさというものが忘れられないらしい。確かに、あの頃は楽しかった。

 いや、あの頃()楽しい。

 

 何も楽しいだけが演じることじゃない。

 幸も不幸も、俺は舞台で演技をする機会を得ることができた。

 アイやルビーが見に来る以上、下手な演技をするつもりはなく、ましてや久しぶりの舞台は大型新人の巣窟である。凡人だのなんだの言っている場合ではない。

 天才が必死に努力をしている世界、俺も持ちうる限りの全てを出さなければ、スタートにすら立てない状況なのは、俺自身が一番よく知っている。

 

 俺が演じる役は『戸次(べっき) カンレン』という人物。どうやらカミキヒカル──立花 導春をモデルとしたキャラクターであり、今回の舞台ではそこまで出番のある登場人物ではない。けれども、人気投票で4位に食い込むほどの人気キャラであり、清廉な武人としての主観・言動が人気に拍車をかけているのだとか。

 ……本当にあの男をモデルにしたキャラなのだろうか?

 

 

「……なるほど、桜華から『難しい役押し付けられてカワイソス』と言われた理由も分かる」

 

 

 だから、だろうか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どのような人物か漫画を読めばある程度理解できると楽観視していたのは否めない。しかし、どうも『演じること』に視点を合わせた時、自分で納得いくような演じ方ができない。どう演じても……なんか……こう、小骨が刺さるかのような違和感を覚えるのだ。

 

 さすがにこのままではマズいと思った俺は、同じようにスカウトされた少女──黒川 あかねに協力を仰ぐことをした。

 アイと同等か、下手すればそれ以上に、演劇に造詣の深い人物だ。何かしらのアドバイスでも得られれば御の字だと思っていたが──

 

 

『えっと……私はその役(人)をプロファイリングしているだけだから』(ドサッ)

 

『………』

 

 

 天井に届くレベルの壁一面に張られたメモと写真……それどころか、キャンパス型のバインダーの山々も仰ぎ見る程積まれている。それが全てではないと、開封済みの段ボールが数箱隅に置かれている。

 新しいバインダーを机に置く少女の姿。あまりの光景に絶句した。

 

 

『……演劇をしていた時、いつもこんな感じでプロファイリングをしているのか?』

 

『さすがにそこまではしないよ! ……でも、今回の役は『御霊(みたま) リュウケイ』……咸君がモデルのキャラだから、いつもより張り切っちゃった』

 

 

 後日、男装の麗人を完璧に演じる姿に、それを見た桜華が「……まんま咸じゃん。上位互換じゃん。え、ごめん。咸あげるから黒川家を島津家臣団に追加して良き?」と、目をグルグル回しながら戯言を口にしていた。

 それほどまでに、彼女はキャラを徹底的に考察しているということだ。

 さすがに論文書けるレベルの情報収集は不可能に近いが、俺も自身の演じるキャラを深掘りするためにも、そのキャラを()()必要があるのは確かだ。台本もない状況で、今の俺にできることは、とにかくキャラを掴むこと。

 

 黒川 あかねには身近にモデルがいるのだが。

 俺の場合はそうはいかない。あの得体の知れない変態がモデルである。資料もなく、今のカミキヒカルを参考にしようとしても、キャラがかけ離れ過ぎている。

 

 どうしたものかと考えた俺は、至極当然のようにスマホを手に取った。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「──久しぶりだな、アクア少年。舞台のオファーを受けてくれたこと、感謝する」

 

「うひょー。他人の金で食う焼肉は最高だぜ」

 

 

 学生の俺でもギリギリ手が出せる範囲の焼肉屋に呼び出された俺は、にこやかに俺を歓迎する俺似の男と、既に肉を焼いては心底美味しそうに食うアイの彼氏。

 ツッコみたい気持ちは山々だったが、この薩摩人共と変態にはツッコんでいたらキリがないことに薄々気づき始めた。それにカミキヒカルを呼び出したのは桜華経由なので、ここにコイツがいても何もおかしくはなかった。

 

 

「……島津少年、最近肉ばかり食っていると風のうわさで聞いたが。前線に出ない身で、いささかカロリーを取り過ぎではないかね?」

 

「これだから身体がひ弱な江戸っ子風情が。薩摩人は肉食って國を喰うんだぜ? 精強な薩摩兵子の秘訣は、カロリー豊富な肉食生活にあり。あと俺は食っても太らん」

 

「桜華、最後の一言は女性陣の前で言うなよ」

 

「ところがぎっちょん。既にアイの前で言ったんだなぁ、これが。『じゃあ私のダイエットに付き合ってね?』って、俺自身が干物になるところだったけど」

 

 

 前は推し(母親)と、同世代の男が、仲睦まじい姿を見せつけてくるのはメンタル的にきつい。それはルビーも同じであり、桜華に良い感情を抱いてなかったと本人が口にしていた。ましてや肉体関係を持っている事実に、俺の妹は桜華に対して猛反発した。

 蓋を開けてみれば、桜華は被捕食者だった。

 事実を知ったルビーは被害者に頭を下げたのは記憶に新しい。

 

 

「そんでアクアは導春似のキャラの演じ方が、いまいちよく分からんと。そりゃあ、今のコイツ見て漫画とのギャップで風邪ひくのは当たり前だわ」

 

「島津少年はちゃんと原作を見たのかね?」

 

「自分の黒歴史を読破するメンタルは持ち合わせてない。でも、見なくても分かるわ。だって黒歴史時代の俺が大本なら、今のように馬鹿みたいにはっちゃけてるカミキヒカルとは全くの別モンだろうが」

 

 

 自分だけ食っているように見えて、ちょくちょく俺やカミキの小皿にも肉を突っ込みながら、桜華は小さくため息をつくのだった。

 

 

「アクアも本当に難儀なキャラを押し付けられたよなぁ」

 

「それは主人公を演じる姫川少年にも同じことが言えるぞ」

 

「……これ邂逅時は土下座が安牌か?」

 

 

 割と本気で悩んでいる薩摩人に、変態は世間話のように嘯く。

 

 

「いくら端役と言えど、アクア少年には酷な役であったことは認めよう。一般人に英雄になれと唆すが如く、()()()()になれと言っているようなものだ」

 

「普通の時代劇とかだったら、ここまで深く考えることはなかったんだろうけど、下手にリアルが元ネタの漫画が原作の舞台ってのが不運だぞ。プロ意識が高い奴ほど、沼る確率が高いだろうよ。忠影も九州三国志をファンタジー要素足して描くとか、本当に何考えてやがるんだ?」

 

「どういう意味だ」

 

 

 桜華はチラッとカミキの方を見て、俺を見据えて小さく息を吐く。

 それは物分かりの悪い奴を憐れむように……という雰囲気は全くなく、ただただ同情の視線が俺に降り注ぐ。

 

 

「とりあえず原作のレビューは見た。この作品が人気である理由として、分からなくても戦闘描写や分かりやすいギャグネタが散りばめられている点と、深く考察すればするほど登場人物が近現代とは程遠い価値観の違いを持っているのが分かる点だ。分かりやすく言うなら、現代日本人が求めていた『武士とは何なのか』を絶妙に織り交ぜているってことだよ」

 

「……薩摩武士の狂気と礼節が共存した『武士』を、忠実に再現しているって言いたいのか?」

 

「そゆこと。何も考えなくても楽しいし、少し視点を変えれば日本人が大好きな日ノ本の侍の格好いい点をピックアップしているから、人気に拍車をかけてるんだろうよ。レビュー曰くね。でも、演じる側からすりゃ、たまったもんじゃない」

 

 

 その言葉を、カミキが引き継いだ。

 

 

「薩摩武士ほど蛮族が蛮族しているわけではないが、アクア少年の演じる()は、少々難しい固定観念と思考回路を持っているのだ」

 

「それを自分で言うのか」

 

「自分だからこそ言える。立花 導春という男は、それほどまでに()()()()()()()男と言える」

 

 

 少し長くなるが聞くかね?

 カミキ──導春の言葉に、俺は頷くのだった。

 

 

 

 




ルビー「──って考えてるんだけど」

馬鹿共「「「あははははハハははははははははははははっっ! あははははハハはははハハハハハハハハハハははははハハハハハハハハっっ──ゲホッ、きか、カヒュッ、ゲホッ、あはははは、ゲホッ、ゲホッ! 気管支に入、ゲホッ、ゲホッ、あははははハハはは……」」」

未来「やっばい、あ゛ー、やっばいわ。ルビーちゃんに笑い殺されるところだったわー。あ、僕もその話乗った」

兼定「クククッ、安全圏から愉悦決め込ンでる馬鹿が気に食わなかったンだ。いいぜ、協力してやらァ」

咸「確実に桜華が荒れるでしょうね。私には関係ありませんが。いいでしょう、各方面への対応はお任せください」
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