薩摩の子 作:キチガイの人
アクア視点です。
次回、銃創(^ω^)ペロペロ。乞うご期待下さい。
感想お待ちしております。
「──というわけで、島津少年。説明頼んだ」
「そっちん所の宗家とか他諸々をこき下ろすけど、それでもいいんなら適当に喋るぞ?」
「アクア少年視点から見れば、私が直に語るよりも、島津少年の言葉の方が受け入れやすいだろう。それに、君は無意味に他家を貶す人ではない。徳川家は別として」
しゃーねぇなー、と食った分くらいは働くと言いたげに、桜華は肉を焼きながら語り始める。口からこぼれる秘話は、九州三国志の一角を司り、かつては九州の覇者を称していた大友家と、それに臣従する立花家の物語であった。
高等学校の日本史ですら注目されることのない、当事者により語られる裏世界の話。
「大友家の印象って、やり手の内政官みたいな部分が強くない? とにかく経済基盤を固めるのに特化してるようなイメージがあるわ。近代だと九州に大友勢力の影響ってほとんど九州に残ってなかったじゃん? それを数十年足らずで、三つ巴の拮抗状態まで広げて確立するって、並大抵の連中じゃ絶対に出来ん」
「お館様も言ってたな。当時は龍造寺と毛利、そして島津が衝突してなければ、割り込むことも容易ではなかっただろうと。運が良かった……と言えばいいのか。いや、運も実力のうちとコメントしておこう」
「衝突っつーか、島津は得意の引きこもりに専念してただけなんだけどね」
近代の九州において家名が残っていたのは鍋島と島津のみだったと桜華は紙に地図を書きながら説明する。北九州では鍋島から龍造寺の血筋を独立させ、それを担ぎ上げて北九州に手を広げ、同じくして中国地方から雪崩れ込んできた毛利と衝突。一方、南九州で絶賛引きこもりをしていた島津とも龍造寺は睨み合いをしていた。その隙に大友と立花は大分を中心として、かつて大友に付き従ってきた末裔と決起。こうして現在の三つ巴が数百年時を経て、再び紡がれていく……と。
戦時後から高度経済成長にかけての、九州を舞台とした裏世界での勢力圏争い。無論、そんなこと俺たちのような一般人は知る由もない。驚きを通り越して、呆れるしかなかった。
「ぶっちゃけて言えば、戦後のGHQの締め付けがモロに刺さってきてさ。何とかご隠居が立て直したものの、龍造寺と大友の台頭を許した感はある」
「……私が言うのもなんだが、そろそろ話を戻そうか」
「お前が喋れ言ったから成り立ちから話してんじゃん。まぁ、そっからだと本題入るのに日付跨ぐけど」
「それだけはやめてくれ。今昼だぞ」
本題に入るのに十数時間かかると暗に告げる桜華に、流石の俺も止めた。気になる類の歴史秘話だったが、俺の目的はあくまでも変態の変態像を知ることにある。
その入り口に時間をかけてられないし、カミキと会っていることがアイにバレたら面倒なことになる。桜華が。
「そんな現代にもなって九州で三国志している馬鹿共の一角、大友勢力の大黒柱たる立花家の長男に生まれたのがこの男、『大友と牡蠣の守護者』立花 導春さんです。これが生前のガワね」
「……なんかイメージと全然違うな。こっちの方が数億倍良かった」
「なるほどなるほどなるほど。まぁまぁまぁまぁ、確かにカミキヒカル青年も陰のあるイケメン枠だが、前世の私も中々と。ほうほうほう、アクア少年は見る目があるではないか。ジュースのおかわりは注文するかね?」
「カミキ、舞い上がってるところ悪いんだが、今の奇行が目立つ変態と同一視されたくないって意味だぞコレ。カミキよりイケメンは盛りすぎだろ自重しろ牡蠣イーター」
筋骨隆々の武人を彷彿とさせる体格、鋭い眼光、桜華の親父さんとはまた違った、渋い九州男児を彷彿とさせる外見だった。芸能界ではなかなか見ないタイプであり、それこそ『カタギとは活躍する場所が違う』と風貌から訴えかけられた気分だった。
俺は工事現場での死闘を思い出し、この図体の男がやっていると仮定すると、確かに桜華が危険視する理由も理解できる。
……待て、カミキとは体格差が大きすぎる。自分も転生当時は赤子の体格に四苦八苦したのは覚えてる。体格が変わるのは、それだけ繊細な動きすらも難しくなる。武人ともなれば、その差は余計に痛感しているはずだ。
それで、あの動き?
立花 導春は適応力の化け物か?
「その武勇、誉高く。アクアも見たことがあると思うけど、このオッサンは洒落にならないくらい厄介な存在だった。今は別のベクトルで厄介だけど。刃物握らせれば手柄をあげ、コイツの前に散っていった薩摩隼人の数は計り知れず。俺も知り合いを何人か失った」
「それはこちらも同じよ。大切な部下を薩摩武士に討たれた」
「だからお互いさまって言いたいんだろ。知っとるわ。だから罵詈雑言を吐いてないだろ? そんぐらいの理性は持ち合わせてる」
何気ない会話のように二人は語る。
その様に──俺は心の底からゾッと背筋が凍った。自分の瞳に黒い光が宿るのを、本能的に感じた。
そう、二人は何気なく笑っているのだ。自分の仲間が、大切な部下が、目前の人の形をしたナニカに殺されたにも関わらず、この男共は過ぎたことだと言わんばかりに。
どうして自身にとって大切だった人間を失って、その仇が目の前に居るのにもかかわらず、こうして許せるのか。こみ上げてきた激情とは裏腹に、星野 アクアの内なるもう一人が嘲笑う。
生と死が同居しているとは、こういうことを言うのだと。だから『狂人』と、島津の連中も、そしてカミキヒカルすらも口にするのだ。思想が根本的に異なっているのだ。……いや、昔から何一つ変わってないのだろう。当事者のはずなのに、その死を許容し、敵味方問わず誉を褒め称える。
桜華が、カミキが、その役をやるのは難しいと言った理由を理解した。なぜ何度も演じても、納得のいかない出来になるのかを察することが出来た。
カミキは俺とは真逆の生き物なのだ。
血の繋がった母親であるアイの為に全てを復讐に費やそうとした俺と、身内の死すらも誉と、立派だと声高々に認め、復讐を復讐とすら思っていないカミキヒカルとでは、全くと言っていいほど考え方が真逆なのだろう。
そして、一般人の視点から見れば、俺の感性が正しく、カミキの思考回路は異常なのだ。だから、俺は狂人を演じなければならない。その矛盾を抱えたまま、俺は演じることが出来るのだろうか?
「あと、頼れる上司みたいな人間。部下の手柄は部下のモノ、部下の失態は上司の責任。だから立花の精鋭共は化け物みたいに強いし、オッサンに付き従ったんだろうなぁって。通夜の時、明らかに俺より二回りは歳いってるガチムチのおっさんが、周りの目気にせず声出して泣いてたもん」
「上司がなぜ偉いか知っているか、島津少年。いざというときに責任を取るためだ。……しかし、高橋め。武人の死に泣いてどうする。馬鹿者が」
「……牡蠣で死んだら、そりゃ泣かれるよなぁ」
桜華とカミキの話を聞きながら、頭をフル回転させる。
確かに難しいどころか超難関の役ではある。加えて、自分は凡人だ。自他ともに満足のいく演技をすることは不可能に近いだろう。
それでも、せっかくのオファーだ。難しいからと言って、手を抜くような真似はしたくない。いくら相容れない存在であろうと、少しでもカミキ──立花 導春のことを理解し、役柄に昇華させるべきだろう。舞台に上がれば、天才秀才凡人に貴賤は関係ないのだから。
「『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず』……山本五十六大先生の言葉だ。一見誰にでも出来そうなことではあるが、立場や人間関係や利権やらで、やり遂げるのが困難になる」
「至言だよなぁ。……ん? これ子育てにも応用できるのか……?」
「ほう? 立派に父親をやっているではないか」
ただ一つだけ思うのは。
……前世と今世、別人に見えるのは気のせいだろうか?
【星野 愛久愛海】
原作主人公。転生者。双子の兄。他者の為に自信を犠牲にする等の似ている点があれども、根本的に『武士の死生観』とは異なるため、その差異が演じるうえでのネックになっている。あの『薩摩武士』を演じられる黒川 あかねは何者ですか?
【カミキヒカル】
原作の推定黒幕。本作の変態。前世今世の差は『家名を背負っているかどうか』である。今世では自分のしたいことできるもんね。結果が炎上芸人である。これを前世で押さえ続けた大友家の凄さよ。