薩摩の子 作:キチガイの人
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修羅場を安全地帯から眺めながらのオムライスは格別である。そろそろ16歳になろうという時期に、僕はそんなアホなことを考えながら、対岸の火を眺めていた。それはこのテーブルを囲む他5人も同じ気持ちであり、それぞれが各々の思惑で惨事を見つめている。
個人としてはアクアのことを助けてやりたい気持ちは山々だけど、流石に修羅場に火中の栗を拾う趣味はない。しかも、最近人気急上昇のマルチタレントである有馬 かなちゃんと、血の繋がった妹兼前世の終末患者のルビーちゃん間の戦争だ。どっちに転んだとしても、面倒になる先しか見えないのは、ここに居る全員が思うことだろう。
「いい感じに桜華が双方の間に座っているのが、また滑稽ですね」
「独ソ戦かよォ」
「ポーランドのことを桜華って言うのやめてあげなさい」
ナポリタンを食す兼定の表現も言い得て妙だった。
元天才子役と一番星の娘の間に挟まれながら、互いの口撃をなんとか諫めようと言う努力は見て取れるけど、そんなんで止まるのであれば最初から修羅場になってないよね。
アイちゃんは魂抜けてるし、アクアは自分が口を挟めば挟撃されるのが目に見えているので無言。
本当に桜華は
アイちゃんと会ってから、こういう暴力ではどうにもならないような状態に巻き込まれやすくなった気がするよ。体力じゃなくて精神がゴッソリ持っていかれるタイプの。
僕なら絶対巻き込まれたくないけどさ。
巻き込まれるモノ好きなんて──
「……いいなぁ、かなちゃんとお話しできて。桜華君、羨ましいなぁ。代わってくれないかなぁ」
「「「「………」」」」
あかねちゃんの呟きは聞こえなかったことにしよう。
同時に、コレがアレかと僕は内心悟るのだった。
思い出したのは、前に咸が『忠影とあかねちゃんに共通点がある』という評価。最初は、何を言っているんだコイツと思わなくもなかったけど、咸は忠影のことを『反転アンチの厄介オタク』と見ているので、その視点で考えると、確かに似てなくもないなぁって思う。
というかあかねちゃんって、かなちゃんのファンだったんだねぇ。
しかも、店に入るまでの短い時間だったが、双方が知っているような関係にも見えた。どういう繋がりがあるんだろ? 考えられるとすれば……子役時代?
あかねちゃんに話を聞いてみたところ、やっぱり子役時代に何かあったらしい。意外だなぁ、あかねちゃんがそんな厄介なモノを内に秘めていたとは。
僕は人間味あって好きだけど。
いつの時代も、勝手に信じては勝手に裏切られたと思い込む馬鹿がいるからね。理想の島津像を追い、結果的に失望した忠影も。憧れとのギャップで失望してしまったあかねちゃんも。……姉貴とくっつくもんだと勝手に思って、裏切られたと思ってしまった僕も。
「それにしても、ルビーちゃんも中々だけど、対面しているかなちゃんも口撃力高いよね。痛いところを的確に狙ってくるの、僕もルビーちゃんの立場なら反論が難しいだろうなぁ」
「愚弟も知っているでしょう? 古今東西、一部の例外を除き、口で男が女には敵わないのよ。女が男に腕っぷしで敵わないように」
「知ってるよ、馬鹿姉貴」
だから桜華も防戦一方だし、アクアは参戦すらしないんだろう。
劣勢でこそ輝く島津節だけど、まぁ、姦しい女同士の口論じゃ分が悪いよね。
「お? 二人の標的がアクアに向いたねぇ」
「こいつァ、あのマザシスコンも年貢の納め時か」
「納め時も何も、彼が渦中の元凶でしょう? 同時に巻き込まれた側でもあるけど」
人気女優に見つかった以外は特に悪いことをしてな……いや、見つかったこと自体もそこまで悪いことじゃないけど、そこでレモネードを優雅に飲んでいるクソ姉貴の言っていることも分らんでもない。アクア的には遺憾の意砲案件だろうけどさ。
精神年齢的には最年長であるアクアは、この危機をどう乗り越えるのか。
これは面白くなってきた。
「ここでアイさんが正気を取り戻しましたね。何をトチ狂ったのか知りませんが、グリブー(緑の豚)と可愛らしいウサギのぬいぐるみを集めるのがマイブームになっているそうですよ」
「それ聞いた。桜華がアイちゃんの部屋を『養豚場』とか言ってた気がする」
「……アイさんはアイツを『優しい』とか言ってるけど、桜華って普通に性格悪いし、言葉選びも下手よね?」
「姉貴がそれ言う?」
「……このグリブーぬいぐるみをあげたら、アイちゃん席代わってくれるかな?」
バーサーカーを育成する薩摩教育において、その最たる桜華は『空気を読まない』ことがある。敵中突破なんて頭島津じゃないと考えないようなことを、平気で実行に移すような馬鹿なのだ。前までは戦時下のみで協力を発揮してきたそれだが、アイちゃんに仮面を破壊された現在では、それが日常にも垣間見るようになった。
それは明らかに『良くないこと』ではあるが、アイちゃんによって嘘の仮面をバッキバキに壊され、本当の自分を模索している最中の桜華なので、そのうち鳴りを潜めるようにはなるだろう。
それまでにアイちゃんからの再教育によって、2.3人くらい家族増えそうな気がするけど。
「──アハハッ、やっば、さっすがアイちゃんだよ」
「本当にヤベェなァ! アイツ! ここで店員呼んで注文するか普通!?」
「いいではありませんか。ちゃんと人数分のデザートも注文しているでしょう? 桜華と同様に空気読まないことがありますが、彼女は根が善人ですからねぇ」
「空気読まない同士、案外ベストカップルなのかしら?」
一番星の予想外の行動に、思わず飲んでいた水が気管支に入るところだった。人数分のデザートをチョイスしつつ、自身はがっつりカルボナーラとかガッツリ食う気満々なのもグッド。やっぱり最高だよ、あの元人気アイドル。
咸と姉貴は彼女の奇行を空気を読んでない判定しているが、僕は逆に空気読んでいると思うよ。エンターテイナー的な意味合いで。
これ結局は桜華が会計持つんだと考えると、さらに面白い。
「聞こえない、聞こえないよ。え、あれ何て言ったの? 咸、聞こえた?」
「ここでも聞こえませんでしたが……いやはや、有馬さんとルビーさんの赤面した顔、アクアのすまし顔から察するに、殺し文句でも吐き出したのでしょう」
「(かなちゃんっ、かなちゃんっ)」
「バカップルがチベットスナギツネ顔してるわ……」
ナポリタンを食い終えた兼定は腹を抱えて声を出さずに笑っている。必死に堪えている感が半端ない。
天下のマルチタレントは腕を組みながらそっぽを向いているが、耳まで赤くなっているのを見逃す僕ではない。そしてアイドル志望の顔面偏差値の暴力は、口元を手で覆って明後日の方向を向く。手の内ではどのように口元がほころんでいるのやら。
後でどんな言葉を発したのか、桜華に聞いてみようかな。
「身内であんな修羅場見ること自体初めてなのだけれど、彼的には女優の彼女と妹さん、どちらを選ぶのかしらね? 私としては……妹さんに1票ね」
「桜華的には銃創ペロペロ女とアクアの野郎がくっつくのが、精神安定上の最善だろうが……なァ? アイの娘ン過去を考えると、野郎以外にルビーを幸せにできる奴が地球上に存在すンのか?」
「私は……ルビーちゃんの気持ちも分かるけど、かなちゃんも応援したいなぁ」
相手がいないか、相手がもう確定事項な面子の中で、アクアの『どちらを選ぶのか?』は、僕らの中でもものの見事に意見が割れるのだった。最終的には彼の意志が重要だと分かっていても、だ。
当事者ではないからこそ笑って議論できるのだ。
桜華は絶対に笑えない立場にあるのが、面白さに拍車をかける。
「……ちょっと待ってください。たとえインモラルであろうと、アイさんがルビーさん側につくのであれば、半自動的に鬼島津とご隠居は、ルビーさん側ですよね? そして、あかねが有馬さんを応援する以上、税所家と他家──それこそ過半数が有馬さんを応援する流れに追随するかと思われます。……これ、ちょっとした内乱案件では?」
島津宗家と分家がルビーちゃん陣営、税所家他あかねちゃんに恩のある他家のかなちゃん陣営、島津勢力を二分する内乱を示唆する咸。考えてみるとありえなくない話に、その場にいる全員の表情が固まる。
ただの修羅場かと思っていたけど、もしかしなくても大変なことになるのでは?