薩摩の子   作:キチガイの人

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 ほのぼの回です。
 飯前に読むことだけはオススメしません。

 ところで双子の件でネタバレ覚悟で少々調べました。
 ……あれ黒幕チェストするだけで丸く収まる気がしないんですが(震え)。


015.美食は人を幸せにする

 俺とアイはバス停で降りる。

 双方とも地味な格好であり、俺は素材も地味なので全くもって問題ないのだが、一方の巨星は素材が超一級品なので、目立たない暗めの配色の私服は、逆に彼女の美を目立たせる。

 俺が先導してスマホ片手に道を歩き、アイは小鴨のように俺の後をついて来る。

 

 

「地図的には、ここら辺……なんだと思うんだけど」

 

「殺風景なところだね。本当にここなの?」

 

「間違いないはず──あったあった、あそこや」

 

 

 俺は周囲を必死な見渡し、ようやく目当てのものを見つける。

 一見すると、こじんまりとした精肉店。様々な牛豚の部位が売られており、少なくとも高校生の男女の目的地としては不相応だろう。

 ただこの精肉店、そこそこ値の張る焼肉屋でもある。

 その証拠に、店舗に近づくと肉の焼ける良き匂いが鼻腔を刺激するのだ。この匂いだけで白飯が食える。

 

 

「ほ、本当に無料なんだよね!? 無料かつ食べ放題なんだよね!?」

 

「優待券だから食い放題ってワケには行かないだろうけど、好きなもんを食えばいいよ。最悪有料だったとしても、臨時収入あったから、金の心配はしなくて良し」

 

「オーカありがとう! 愛してる!」

 

 

 ……なんだろう、嘘のかけらもない愛の告白なのに、こうも微妙な心境になるのは不思議だ。目をキラキラさせながら俺の後をついてくる彼女に、そのような心境を口にするのは野暮だから内に留めておくが。

 店内に入ると、その食欲は頂点に達する。

 もちろん今日の晩飯のために、俺とアイは昼飯を食してない。完全合意の元である。

 

 店員に導かれ、個室のようなエリアに通される。

 焼肉屋特有の銀の網が中央に設置されたテーブルをはさむように、俺と彼女は向かい合うように座る。メニューは端においてあるが、来店時に優待券を渡したところ、店員は目を見開いて、注文は別にしなくていいと言われた。

 アイ、多分君の想像以上のものが出てくるかもしれない。

 

 

「焼肉屋なんざ何年振りだろ? そもそも外食あんま行かないからなぁ」

 

「………」

 

「……アイ、どした?」

 

「──うぇっ!? な、何でもないよ!?」

 

 

 前回食ったのが数千円の食べ放題コースの記憶であり、その記憶がいつ頃だったのかを模索していると、妙に落ち着きのないアイに思わず声をかけてしまった。

 個室の飾りつけを眺めたり、中央の円形の銀網を物珍し気に眺めたり、焼肉のたれを薬品のように手で仰いで嗅ぎ始めたり、ソワソワウキウキしたり。確かに焼肉屋で肉を待つこの瞬間は至高と認めざるを得ないが、それにしたって落ち着きがない。

 

 その彼女の様子を最初は微笑ましく見ていた俺。

 しかし、徐々に嫌な推測に至り、確認するように彼女へ問う。

 

 

「なぁ、アイ。一つだけ聞きたいんだが……もしかして、焼肉屋って今まで来たことない?」

 

「……うん」

 

「生前も?」

 

 

 俺の質問に、気恥ずかしそうに頷く。

 精神年齢■■(閲覧制限)歳の彼女は、今まで一度も焼肉屋に足を運んだことがないことが判明した。詳しく聞くと、網で肉を焼く行為そのものも初めて体験するのだと口にした。

 焼肉屋行ったことのない人類が存在することに驚きを隠せなかった。

 

 

生前()は家庭環境的にもアレだったし、途中から施設育ちだったし、転生後も焼肉屋連れて行ってくれるような環境じゃなかったし」

 

「アイドル時代は? 結構稼いでたんだろ?」

 

「そんなにー? オーカが思ってる以上に、アイドルって稼ぎそんなにないんだよ。何なら、この前のオーカのアルバイトの方が稼ぎいいかもしれないかも」

 

 

 確かに数時間でうまい棒5万本分は稼いだが。命懸けているのは別にして、それより稼げないアイドル業って闇深そうだな。怖いわぁ。

 芸能界の闇というものを垣間見て、とりあえず俺は彼女に良い肉を優先的に回す覚悟を決めた。マジでアイの知識は焼肉屋という業種が存在する──くらいの知識しか持ってなかった。

 

 

「えへへ、初めての相手がオーカかぁ……」

 

「色々と誤解を招く言い方は慎んでほしい」

 

「楽しみだなぁ……」

 

 

 ……はしゃいでいるアイを、スマホの写真機能で撮影する。優待券を贈ってくれた当主殿に、どういう使われ方をしたのか報告しよう。彼も大喜びするはずだ。

 

 そんなこんなで時間が経過し、肉が運ばれてきた。

 2度の人生で焼肉屋という場所に来たことのない少女と、千円の定食か数千円の食べ放題しか体験したことのない少年の前に、精肉店印の焼肉屋は、現実を突きつけるのだった。簡単に言うと、俺たちは焼肉屋というものを過小評価していたのだ。

 

 2人分にしては少々多い量の肉。

 白米に、味噌汁が目の前に置かれた。

 

 

「──それでは、ごゆっくりどうぞ」

 

「「………」」

 

 

 俺たちは一瞬動くことができなかった。

 

 

「……オーカ、焼肉屋さんのお肉って、光るんだね」

 

「照明が反射してるだけだから安心しろ。……いや、でも、こりゃすげぇな。ここまで均等にカットされた綺麗な赤みの肉なんざ初めて見たぞ」

 

 

 その場で店員さんは肉の種類等の説明はしてくれなかった。なので、俺とアイは場の雰囲気とノリで肉を焼いて召しあがるしかなかった。多分、この肉盛り合わせの中には上ロースとか上カルビとか入ってるんだろうな程度の知識である。さすがにホルモンはこの白いのなんだろうなとは思うが。

 トング片手に、距離的に近かった肉を持ち上げ、そして網に乗せていく。

 肉は静かな音を立てて焼かれ始めるのだった。

 

 それを静かに眺める元人気アイドル。

 俺の動きそのものを注意深く観察する。

 

 

「ほれ、焼けたぞ」

 

「おぉ……っ!」

 

 

 焼肉屋初心者は焼肉ダレに落とされた肉をゆっくりと持ち上げ、その口に運んで味わうように咀嚼する。

 さて、人生初の焼肉の感想は如何に。

 

 

「……おいしい」

 

「おー。そりゃよかった。ほら、もっと食」

 

「おいしい……おいしいっ……おいしいよぉ……っ!」

 

 

 人間というものは、あまりにも感動すると泣くものである。

 その実例を目の当たりにして、俺は無言で彼女の焼肉ダレに肉を逐次投入していく。彼女は玉のような涙をボロボロ流しながら、白米を織り交ぜて至福の時を過ごす。

 

 

「アクアぁ……ルビぃ……っ、焼肉おいひいよぉ……っ」

 

 

 まさか双子も、遠い薩摩の地で母親が焼肉に感動しながら名前を呼んでいるとは思うまい。俺だったら絶対困惑する自信がある。

 何とか彼女の感動も安定させ、時折俺も口にしながらも、肉の大部分は彼女に渡す。

 

 

「お肉って口の中で溶けるんだね……」

 

「はははっ、こりゃ美味い。やっぱ普段食ってる肉と全然違うわ」

 

「この白いのって何だろう? 食感が面白いなー」

 

「ホルモンな? これ出すところによって味や食感も全然変わるんだけど、溶けてなくなるのは初めてだな。ホルモンって溶けるんだ……」

 

「牛の……舌? そんなのも食べられるんだね。あむっ……普通の肉とは違うけど、これはこれでおいしい」

 

 

 2人前より多いと言ったが、俺と彼女は難なく全てを平らげることができた。サイドメニューも店には存在するが、これ以上は野暮というものだろう。この幸せが勿体ない。

 会計は見事に0円。

 当主殿には感謝しなくては。

 

 アイもこのように上機嫌である。

 いつもの登校時のように、俺の左腕に右腕を絡めてホクホク顔で帰路についている。

 

 

「後で家ちゃんにお礼を言わないと」

 

「そうだな。飯食ってる画像送って以降反応ないけど、忙しいのかねぇ。既読はついたから見ているのは確かだけど」

 

「今度はみんなで、行きたいなぁ」

 

 

 3馬鹿には勿体無いだろう。

 そう口を開けかけたが、アイの言葉は続くのだった。

 

 

 

 

「私と、オーカと、アクアと、ルビーと、4人で行けたらいいね」

 

「……叶うといいな、その願い」

 

 

 

 

 

 母親として、自分の幸せを子供たちと共有したい。俺は彼女の願いを聞きながら、内心は真逆のことを思っていた。

 ……俺、その中だと絶対気まずいんだろうなぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某日、島津家当主の遺体が発見された。

 鼻血の海に沈みながら、幸せそうに笑っていたそうな。

 

 

 

 




【島津 桜華】
 今作の主人公。焼肉は久しぶり。今回を機に、彼女の食べたことのない美食を食べに連れて行こうと画策する。

【星野 アイ】
 今作のヒロイン。転生者。焼肉の悦びを知る。生前は収入関連と隠し子関連で、あまり外食に行けなかった独自設定。好きな人との飯は美味しい(確信)。

【島津 家正】
 島津家当主。今回逝去したが次の日には復活する。これ転生者では? 同日に家臣団数名も逝去している。
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