薩摩の子 作:キチガイの人
Q.『推しの子』最新話でアイ転生説が完全否定されましたが、どうして今作では転生できたんですか?
A.薩摩ジック。
「私とオーカって、もうすぐ恋人になるじゃん?」
「あと数ヶ月の命を『もうすぐ』って言葉で表現しないで欲しいんだが? それ俺にとっては余命宣告に近いんよ」
「でもあと100日もないよ」
数ヶ月とぼかして来たが、確かに俺の貞操は60日ちょっとしかないのが現実である。生前は知らんが、今世のアイの誕生日って7月中旬だ。俺は非常に焦っている。
まだ恋愛感情の『れ』の字も自覚してないのだ。気分的には『月曜日締め切りの仕事を金曜夜に渡される』ようなものである。できるなら苦労しねぇんだよ。
現状、書籍やネットなどで先人の知恵を借りるしか手がない状況である。それらも信用に値するのか定かではないのが心許ない。
3馬鹿は『自覚しろ』としか言わないし、じゃあ同年代の女性に聞いてみよう!っとなったが、クラスで女子に声をかけようとすると、なぜか逃げられる。曰く「星野さんに悪いから……」との事。四面楚歌である。親に尋ねるのもアレだしなぁ。
そんなこんなで状況がそこまで動いてないが、タイムリミットは刻々と減少していく日々。
いかがお過ごしでしょうか?(白目)
俺は毎日欠かさず捲るアイの日めくりカレンダーが恐ろしくて仕方ありません。
「そろそろ
「詳しく」
「だからっ! ……その、ね?」
俺のベッドの上に座るアイは気恥ずかしげに、口籠りながらも要求を口にした。
指をもじもじさせながら、決心するかのように言う。激しく動いた関係で、俺の普段着を着たアイは──ちょっと待て、最近外以外で自分の服着てるところ見た事ないぞ。なんやねんホントマジで。
「デートっ! をっ! するべきだと思いますっ!」
「逢引か」
「古風に言えば、そう!」
俺は思案するように、顎に手を当てる。
確かにアイとはデートらしいデートをした事ないな。中央駅では晩飯の買い出しぐらいしか行かなかったので、俺個人としてはデート感覚ではあったが、彼女はもっとちゃんとした逢引をしたいらしい。
彼女の案を断る理由はない。俺もデートというものを体験してみれば、恋愛感情というものを把握できる可能性があるからな。
そう、それはいいのだ。
とある問題に目を瞑れば。
「いいよ、行こうか」
「やったぁっ!」
「で、どこ行くん?」
「……へ?」
重要な問題だ。
解決が非常に困難かも知れない。
「どこへ行く? 何をする? ルートは? プランは? ……そもそもの話、デートって何すればデートになるんだ?」
「………」
「アイはデートしたことないのか? 俺はないが(アルハイゼン構文)」
問題は──俺たち二人が恋愛クソ雑魚ナメクジなせいで、ロクな『デート』なるものを体験したことがない点だ。
行こうと言ってもプランが頭にない。
何にも、ないのだ。
「「………」」
♦♦♦
「──ってなわけで、デートプランの教授お願いします」
「お、お願いしますっ」
『『『………』』』
困った時のオンライン会議。
3人のチベットスナギツネを前に、俺とアイは並んで頭を下げた。こいつらに頭を下げるのは屈辱の極みだが、彼女がやりたいと言っている以上、多少は耐え忍ぶことを選ぼう。
ネットで調べてはみたが、恋愛初心者には何がなんやらさっぱり分からんかった。
『自分たちで調べて作ってみましたか?』
「俺が彼女の要望のみで考えて作ってはみたが、最終的には何故か『食い倒れツアー→ラブホ直行』の謎ルートが出来上がるんよ」
『それでいいンじゃねェの?(解散)』
「待って、いやホント待って」
この彼女の要望通りに行くと、文字通り食って終わるしか道がないんですよ。デザートが島津少年になっちまうんすよ。さすがに人生初デートがそれってのは、俺のメンツ的に許すことはできなかった。
せっかくの初デートだからアイの思い通りにしてみたいが、流石にそれにも限度はある。
『うーん、一般論から言えば、平川動物公園とか、ドルフィンポート辺りが有力候補じゃない? マニアックな所なら鹿児島市立美術館とかメルヘン館、歴史関連なら
「何の為にあるのか分からん施設群だったが、デートする為に存在する所だったのか」
『ははーん? さては島津桜華って、根本的にデートというものに向いてないねー?』
向いていると少しでも思ったのか?
自慢じゃないが、その方面に関して俺は雑魚以下だぞ?
『さて、冗談はそのくらいにして、星野さんには毎回
「みっちゃん、ありがとう」
『水族館からの
水族館……あれか?
鹿児島市の港、それこそ鹿児島市と桜島や大隅半島の垂水市を繋ぐ港の近くに、『いおワールドかごしま水族館』という施設があったはず。
中に入ったことがないので、正直どんな場所か知らんが。
しかし、他3人には好評だった。
立地的によかったらしい。
『確かに他の場所だと商業施設が少ないもんね』
『映画も考えたが、そうなると市内だと中央駅か与次郎しかねェもンな。高校生のデート先では無難なんじゃねェの?』
「買物デートもできるのは嬉しいなぁ」
どうやら水族館と
彼らの見えないところでスマホを起動し、さっと水族館のスケジュールや料金等も確認する。……うん、金銭的にもそこまで高いわけじゃないし、決行日もちゃんと営業している。天文館の良さそうな商業施設等もチェックしておく。
『天文館エリアでオススメのところってどこだろ? 無難に
『あそこは高校生の行く場所じゃねェだろうが。……
「センテラスって最近できた場所だっけ?」
『そうですね、鹿児島国体に合わせて作られた商業施設です』
センテラス、か。これも調べておかなきゃ。
デートプラン製作には役立たなかったネットだが、下調べは大事と記載はあった。そうだよな、戦場を知ることは勝利に不可欠だ。
3人寄れば文殊の知恵。
その言葉にふさわしく、アイのおぼろげながらに夢見たデートプランは、実体を持った確固たるものに生まれ変わり、今度の休日に行くことになった。ここまで手伝ってくれたのだ。俺とアイは感謝の意を伝え、彼らもそれに答えた。
♦♦♦
デート当日。
本来ならば待ち合わせ場所の指定もあるのだが、出発地点が一緒のため、目的地には公共交通機関を用いて赴くことになった。
早々に着替えて俺達は家を出る。
「んじゃ行こうか」
「エスコートよろしくね?」
いつもより気合の入った私服に身を包む元アイドルの超絶美少女。普段のセーラー服も完璧に着こなす少女だが、星野母やうちの母親の監修の下、涼しげで透明感のある衣装の彼女は、まさに深窓の令嬢を彷彿とさせる出で立ちだった。流れるような紫がかった長い黒髪をなびかせる姿は、万人を自然と魅了してしまうだろう。
俺も彼女の隣に立てるよう、母親のアドバイス通りに服を着てみたが、こんなん彼女を目立たせるだけの置物に過ぎない。彼女のインパクトが強すぎて、並べる気がしない。
正直、俺は2.3歩後ろを歩きたいレベルである。
「……どないした?」
「へっ!? いや、えーと……今日のオーカは一段とカッコよく見えるなーって」
「それは良かった」
俺の外行きの服を見た彼女の感想である。
心なしか頬も赤い。
……まぁ、お世辞として受け取っておこう。服がよくてもルックスがイマイチだろうしな。言ってて悲しくなってきたわ。
俺の2.3歩後ろの位置希望は見事に却下され、俺はこの一番星の隣に立つことを許された。腕を組み、手を握って、何なら指を絡めて、傍から見れば美女と蛮族の高校生デート組の完成である。
もう彼女の隣に何立たせてもモブにしか見えないので、この際そこらへんは吹っ切ることにした。
せめて彼女を楽しませる合いの手役に徹することにしよう。
「座席座るときも腕組むとか大変じゃない?」
「全然そんなことないよ?」
バス内の客の視線を集めながら、俺達の初めてのデートが開始されるのだった。
【島津 桜華】
今作の主人公。恋愛クソ雑魚ナメクジその1。自分の行きたいところとかが特にないので、彼女の要望を完全にかなえようとした結果、結局は馬鹿共に助けを求めるのだった。コイツはエスコートできるのか?
【星野 アイ】
今作のヒロイン。転生者。恋愛クソ雑魚ナメクジその2。デートとは言ってみたものの、正直主人公と一緒ならどこでも楽しめるタイプ。今回の服も気合入れて選んだ。