薩摩の子   作:キチガイの人

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──この芸能界(せかい)において嘘は武器だ──
『推しの子』より抜粋


──この薩摩藩(せかい)において暴力は武器だ──
『薩摩の子』より捏造


017.続・恋愛初心者のデート

 いおワールドかごしま水族館。

 桜島フェリーターミナルの横にある、鹿児島最大とも呼べる水族館だ。

 今回は時間帯的に見ることが叶わなかったが、この水族館には外に『イルカ水路』という、水族館の外でイルカと触れ合える場所もあるのだ。

 そして何と言っても、この水族館は世界最大の魚と言われるジンベエザメが拝める、数少ない水族館の一つとして知られる。

 

 

「すっごいねぇ……」

 

「俺も初めて来たが、迫力あるなコレ」

 

 

 まずエントランスから凄かった。案内通りに進むのだが、階を上がるエレベーターが、それこそ水槽くり抜いて中に作りましたと言っても過言ではない作りになっていた。

 水槽中をエレベーターで進む。

 そして階を上がると前に見えるのは巨大水槽。

 

 

「うわぁ……」

 

「っと、俺引きずりながら走らんでくれ……」

 

 

 その世界最大の魚がお出迎えだ。

 周囲にはマグロやカツオなども遊泳している。

 

 その自由かつ雄大に水槽の中を遊泳する魚を前に、アイは目を輝かせて魚の姿を追う。彼女の目には、この魚群にどのような思いを馳せたのだろう。

 俺も加工された食用の魚は見ることが多いけれども、広範囲を泳ぐ魚を見るのはこれが初めてである。水槽という限られた空間を泳ぎ回るその姿に、人というものは魅了されるのだろうか? 近くにいる子供も、アイも、同じように釘付けなのだ。

 

 

「こんな大きい魚がいるんだぁ」

 

「成長して20メートルくらいになるらしいで。これ以上大きくなる余地があるのかよ」

 

「オーカ何人分かな?」

 

「俺で体積計算するのはNGで」

 

 

 鹿児島最大とは言っても、一地方の水族館なので、巨大な水槽バーン!みたいなのは最初だけである。展示されている魚も鹿児島由来のものがほとんどだしな。

 ただ、鹿児島県は島々合わせると南北600キロあるので、魚の種類は実に豊富である。

 

 

「こんな形の魚……魚?」

 

「海で生活してりゃ魚のくくりなんだろうけど……珍妙な形してるなぁ」

 

 

 南西諸島、錦江湾、そして鹿児島の深海の魚を見学し、先程の感動はなかったにせよ、自分が見たこともない魚は知識として蓄積されていく。使いどころが非常に限られる知識ではあるが、知っているのと知らないとでは大きな差があるものだ。

 

 そして大量のクラゲコーナー。

 わざわざクラゲだけ孤立した展示品として用意されている。

 

 

「……なんか自分が知ってるクラゲと違うものまであったね」

 

「『鹿児島はクラゲ類の宝庫』か……。鹿児島の気候と位置の関係で、様々なクラゲが生息してるんだとよ。このちっさいのもクラゲなんかね?」

 

 

 この見聞きした知識が以降役に立つのか分らんが、彼女の将来の糧になることを祈ろう。

 最初は水族館であまり時間は使わないだろうと思っていたが、実際のところアイにホールドされたまま連れ回されていた結果、なんと3時間も滞在していたらしい。

 イベントに参加せずにそれなんだから、もっと楽しむことも可能だったということだろう。水族館……中々に侮れん施設やな。

 

 アミューズメントショップで細々としたキーホルダーを何点か購入し、水族館を出る頃には昼食するには少々遅い時間になっていた。

 

 

「お昼ご飯どうしようか?」

 

「アイに任せる」

 

「その解答が一番困るんだよー」

 

「じゃあマック。今視界に入った」

 

 

 遅めなので軽く昼食を取る。

 体に悪いのは自覚しているが、それでも時折どうしても食いたくなるジャンクフード……らしい。俺はあんまり来たことないから分からんけど。

 この手の食事は俺よりもアイの方が馴染み深いらしく、生前だとこういう場所での食事はそこそこ行っていたのだとか。まぁ、焼肉よりは圧倒的に気軽に入れるので、俺としてもイメージしやすい。

 

 

「十数年ぶりに食べたけど、味もそこまで変わってないね。あはは、やっぱりおいしー」

 

「………」

 

 

 想像を絶するブランクがあったらしいが。

 ……そうだよな。彼女のマシな生活はアイドルスカウトされた時期から没年までであり、それ以外の話を彼女はしない。1度目の人生の最初期は俺も知らないが、2度目の星野家の養子になる前は一応聞いている。

 家庭内暴力の毎日、行動が縛られた生活のため、家と学校だけが彼女の世界の全てだったのだ。それ以外を知る機会がなく、そこが鹿児島のここら辺かな?ぐらいの知識しかなく、どういう土地柄なのかすら正確に把握してなかったと、彼女は以前影を見せながら語った。生前の顔馴染みが今どうなっているのかも分からず、その道半ばで調べる気力すら失ってしまったと。

 

 ……今は考えるのは止そう。

 この時間に似つかわしくない愚考だ。

 

 腹を満たした高校生一行は、次はセンテラスへと移動した。商業施設、図書館、そしてホテルまで併設された、ここ近年で建設された鹿児島の建物の中では、一番大きいのではなかろうか?

 あ、ホテルは行きませんからね(牽制)。

 

 

「オーカ、これとこれ、どっちがいいと思う?」

 

 

 もちろん国体に合わせて集客を目的とした施設なので、若い子たち向けの衣服を売るテナントも入っている。

 その一つに顔を覗かせ、適当に店内を眺めていると、2種類の衣服を持ってきたアイが、俺に選択肢を提示してくる。俺は彼女の言葉を聞いた瞬間、身体が強張るのを感じた。

 

 出た……コレ進研ゼミで見たわ……っ!

 アレだろ? 女性という生き物は既に己の内に決まっている選択肢を、男性にあえて聞いてくる習性があると耳にしたことがある。これ間違えると切腹モノだと近所のババァが言ってた。

 マジか。今ここで来るか。

 衣服の買い物の時点でおおよそ察するべきだったが、経験の少なさから考察の範疇になかった。

 

 俺は二つの選択肢を注意深く観察する。

 片方は清楚系統、もう片方は活発系統。本音を言えば、どちらも彼女に似合うのは間違いないのだが、双方を選択するのは誤りであると聞いたことがある。

 どっちだ。どっちが彼女の望む選択肢だ?

 服を観察しながらも、相手の挙動も見逃さず様子見するが、全くもって分からん。

 

 

「……オーカ?」

 

「………」

 

 

 アカン、時間制限付きかよ。

 俺は検討に検討を重ね検討して検討し。

 

 

「……こっちが、いいと、思います。はい」

 

 

 そもそもの話、俺如きが考えた程度で分かるはずもないので、もう心のままに、彼女が似合ってそうな服を選択した。あと俺の主観も含まれる。今彼女の着てる服がめっちゃ似合っているので、清楚な方が美を引き立たせると思います。はい。

 あとは運を天に任せるのみ。

 

 

「ふむふむ、オーカはこういうタイプが好みなのね。わかった、ありがとう!」

 

「資金はこちらで出させていただきます」

 

「えっ? でも私の服だし……」

 

「俺に任せてくださいませ」

 

 

 とりあえず危機は脱したようだ。

 今日一番体力を何故か使ったわ。

 

 そして、その後も何度か選択を強いられ、彼女の反応からして全て正解を引いたようだ。単純に運が良かったのかも知れん。

 俺も彼女が服を選んでいる間に自分の買い物も済ませ、何事もなく帰宅することに成功した。彼女との買い物は初めてではないのに、コレが初デートと意識するだけで疲労が半端なかった。

 

 

「今日はとっても楽しかったぁ……。オーカはどうだった? 私とのデート、楽しかった?」

 

 

 今回はデート時の服装で俺のベッドに座る彼女。

 彼女の問いに、俺は短く考える。

 

 正直疲れた。

 それ以上の感想が出てこない。これが楽しいかと言われたら──

 

 

「──うん、楽しかったよ」

 

 

 その疲れも、悪くはなかった。

 むしろ心地いいとさえ思った。

 

 そして俺が買ったものの袋から、目当てのものを取り出して、ベッドに座る彼女に渡す。長方形の銀色の細長い箱であり、よく言えば高級感あり、悪く言えば質素な箱である。

 良さそうなものがあったので買ったのだ。

 

 

「中開けてもいい?」

 

「どーぞ」

 

「何かなぁ……──」

 

 

 パカっと横から開くタイプの箱であり、中には一つのネックレスが鎮座していた。

 装飾として煌びやかではないが、細いチェーンで構成され、十字と精巧な鶴のアクセサリーがついている。そして十字の中央と、鶴の目の部分に紫色の宝石が小さく輝く。

 

 島津の家紋をご存知だろうか?

 十文字に丸の紋が非常に有名ではあるが、それより前の島津の家紋は『十文字』が使われていた。鎌倉時代だと鶴紋も十文字と一緒に描かれていたらしい。

 たぶん、それをコンセプトに作られたネックレスなのだろう。アイに良く似合う紫の宝石──アメジストも評価点が高い。

 

 アイはそれを見た瞬間固まり、耳まで赤くなり、そしてネックレスを箱ごと大事そうに胸に抱き締めた。

 ぎゅっと、離さないように。

 

 

「ありがとう、一生大事にするね」

 

「……そりゃ良かった」

 

 

 一生、大事にする、か。

 その言葉に、何か心が揺さぶられた気がした。

 

 

 

 




【島津 桜華】
 今作の主人公。恋愛クソ雑魚ナメクジその1。今回のデートで何かをつかんだらしいが、このペースでいくと成人過ぎても『恋愛』を自覚できなさそう。もう病気の域。荒療治が必要かも(フラグ)。

【星野 アイ】
 今作のヒロイン。転生者。主人公に服を選んでもらえて大満足。正直主人公が選んだのならアロハも着る。今回のネックレスは学校生活以外では頻繁に着用するようになる。
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