薩摩の子   作:キチガイの人

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 ほのぼの回です。
 次回と次々回が大変なことになるんで。


018.その象徴は牙を向く

 夕暮れ時、俺とアイは校舎の屋上で黄昏る。

 茜色の空には黒い影が彩られ、あと数刻もすれば夜空に星が輝くだろう。

 いつか訪れる星の輝きとは反比例して、俺と彼女の顔は暗かった。目を伏せながら、アイは無機質で生気のない言葉でつぶやく。

 

 

「私って、本当に馬鹿だよね」

 

「……んなことねーよ」

 

「昔からそうだった。……いや、(生前)から、かな」

 

 

 空は不思議な色だ。

 赤と紫と黒が入り混じったような世界。それは彼女の心境も映しているのかもしれない。

 

 

「……オーカ、ごめんね」

 

「……もう謝んなくていいよ」

 

「私、オーカの負担を減らそうと思ったんだ。だから、喜ぶだろうなって、本気で思って。まさか、こんなことになるなんて、全然思わなくて……」

 

「………」

 

 

 彼女の懺悔は続く。

 空に浮かぶ黒の帳は徐々に近づく。

 

 

「本当に、ごめんなさいっ! 私のせいで台無しにしちゃった……」

 

「………」

 

「私知らなかったの!」

 

「………」

 

「見てなかったの! そんなのがあるって、そんなことがあるって、私今まで知らなかった! だって、だって──」

 

 

 黒い影は鹿児島市を覆う。

 それをただ、俺は校舎で眺めるしかなかったのだ。

 

 

 

「──桜島上空の風向き、見てなかった……っ!」

 

「いや、もう手遅れだから謝んなくていいよ」

 

 

 

 

 黒い影──桜島噴火の灰が、鹿児島市内を襲う。鹿児島県民に、重大な被害を与えていくのだろう。主に風向きを見てなかった主婦たちに。

 

 

「だから部屋干ししてたのになぁ……」

 

 

 アイがわざわざ気を利かせて外に干した洗濯物は、火山灰でザラっザラになるんだろうなぁ。

 そんな遠い目をしながら、俺と彼女は家のベランダに想いを馳せるのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 鹿児島本土の中央に位置する桜島は活火山である。

 そもそも桜島自体は島だった。しかし、1914年の大正の大噴火によって、大隅半島と桜島は地続きになる。島が地続きになるほどの溶岩流出が近年起こるレベルに活発な火山が目と鼻の先にあるのだ。これだけでも鹿児島の土地の異常さが理解できるだろう。

 最近はアホみたいに噴火して、県民の皆様の車を灰色に染め上げているんですけどね。外車乗り回そうとする咸の覚悟もうかがえるだろう。

 

 洗面台で灰を洗い流す作業をして十数分が経過した。

 ものの見事に我が家の今日の洗濯物が甚大な被害を受け、洗濯物を水を含ませて絞るたびに、おびただしい黒い液体が洗面台の排水口へ消えて行く。

 火山灰である。

 なんかもう泣けてきたわ。

 

 俺が洗面台で作業している間、アイは俺の近くで正座して自己反省をしていた。とりあえず手は作業で動かしながら、アイには桜島上空の風向きの分かるアプリケーションをスマホにインストールさせ、ついでにSNSでMBC(地元放送局)をフォローさせる。

 この二つの情報源があれば次の事故は防げるだろう。

 

 

「オーカ、本当にごめんね……」

 

「全くだよ。何が問題かって、アイが俺の服を普段着にしてるせいで、幸いなことにアイの服に被害がほとんど出てないってコトなんだけど。喜んでいいのか怒っていいのかわからねーよ」

 

「うぅ……」

 

「これを機に自分の寝巻を着てくれ。俺の洗濯物が俺の知らんうちに増えてる」

 

「……オーカの服は、着たいです」

 

「そこ強情になる要素ある?」

 

 

 同棲前より部屋着の数を増やしても、なぜか足りなくなる不安に駆られるって、どういうことですか? 自分の服って自分で着るために買うよな? 最近なんか知らんけど自分の部屋着買うときに、アイも着ても問題ないかとか考えるあたり、俺の脳みそは終わっている可能性が浮上してきた。

 まぁ、欲張りな彼女には言っても意味ないんやろうなぁ。

 口にはしてみたものの諦観気味なのは否めない。反省している今も着てるしな、俺の服。

 

 その後、全ての洗濯物を軽く洗った俺は、全てを綺麗な45リットルのゴミ袋に入れ、さらに大きなカバンの中に入れる。

 着る物に困っているわけではないが、この洗濯物を放置するわけにはいかない。

 

 

「ちょっくらコインランドリー行ってくるわ。留守番よろしくなー」

 

「私も一緒に行っていい?」

 

「ついてきても面白くも何もないぞ?」

 

 

 ラフな格好の二人組は、夜のコインランドリーへ向かう。

 住宅街に佇むコインランドリーだが、この時間帯に人は居なかった。住宅街とは言ってもド田舎に変わりはないし、むしろ好都合と言ってもいいだろう。

 

 壁に設置されたドラム式洗濯機の一つに洗濯物を全てブチ込み、お金を入れてボタンを押せば、洗濯開始である。楽だね。

 

 あとは待つだけである。

 このコインランドリーの内装は簡素な机と椅子のある小休憩スペースがあり、そこの一つをアイは陣取っていた。わざわざペットボトルの茶まで2人分用意している。

 

 俺はスマホを弄りながら、アイとの雑談に花を咲かせるのだった。花と表現したが、しょーもない話もよくやるけど。

 

 

「──次のドラマの○○役って、あの『片寄 ゆら』なんかぁ」

 

「綺麗な人だね。○○役にはピッタリじゃないかなぁ。……オーカって、こういう人が好みなの?」

 

「んなわけ。というか彼女があまり好きじゃない。いや、彼女は全然悪くないけど。あの人クソ徳川の現当主の最推しなんだよなぁ。このドラマも見るつもりないし」

 

 

 そんなこんなで洗濯自体は完了したが、次は乾燥機にブチ込んでスイッチオン。やっぱりコインランドリーの乾燥機は素晴らしい。短時間で乾くから、ホント楽でいいわ。

 

 

「そういや述べ100人斬り達成おめでとう」

 

「なんでそーゆーこと言うかなぁ? 私的には不本意なんだからね。私が一部の男の子から『真の三國無双』って呼ばれてるの知ってるでしょ?」

 

「卒業する頃にはマジで達成しかねんから言われてるんだろ。俺は人生でモテたことねーから、その感覚だけは分からんわ」

 

「……自覚ないんだ」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「なんでもないっ」

 

 

 洗濯物が乾燥すると、それを取り出し、二人で畳んではバッグの中に収納していく。

 そこまで量はないから、すぐに終わるだろう。

 

 

「……っ!?」

 

「どーしたの?」

 

 

 洗濯していたときは気づかなかったが、乾燥したものを畳んでいるうちに、俺はどえらい物を見つけて、思わず小さく反応してしまった。あろうことかアイにもバレてしまった。

 

 それはアイの黒い下着だった。

 別に彼女の下着に関しては、普段そこまで反応することじゃない。そもそも洗濯しているのは俺だし、普通の彼女のパンツやブラを干しているのだ。今更過剰に反応することもないだろう。

 ただ、これは普段のとは違った。

 下着上下がスケスケなのである。いや、もう、布面積が小さいとかいう次元の話ではなく、薄くて奥が見えるのだ。ヤベェだろコレ。未婚の女性が同棲中に着ていいモノじゃないぞ。

 

 

「これね、この前買ったやつ。可愛いでしょ?」

 

 

 卑猥だとは思う。

 知ってか知らずかニヤニヤ笑いながら問いかけてくる彼女に、心の中では即答した。とてもエッチです。

 

 

「オーカの持ってた聖典にも、こんな下着着た女の子が描かれてたよね。どう、実際目の当たりにして」

 

「もっと慎みを持たれた方がよろしいかと具申します」

 

「興味ないの? せっかくコレ着た上に、オーカの服着て過ごしてたんだけどなぁ」

 

 

 コレ絶対確信犯だろ……!

 イタズラっぽく俺の顔を覗き込みながら笑う少女に、俺は赤面を抑えることができなかった。せめてどの俺の服を着たのか把握しないと、モヤモヤで夜も眠れないんだが!?

 童貞殺しにも程がある。

 

 その後自供を迫ったが、彼女は最後まで口を割ることはなかった。それどころか、以降例のアレのような下着の種類が着々と増えていくのを、俺は彼女の服を洗濯をしながら眺めることしかできなかった。

 俺の童貞の終焉は近い。

 こんなしょーもないところで、俺は運命を悟るのだった。

 

 

 

 




【島津 桜華】
 今作の主人公。普段着が人の何倍もある。中には自作Tシャツもあり、無地の服に『島津の子』や『大将首×3』とか『おやっとさぁ』などプリントしている。

【星野 アイ】
 今作のヒロイン。転生者。部屋で着る普段着が数着しかない。本当に女の子か? 主人公の自作Tシャツを気に入っており、オススメは『偶像崇拝』と『おごじょ』のプリントされたTシャツ。
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